「歩くのは、あなただから。」無言勢イベントの土台を作った人、狐ノ巳さんインタビュー
はじめに
このnoteは仮想空間でコミュニケーションを楽しむゲーム "VRChat" を題材にした記事です。
あなたには、毎週欠かさず続けてきたものがありますか。
無言勢キャストイベント Cafeクワイエットの代表として3年。
その前から鏡文字練習会、無言勢集会と、無言勢の今の環境に至るまでの先駆者として活動を続け、今の無言勢の土台を作ってきた人がいます。
それが狐ノ巳さんです。
狐ノ巳(このみ)
Cafeクワイエット・鏡文字練習会 主催。
直近では Cafeクワイエットとして、無言勢グループとしては初めてとなるリアルイベント参加を果たし、過去にはラジオイベントへの出演なども。無言勢の中でも特に意欲的に活動を続けている一人。
鏡文字練習会は、回を重ねて190回を超えました。
毎週、同じ場所で、同じようにペンを走らせ続けてきた人です。
今回、筆者は改めてその狐ノ巳さんにじっくりと話を伺う機会をいただきました。
無言勢という文化がどこから来て、どこへ向かうのか。
この記事は、その歩みを本人の言葉で残しておくための記録です。
何年か先に「無言勢文化はどうやってできたのか」と振り返る誰かのためにも、年月や回数はできるだけそのまま書き留めています。
なお、無言勢という文化・コミュニケーション手段の全体像については、筆者の過去記事に詳しくまとめています。
本記事では基礎の説明は省略し、狐ノ巳さん本人の歩みに焦点を絞ります。
声を手放すまで
――VRChatを始めたきっかけは、どういったところからでしたか?
狐ノ巳
「前に別の界隈でX(旧Twitter)をやっていて、タイムラインにVRChatのネタ動画が流れてきたんです。
それがすごく面白そうで、始めてみたのが最初のきっかけです。
写真の履歴を見返すと…、2022年の4月。Quest 2で始めていました(笑)」
意外なことに、当時の狐ノ巳さんは声で会話していたそうです。
狐ノ巳
「その時はまだ普通に喋っていたんですね。
ただ、VRChatで声で会話するのにすごくやりづらさを感じてしまって。
実はあまり喋るのが得意な方ではないんです。
キャスト系の接客イベントにも行ってみたんですが、客として当たり障りのないぎこちない会話しかできなくて。なんだか違うな…と、一度やめてしまいました」
――鏡文字を初めて知ったのは、いつ頃だったんですか?
狐ノ巳
「始めた当初の2022年の4月でした。
クエスト単機で声を出して遊んでいた頃に、クエスト集会でベテランの方が声をかけてくれて、VRChatのことをいろいろ教えてくれたんです。
哺乳瓶でお酒を飲むとか、触覚フィードバックスーツがあるとか(笑)。
その中で鏡文字も教えてくれて。
面白そうだと思って、少し練習して習得したんです」
無言勢になるのは、この4か月後です。声を使って遊んでいた頃の、鏡文字との邂逅でした。
――そこから、どうやって無言勢に?
狐ノ巳
「同じ年の8月頃に、もう一度やり始めたんですよ。
イベントカレンダーで無言勢のキャストイベントを見つけて、
あっ無言勢でも行っていいんだと行ってみたら、キャストさんがゆっくりでも丁寧に接客してくださって。
声を出さずに済んで、こんなに楽しいなら、無言勢でいいな、と。
そこから鏡文字が書けた方が便利だよね、に繋がっていくんですね」
一度は離れた世界に、声を手放すことで戻ってきたことになります。
狐ノ巳さんの無言勢としての歩みは、2022年8月、ここから始まります。
鏡文字練習会の190回

――鏡文字練習会は、どうやって生まれたんですか?
狐ノ巳
「2022年の9月でしたね。
X上で鏡文字を練習したいけれど、そういうイベントがあったらいいよね。
とフレンドと話していたら、そのフレンドがじゃあワールドを作るよ。
と、言ってくれて。
身内向けの第0回に参加してみたら、とても楽しくて。
やっている最中に、我流の練習法を資料にまとめてワールドに載せる話になったんです。
実は今の練習会ワールドにある書き方講座の画像(縦線を引いて左右に書くスタイル)は、その時に生まれたものでした」
――そこから主催に?
狐ノ巳
「第2回ぐらいで、そのフレンドが
裏方に回りたい、あまり表に出たくない。
と話されていて、それなら私がやろうかなと。
当時は本当に小さな、フレンド同士の身内数人のコミュニティでしたから、抵抗もなく気軽に引き受けた感じでした。
それが……気が付いたら、190回なんですよね」
軽やかに語られますが、ほぼ毎週開催で190回。
まもなく4年に届く継続です。
――その間、心が折れかけたことはなかったのでしょうか。
狐ノ巳
「正直、あります(苦笑)。
150回ぐらいの時だったかなぁ…。
急にお客さんが来ない時期があって、もういいかな、と思っていたんです。
でも、リアルイベントのようなお話を後からいただくことがあるので、辛い時期があっても続けるものだな、と。
正直そのお話がなかったら、200回で締めていたと思います。
とはいえ、鏡文字練習会の代わりになるイベントは今のところ見当たらないので、老舗だからというわけではないですけれど、長く続けていく必要はあるよね、と思っています」
無言勢集会という先駆け

