【AIマンガ】花火より、心臓の音のほうがうるさい
娘が、玄関で振り向いた。
「だめ?」
ピンクの浴衣。朝顔の柄。あれは、妻が最後の夏に着ていたものだ。
だめ、と言いたかった。理由は自分でもよくわからない。浴衣がだめなのか、相手がだめなのか、それとも、あの子がもう「行ってくる」と言える歳になったことがだめなのか。
俺が言えたのは、「九時までに帰り」だけだった。
尾行は五分だけ。そう決めて、俺はスニーカーをつっかけた。





慎一、四十歳。娘の陽菜、十四歳。妻は、もういない。
この回を描きながら、ずっと考えていたことがあります。
父親が娘の初デートを尾行する。それだけなら、ただのコメディです。実際、前半は自分でも笑いながら描きました。たこ焼きを落として「つないどるやないか!」と叫ぶ男の、みっともなさ。
でも後半、慎一の背中を引っぱったのが会社の部下・蒼井あきなだった時点で、この話はもう笑い話ではなくなりました。
「あの子、母親の浴衣を着てるんです」
「知ってます」
なぜ知っているのか。彼女はちゃんと理由を言います。去年の夏、待ち受けにしていたから、と。理由になっているようで、なっていない。人の待ち受けの浴衣の柄を、一年おぼえている人間が、この世に何人いるでしょうか。
慎一はそれに気づいて、見ないふりをしました。
四十歳の男が、夏祭りの雑踏で、二つのことに同時に気づいてしまった夜の話です。娘がもう自分の手を離れたこと。そして、自分の手を、誰かがそっと待っていること。
最後のコマの意味は、読んだ人それぞれの中でだけ決まればいいと思っています。
陽菜は、九時までに帰ってきました。

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