劣化した後進が、最強の壁を崩す──ジャンプ「最強」キャラクター論
サムネイルは『鬼滅の刃』20巻、『呪術廻戦』4巻、表紙より引用
『呪術廻戦』の五条悟、『鬼滅の刃』の継国縁壱、彼らは作品の主人公ではないにも関わらず、作中でも主人公を凌ぐほどの力を持っているという、いわゆる「最強」キャラである。
これまで週刊少年ジャンプには超えられない先達、主人公を凌ぐほどの最強キャラが度々登場してきた。だが、80~90年代くらいまでは、『魁!!男塾』の江田島平八や『るろうに剣心』の比古清十郎など、でたらめな強さをもったジョーカー的な存在としてワンポイントリリーフ的な存在に過ぎなかった。
もしくは『DRAGON BALL』の亀仙人のように、一時的には主人公を凌ぐ強さを持っていたとしても、師匠として弟子を導きやがては乗り越えられていく存在として偉大なる先達は存在してきた。
他にも『幽☆遊☆白書』における幻海や、90年代後半から連載が始まった『NARUTO』のコピー忍者カカシに自来也、『ONE PIECE』のシャンクス、『僕のヒーローアカデミア』のオールマイトなどなど、主人公を導いていく先達を挙げていけば枚挙にいとまがない。
だが、2010年代に連載が開始された、『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』に出てくる偉大なる先達は新しい世代でも超えられないほどの圧倒的な強さをもったあまりにも遠い存在として描かれる。
偉大な先達の存在は、時として周囲の人物に無力感をもたらす。自分がやる意味などあるのかという自問が生まれる。そして劇中の主人公たちもその偉大なる先達を超えることが出来るとは微塵も思っていない。
しかし、彼らはその歩みを止めない。
『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』はそんな偉大なる先達に続く、劣化した後進たちの物語である。
●挫折する「最強」
『鬼滅の刃』における「最強」キャラ、継国縁壱は作中における圧倒的な強者である。最大の悪役である鬼舞辻無惨を真っ向勝負で圧倒し、無惨が逃げの一手を打つしかなくなるほどに強い。
しかし、強すぎる彼でも、全力で逃げる鬼舞辻無惨に完全にトドメを刺すことは出来なかった。自分の細胞を四方に爆散して逃げる鬼舞辻無惨だが、そんな飛び散る細胞を8割方処分しつつも、鬼舞辻を逃がしてしまったことには変わりない。
振り返ってみれば継国縁壱という人物の人生はその才能に反比例するように不遇の連続であった。自分が生まれた武家の家からは疎まれ、折角出来た家族も鬼に殺され、鬼舞辻無惨も仕留め損ね、自分の血を分けた兄は鬼になってしまい、その兄を自分の手で仕留める直前で絶命してしまう。その生涯において、その比類なき強さに対して成し遂げたことがあまりにも乏しい。
一方、物静かで常に控えめな縁壱とは対照的に、常に飄々としてどんな相手に対しても軽口が絶えない『呪術廻戦』の「最強」キャラたる五条悟だが、彼の人生もまた、成し遂げたことの乏しさという点においては縁壱と変わらない。
自身が「最強」になったことが遠因となって無二の親友とは決別をしてしまう。さらに後に渋谷事変と呼ばれる、渋谷を舞台にした戦いにおいてはほぼ敵の策にはまって封印され、身内に多大な犠牲が発生する。ようやく封印が解除されて臨んだ宿儺との決戦には、善戦こそするものの最終的には敗北する。
彼らに共通するのは、そのあまりにも眩い才能の光によって、暗い影を生んでしまったということだ。縁壱の兄は「上弦の壱」という無惨に次ぐ実力を持つ最強の鬼と化し、五条と唯一対等の立場で接することが出来た無二の親友である夏油は、呪術師たちとは対立する立場となる。
「最強」の彼らは最も共に手を取り合いたかった仲間をその「最強」たる才能によって失い、孤独に陥る。そしてその孤独こそが「最強」の彼らを決定的な場面で挫折へと至らせる。
●偉大なる先達の存在は、歩みを止める理由とはならない。
『鬼滅の刃』も『呪術廻戦』も最終決戦は、どちらも圧倒的に強い一人の敵に対して、複数人数で戦いを挑んでいる。
炭治郎も虎杖も、物語の始まりから考えれば飛躍的な成長をはたしている。それでも彼らは縁壱や五条には遠く及ばない。ましてや「最強」の彼らでも倒せなかった無惨や宿儺には一対一では到底勝負にならない。だから彼らは仲間と共に戦う。
そして、共に戦う仲間たちだって、「最強」には遠く及ばない者たちばかりである。それでも、彼らはその力と命を振り絞って強大な敵に立ち向かい、力尽きるまで戦うことをやめない。
無惨との最終決戦において、炭治郎は祖先の記憶を辿る形で、縁壱が見せてくれた日の呼吸の型を目撃する。炭治郎と縁壱の間には血縁関係はなく、ただ一時的に近所に住んでいたというだけの繋がりしかない。しかしその繋がりは世代を超えて炭治郎に日の呼吸を伝える。物語が時を超えて新しい世代に伝わるように、炭治郎はその微かな繋がりを武器に無惨と戦い続ける。

一方、最強の呪いの王、両面宿儺との戦いにおいて、虎杖を始めとする呪術師たちも複数人数で戦いを挑む。
先ほどまでの五条対宿儺のお互い一歩も引かない互角の戦いに比較すると、残された呪術師たちはあまりに脆い。五条との戦いで消耗し万全の状態ではないにもかかわらず、圧倒的な宿儺の攻撃によって、一人、また一人と倒れていく。
だが、倒れていく呪術師たちはただ倒れるわけではない、それぞれの最善を尽くし、宿儺に自分の力をぶつけながら倒れていく。五条がはなつ軽いジャブ程度の一撃にすら及ばなくとも、それぞれの最善が連動し、少しずつだが、確実に相手の力を削っていく。
これらの戦いに決定的な転換は訪れない。華麗な一撃によって勝負が決するようなこともない。一人一人の力が連なり一つになることによって食い下がることが精一杯でありながら、その精一杯をひたすらに継続する。
そして、遂に壁は崩れる。
鬼殺隊の隊士だけではなく、補佐的な仲間まで皆で力を併せて無惨を日の光の元に晒し、あえなく無惨は消滅する。両面宿儺は虎杖との殴り合いの末に、最後にそろった高専1年生メンバー3人の連続攻撃によって、敗北を認める。
二人の「最強」ですら崩せなかった壁が、彼らよりも劣化した後進たちによってとうとう崩された。
「最強」ではない後進たちは、誰もが「最強」ではない己を知っていたが故に、仲間との繋がりを最後まで放さなかった。炭治郎は自身の記憶の奥底から縁壱との繋がりすら手繰り寄せ、呪術師たちの一人、乙骨は亡くなった五条の亡骸すら自身の力として再利用する。その執念にも似た繋がりを捨てない姿勢が、「最強」では届かない高みへと彼らを導く。
『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』、これらはあまりにまばゆい光を放つ「最強」キャラの活躍を描くと同時に、それらに遠く及ばない劣化した後進たちを主人公とした物語である。だが、「最強」の二人がその「最強」故に孤独に陥ったのとは対照的に、最後まで繋がりを捨てない後進たちが、「最強」では届かなかった場所へと到達する物語でもあるのだ。
