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春の養生⑤ 春の夜、心神を遊ばせる——寝付けない・眠りが浅い時の「寝る前ルーティン」

皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

「布団に入ったのに、目が冴えてしまう」

「やっと眠れたと思ったら、夜中に何度も目が覚める」

「夢ばかり見て、朝起きると逆に疲れている気がする」

——春の夜に、こんな経験はありませんか?

新年度の緊張、環境の変化、先が見えない不安。日中は忙しく動いているのに、夜ひとりになると、頭だけがスッキリと冴えてしまう。あの感覚、実は意志の弱さでも神経質な性格のせいでもありません。

体の中の「血(けつ)」という、とても大切なものが関係しているのです。

※ 本音声はAIが読み上げているため、読み方が正確でない場合があります。


心は夜、「ベッド」に帰る

東洋医学では、心(しん)——精神・意識・感情を司る機能——は、昼間は活動しながら体中を巡り、夜になると「血(けつ)」の中に帰ってきておやすみする、と考えます。

ここで「血」を、心のための「ふかふかのベッド」に例えてみましょう。

ベッドがふかふかで、暖かく、柔らかければ、心はすっと横になってぐっすり眠れます。でも、ベッドが薄くて硬い——つまり血が足りなかったり、質が落ちていたりすると、心は「落ち着く場所がない」と感じ、夜中も彷徨い続けてしまうのです。

これが、夢が多い・中途覚醒・寝つきが悪い、という不眠症状として現れます。


なぜ春に「血」が減るのか

春は「肝(かん)」が活発になる季節です。

東洋医学では、肝は気の流れを調整するだけでなく、「血を蔵(おさ)める」という大切な仕事もしています。肝は日中、活動に必要な血を全身に配り、夜になると血を体内に回収して温存する——いわば「血の管理人」です。

ところが春は、肝の気が過剰に活発になりやすく、血をうまく引き留めておけなくなることがあります。加えて、目を酷使すること(スマホの長時間利用、PC作業)も、肝の血を消耗させると東洋医学では考えます。「目は肝の窓」とも言われ、目を使えば使うほど、血は目へと引き出されていくのです。

さらに——これが春特有の難しさなのですが——気温の変化や新しい環境への適応で、私たちは日々、思っている以上にエネルギーを使い続けています。知らないうちに消耗した血は、夜になっても十分に「ベッド(血)」を整えることができなくなってしまう。

その結果が、眠れない春の夜なのです。


「心神を遊ばせない」ための寝る前ルーティン

では、どうすれば血を養い、心が安心して帰ってこられる「ベッド」を整えられるでしょうか。

1. 日が沈んだら「目を休める」

最もシンプルで、最も効果的な養生法がこれです。

目を閉じるだけで、肝の血は養われます。難しい瞑想は必要ありません。目を使うことをやめるだけで、血が肝へと戻り始めます。

夜21時以降は、スマホの画面を暗くするか、できれば手の届かないところへ。代わりに、温かい飲み物を用意して、ぼんやりと過ごす時間を作ってみてください。刺激的なニュースや、次々と流れてくるSNSの情報は、心の「騒音」になります。布団に入る1時間前には、心が「おやすみの準備」を始められる静けさを用意してあげましょう。

2. 「血を養う」夜のひとくち

食べ物でも、血を補うことができます。

なつめ(大棗)は、東洋医学において心と脾を補い、気持ちを穏やかにする代表的な食材です。夜の白湯に、ほんの2〜3粒加えて煮出すだけで、立派なお茶になります。甘く優しい香りは、それだけで深呼吸したくなるような心地よさです。

クコの実(枸杞子)は、肝の血を養い、目の疲れをいたわる食材として知られています。ヨーグルトや温かいスープに少しのせるだけでOK。赤い実の色が、「血を補いに来ましたよ」というサインのように見えてきます。

ほうれん草や牡蠣、レバーも、血を養う食材の代表格です。夕食に意識的に取り入れてみてください。

3. お風呂で「血の循環」を温める

ぬるめ(38〜40度程度)のお湯にゆっくり浸かることは、血の循環を促し、末端まで温めてくれます。

熱すぎるお湯や長時間の入浴は、逆に気を消耗させてしまうことがあります。「じんわり、ほのかに温まる」を目標に。入浴後は、急いで動かず、まる10分は横になってのんびりして。体がじんわり冷めていく中で、自然と眠気が誘われてくるのを感じるはずです。

4. ホットアイマスクで「血を引き戻す」

目の周りを温めることは、「目(肝の窓)」から流れ出た血を、静かに肝へと引き戻すイメージを持てる養生法です。

市販のホットアイマスクでも、蒸しタオルでも構いません。目の上に乗せて、ゆっくり呼吸をするだけ。「今日一日、たくさん目を使ったね。ありがとう」——そんな言葉を自分にかけてあげながら、夜の始まりを感じてみてください。


漢方の知恵——こんな時には、こんな処方が合う場合があります

血の不足や心の安定を助ける漢方には、いくつかの種類があります。今日ご紹介するのはあくまでも目安です。お体の状態は人それぞれ異なりますので、詳しくは漢方に詳しい薬剤師や医師にご相談ください。

疲れているのに眠れない。頭だけが冴えてしまうタイプの方へ

酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、「疲れているのに眠れない」という、まさに現代人の不眠を代表する症状に向き合う処方です。心身の消耗と血の不足から、心が落ち着けずにいる方に合いやすいとされます。主薬の酸棗仁(さんそうにん)は「心のベッドをふかふかにする」生薬として名高く、茯苓(ぶくりょう)が神経の高ぶりを静かに鎮めてくれます。「眠れないのに、眠れる気はしない」という方は、まずこちらを知っておいてください。

不安感が強く、夢が多い。気力も落ちているタイプの方へ

加味帰脾湯(かみきひとう)は、心と脾を同時に補う、とても懐の深い処方です。気血両方の不足からくる、「不安でドキドキする」「夢ばかりで疲れる」「何もする気が起きない」というタイプの方に合いやすい。竜眼肉(りゅうがんにく)が血を養い心を養い、酸棗仁茯苓が精神を穏やかに鎮めてくれます。「春から心身がどっと疲れた」という方に寄り添う処方です。

イライラして眠れない。夜中に考えすぎてしまうタイプの方へ

抑肝散(よくかんさん)は、肝の気の高ぶりを鎮め、神経の興奮を落ち着かせる処方です。「怒りやイライラが抑えられない」「夜中に頭の中をぐるぐると考え続けてしまう」という、気の流れが上に突き上げているタイプの不眠に向きます。釣藤鈎(ちょうとうこう)が肝の興奮をなだめ、夜の神経をそっと落ち着かせてくれます。

冷えて眠れない。血が不足して体が乾いているタイプの方へ

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、血を補いながら体内の水の巡りを整える処方です。「手足が冷えて眠れない」「体全体が乾燥している感じがする」「生理前後に不眠がひどくなる」というタイプの女性に合いやすい。当帰(とうき)と芍薬(しゃくやく)が血をじっくりと養い、心のベッドをしっかりと整えてくれます。


眠れない夜は、自分を責めないでください。

布団の中で「眠れない、どうしよう」と焦る気持ちは、心をさらに彷徨わせてしまいます。「今夜は心が落ち着く場所を探しているんだな」と、ただそっと観察する。目を閉じるだけで、血は戻り始めます。完璧な睡眠を目指さなくていい。ただ、目を閉じて、今夜の自分を休ませてあげることだけを、大切にしてみてください。

血を養うことは、自分を愛することです。

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