【憲法入門#6】人権は無制限? 教科書の「公共の福祉」って何?(人権総論・公共の福祉)
前回の記事(https://note.com/hogakuyoridokoro/n/n6fab337fbb44)では、人権の享有主体(特に法人と外国人の人権)について解説しました。今回は、中学高校の社会科(公民・政治経済)でもお馴染みの公共の福祉についてわかりやすく解説します。
公共の福祉とは
公共の福祉とは、人権にも制約が存在する旨を一般に定めるものです。全人権対象ではありますが、一般に経済活動の自由が比較的大きな制限を受けやすいです。
法的な意味と学説
ここでは主な学説とその法的な意味から公共の福祉の性質を説明します。
①一元的外在制約説
基本的人権を外部から制限する原理です。これだけ聞いても、???という人も多いと思いますので、もう少し詳しく説明します。この学説は人権の概念の「外」に「公共の福祉」があると考えるものです。具体的にどのような考え方なのかと説明すると、明治憲法下の「法律の留保」に近い発想と言われることが多いです。他の学説に比べて国家が恣意的に人権を制限しやすくなるものであり、現在はあまり提唱されていません。
②一元的内在制約説
①一元的外在制約説と逆の考え方というとイメージがしやすいでしょうか。公共の福祉を「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」と考えるものです。基本的人権を内部から制限する原理で、人権の概念の内側(中)に公共の福祉があると考えます。つまり、外からの制約は許されないと判断します。この原理は、憲法の明文規定にかかわらず、すべての人権に論理必然的に内在していると解されます。
なお、こお一元的内在制約説は「自由国家的公共の福祉」と「社会国家敵公共の福祉」の2つに分けられますが、かなり専門的な内容のため、ここでの解説は割愛します。機会があればまた解説しようと思います。
③内在・外在二元的制約説
日本国憲法において基本的人権が制約される根拠(公共の福祉)の性質を、人権の種類によって2つに分けるものです。
①内在的制約
これは人権そのものを内側から制限するもので、社会的なルールによってのみ制限されます。対象となる人権は「精神的自由権」や「幸福追求権」です。これらの人権は外部から恣意的に制限されることはないと解釈されています。
②外在的制約
対象となる人権は、「経済的自由権」「社会権」です。これらの人権は社会全体の利益や経済政策といった外部からの要因によって、比較的積極的な制限を受けます。憲法22条や29条に明記されている「公共の福祉」は、この外在的な制約を意味していると解されます。
比較衡量とは
では、いざ「公共の福祉を適用しよう!」と言った際には、どちらかの人権が制限を受けることとなります。では、どちらの人権により大きな不自由を引き受けてもらうのかという議論が毎回起こります。
ここで少しスケールの大きい話をすると、「どっちを優先することがより大事か」という話になります。これが、雑に説明した「比較衡量(ひかくこうりょう)」です。
「制限されることによって失われる人権の利益」よりも「人権を制限することで守られる利益」が明らかに大きい場合にのみ、制限が許されます。この考え方はこれまでも多くの判例に支持されているものですので、公共の福祉に関する判例を見る際にはぜひ、この比較綱領という視点を持って読んでみてください。
二重の基準とは
最初に「公共の福祉」の概要を説明した際に、私は「全人権が対象ではあっるが、経済活動の自由はより制限を受けやすい」と解説しました。それがこの二重の基準です。より正確にいうと「経済活動の自由に比べて精神的自由の制限はより厳格に審査をする」ということです。なぜでしょうか。
それは、精神的自由権というのは、そのほかの人権を守るための人権という側面が大きいからです。
例えば、現代の社会で、政府が経済界に不当に介入するような政策を掲げたとしましょう。それを人々が不満に思っているのなら、その党に次の選挙で入れなければいいだけですし、デモで意見を表現するという選択肢があります。
しかし、そのための思想・良心の自由や表現の自由が制限されてしまっては、そのような意思表示をするハードルが上がってしまいます。これが、先ほど述べた「そのほかの人権を守るための人権」ということです。
このほかにも、経済政策については司法ではなく、選挙で選ばれた議員が立法府で議論する方が民主主義というものだからという理由もあります。これを「司法権の謙抑制」と言います。
公共の福祉に関する重要判例
公共の福祉とほかの人権が対立した最高裁判例は複数存在しますが、今回はそのうち、比較的制限を受けやすいと言われる「経済活動の自由」と制限を受けにくいと言われる「表現の自由」のそれぞれが公共の福祉と対立した2つの判例を紹介します。
1つ目は「薬局距離制限事件」です。これは、薬局を開設する際には、ほかの薬局と一定の距離を保つ必要があるという旧薬事法が「職業選択の自由」に反するか否かで争われた最高裁判例です。詳しくは以下の記事で開設していますので、興味のある方は是非ご覧ください。
2つ目は「チャタレー事件」です。これは、日本語に翻訳し出版する本が「刑法第175条のわいせつ文書頒布罪」に問われた事件です。被告人は気方の規定する「表現の自由」を主張しました。詳しくは以下の記事で開設していますので、興味のある方は是非ご覧ください。
本回のまとめ
公共の福祉とは、「人権にも制約が存在する旨を一般に定めるもの」。
公共の福祉に関する学説はさまざまなものがあるが、一般に人権を中から制限するか、外から制限するかの違いが顕著である。
公共の福祉をめぐっては「比較衡量」や「二重の基準」と言った概念がある。
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