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東映動画とレザーフェイスの間で ——宮崎駿作品における「仮面」の機能

東映動画の「喜び」と「呪縛」

 宮崎駿というアニメーターの原点は、東映動画が築き上げた「動く喜び」の伝統にある。そこではキャラクターは豊かに表情を変え、万人に愛される「善性」を体現することが求められた。しかし、若き宮崎駿が抱いていた創作の野心は、それだけでは満足することはなかった。彼は戦車の鉄の重厚さ、激しい銃撃による破壊の衝撃、そしてなにより乾いた死が当たり前に存在する世界を描こうとした。

 ここで一つの決定的な問題が生じる。東映流の、大きな瞳と柔らかな輪郭を持つキャラクターたちは、あまりに可愛らしすぎた。その顔立ちのままに銃を撃ち、殺戮を行わせるには、どうしても絵柄から放たれる愛嬌がノイズとなり、リアリズムを霧散させてしまう。宮崎駿は、この「可愛い絵柄」を維持したまま、いかにして冷酷な暴力を描くかという問題に直面したのである。

「仮面」の獲得と人間性の剥奪

 この矛盾を突破するために宮崎駿が導入したのが「仮面」という装置だった。『ルパン三世 カリオストロの城』の影使い、あるいは『風の谷のナウシカ』のトルメキア兵。宮崎駿は、敵対する勢力に無機質な面やマスクを被せることで、彼らから固有の人間性を剥ぎ取ったのである。

『カリオストロの城』の影

 仮面を被った瞬間、彼らは名前を持たない「機能」へと純化される。

 『風の谷のナウシカ』においては、主人公であるナウシカすらも冒頭の結構な尺を「仮面」というかマスクを被って顔が全く見えない登場している。「仮面」によって主人公の顔を覆い、「機能」に焦点を当てた描き方をしたからこそ、後の顔があらわになる瞬間がより鮮烈になる。ほかにも映画版には登場せず、原作に登場する土鬼軍や蟲使いなど『風の谷のナウシカ』という作品は宮崎駿にとっての「仮面」の饗宴とでも呼ぶべき作品になっている。

スプラッターホラーとの共鳴

 この人間に「仮面」を付与することによって、表情のみならずその人間の抱える人間味を剝奪し、機能性を純化させることを最大限活用しているジャンルが宮崎駿の作品以外にも存在する。伝説的名作『悪魔のいけにえ』に端を発するホラー映画である。

 『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、『13日の金曜日』のジェイソンなど、殺人鬼から人間性を剥奪するにあたって仮面が如何に重要な役割を果たしているかは今更言うまでもないだろう。

 宮崎駿が直接的にホラー映画から影響を受けたのかどうかはわからない。だが70年代から80年代にかけて花開いたスプラッターホラーと、同時代にデビューし、作品を発表していた宮崎駿とホラー映画が「仮面」を通じて表現の根底の部分で共鳴していたという事実は非常に興味深い。

ムスカという「透明な仮面」の到達点

 宮崎駿における「仮面」の探求において、一つの極致として君臨するのが『天空の城ラピュタ』のムスカである。ムスカは、これまでの兵士のような物理的な「仮面」を被っていない。しかし、彼の眼孔を常に覆っているサングラスこそが、宮崎駿が辿り着いた「仮面」表現の一つの到達点である。

『天空の城 ラピュタ』のムスカ

 ムスカは常に知的で紳士的な微笑を浮かべながら、その瞳——真意と狂気が宿る場所——だけはレンズの裏で完全に凍結されている。相手と視線を交わすことを拒絶し、透過するレンズ一枚で人間性を制御しながら、平然と大虐殺を指揮する。

 物理的な重装を脱ぎ捨て、日用品であるメガネを「仮面」へと変質させたムスカ。彼は、宮崎駿が東映時代から格闘してきた「絵柄の甘さ」を、完全に「冷徹な知性」へと飼い慣らした到達点である。宮崎駿作品における「悪」を完成に至らせたのは、時には野心に満ちた鋭い眼光を映し、時には瞳を完全に覆い人間性を剥奪し、冷徹に人間の命を奪う機能性のみを映す万能の「仮面」の存在があったからこそなのである。

その後の宮崎駿と仮面

 ムスカという到達点以降、宮崎駿作品に彼ほどの明確な悪役は登場しなくなる。だが、仮面は以降の作品にも非常に重要な役割を果たし続ける。

 『紅の豚』は、主人公が、自分の姿を豚に変えた上でさらにサングラスをかけるという二重の仮面を被せたキャラクターだし、『もののけ姫』におけるヒロインのサンが冒頭で被る仮面とそれが砕け散る瞬間などは、それだけで一つの論考か書けそうだ。『千と千尋の神隠し』のカオナシなんかは、ムスカが人間性を捨て去るための仮面なら、カオナシは空虚な中身を埋めるための仮面であるという意味で、仮面のキャラクターの極致と言えるのではないだろうか。

『紅の豚』のポルコ・ロッソ

 東映動画からそのキャリアをスタートし、その子供から大人まで楽しめる漫画映画としての魅力を損なわず、その枠内では収まりきらない激しい表現を欲した宮崎駿にとって、仮面というアイテム、仮面というモチーフは、一つのアイディアで複数の問題を解決してくれる画期的な一手だったのである。


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