見出し画像

第6章|夕日―魅惑の赤、覚醒の赤―【#創作大賞2026 #ホラー小説部門 】応募作品。全13章・完。


【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】小説『夕日』第6章『めぐみ』―侵入1― の章タイトル画像

マネージャーとやり合ったあと、
深く眠っていた。

5時にドアを叩かれて目が覚めた。

どれくらい寝たのか、
分からなかった。

ドアがもう一度叩かれる。

隣のやつに壁を
叩かれてしまいそうだ。

重い身体を起こして、ドアを開ける。
めぐみが立っていた。

「最近、元気なさそうだったから。」

両手に袋をぶら下げている。

「熱があるって話してたし。」

部屋の中を覗き込んでくる。

「ご飯とか、食べてるかなって。」

何か言う前に、
勝手に入ってきた。

「どうやって来た?」

「ん?タクシーよ。
もっと早く来たかったけど、
ナマハゲがアフター行こうってしつこくてさ。」

「なんで、俺の家が分かったんだ?」

「昨日、マネージャーもいなかったから、
事務所から履歴書持ってきちゃった。」

「武井君、辞めそうだったし、
履歴書なんか置いておかない方がいいよ。」

靴を脱ぐ場所を探して戸惑っている。

「ここでいい?」

「どこでもいい。」

袋をテーブルに置く。
テーブルといっても、低い台だ。
何も乗っていない。
めぐみは、すぐに袋を開ける。

「はい、これ。遅くなるし、
コンビニのでいいかなって思ったけど、作っちゃった。」

たまごサンドだった。
ラップに包まれている。

コンビニのとは見た目も
パンの厚さも違う。
四角に切ってある。

普通のパンのサンドイッチ。
そんなものを、初めて食べる。
甘い匂いがした。

「食べてみて。」

言われるままに、手に取る。

柔らかい。

一口かじる。
しっかりと味がした。

たまごが溶けていきそうだ。
コンビニのとはまるで違う。

うまい。

しばらく、何も言わずに食べた。

手作りのサンドイッチ。
いつ以来だろう。

いや、そんなものを
食べた記憶がなかった。

子供の頃から、食事はいつも、
母親が買ってくるものだった。

遠足の弁当さえ、
スーパーの弁当を
詰め替えたものだった。

「どう?」

「まぁまぁ、だな。」

めぐみは笑った。

「そっか。今度は別なの作るね。」

嬉しそうでもなく、がっかりした様子もない。

そのまま、台所に立つ。
台所というほどのものでもない。
コンロはカセットコンロだ。
流しは小さい。

めぐみは、
使っていない皿を一枚取り出して、
水で洗い始めた。

音がする。

水の音。

それだけなのに
部屋の空気が変わった。

誰かが台所に立つ。
そんな風景はテレビの中だけ
だと思っていた。

「普段、料理しないの?」

「しない。」

「そっか。何もないもんね。女もいないね。」

めぐみは笑った。

それ以上は聞いてこない。

皿を拭いて、元の場所に戻した。

めぐみが缶コーヒーを開けた。
俺以外が缶コーヒーを開ける、
その音を初めてこの部屋で聞いた。

また部屋の空気が変わった。
違和感が身体を包む。

「ねえ。」

「なんだ?」

「ここ、寒くない?」

「寒い。」

「エアコンつけないの?」

「使わない。」

「なんで?」

「そういうルールなんだよ。」

めぐみは、驚いている。

「変なの。」

そう言って、笑った。
よく笑う女だ。

悪い意味ではなさそうだった。

食べ終わる。
手を拭くものがない。
ズボンで拭いた。

めぐみはそれを見ても
何も言わない。
ただ微笑んでいる。

めぐみが
ベッドの方へ行く。

シーツはそのままだった。
シワが寄っている。
めぐみが、シーツを整えた。

「抱いていいよ。」

「いい。」

「いいから。」

「いい。」

「抱いて。」

押し倒した。
めぐみは、目を閉じた。
声は出さなかった。

終わって、そのまま横になる。
天井を見る。

白い。

隣で、めぐみが何か話している。
店の客の話。
ナマハゲがどうのと言っている。

内容は覚えていない。
いつの間にか、眠っていた。

深く。深く。

音で目が覚めた。
電話だった。
身体が重い。

携帯電話を手に取る。

「期待以上だよ。」

あの男の声だった。

「それに」

「可愛い彼女じゃないか。」

一気に目が覚めた。
部屋を見る。
めぐみがいる。

「彼女」という言葉が、
妙に引っかかった。
めぐみは関係ない。

「渡したナンバープレートは、
指示するまで持っておけ。
それから、カーナビも付けておけ。」

「分かった。」

切れた。
また、静かになった。

「誰?」

「友達だよ。」

「ふーん。女じゃなさそうだからゆるすよ。」

笑っている。

「私、武井君の冷たいところが好き。
だって他の女にとられる心配を
しなくてすむから。」

わずかに声が震えていた。
そのまま立ち上がる。
服を拾って、ゆっくり着る。

「ねえ、ライター買ってあげる。
煙草はマルボロにして。
今度、たくさん買っとくから。」

「煙草くらい自分で買う。
ライターは選んでくれ。金は出す。」

サンドイッチも悪くなかった。
今まで食べたサンドイッチとは、
比較にならないほど、うまかった。

ひとつくらい、
言うことをきいてもいい。

稼げる仕事を見つけた。
これからは煙草代をケチることも
しなくていい。

「また来るね。」

「一緒に住むのは、なしだ。」

「うん。毎日来ても毎日帰れば
一緒に住んでることには、ならないよね?」

「勝手に来い。」

めぐみが、ドアの前で一度振り返る。

「送ってやる。」
そう言いかけて、やめた。

めぐみはそのまま出ていった。
ドアが閉まる。

部屋に、
昨日までなかったものたちが残された。

甘い匂いとたまごサンドが、もうひと袋。

サンドイッチをつまむ。

口に入れる。

しっかりとした味。
表現が思いつかない。
さっき食べたのとは違う味に感じた。

だが、うまい。
うまいとしか言えない。

睡魔が襲ってきた。
カーナビは午後から付けに行こう。

ベッドに戻る。
まだ少しぬくもりがある。

天井を見る。
こんな天井だったか?

今までと同じ白だ。

何も変わらない。

昨日と同じなのに、


違う部屋に見えた。




創作大賞2026_ホラー小説部門_夕日_第7章へ
次の章【めぐみ(侵入2)】へ

創作大賞2026_ホラー小説部門_夕日_目次へ
【目次】へ
創作大賞2026_ホラー小説部門_夕日_第1章へ
最初から読みたい方は【第1章】へ

【前の章】へ


■ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
・創作大賞2026 ホラー小説部門 応募作品なので「スキ」で応援してもらえると巨大なエネルギーになります。


■はじめての方へ
・僕のメチャクチャな人生の紹介です。

創作大賞2026 ホラー小説部門【プロフィールへ】
【プロフィール】へ

■以下連載(ノンフィクション)
・僕のメチャクチャな人生の恥を晒して書いています。
「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】

【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】-失踪編-目次へ
【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】-失踪編-第1話へ


【第二章・新聞配達編】

【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】-新聞配達編-目次へ
【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】-新聞配達編-第1話へ

【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】「夕日」マガジンへ

#創作大賞2026
#ホラー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!