【第2部】語りの変化点 『出来事叙述から習慣叙述へ』
みなさんこんにちは!
行動心理士の僕です。
第1部では、第三者から不利な情報を提示された直後の反応を、「認知的負荷」と「情報管理行動」という観点から整理しました。
第2部では、その後に続く供述内容に焦点を当て、出来事の語り方そのものの構造を検討します。
本稿では、「何が起きたか」ではなく、「どのような形式で語られているか」を段階的に確認します。
⚠️注意⚠️
ここで扱う言語的特徴は「虚偽の証拠」ではなく、認知的負荷や情報管理の可能性を示す叙述構造上の指標です。
単一の言語特徴による真偽判定は困難であり、文脈・個人差・状況要因の統合的判断が必要とされます。
ここで紹介する仕草や言動は、「必ず嘘をついている証拠」ではありません。
心理学者ポール・エクマンの研究では、怒り・喜び・悲しみ・恐怖・驚き・嫌悪といった基本感情は文化を超えて普遍的である一方、その表出の仕方は文化・文脈・社会的役割によって大きく変化するとされています。
つまり、人は常に「感情 × 社会的役割 × 戦略」の交点で振る舞っている存在です。
本稿の目的は「相手を疑うこと」ではなく、誤解を減らし、理解を深め、より良い対話につなげること。
「おもてなし」と「真心」を忘れないでください。
真心が大事でなのです。
1. 叙述の二つのモード
人が出来事を語る際、叙述には大きく二つのモードがあります。
■ 出来事叙述(event narrative)
特定の時間・場所・行為者が明確
「その夜」「その時」「その場で」など
■ 習慣叙述(habitual narrative)
一般化された行動パターン
「普段は」「いつもは」「通常は」など
言語学的には、出来事叙述は検証可能性が高く、習慣叙述は検証困難性が高いという性質があります。
2. 供述の前半:具体叙述の提示
ピーターソンの供述は、冒頭では比較的具体的です。
視聴していた映画
時刻
ワインの本数
会話内容の概要
これらは出来事叙述に近い形式で提示されます。
この段階では、語りの構造は比較的直線的であり、時間順序も維持されています。
第1部で示した「認知的負荷の増大」は、ここではまだ顕著ではありません。
3. 供述の中盤:語りの変質点
しかし、ある地点から語りの形式が変化します。
「私たちは夜に何時間も話していた」
「普段はこうしていた」
といった習慣叙述が増加します。
この移行点は、単なる話し方の癖である可能性もありますが、出来事叙述から一般化叙述への構造的シフトとして確認できます。
ここで重要なのは、
具体的な時系列説明が減少
検証困難な一般化表現が増加
という叙述解像度の変化です。
4. 抽象化の増加と時間構造の不明瞭化
供述後半では、
and
then
you know
um
などの接続語が増加します。
これらは日常会話でも出現しますが、特定箇所に集中して出現する場合、時間構造の不明瞭化を生じさせます。
時間構造が曖昧化すると、
行為の順序
因果関係
行為間の空白時間
の検証が困難になります。
ここで第1部の伏線が部分的に回収されます。
認知的負荷が増大した地点では、語りの構造が抽象化しやすい
これは虚偽の直接指標ではなく、高負荷下の叙述変容現象として理解できます。
5. 語りの設計という仮説
第1部では「情報管理行動」を提示しました。
第2部では「叙述解像度の変化」を示しました。
ここで一つの仮説が浮かび上がります。
供述は単なる記憶再生ではなく、状況に応じて解像度を調整する「設計された語り」である可能性
第3部では、
法廷という制度的環境
陪審員・メディア・弁護戦略
自己呈示(impression management)
を統合し、語りがどのように社会的に構築されるかを整理します。
出典
DePaulo, B. M., et al. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin.
Vrij, A., et al. (2006). Detecting deception by manipulating cognitive load. Trends in Cognitive Sciences.
Hauch, V., et al. (2015). A meta-analysis of linguistic cues to deception. Journal of Language and Social Psychology.
第3部への次回予告
次回の第3部では、第1部および第2部で示した所見を統合し、ピーターソンの供述を全体構造として整理します。
具体的には、法廷という制度的環境における自己呈示行動、陪審員やメディアを前提とした語りの調整、ならびに認知的負荷・言語構造・非言語行動の相互関係を検討します。
これまで提示してきた「情報管理行動」「叙述解像度の変化」「抽象化と具体化の交互構造」を統合し、供述がどのように構築されるのかという「語りの設計図」を提示します。
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