――無言勢集会の方は、どういう経緯で?
狐ノ巳
「あれは練習会の流れではなくて。
X上で、ふと自分のフレンド以外の無言勢って普段何をしているんだろう?
と疑問に思ったのがきっかけです。
それならやってみようか、と単発で1回開いてから、続いていった形ですね」
狐ノ巳さんの練習会や集会イベントの運営スタイルは、一貫して「来る者拒まず、去る者追わず」を体現されています。
挨拶はするけれど、そこから先はお任せ。
隅っこで一人で練習して、集合写真だけ参加する、という過ごし方も、そのまま受け入れられてきました。
狐ノ巳
「無言勢集会をやって分かったのは、自分たちの界隈が少し特殊だったんだな、ということでした。
無言勢でここまで積極的に活動している私たちの方が珍しかったというか。
無言勢はパブリックには来ない、フレンドプラスやチルワールドにいる、というイメージが、実際わりと当たっていたんだな、と思いましたね」
無言勢集会は、すでに終了していますが、
ボイスチャットで話すスタッフが交流を手助けして参加者が楽しむ、という無言勢互助スタイルのイベントが今ではいくつもあることを思えば、役目を終えたのだと筆者は受け取っています。
先駆けが敷いた道を、いま後から来た人たちが歩いていて、その経験が今も新たに来る方を迎え入れているのではないかと考えさせられます。
Cafeクワイエットの3年

無言勢の接客イベントという形が確立しはじめた黎明期。
その中心に、狐ノ巳さんの姿がありました。
人が集まり、場ができ、続けた人の手で文化になっていく流れ。
Cafeクワイエットは、その真ん中で始まったイベントです。
――練習会や集会とは別に、キャストを入れたカフェイベントを立ち上げた理由は?
狐ノ巳
「当時からずっと思っていたのが、無言勢が行けるイベントや、交流できる場所って少ないよね、ということでした。
無言勢の居場所を自分たちで作ろう、というのがひとつ。
もうひとつは、QvPenの上手な人たちを集めて、無言勢でもここまでできる、ボイスチャットをする人たちと同じように、キャストだってできる、と証明することでしたね(笑)」
居場所と証明。
この二つを継続し続けてきたのが、クワイエットの3年間です。
裏を返せば、ボイスチャットをする人たちと同じようにキャストだってできる、という今となっては当たり前のことです。
ですが、過去は無言勢に案内や接客が出来るわけがない、できたとしてもテンポが悪すぎて会話にならないんじゃないか。
そんな言葉が珍しくなく、無言勢でもできるという証明を必要としていた時代だったということでもあります。
――その3年間で、変わったことはありますか?
狐ノ巳
「運営スタイルは変わりましたね。始めた頃は私が全部決めて
あれをやりましょう、これをやりましょう。と指示を出していたんですが、今はアンケートや多数決を増やして、季節イベントはやりたい人だけでやるスタイルにしてきました。
他にもゲームイベントなどはキャストの方が出してくれたんです」
一方で、イベントとしてのあり方そのものは、ほとんど変わっていません。
QvPenでの会話を入り口にした、無言勢の受け口としての接客イベント。
その芯は3年間、同じ場所にあります。
――接客イベントで意識していたことは?
狐ノ巳
「変わらぬ味、ですね。取り入れられるところは取り入れていく。
だけど、基本の部分はほとんど変えないつもりです。
他のイベントには、小さな改良点をいただくために伺うことが多いですね。
ワールドに入って最初に出てくる注意書きやルールの見せ方は、よく参考にさせてもらっています。
代表例が、他のイベントで見かけたシステムです。
第1部と第2部に分かれていて、第1部に行った人は第2部にジョインできるまで15分空ける、というルールがあって。
それを参考にして生まれたのが、クワイエットの初めての方限定の
5分先に入れる初回優待の仕組みですね」
イベントの良いところは変えずに、お客様に楽しんでもらえる工夫の部分を少しずつ改良して今の無言勢接客イベントの老舗となっているのかもしれません。
ロールプレイとの相性

