漢方の入り口は、三つしかありません──気・血・水という体の見方
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皆さん、こんにちは。悠々漢方です。
漢方に興味を持って、少し調べてみたことはありませんか。そして、そのまま静かに本を閉じたことは。
処方の名前が何百と並び、生薬の名前も同じくらいあって、聞いたことのない言葉が次々に出てくる。どこから手をつければいいのかわからないまま、なんとなく後回しになってしまう。私自身も、そうでした。
けれど、実のところ、漢方が体を見るときの入り口は、そう多くありません。まず押さえるのは三つだけです。「気(き)」と「血(けつ)」と「水(すい)」。この三つが、体の中を巡っている。漢方はそういう見方から出発します。
今日から一週間かけて、この三つを一つずつ見ていきます。今日はその地図を、一枚だけお渡しします。
体を、一軒の家にたとえてみます
気と血と水。名前だけ聞くと難しそうですが、一軒の家を思い浮かべると、ずいぶん近づきます。
気は、電気のようなものです。目には見えません。けれど、これが止まってしまうと、家の中のものは何ひとつ動かなくなります。体を動かし、温め、消化を進め、外からの寒さや暑さから守る。そうした働きのもとになっているのが気だと考えられています。
血は、家じゅうを巡る温かい水のようなものです。栄養と潤い、そして温もりを、体のすみずみまで運んでいきます。西洋医学でいう血液と重なる部分はありますが、漢方ではもう少し広く、心の落ち着きを支えるものとしても捉えます。
水は、血以外の水分すべてを指します。涙も汗も、関節を滑らかにする液も、みな水です。体を潤し、熱を冷ます役目を持っています。
三つとも、たしかにそこにある。けれど検査で数字になって出てくるのは、そのうちのごく一部です。「検査では異常がないと言われたのに、なんとなく調子が悪い」という状態を、漢方が拾い上げられることがあるのは、こういう見方をしているからだと思います。

不調は「足りない」か「滞る」かで起きます
ここからが、今日いちばんお伝えしたいところです。
気・血・水は、それぞれ二通りの形で不調を起こします。「足りない」か、「滞る」か。この二つだけです。
家の電気が足りなければ、照明は暗くなります。配線のどこかが詰まっていれば、電気そのものは足りていても、その部屋だけ明かりがつきません。どちらも「明かりがつかない」という同じ結果になりますが、原因も、直し方も、まったく違います。
体も同じです。
気が足りない状態を「気虚(ききょ)」と呼びます。疲れが抜けない、朝起きられない、風邪をひきやすい。電池が減っているような状態です。
気が滞る状態を「気滞(きたい)」と呼びます。喉に何かがつかえた感じがする、お腹が張る、気持ちがふさぐ。量は足りているのに、流れが止まっている状態です。
血が足りない状態を「血虚(けっきょ)」と呼びます。立ちくらみ、爪が割れやすい、髪がぱさつく、眠りが浅い。
血が滞る状態を「瘀血(おけつ)」と呼びます。肩こり、頭痛、くすみ、あざができやすい。
水が足りない状態を「陰虚(いんきょ)」と呼びます。口や喉が渇く、肌がカサつく、手のひらや足の裏がほてる、寝汗をかく。体を潤す水が減って、乾いた状態です。
水が滞る状態を「水滞(すいたい)」と呼びます。むくみ、体の重だるさ、雨の日の頭痛、めまい。湿度の高い日本では、こちらの不調で相談を受けることが多いかもしれません。
三つの要素に、二つの状態。これで六つ。漢方の入り口は、まずこの六つで足ります。

あなたは、どれに近いでしょうか
以下は、それぞれの状態でよく挙がるサインです。当てはまるものを、いくつか数えてみてください。
気虚に近い方
少し動いただけで疲れる、午後になると力が出ない
風邪をひきやすく、長引きやすい
食が細く、食後に眠くなる
気滞に近い方
喉やみぞおちに、つかえた感じがある
お腹が張る、ゲップやため息が多い
緊張すると症状が強くなる
血虚に近い方
立ちくらみがする、顔色が優れない
爪が割れやすい、髪が細くなった
眠りが浅く、夢をよく見る
瘀血に近い方
肩こりや頭痛が続く
目の下のくまや、肌のくすみが気になる
手足の先が冷えるのに、のぼせることがある
陰虚に近い方
口や喉が渇きやすく、冷たいものを欲しがる
肌や髪が乾燥しやすい
手のひらや足の裏がほてる、寝汗をかく
水滞に近い方
夕方になると足がむくむ
体が重だるく、雨の前に不調が出る
めまいや立ちくらみがある
複数に当てはまった方も、どうぞご心配なく。体はきれいに一つの型に収まるものではありません。気が足りないから血も作れない、というように、二つ三つが重なっていることのほうが、むしろ多いのです。

漢方の知恵:それぞれに、代表となる処方があります
この六つの状態には、それぞれ考え方の中心になる処方があります。今日は名前だけ、三つご紹介しておきます。
気が足りないときに名前の挙がることが多いのが、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。減ってしまった気を、内側から立て直していく方向で考えられた処方です。
血が足りないときの土台として語られるのが、四物湯(しもつとう)です。血を補う処方の基本形として、多くの処方の中に組み込まれています。
水が滞っているときによく登場するのが、五苓散(ごれいさん)です。余っている水を、必要なところへ配り直すという考え方をします。
名前を覚える必要は、今はありません。「足りないなら補う、滞っているなら流す」という方向だけ、頭の隅に置いていただければ十分です。
※漢方薬は体質(証)や症状によって、合うものが一人ひとり異なります。ご自身に合った漢方薬を選ぶためには、自己判断をなさらず、必ず漢方に詳しい薬剤師や医師にご相談ください。また、症状が強い場合や長く続く場合は、まず医療機関を受診してください。

今日の小さな養生:自分の傾向を、一つだけ書き留める
今日していただきたいことは、一つだけです。
先ほどのチェックリストで、いちばん多く当てはまったものを、どこかに書き留めておいてください。手帳でも、スマートフォンのメモでも構いません。
というのも、この六つは季節や体調で移ろいます。夏は水が滞りやすく、冬は血が巡りにくい。忙しい時期は気を使い果たし、心配ごとが続けば気が滞る。今日の自分がどこにいるのかを一度書いておくと、季節が変わったときに「あのときとは違うな」と気づけるようになります。
その気づきの積み重ねが、そのまま漢方の学びになっていきます。難しい本を読むより、ずっと確かな入り口だと私は思います。

明日は、この三つのうち「気」について、もう少しゆっくりお話しします。足りないときと滞っているときで、体はどんなふうに違う信号を出すのか。そこを一緒に見ていきましょう。
あなたの毎日が、少しでも元気で快適なものになりますように。
悠々漢方
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