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【俺の悲しみはお前の幸せ No.2】

【俺の悲しみはお前の幸せ No.2】
著者
七海 文〈ななみ あや〉


私は捌けた女。
今も〈俺〉と、
割り切りながら、
関わり合っている。

そして、
〈俺〉以外の男達とも、
関わり合っている。

ある時は、
年下の男の子の、
頼りない手を、
繋ぎながら、
歩いていた。

また、ある時は、
気の置けない男友達と、
笑い合いながら、
歩いていた。

又々、ある時は、
妻子もいる中年の男性と、
スリルを味わいながら、
歩いていた。

それでも、
そのような人たちとは、
肌の重ね合いをすることは、
一切、しなかった。

この、
捌けた笑顔を盾にして、
自分を守っていたのだ。

この笑顔の向こう側までは、
その人達を連れていけなかった。

この笑顔に隔たれているものは、
〈俺〉にしか、
見せないと、
心に決めていたのだ。

頑固で、
強固な女だと、
陰口を叩かれていることも、
十分、理解していた。

誰かと体を、
重ねるということは、
見られたくない私を、
見られる覚悟が必要なのだ。

そんな覚悟の必要のない人々には、
一切、触れられたくない。
そんな気持ちの強さが、
私を守り抜いていったのだ。

ある夜、
私と〈俺〉は、
お互いに、
同じ瞬間に、
寂しがりやになった。

そして、
お互いの身体が、
触れる頻度が高くなり、
私は、
男になった〈俺〉を、
受け止め始めていった。

そして、
忘れかけていた、
肌の温もりに、
恥ずかしさを残しながらも、
喜びを感じたのだ。

こんなにも、
温かいものに触れたのが、
嬉しくもあり、
友達から、
男になりだした、
〈俺〉の怖さも、
感じ始めた。

そして、
どんなに強がっても、
やっぱり、
女だということを、
自覚させられ、
女である自分を知ったのだ。

それでも、
私と〈俺〉は、
割り切ることの出来る、
友達のままだった。

時々、
これで良いのだろうかと思う。

しかし、私には、
この人しかいないのだ。

そして、
この男の狡さを、
楽しんでいる、
快楽主義な私もいるのだ。

時々、
そうやって生きようとする、
快楽主義な自分を、
責め立てる、
潔癖な自分がいる。

だけれども、
私は決めたのだ。

感情を割り切れなかった、
純粋無垢だった頃の自分を、
捨てることを決めた。

私の心を、
支配していたものから離れ、
自分の思うがままに、
我儘に生きていくの。

女の影をちらつかせる、
大好きな人の瞳に怯えていた、
あの頃の私を捨てたかった。

そんなものが、
意味を持たないくらい、
強くなりたいと思った。

だから、私は、
こうして、
〈俺〉に会いに行く。

友情という形を壊さないように、
その形をはみ出さないように、
〈俺〉を愛していく。

私なりの、
〈俺〉への思いを、
自分の中で形にできるものを、
探し始めたのだ。

私は、
その単純な方法を、
自然と身に付けてしまったのだ。

今、
私の体内の器官に、
小さな魂が宿ったのだ。

壊れそうな繊細な魂が宿ったのだ。

出来るならば、
宿らないようにと思いながら、
抱き合ったが、
宿ってしまったのだ。

私は、
この魂を迎えることが、
出来ないうちは、
〈俺〉の身体には、
触れないと決めていた。

この時の私は、
戸惑いながらも、
迎える準備は、
出来ていたのだ。

〈俺〉には、
もちろん、
知らせないし、
責任も取らせない。

その魂が、
宿ったことを知った瞬間には、
もう、〈俺〉に連絡することを、
やめていった。

そして、問題は、私の両親だ。
彼等は、この我儘な、
自分勝手な娘を許さないだろう。

だけれども、
私は、
この魂を産むことを、
罪にはさせてたまるかと思っていた。

そういう風に、
生きたいと思っている私を、
理解出来ない彼等に、
罪があるのだと、
強がることにした。

そうでもしないと、
この魂は、
人間にはなれない。

この魂を、
人間に出来なかったら、
私が、
その罪を、
一生、背負わなくてはいけなくなる。
そんなのは、真っ平だ。

そうして、私は、
この魂が、
人間の形らしいものになるまで、
日に日に、大きくなるお腹を、
ごまかしながら、
過ごしていた。

この魂が、
医学の冷淡さで、
呆気なく、
殺されることがないように、
守り抜いたのだ。

そうやって、
私は母になる気持ちを、
固めていった。

私は、
