君に近づきたくて|ショートショート #片想い文芸部
「アイデアを出してほしい」
大学の最寄り駅にあるスタバで、親友のケントにそう持ちかけた。
「どうしても近づきたい女の子がいるんだ。とびっきりに可愛くて、まさにアイドルのなるために生まれてきたような子なんだ!」
「ふーん」
根暗な俺とは対照的に、ケントはどんな人にも気さくに話せる社交家があり、恋愛に関してもかなりの強者だ。
「学園のマドンナなんだろうな。マドンナはちょっと古いから白石麻衣とか?それで、アオイはこれまでどんなアプローチをしてきたんだ?」
恋バナが大好物なケントは、ニヤニヤしながら俺の奢りで注文したグランマスカットフラペチーノに口をつけていた。
「俺なりにアイデアは浮かんで、とりあえずやってみたんだけど」
「ふむふむ」
「まずは顔を覚えてもらいたくて、彼女の視線に入るようにウロウロしてみたり、目を合わせようとしたり」
「ちょっと待て。のっけから気持ち悪い」
「そ、そう?」
「下手したらス○ーカーに思われたりしそうなほどの挙動不審」
ケントはそう言いながらまたニヤニヤし始めた。笑いを堪えているようにも見える。
「だって、あの子が沢山の人と話しているから話す隙がないし、とりあえずは遠目からやってみようと」
「アオイは本当に奥手だなー。そんなんだからカノジョできないんだよ」
「余計なお世話だ!」
「それで?」
「全然手応え無し」
「だろうな」
「あとは、すれ違いざまにわざと落としてみたんだよ、スマホを」
「スマホ!?お前、たまにちょっとこう大胆すぎるところあるよね。で?スマホを拾ってくれたのか?」
「いや、確認していない。だって、急に恥ずかしくなってダッシュで逃げたから」
「はあ!?」
ケントが飲み物を持ちながらあんぐりと口を開いたままの状態が数秒続いた。
「もしかしたらその子が気づかず別の人が拾っているかもしれないし、仮にその子が拾ったとしても、事件に巻き込まれる、えっと名前は忘れたけどそんな小説の展開になったら怖いから拾わなかったか、交番に届けているかもしれないよ」
「だよね⋯」
「スマホに電話した?」
「したけど「電源が入っていないためかかりません」になっていた」
「ああ、今朝、レンから電話があったからてっきり今夜の合コンの話と思っていたら、お前だったからそういうことか」
ちなみに俺はその合コンに誘われていない。
「でも、実は今日初めて話したんだよ!」
俺はスマホをなくしたことなど忘れ、アニメキャラによくある、瞳がキラキラ星のようになった。
「先に言えよ!何て声かけたんだ?」
「トールサイズのアイスのキャラメルマキアート」
「え?もう一度言って」
「だから、トールサイズのアイスのキャラメルマキアート!!」
俺のあまりにも大きい声に、隣の席に座っていたおじさんが驚いた表情でこちらを見た。
「それって」
俺は頷きながら、テーブルを拭いて回っているある店員へ視線を向けた。
「⋯スタバの店員かーい!!」
「でもものすごくカワイイよね?俺、奥手だからあの子がレジやっているとき一旦店出たりしていたんだよ。直接話すのが恥ずかしくて。今日はケントがいたから勇気を振り絞って話してみたんだ」
「お前、可愛いヤツだな」
ケラケラと笑い出すケント。
俺はその笑いに気を取られて、うっかりグラスを倒してしまった。
まだほとんど飲んでいなかったので、床下がキャラメルマキアートの海になった。
「大丈夫ですか?」
すると、テーブルを拭いて回っていた例の店員がサッとやってきて、
「すぐに片付けますからね。お洋服とか濡れていませんか?」
俺は顔から湯気が出ているのではないかといったくらい赤面して、首を左右に振ることが精一杯だった。
店員はササっと片付けるなり、
「少々お待ちください」
と言って、レジの向こうへ走り去った。
「おいアオイ、顔、真っ赤だぞ」
クスクスと笑っているケントにムッとしながら、心の中では落胆していた。
忙しいのに迷惑をかけちゃったな
するとほどなく、店員が戻ってきた。
「こちら、作り直しましたので。どうぞ!」
手に持っていたのは、アイスのキャラメルマキアートだった。
「あ、え⋯」
声を発せず狼狽えている俺に向かって、
「よくいらっしゃっていますよね。いつもご来店ありがとうございます」
「えっ!?」
「あ、そういえばちょうど良かったです」
店員がスタスタと「Staff Only」と書いてあるドアの向こうに消えたかと思うと、すぐに出てきた。
「こちら、お客さまのお落とし物ですよね?」
手渡されたのは、店内でわざと落とした俺のスマホだった。
「電話がかかってくるかなと思っていたのですが、電池がなくなっていて電源が切れていました。お渡しできて良かったです」
スマホを差し出されたとき、俺の心は狼狽しきっていた。
そのスマホカバーには、「薬屋のひとりごと」の主人公・猫猫のイラストがデカデカと描かれていたからだ。
ハ、ハズカシイ⋯
今にも店内から逃げ出したくなったが、店員から思いもよらないことを言われた。
「ワタシもこれが大好きで、小説、漫画どちらも読んでいますし、アニメも繰り返し観ていますよ!前からそのスマホカバー良いなあ、どこで買ったんだろうと思って遠目から見てしまっていました。実は話せる機会ないかなと密かに思っていたんです」
ちょっと照れくさそうに言う店員。
これはもしかして良い風吹いている!?
そしてある言葉が浮かんだところで俺は決心した。
「あ、あの!!」
ガタン!!!
俺が勢いよく立ち上がったことで椅子が後ろにひっくり返り、店内に大きな音が響き渡った。
その音で、店内の客全員が一斉に視線を向けてきた。
「は、はい!!」
俺の変な気迫に押されたのか、店員も勢いのある返事をした。
二人の間にはお互いに見つめ合ったまま時が止まる。
そんな二人を眺めていたケントは、期待と不安の入り交じった緊張した面持ちで待つ。
他の店員さんも含め、店内の全ての人々が、二人の動向を固唾を呑んで見守っていた。
俺は息を大きく吸い込んで、言葉を思い切り吐き出した。
「今夜俺の家に泊まりませんか!」
ケントはコントのように椅子からズレ落ち、今夜の合コンのために購入したブランド物のジャケットにフラペチーノをぶちまけた。
(2,500文字)
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この記事は、ナルさん企画【片想い文芸部】参加記事です。
今回のお題は、【アイデア】でした。
1,500文字以内に収めたかったのですが、会話文を多用したら長くなってしまい、2,500文字も書いてしまっていました💦
最近、小学生の娘二人が「薬屋のひとりごと」にハマっていて、漫画を買ったりアニメを観たりしています🙂
以前の「推しの子」の時のように、子どもたちの影響で自分もハマりそうな予感です🙄
それから、最寄り駅のスタバによく行き、読書したり、創作したり過ごしていますが、スタバ店員さんたちの顔面偏差値、愛想偏差値が非常に高く(男女とも)、人生幸せに楽しく生きているんだろうなと、たまにポカーンと眺めている気味の悪いオッサンです(笑)
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀良い週末をお過ごしください😌
