【判例読み解き】津地鎮祭事件(市が主催する地鎮祭は憲法違反?/政教分離)
市が主催した地鎮祭が政教分離違反を問われた津地鎮祭事件についてわかりやすく解説します。
基本情報
最高裁昭和52年7月13日大法廷判決
(昭和46年(行ツ)第69号:行政処分取消等事件)
(民集31巻4号533頁)
事実の概要
昭和40年1月14日、三重県津市舟頭町の建設現場では、津市体育館の起工式(地鎮祭)が行われていました。この地鎮祭は市の職員が進行役を務め、宗教法人D神社の宮司らが主宰したものであり、神式に則り行われました。
上告人である当時の津市長はこの挙式の費用として7663円を市の公金から支出しました。
この公金支出が憲法20条および89条の定める政教分離原則に反するものであるとし、住民訴訟が提起されました。なお、被告は市長でした。
一審(津地方裁判所)は、起工式(地鎮祭)は神道の援助を目的とした「宗教的活動」ではなく、「習俗的行事」とし、また、市長側に特定の宗教団体(D神社)を援助する目的がなかったことから、政教分離違反には当たらず合憲としました。
控訴審(名古屋高等裁判所)は、起工式(地鎮祭)は「神社神道固有の宗教儀式」であり、憲法20条3項のいう「宗教的活動」とは、宗教信仰の表現であればすべての行為が対象となるべきとし、起工式は違憲であると認定しました。よって、市長の公金支出も違憲であると認定されました。
これを不服とした市長が最高裁に上告しました。
判旨
破棄自判
最高裁の判決文全文はこちらから検索できます。(事件番号に「昭和46年(行ツ)第69号」を入力してください。)
解説
政教分離違反を判定する方法の一つである「目的効果基準」を確立させた最高裁判例がこの「津地鎮祭事件」です。争点は、
①憲法20条3項のいう「宗教的活動」の解釈
②本件起工式(地鎮祭)の法的性質
③公金の支出と憲法89条
①憲法20条3項のいう「宗教的活動」の解釈
上告人は、本件起工式は「地鎮祭」として、「社会の一般的慣行として是認され、実施されてきた習俗的行事」であり、憲法上の「宗教的活動」に該当しないと主張しました。
一方で、被上告人は、憲法上の「宗教的活動」とは、「およそ宗教的信仰の表現である一切の行為」であるべきであり、よって、「神社神道固有の宗教儀式」である本件起工式(地鎮祭)は憲法20条3項による規制を受けるべきであると主張しました。
最高裁はこの争点につき、まず、政教分離原則とは「国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく」、「そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるもの」を禁止しているものと判示しました。判断基準は、その行為の目的が「宗教的意義」を持ち、結果として「宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」を宗教的活動を指すとされました。
②本件起工式(地鎮祭)の法的性質
上告人は、本件起工式は「習俗的行事」であり、神道の布教などの宗教的な目的はなかったと主張しました。
被上告人は、神職が主宰し、神道特有の方法で行われたため、宗教的活動であると主張しました。
最高裁は、本件起工式の宗教的な側面を認めつつも、起工式自体は近年、「建築着工に際しての慣習化した社会的儀礼として、世俗的な行事と評価されている」と判断しました。
起工式自体の目的は、「社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世俗的なもの」であり、効果としても「神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない」ため、憲法20条3項のいう宗教的活動には当たらないと結論づけました。
③公金の支出と憲法89条
上告人は、本件の支出は、神職への「役務に対する報酬」であり宗教的意図はないため拳法89条には違反しないと主張しました。
被上告人は、起工式自体が違憲であるため、それによる支出も違憲であると主張しました。
最高裁は本件の支出について、起工式が憲20条3項に違反しないことから、本件の支出も「特定の宗教組織又は宗教団体に対する財政援助的な支出とはいえない」とし、憲法89条および地方自治法に違反しないと結論づけました。
結果、最高裁は本件起工式およびそれに関する公金の支出の違憲性を否定し、控訴審判決を棄却、また、被上告人(原告)の高裁への控訴を棄却しました。
また、政教分離原則については、国家と宗教の「完全な分離」は「実際上不可能に近い」ものであるとし、政教分離違反の限界を認めました。よって、違反の判定には、状況や目的、効果を「社会通念に従つて、客観的に判断しなければならない」とする目的効果基準を確立させました。
※「」内は判決文から引用。
参考文献
最高裁判決文(昭和46年(行ツ)第69号)
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