冨樫義博は「圧縮」の能力者
※サムネイルはkindle版『幽★遊★白書』7巻 No.40より引用
かつてジャンプ黄金時代を象徴する3大看板の一角を担い、圧倒的な人気を誇った漫画、『幽★遊★白書』において私が一番驚き、一番興奮したのは、作中屈指の人気キャラ、飛影が必殺技「邪王炎殺黒龍波」を初めて使った時である。しかし、改めて「邪王炎殺黒龍波」って本当にすごいネーミング……。
なぜ私がそこまで驚いたのかと言えば、登場時点で明らかに強キャラの匂いがプンプンしていて、その後仲間になるジャンプお約束の展開もあるのではと想定していた飛影の対戦相手である六遊怪チームの是流が、試合開始序盤に放たれた「邪王炎殺黒龍波」の直撃を受けて影だけを残して瞬殺されてしまうからだ。

冨樫義博『幽★遊★白書』6巻 No.165より
そりゃ飛影が負けることはないだろうと思ってはいた。だが、こんな短期決戦で対戦相手が死体すら残さぬ形で決着してしまうとは……。私の予測を完全に裏切る展開に当時度肝を抜かれた。
この見るからに強そうな強者の登場などによって、こちら側が想定する展開、脳内テンプレを完膚なきまでに破壊、圧縮してしまうことを、冨樫義博という作家は一種の手法として駆使している。ここではその手法に「圧縮」と名付けよう。
ちなみにこの試合とは別に戦った六遊怪チームの内の2名(鈴駒と酎)は後に主人公たちの仲間になっている。この冨樫義博はお約束を完全に無視するわけでもないというあたりがかえってその「圧縮」の効果を際立たせている。
例えば『HUNTER×HUNTER』において幻影旅団に対抗するような形で陰獣という念能力集団が登場したとき、「圧縮」が発動する。一人一人個性的な能力であったり、特徴的な見た目をしており、描こうと思えばいくらでも膨らませそうなキャラクターを複数登場させながら、幻影旅団、中でもウボォーギンの圧倒的な強さを表現するためにほぼ使い捨てている。
さらに彼の「手法」が極まったのは「十二支ん」が初登場する「ハンター協会会長選挙編」である。
ここではハンター協会でも会長を慕う屈指の優秀なハンター12名が登場しながらも、主人公ゴンの父親であるジン・フリークスとひたすらに場を搔き乱すパリストンの2名以外はほぼ活躍の場が与えられない。それぞれがそれぞれに優秀であることは節々に描かれつつもほぼパリストンの完封にされる形で物語が展開される。
最も「十二支ん」自体は後の「暗黒大陸編」でも登場するので完全に使い捨てているわけでもないあたり、「圧縮」の技術がより洗練されているようにも思う。
全体的に異常なテンポの良さで話が進む「ハンター協会会長選挙編」は、他にもちょっとクセがありそうで思わせぶりなキャラクターが登場しては瞬時に葬られるという「圧縮」の技が駆使されている。それが効果的なのは是流や陰獣にしてもそうなのだが、それぞれのキャラクターが個性的でいわゆるキャラ立ちをしっかりとしているからである。だからこそそんなキャラクターが一瞬で葬られたり、まったく活躍の場もなく「圧縮」され、踏み台にされてしまうことに衝撃が生じるのである。
振り返れば『幽★遊★白書』の終盤の展開はまさにその「圧縮」が炸裂しまくっていた。あり得たはずの展開、起きていた筈の濃厚なバトル、まだ見ぬ主人公の覚醒など、我々が期待したものが全て省略され、唐突に迎えるエンディングに物足りなさと同等以上の満足感を得ていたのは、きっと我々が冨樫義博の駆使する「圧縮」という技術にずっと魅了され続けたからに違いない。
