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「量産型」の見たかった活躍を見せてくれる『ワールドトリガー』

 「量産型」

 この響きに脳を焼かれて四半世紀以上の時が経つ。

 フィクションにおける「量産型」の原点とは何かってことになると話はややこしくなるが、自分にとっての「量産型」という言葉を刻み付けられたのは圧倒的に『機動戦士ガンダム』である。

 しかし、『機動戦士ガンダム』は確かに敵味方共に「量産型」のモビルスーツが登場するものの、「量産型」が大活躍するアニメかと言えばそうではなく、作中で輝くのはやはり主人公アムロ・レイが乗り込む連邦軍の秘密兵器であるガンダムであり、「量産型」モビルスーツの祖であるザクを、「シャア専用」としてカスタマイズした機体だったりする。

 『機動戦士ガンダム』という作品自体はそれはそれで大変面白いので問題ないのだけど、「量産型」という概念に脳を焼かれたこちらとしては、「量産型」が「量産型」の活躍をすることで「量産型」らしさを示して欲しいとずっと願っていた。ボール編隊でジオンのエース機を仕留めるとか、ザクがチームでガンダムを追い詰めるとか、変にカスタマイズとかしないで「量産型」がその汎用性の高さという強みを活かした上で活躍する姿が見たかったわけである。

 当時、ファミコンのディスクシステムで発売されたガンダムをベースとしたシミュレーションゲーム、『ガチャポン戦士』ではユニットの「生産」が出来たので、生産コストが馬鹿安いザクを大量生産したりして遊んでたのは、ゲームでなら自分の思い描いた夢を叶えるためだ。まあゲルググばっか使ってたけど。

 そんな自分の「量産型」への想いというか妄想をほぼ完ぺきに描き切ってくれるマンガが存在する。現在においてもジャンプSQにて絶賛連載中の『ワールドトリガー』である。

 この『ワールドトリガー』の7巻で描かれる、一点モノを扱う圧倒的強者VS量産型の武器を持って戦う10名の急造チームの戦いは本当に素晴らしい「量産型」の戦いが描かれている。

『ワールドトリガー』7巻
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-880177-3

 まずこの戦いには主人公が全く参加しない。主人公が所属するボーダーという組織のA級隊員3名とB級隊員7名の合計10名に対して、圧倒的な火力と機動力を誇る敵1体の戦いである。ボーダーに所属する隊員が装備するのは、銃やブレード、スナイパーライフルなどを模した武器で基本的には規格化された量産型の武器であり、それを各隊員ごとに選択し、隊員によっては多少のカスタムを加えつつ使っている。対する敵キャラ、ランバネインが使用する「ケリードーン」は飛行能力に長距離火力、高性能なシールド機能などを備え、ボーダー側に比べてとにかく圧倒的に高性能な装備である。

 B級隊員側が束になっても敵わず防戦一方になっていたところにA級隊員3名が加わることで乱戦へと突入していくこの戦いは、本当にあきれるほど面白い。ずっと面白さを維持し続けている『ワールドトリガー』の中でもこの戦いは屈指の面白さを誇っている。

 なんでそんなにこの戦いが面白いのかと言えば、複数の「面白さ」をこの戦いは含んでいるからだ。分解して一つ一つ説明していこう。

 まずはシンプルに圧倒的に強い敵が暴れまわる、ヤベー奴が現れたっていう面白さ、この戦いにおける敵キャラクター、ランバネインは登場するやいなや5人のB級隊員を葬っている。それも各隊員ほぼ一撃で仕留めており、想定を遥かに上回る火力と完全に不意をつけたかに思えた攻撃はしっかり防御されてしまうなど、とにかく初登場時は破格のインパクトを読者に残した。それに対抗するためにすでに作中にも登場していた組織のエリートのA級3名がそんな圧倒的な存在に対しても互角以上に渡り合えてしまうという強者同士が真っ向から対峙出来てしまうのがまた面白い。人間側もやるじゃんと。ここまではシンプルに少年漫画的な面白さだ。

 次に面白いのが、ここからがこの文章の趣旨である「量産型」にまつわる話なのだが、最初は防戦一方で言い方が悪いが「モブ」だと思っていたB級の方たちがA級3名が善戦したことで、俄然機能し始める点である。そこでの急造チームの指揮をとる東さんの分析が的確でわかりやすい。

『ワールドトリガー』7巻 NO.160 より

 さらに、ここでほぼ初めて戦うシーンが描かれるB級隊員たちは後のB級ランク戦で再登場するのだが、この時の戦いですでに彼らの個性やパーソナリティ、戦う上での考え方みたいなものが的確に表現されており、後から再読するとさらに面白くなるあたりは『ワールドトリガー』の真骨頂と言っていいだろう。東さんやっぱこの時点でただモノじゃなかったわとか、荒船さんの身のこなしの良さはこういう理由があったのねとか当時からすでにリアルタイムの読者から指摘があったことがわかって何度読んでも楽しい。だがまあこれは今回の話とはちょっと別の話だ。

 話を「量産型」に戻そう。そんな重層的に面白いこのエピソードでもっとも素晴らしく「量産型」ならではの戦いを描いているのは最後の決着のシーンである。

 急造チーム側は「ケリードーン」を駆使して高速で飛び回るランバネインを罠に嵌めようと、チーム全員が連携し、配置へと付く。そしてうまく相手を誘い、ポイントに誘導した上でとどめを刺そうとする。しかし、歴戦の兵であるランバネインは自分が誘い込まれていたことなどお見通しで、とどめを刺しに来た相手をカウンターで撃退しようとする。

 だが、罠に嵌めたチーム側はそれすら見越した上で、皆で協力してシールドを張って火力を封じた上でトドメを刺すことに見事に成功する。このテンポの良い化かし合いの末に最後はお互いの力のぶつかり合いになる展開は熱い。米屋の「……と 思うじゃん?」が何度読んでも痺れる。

 だが、本当に素晴らしいのは、当初は全く歯が立たなかった個体を、集団で罠に嵌めたということだ。今回ランバネインにトドメを刺したのはA級隊員のヨネヤンこと米屋だったが、敵の行動次第で、他の隊員がトドメを刺す役を想定した「面」で戦術を構成している。この罠が完成した時点でランバネインはほぼ「詰み」の状態にあったのだ。

『ワールドトリガー』 7巻 NO.168より

 圧倒的に強い「点」に対し、一つ一つの「点」では弱くても連携する「線」になることで相手に対抗しつつ、さらに「面」で包み込むことで強大な「点」を完封する。これこそが私の読みたかった「量産型」の戦いである。急造チームであってもなんでここまで見事に連携が出来るのかと言えば、それは彼らが使っている装備が「量産型」だからである。交換可能な装備をもって、替えの効く戦力である彼らだからこそ、「面」の制圧が可能になる。これが一人一人全く違う戦い方をするキャラクターばっかりだと、作戦を指揮する側の負担は爆発的に増加してしまうだろう。


 このような「量産型」の魅力というか普通に考えてそりゃ強いよなっていう当たり前のことを当たり前に描いてしまうのが『ワールドトリガー』の面白さである。だが一方で圧倒的に強力な「個」の活躍も同時に描いているのが本作の面白いところなのだが、それについては他のマンガの「最強」キャラとの比較検討(呪術の五条とか鬼滅の縁壱さんとか)も踏まえつつまた別の機会に述べるとしよう。


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