【判例読み解き】薬局距離制限事件(薬局同士は離れていないといけないのか/公共の福祉と職業選択の自由)
薬局の設置距離の規定を定めた旧薬事法と憲法の定める職業選択の自由の対立が争点となった、「薬局距離制限事件」についてわかりやすく解説します。
基本情報
最高裁昭和50年4月30日大法廷判決
(昭和43年(行ツ)第120号:行政処分取消請求)
(民集第29巻4号572頁)
事実の概要
上告人Xは、医薬品の一般販売業の許可申請を行いました。この申請が受理されたのは、昭和38年法律第135号による改正後の薬事法が施行される日の前日でした。
この薬事法の改正(昭和38年法律第135号)では、薬局等の設置について、許可を与えることのできる規定(薬事法6条2項および4項、26条2項)が新設されました。これは、薬局等の配置の適正化が目的の新設でした。また、これを受けて広島県でも、「薬局等の配置の基準を定める条例」(昭和38年広島県条例第29号。以下「県条例」)が制定が制定されました。
被上告人は、上告人Xの申請の処理を改正薬事法に則った県条例の施行を待って行いました。よって昭和39年1月27日付で、上告人Xの申請を不許可とする処分を下しました。不許可の理由は、上告人Xによる申請が、改正薬事法および県条例の定める「薬局等の配置の基準」に適合しないというものでした。上告人Xはこの処分の取り消しを求めて提訴しました。
第一審では、上告人Xの請求を容認し、行政の不許可処分の取消しを決定しました。これに対して被上告人が控訴。第二審では、処分はその時の法令に準拠してなされたものであり適正だとし、また、改正薬事法と県条例の適正配置規制」について、憲法22条(職業選択の自由)や13条に違反せず合憲であると判示し、不許可処分の効力を維持しました。これに対して、上告人Xが上告しました。
判旨
破棄自判
最高裁の判決文全文はこちらから検索できます。(事件番号に「昭和43年(行ツ)第120号」を入力してください。)
解説
これが、中学の公民の教科書にも載る「薬局距離制限事件」です。この事件の最高裁での争点は、
①許可申請にはどちらの法令を適用するべきか
②薬局等の適正配置規制(距離制限)は合憲か否か
でした。
①許可申請にはどちらの法令を適用するべきか
上告人Xが起こした許可申請の処理は、改正後の薬事法とそれを受けた県条例に従って行われ、結果的に不許可処分となりました。上告人Xはこの法令の適用について、本件許可申請が改正法の施行前日に受理されているため、改正後の法令に沿って処理することは、「憲法三一条、三九条、民法一条二項に違反し、薬事法六条一項の適用を誤つたものである」と主張しました。
これに対して最高裁は、行政処分は基本的に処分時の法令従うべきだと判断し、よって、改正薬事法に従って処理したことについては「違法とすべき理由はない」と判断し、この点に関しては上告人Xの主張を退けました。
②薬局等の適正配置規制(距離制限)は合憲か否か
改正後の薬事法には、前述のとおり、6条2項、4項などが追加されていました。この追加された条文では、「適正配置規制」が定められており、これが憲法22条1項の「職業選択の自由」に反しないかが最大の争点となりました。
被上告人(行政側)は、この適正配置性には後述のとおりの目的があり、これは公共の福祉に適う必要かつ合理的なものと主張しました。
行政側が主張した目的は以下のとおりです。
(1)不良医薬品の供給防止(消極的目的)
薬局等が一部の地域に集中して設置されると、過度な競争が生じてしまいます。そのような競争は「一部業者に経営の不安定を生じ」させます。そうなるとどうなるか。質の低い「不良医薬品」が販売される可能性が生じるのです。これを防止するために制限をかけているのです。
(1)無薬局地域の解消(副次的・補充的目的)
薬局同士の距離制限を定めれば、当然として薬局は分散します。これが結果的に、「無薬局地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進すること」につながると行政側は考えました。
(1)監視体制の限界
一部の自治体に多くの薬局が集中すると、当たり前ですが管理するべき薬局数は増えます。そうなると自治体がすべての薬局を十分に管理することは「期待することができ」ないため、事前に配置を規制する必要があると主張しました。
これらの主張に対して上告人Xは、憲法22条1項の定める職業選択の自由に違反しているものだと主張しました。
最高裁はこれらの行政側の主張と上告人Xの主張を勘案し、規定を憲法二二条一項違反(違憲・無効)と判断しました。理由は以下のとおりです。
(1)違憲審査の基準について
消極的な目的で職業の自由に対する制限をする場合には、「原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し」、他の制限では、目的が達成できない場合のみに限られると判示しました。
(2)不良医薬品の供給防止という目的について
競争の激化によって経営が不安定になり、それが不良医薬品の供給につながるという状況が発生するという主張は、「確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい」判示しました。また、行政上の是正措置や監視員による監督によって防止できるものであるため、(1)の原則のとおり、制限をかけることはできないと判断しました。
(3)無薬局地域解消の目的について(目的と手段の不均等)
距離制限を設けることで無薬局地域を解消するという目的は手段の行使による目的の達成の「実効性に乏しく」、職業の自由の制限を課すことは、「目的と手段の均衡を著しく失するものであつて、とうていその合理性を認めることができない」と判示しました。
最終的に最高裁は、適正配置規制を無効とした上で、この規制に基づいてなされた不許可処分を維持した原判決を破棄しました。よって、上告人Xの請求を認め、本件不許可処分を取り消すべきものとした第一審判決を正当とし、広島県の控訴を棄却しました。
※「」内は判決文中から引用。
参考文献
最高裁判決文(昭和50年(行ツ)第120号)
新編 新しい社会 公民(東京書籍株式会社)54ページ
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