反逆の烽火|ショートショート #虹色創作部
男は見晴らしの良い場所を見つけると、背負っていたリュックサックを置き、早速作業に取りかかった。
テントを張り、リュックサックからチャッカマンを取り出すと、登ってくるときに拾ってきた木の枝をモーラナイフで細く削ってそれを積み上げ、チャッカマンで点火した。
そして折り畳み式の椅子に座り、男は眼下に広がる大地にしばし目を留めた。
火が積み上げた枝に燃え広がり始めた頃になり、男はあることを繰り返し考えていた。
ーーアイツら、絶対に後悔させてやる
火が盛んになるにつれて、男の心情も黒い炎となって燃え始めた。
ーーここから「反逆の烽火」を上げるのだ。早々に音を上げるに違いない
男はジーパンのポケットからスマホを取り出して画面を覗くと、電波は入っていたので安堵する。
しばらくして、夕日が山々の陰に隠れようとしていた。
そしてだんだんと深い暗闇が男の目の前まで忍び寄ってきた。
男は手元にあるスマホ画面をチェックした。
これで何度目だろうか。
ーーあれ?
その画面はこの場所に到着してから何ら変化がなく、男にとってそれは想定外のことだった。
ーー何故誰も連絡を寄こさない?どう考えても異常事態だろうし、安否を気遣うのが当たり前だろ。一体どうなっているんだ
こちらから連絡することは即ち「負け」という意思表示だと思い、男からは連絡するつもりは毛頭ないのだが、何ら反響が無い状況にソワソワし始めた。
すっかり日が暮れ、その後には空一面に散らばっている星空と手元で盛んに燃えている焚火の光しかない。
男はだんだんと不安な気持ちになり、スマホの画面を凝視する。
相変わらず変化は見られず、液晶画面の時計が十九時を指していた。
男は、仕事でも家庭でも見下されることが多い人生だった。
「縁の下の力こぶ」の精神でこれまで長年頑張ってきたが、感謝どころか、辛辣な言葉ばかりを投げつけられた。
「まだ係長ですか?何か問題でも起こしました?」
「仕事で出世できないなら、せめて家事、育児くらいまともにできないの?」
「お父さんが入った後のお風呂は嫌だから栓抜いておいて~」
それ以外にも人格否定するような、心が弱かったらとっくに人間辞めているレベルの罵倒まで浴びせられ続けて、心底嫌になった。
そこで考え出したのが、何もかも捨てて家出するフリだった。
ーー俺がどんなにお前らを支えてきたのか、分からせてやる!
男にとって今回の行為は、これまでの存在価値を否応にも認めさせることが目的だった。
だが、どんなに待っても何ら反響がない状況に、男の脳裏には「絶望」という二文字がよぎった。
ーーもしかして、俺って半価値王子どころか、無価値王子なのか。結局はただの奴隷のような扱いで、いなければ代えがきく程度の存在なのか。そうなのか、俺ってそんなもんなのか
職場だけでなく、家族からも一切の連絡が来ない。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
男は気が狂ったように、目の前が何も見えなくなった暗闇に向かって大声で笑いだした。そしてまだ燃え盛っている焚火を足で蹴り上げた。
するとその火のついた枝の一部がテントの中に入り、ほどなくして複数のガス缶に引火したのか、テントを吹き飛ばすほどの大爆発を引き起こした。
翌日。
「次のニュースです。昨夜、山梨県北杜市において山火事が発生しました。懸命な消火活動により今朝になって鎮火しましたが、何者かが火をつけた可能性があり、警察は放火の疑いがあるとみて捜査を開始しました」
男が行方不明になった後も、家族や職場はあたかもその存在など始めからなかったかのように平穏な暮らしを続けていた。

(1,457文字)
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説専門マガジンに参加中です✨️
■創作系メンバーシップ「虹色創作部」に入部しています🍀
この作品は、虹くりっぷさん企画参加作品です。
今回のお題は「焚き火」でした🔥
書いた後に気づいたのですが、虹くりっぷさんの募集記事の大事な部分を読み飛ばしていました💦
今回の評価ポイントは「暖かさ(温かさ)」!
提案したお題が採用されたことが嬉しかったせいで、評価ポイントに気づかず、真逆の「寒さ(冷たさ)」を感じる作品を書いてしまいました🥶
仕方ないのでそのまま投稿します🥲
なお、娘たちの傍若無人ぶりに何度か「もう世話しない、家出する‼️」と言ったときの「あっそう」という反応に対する悲哀から生まれた作品です(笑)
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現在、企画を開催しています。
10/31(金)までですので、気軽にご応募ください🎵お待ちしています😌
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
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