自分の母に、
この魂の存在を知らせた。

堕胎出来ない状況にしてまで、
守り抜いたので、
産ませて下さいと、
頼んだのだ。

母は、怒ったように、
私を見た。

私は真剣に見つめ返した。

母は、産んで、
後悔しないのかと尋ねた。

私は、
後悔していたら、
もう、私は、
この子と一緒に、
既に死んでいますと、
言い切った。

母は、
ただならぬ私の真剣さに、
圧倒されていた。

私は、
母に殴られる覚悟もしていたけれど、
殴る隙も与えないことも、
考えていた。

そうして、
一人で産むと
強がっていたけれど、
結局は、
母に助けられるように、
この魂を、
この世に誕生させることにした。

そして、
今、私の腕のなかには、
〈俺〉と私の子供、
〈俺の子〉がいる。

私の腕のなかにいたこともあった、
〈俺〉以上に、
愛しかった。

産みたいと思って、
生まれてきた子が、
こんなに可愛いとは思わなかった。

〈俺の子〉は、
いろんな角度で見ると、
私にも、〈俺〉にも、
似ていた。

私の父は、
産まれてきちゃったものは、
しょうがないというように、
娘としての私を許さず、
母親としての私を、
不機嫌ながら、
許そうとしていた。

そして、
娘である私は、
その父の不機嫌さを、
理解していた。

そして、
私の限られた生活力を出しながら、
〈俺の子〉を、
育てていった。

何が、
私をこうさせたのか……。

ある親友の話を伝えたい。
私の親友は、小さな子供が好きで、
保育士を目指していた。

親友は、
保育士になるきっかけの一つとして、
親と離れて暮らしてる子供達がいる施設にボランティアで行った。
そして、複雑な状況の中で、
生まれてきた、幼い子供と、
関わり合っていた。

彼女は、
私にとっても、
良い友達であるように、
小さな子供にも、
きっと慕われていたと思う。

そして、彼女は、言ったのだ。
親に、思うように、
大切にされなかった子は、
少し、抱き締めただけで、
他人の私に、
しがみつくように、
抱きついてきたのよと
話してくれた。
私はその小さな手を、
振りほどくのが辛かった。
いつまでも、
ここにいられない自分が、
その子を裏切ってるみたいで、
悲しかったと泣いていた。

私達は、
自分の子供には、
抱きしめてと、
両手を上げてきたら、
絶対に、強く、
抱きしめてあげようねと、
その親友と語り合った。

今も私はその友人の言葉を、
大切にしている。

そんな親友の言葉が、
私の中の母親の強さとして、
育ってきている。

〈俺の子〉は、
私にも、私の父にも、私の母にも、
大切にされながら、
ここに存在している。

〈俺〉は、
突然、連絡しなくなった私を、
忘れていっているだろう。
そして、
私といたことさえも、
風化させていっているだろう。
私はそれでいい。

それが、
私と〈俺の子〉にとって、
幸せでいられる時間だから。

それが私と〈俺〉の関係だったのだ。

私は、
自分の気持ちに、
正直に生きることが、
結果的には、
一番の幸せではないかと思っている。

産みたいから、産んだ。
産みたいと思った気持ちに、
正直になっただけだ。

世間は、
父を知らない、
〈俺の子〉の存在を、
綺麗な気持ちで、
許すことはしないだろう。

世間は、
一人一人の人間を、
個人的に、
理解することは、
昔も、今も、出来ないのだ。

私にだけにでも、
この存在を許されている
〈俺の子〉は、
決して、
かわいそうな人間ではない。

父のいない寂しさを、
感じさせるだろうけど、
かわいそうな人間だと、
思わせないように、
育てていきます。

この子の、
安心して、
眠っている顔に、
私は安心していたいと思います。

母親としての私に言えない秘密を
持つようになり、
自分の夢が見つかったよと、
言える日までを
楽しみにしていたいと思います。

私の手の届かない、
遠いところにいく背中を、
優しく、
見守る母親になろうと思います。

【完】

【俺の悲しみはお前の幸せ No.2】
著者 七海 文
〈ななみ あや〉

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☆本作は創作です。
実在の人物・出来事とは関係ありません。

☆親友から聞いた実話を、
着想の一部としていますが、
物語は創作です。

七海 文
〈ななみ あや〉







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