もう一つ、筆者が聞いてみたかったことがあります。
無言勢とロールプレイの相性についてです。
狐ノ巳さんは現在、ボイスキャストが中心のイベントにも出演しています。
イベント名はここでは伏せますが、無言勢のキャストは、おそらく狐ノ巳さんただ一人です。
――ロールプレイキャストはどんな感じでされている?
狐ノ巳
「向こうでは完全にロールプレイをしています。
アバターにもコンセプトがあって、パッと見は分からないけれど、よく見たら色気がある、というような改変をして。
かっこいいお姉さん系の振る舞いで接客する、という感じです(笑)」
――無言勢だからこそ、やりやすい部分がある?
狐ノ巳
「無言勢の特徴として、アバターを変えて、筆談の文章の口調を変えてしまえば、簡単にロールプレイのようなことができるんです。
ロールプレイ系のイベントに所属していなくても、普段からアバターによって口調を変えたりするじゃないですか。
ああいう楽しみ方は、もっとみんな気軽にやってくれていいと思うんです」
声で別人を演じようとすれば、声色や演技の技術が要ります。
筆談の無言勢は、アバターと文章の口調を替えるだけで済んでしまいます。
キャラクターを作って遊ぶ文化との相性のよさは、無言勢のまだ語られていない魅力の一つかもしれませんね。
無言勢文化のこれから

――始めた頃と比べて、無言勢を取り巻く環境はどれぐらい変わったと思いますか?
狐ノ巳
「全然違うと思います。
始めた頃は、パブリックに無言勢は本当に少なかったんですよ。
喋ること前提、のような。鏡文字を書いている人もほとんど見かけませんでした。
いたらわー珍しい、すごい!となるような状況で。
鏡文字を知識として知っているベテランの方が、話の小ネタとして披露することはあっても、実際に使いこなしている人はほぼいなかったと思います」
今では、両手で同時に鏡文字を書く「両手鏡文字」で日常会話をする人まで現れています。ネタや曲芸だったものが、実用の道具に変わってきています。
ただ、狐ノ巳さんの立ち位置は徹底して実用側です。
狐ノ巳
「私は本当に実用性重視で、いかに相手に早く読んでもらうか、早く伝えるか。
できる限り、会話するのと同じくらいのペースを目指したい、というのが軸にあります」
無言勢のコミュニティも、今では一つではありません。
喋れる人がアシストに入り、無言勢に慣れていない人でも入りやすい場を作る界隈もあります。
狐ノ巳
「私たちは無言勢がメインで、主催もキャストも全部やるスタイル。
向こうは喋れる方がアシストに入るスタイル。
だからこそ初心者の入り口としては、向こうの方がうまく機能しているのかな、という感じはします。それぞれの棲み分けが上手くされていてますので、うまくそれぞれがやっていれば良いんじゃないかと」
おわりに

――最後にこれから無言勢として一歩を踏み出す人へのお言葉を。
狐ノ巳
「うーん…とてもVRChat老人みたいな言葉になってしまうんですけど、まず、怖がらなくていいよ、と伝えたいです。
4年前とは明らかに状況が違うので。パブリックに行っても会話できますし、無言勢が入りやすいイベントもたくさんある。
無言勢への理解も広まっていますから
あとは、マイクのオンオフに関係なく、自分から動くことが大切です。
座って待っているのではなく、鏡文字を練習しに行ったり、集会に顔を出したり。
もちろん、私たちも手助けはします。
でも、歩くのはあなただから。
困ったら私たちを頼ってもいいし、他イベントさんを頼ってもいい。
でも、まず一歩、出てみよう、と」
手助けはします。でも、歩くのはあなただから。
怖がっていた側から歩き出し、190回、場を開き続けてきた人の言葉です。
無言勢の土台は、誰かが号令をかけて作られたものではありません。
一歩を踏み出した人と、その一歩を静かに待っていてくれた場所の積み重ねでできているのかもしれません。
その場所は、今週も開いています。
開催情報(2026年7月時点)
鏡文字練習会:毎週日曜 22:00〜23:00
Cafeクワイエット:毎週火曜 22:00〜23:00
狐ノ巳Xアカウントリンク
※本記事は狐ノ巳さんの校閲を経て公開しています。
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