ナースの可憐な薔薇|ショートショート #片想い文芸部
花びら?
落ちていた赤い花びらの先には、ドアが半開きになっている浴室。
中からは聞き取れないほどの小さな声が聞こえてくる。
オレはそっと近づいて、ドアの隙間から中を覗いた。
地方のとある総合病院。
異常が見つかったとのことで、人間ドックを受けたこの総合病院へ即入院したのは一ヶ月ほど前。
入院後、世話をしてくれるナースの中に大学生のようなナースがいた。
看護学校を卒業したての新人だそうで、誰もが惚れそうなほどに可愛くて、どの患者もデレデレだったのだが、性格が難だった。
それは、「どんなことにも嘘をつかない、つけない」らしい。
「そろそろ天からお迎えに来ますから、安らかに眠ってくださいね」
「そんな頑張っても立てっこないですから、寝ていたほうがまだ長生きしますよ」
「あなたはもう…ピー(自粛)」
絶対に患者に言っちゃだめなやつばかりじゃん!
案の定、患者たちからはクレームの嵐。
看護師長が一人一人に謝罪するという事態にまで発展した。
この件があってから、この新人ナースの姿を見かけなくなったのだが、二日後に突然オレの病床がこれまでの四人部屋から個室に移され、あの新人ナースが専属で看護すると告げられた。
「先生、何故個室に移ったんですか?何か悪化でもして」
「先日の検査でブドウ球菌が見つかってね。これ、他の患者さんに感染したら重症化する危険があるから、今日から個室に移ってもらったよ。ああ、病院側の都合なので差額ベッド代は取らないから」
隣の爺さんのうるさい鼾を聞かなくていいし、まあ悪くないか
入院してから朝夕に採血をしているのだが、個室に移った翌朝、いつも採血してくれていたナースに連れられて例の新人ナースもやってきた。
「今日から彼女が担当します」
と、ベテランナースから告げられると同時に、新人ナースから一言。
「ちょっと変なところに刺しちゃうかもしれませんが、断頭台に立ったつもりでお付き合いくださいね」
断頭台って…
「では参ります!参りますよ~」
採血の用意をしている間、呪いを浴びせるように何度も言ってくる新人ナース。
何だかオレをいたぶっているようにしか聞こえない。
オレは諦めの境地となり、まな板の魚のような虚ろとした目で天井を眺めていた。
オレの腕を握り優しく消毒する手の温もりに、妙な気持ちになる。
「痺れとかないですか?」
手の温もりにポカーンとしていてハッと気づいたときには既に採血が始まっていた。
いつの間に刺したんだ?
そう思うほどにとてもスムーズに、そしてほとんど痛みもなかった。
「はい終わりです。今回は奇跡的に上手くできました!」
と言ってササッと片付けて個室から出て行ってしまった。面倒役であろうベテランナースのことなど忘れて。
「ああ見えて腕は確かなのよ。将来有望なんだけど、性格がちょっとね」
ベテランナースがブツブツ言いながら出て行くの見送りながら、オレはあの新人ナースの顔を思い浮かべていた。
それから二週間経ったが、体調は問題ないのに一向に「退院」という言葉が聞こえてこない。
「いつ退院できるんですか?別に身体に異常なさそうですが」
「ワタシは新人なのでよく分かりませんが、もしかしたら…あ、なんでもないです」
そこは正直に言え!
口の先まで出かかったが、いつ見ても可愛い顔に負けて毒が吐けないオレ。
さらに一週間経ったある日の夜中。
ふと目が覚めて室内のトイレに入ろうとしたところ、個室の入り口のドアのガラス面から、ちょうど部屋の真向かいにある患者用浴室の明かりが漏れていることに気づいた。
オレは個室のドアを開けて廊下に出ると、浴室の前に一枚の赤い花びらが落ちていた。
薔薇?
その先にある浴室のドアが半開きになっていて、中には人がいる気配がした。
そっと中を覗いてみたら、
浴槽の前で、あの新人ナースが何やら呟いていた。
よく耳を澄ますと、
「スキ、キライ、スキ、キライ、スキ⋯」
こんな夜中に花占い?
何度もやっているのか、下には大量の薔薇の花びらが散乱していた。
もしかして見てはいけないものを見た?
オレは背筋が凍る思いをしながら静かに部屋に戻り、ベッドで頭から布団を被った。
「見ましたね」
いつの間に部屋に入ったのか、暗闇から不意に声が聞こえてきた。
オレは布団の中で、全身の毛穴から嫌な汗が流れ出していた。
「そのままでいいですから聞いてください。ワタシ、よく花占いをするんです。特に好きな人ができて相手の気持ちが分からないときに」
「⋯」
「ワタシ、アナタに一目惚れしたんです!」
へっ?
「今夜、花占いをやってみましたが何度やっても「キライ」でした」
「⋯」
オレは観念してガバっと起き上がり、新人ナースに向き合いながら答えた。
「その気持ちはとても嬉しいですが、婚約者がいるんです。つまりその⋯キライではないですが、ゴメンナサイ」
「そう⋯なんですね。分かりました。正直に答えてくれてありがとうございます」
部屋が暗くて相手の表情が分からない。
「では明日、退院させてあげます」
「退院⋯させる?」
「実は、アナタが人間ドックに来たときにお見かけして一目惚れしたので、院長の父にお願いして数値に問題アリと改ざんして入院させ、ワタシが毎日看病することで好きにさせようとしましたが、目論みは失敗したので残念ですがシャバに出すことにしますね。退院おめでとうございます!」
さりげなく怖いことを言う
オレは返す言葉が見つからず、暗闇に佇む可憐な女性を見つめながら、しばらく呆然としたままだった。
翌日。
彼女の言葉通り、担当医から退院を告げられ、一ヶ月ぶりに外に出ることができた。
婚約者に連絡して車で迎えに来てもらうことにしたのだが、病院前の車寄せで待っていると、ふと後ろを振り向いて改めて建物を見上げた。
今、何となくあのナースの声が耳に届いたような、そんな気がした。
スキ、キライ、スキ、キライ、スキ⋯

(2,367文字)
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
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この記事は、ナルさん企画【片想い文芸部】参加記事です。
今回のお題は、【花びら】でした。
ホラーぽくなってしまいましたが、一瞬でも涼しくなっていただければ🎐
この話は自分が7年前に都内の大学病院に入院した時の出来事がモデルです。
不可解な一ヶ月半の長期入院、突然の個室移動、毎日同じナース⋯。
もちろん、本編のような花占いとか告られたとか陰謀とかはフィクションです(笑)
今回のサムネは、あかりさんからお借りしました🎵
普段は弱音を吐かないのですが、久しぶりに弱音を吐いた記事を書いた時に励ましのコメントをいただいたので、お礼を込めて使用しました🙂
薔薇をイメージした赤髪の女の子のイラストを探していましたので、ちょうど良かったです🎵
ステキなイラストをありがとうございます😌
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
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