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福本伸行は大団円の「その後」を描く

※サムネは福本伸行『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻 No.140より引用

 福本伸行という漫画家は、普通であれば一作でも描ければ充分というほどの名作を複数本描いているとんでもない作家で、特に比較的初期の名作『銀と金』や、『天』の終盤のアカギの死を巡るエピソードなどは今後も読まれ、語り継がれていくだろう。満を持してメジャー誌であるヤングマガジンにて『カイジ』を連載開始し、そこで扱ったギャンブルの題材が「ジャンケン」だったことの鮮烈さと内容の圧倒的な面白さは未だに強烈に印象に残っている。

 ここまで挙げた作品だけでも福本伸行という漫画家は「上がり」と言ってもいい境地にいる。特に『天』の終盤などはこれを描いてしまった漫画家が次に何を描くというのかというほどの高みに達してしまっている。

 なんでわざわざ改めてそんなことを言うのかというと、福本伸行という漫画家がそんな大作家として一筋縄ではいかない作家だからである。

 『アカギ』の鷲巣麻雀はなんと20年の長きにわたって延々と描かれ続け、1996年あまりに鮮烈な登場を果たした『カイジ』はなんだかんだで30年後の現在も未だ連載が完結していない(現在は休載中)。

 ちなみにカイジの連載の履歴はこんな感じ。

  • 賭博黙示録カイジ(1996年〜1999年)

  • 賭博破戒録カイジ(2000年〜2004年)

  • 賭博堕天録カイジ(2004年〜2008年)

  • 賭博堕天録カイジ 和也編(2009年〜2012年)

  • 賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編(2013年〜2018年)

  • 賭博堕天録カイジ 24億脱出編(2018年〜連載中)

単行本にして91冊、100巻超えの連載漫画も珍しくなくなった昨今ではあるが、『カイジ』もそうなりそうな勢いである。

 そう、福本伸行はほぼ完ぺきといっていいタイミングで終わった『天』という作品がある一方で、終わるべきタイミングを見失ったり、常軌を逸した長さで一つの勝負を描き続けてしまう作家でもあるのだ。

 それを人気連載を無駄に引き延ばし、延命している堕落した作家と見なされても仕方がないだろう。それほどまでに『カイジ』はダラダラと続いている。

 だが、私はそんな福本作品が嫌いではない。というか結構好きなのである。そして、そんな終わらない福本作品を意識的に追いかけようとすら思ったのは、『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻におけるこんなくだりを読んでしまったからである。

つくづく ケンカはくだらねぇ
流血 悶絶 さんざ痛い思いをして 何の得もねぇ
非生産 非建設 愚行の極み
でも しかし けど
仕方なく もうどうしようもなく
やらなきゃならない時がある!

(中略)

自分の正義を 大義を 通せたか?
心のままに 動けたかが大事だ オレの人生の主人公は 
オレなのだから・・!

(中略)

それって 申し分なく 立派じゃねぇか
誇らしいじゃねぇか オレは今・・・ オレが
地球のどまん中にいる
いる・・って実感してる! 
地球のどまん中! どまん中! どまん中に!
完!!

福本伸行『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻 No.127~136より引用
福本伸行『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻 No.135より

 このセリフを言っているのは主人公のカイジではなく、ギャンブルで得た大金を抱えるカイジ達が、逃亡するための生活の拠点であり移動手段を兼ねたキャンピングカーを手に入れるために訪れた、キャンピングカー専門店の店主の言葉である。当然ながら彼は本作の主人公でもなんでもない。正真正銘のちょい役である。

 そんなちょい役の彼の唐突な長尺モノローグが終わった後、さらにナレーションが被さる。

と・・まあ・・
ドラマなら 映画なら
大団円
ここで終わるところだが
現実は 浮き世は この後もダラダラと続く
死ねないゾンビが寄る辺なく フラフラ うねうね
無感情で 歩き回るように まだまだ続く
ありきたりの 繰り返しの 面白みのない
ダラダラ続く登り坂のように疲弊する 日常が続くーー!

福本伸行『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻 No.137~140より引用
福本伸行『賭博堕天録 カイジ 24億脱出編』11巻 No.139~140より引用

 様々なギャンブルを通してギリギリの命のやり取りを行うヒリヒリとした刹那の時間や、最高の大団円を描き切ってしまった福本伸行の関心は、既に大団円の「その後」にある。

 24億脱出編は、その後もダラダラと継続し、偶然出会った40代独身男性2名となぜか何日にもわたって酒盛りをするエピソードに突入していくのだが、この本筋とほとんど関係のない精神年齢の幼い40代独身男性2名のその両親の描きっぷりなどすごい。

 人間何歳になろうと親子はずっと親子とか、何歳になろうと関係の変わらない友人関係など、私も40代なのでこの辺の感じはわかる。何歳になっても親子とか同級生との距離感ってほとんど変わらない。

 そんなのを『カイジ』で描いてどうするんだ、とっとと抱えた大金を使ってもっとデカいギャンブルに挑めっていう気持ちも一応あるのだが、この感じはこの感じでずっと見ていたいような、居心地のよいぬるま湯感がずっと続いている。人によっては読んでらんないのかもしれないが私は好きだ。

 そんなダラダラとした「その後」を現在も継続連載中の福本伸行なのだが、現在『カイジ』は長期休載中で、現在注力しているのが『二階堂地獄ゴルフ』である。

 この作品において主題となっているのは、プロゴルファーになるという夢を叶えられないまま、「大団円」を迎えられないままに過ぎていく男性の悲哀である。そしてこの作品がまた面白い!

 一つの勝負に20年かけて描いてきた作家だからこそ、連載開始時は35歳だった主人公があっという間に48歳になってしまう時間の省略があまりに残酷で、そこにさらに一度目の行為を、時間を巻き戻して二回目が出来るという能力バトル漫画みたいな特殊能力が加わることで、まったく先が読めない漫画になっている。

 そう、ここにきて福本伸行は『天』や『銀と金』に匹敵するような新しい代表作をものにしている。そしてそこには彼がダラダラと描き続けてきた24億脱出編の蓄積が乗っている。

 福本伸行という漫画家は『天』や『銀と金』のような問答無用の傑作か、中盤以降の『アカギ』、『カイジ』のような無限に続く間延びした展開のどちらかの印象が強く残っており、トータルで見るとどういう漫画家なのかがわからなくなっているのだが、その両輪を兼ね備えた『二階堂地獄ゴルフ』のような作品を描く境地に至っている。大団円の「その後」を描く唯一無二の存在へと福本伸行は未だに進化を続けている。とんでもない漫画家である。


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