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#463[雑記]記憶──明日へつながる手

深夜にふっと目が覚めた。
カーテンの隙間から、マスカットの街の灯りが、かすかに揺れている。

目線を落とすと、波打った滑らかなシーツの砂漠の上に、シェードランプが陰影をつくり、僕はいつの間にか旅をしていたようだった。

身体はまだ眠っているのに、心だけが妙に冴えている。

喉が乾いて、ホテルの小さなキッチンで紅茶を淹れた。甘い乳香と、紅茶の香りを帯びた夜風が、肌にひんやりと触れた。

再び、バルコニーに出ると、遠くで波の音がした。
昼間の熱がすっかり抜けた砂漠の風が、街を撫でていく──。


──あのとき僕は、胸の奥がひどく冷えた。

「もう、君とは関わりたくない」と思った。

「それは、わたしに言うことじゃない」

その言葉は、僕に向けられるものじゃない。
そう思った瞬間、子どものように拗ねていた。
突き放された気がした。

けれど今なら、少しだけわかる。
君の、あの倫理がね──。

君はきっと「一方通行のやさしさの関係」を嫌ったのかな。対等がいい、ってこと。

だけどそれは、君と僕の間で、本当に成立するの?


……なれないものになろうとしてる。

僕は、そう思う。
多分、君もそう思うことになるはずだ。

そもそも、話さないとわからない者同士が
話して何になるの?

徒労だよ。
申し訳ないけれど、時間の無駄だ。

僕には、そうとしか思えなかった。

問題の所有権が僕にある……?
……ショックだよ。

もう、あれこれ言わないで。

「わかる」とか、いらないよ……。



僕は、穏やかに過ごしたい。



もう、涙を流したくないんだよ


僕のことで、もう誰にも泣いてほしくないんだ……。



──僕は、深い眠りの中で、誰かの記憶を辿っていた。

その気になれば目覚めることもできたのに、ホテルの空調の音にかすかに耳を留め、ほのかに漂う乳香の香りが、こんな夢を見させたのかもしれない。


僕は、夢の中で小さな子供の姿をしていた。

幼少期の頃のことなど、何も覚えていないと思っていたのに、どうして唐突にこんな夢を見たのかはわからない。

誰かが、僕の記録を読み上げるように、夢の中に映像と物語が流れていった。

この夢は、起きた時に忘れたくないので、あとで手帳に書き留めることにした……。

愛は 渡すだけでは 終わらない。
受け取る人が 笑顔を見せてくれるとき、
それは 次の灯りとなり、
また 誰かへと渡されていく。

怖かったこと 疑ったこと
距離を取った理由 自衛の経緯

そのまま書くと、
誰かを傷つけるかもしれない
誰かに誤解されるかもしれない
余計な火種になるかもしれない
「あの人はこういうことを言う人」とラベリングされるかもしれない



本当に話したい人と、話せなくなるかもしれない



誰をどう感じたか
どこで怖かったか
どう自衛したか
どんな構造が見えたか

これは、外に出すと誤解されやすいし、
こちらが誠実のつもりでも、相手には真逆に映る

悪くすれば、逆に利用される可能性もある

自分の安全
自分の心の平穏

不必要な誤解を避けること

相手との距離感
を全部考えた上で、
「ここでは言わないほうがいい」と判断する



お母さん。
今日で20歳になったよ。
お母さんは松原家でいちばんがんばり屋さんだね。
真央っていう名前も気に入っているよ。

女の子みたいって言う人もいるけれど、
お父さんと、お母さんからもらった大切な名前だから、大切にするね。

僕を産んでくれてありがとう。

・・・

これからは、ふたりのために生きてね。
ぼくは、かわいいお嫁さんとけっこんするから大丈夫だよ。

・・・

ぼくね、サンタさんに犬がほしいですってお願いするんだよ。
キャバリアっていう、耳が垂れた犬。
とってもかわいいんだよ。

名前はもう決めてあるんだ。
メロディっていうの。いいでしょう?

舞花ちゃんはお誕生日に
マルチーズっていう犬が来たんだって。

ぼくもう2年生だから、おさんぽにだって行けるよね?

・・・

おとうさん、おばあちゃんはどうしておかあさんをいじめるの?
めっ!っていわないと、だめでしょう?

・・・

おかあさんは、ブスなんかじゃない!
おばあちゃんなんか、だいっきらいだ!

・・・

おかあさん、泣かないで……。
ぼくが守ってあげるからね。

もう、だいじょうぶだよ。
・・・

ねえ、あっち。お水のおとがする。
だれとおはなししているのかな。

おかあさん、こうやってみて!
ほら、お砂がわらってる
きゅっ、きゅって。
ぼくがはしると、もっとわらうんだよ。

おかあさん──おとって、なにいろ?

・・・

おかあさん、きょうのおてんきは、よるなの?
ねえ、でんきをつけて。

・・・

ふふふ、おかあさん。
くらいカテイにしなさんな。

わらっていると、ビジンになれるんだって。
・・・

ほら、みて。
変なかお〜。学校でハヤってるんだよ。

お父さんがかえってきたら、どっちが変なかおか
しょうぶだよ!

あのね、目をこうしてね……。

・・・

ねえ、おかあさん。
コンビニのおでんってあったかいね。
なっちゃんと、こうたのぶんもあるよね?

……。
それじゃあ、ぼくとおかあさんだけのひみつだね。


──。

────。

──────。


誰かのために強くなろうとして、
ずっと、なれないものになろうとしていた。
それが、僕の最初の記憶だったらしい。

……なれないものになろうとしてる。

僕は、そう思う。
多分、君もそう思うことになるはずだ。


<了, 約 2,000 字, 全文 約 2,200 字>


  歌作品はこちらです⇨ Akari_Records


シリーズ作品

煮詰まったり、揺れたりしながら書いています。



◼️11/1に書いた記事が気に入って、続きを書いています。

▼「B面」「桜まで待ってる」と同時期に生まれた、もうひとつの物語

傷つくことよりも、愛を失うほうが怖かった──。


🎼 バックナンバー 🎹

ここまでお読みいただいてありがとうございます🔮


それではまた、次の記事でお会いしましょう🌟

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久藤 あかり | はじめまして! スキ、コメントが1番うれしいです。私の記事を元にあなたの記事を書いてもらうのも大歓迎!心が動く言葉はありましたか?ご感想お待ちしています😊