仄暗い絶望の世界から|掌編小説 #虹色創作部
夕焼け、小焼けの あかとんぼ…
この歌が聞こえてきたら命はないと思え
そう言い残して去って行った名も知らない老人。しかし、その死出の歌が近くまで聞こえてきていた。
目の前に広がっている荒廃した大地の中、周辺には人間はおらず、無数の赤とんぼたちだけが俺の周りを飛び回っている。
その赤とんぼたちは生前は「人間」と言われていた者たちなのではないかと疑いたくなるくらい、俺にまとわりついてくる。
すると、いつの間にか数十メートル先に黒いワンピースを着た少女が一人立っていた。
――あれか、老人が言っていた「冥土の番人」というのは
その姿を見た瞬間、全身から血の気が失せ、恐怖から身体が硬直して動けない。
「夕焼け、小焼けの あかとんぼ~」
両目は前髪に隠れて見えないが、口元がニヤッとしていることがこの距離からでも視認できた。
――動け、動け動け動け動け動け!
俺は硬直した身体を必死で動かそうと頭の中で何度も反芻した。
すると呪縛から解き放たれたように身動きが取れるようになり、俺は必死で走り出した。
だが、どんなに走っても少女との距離が広がらない。ランニングマシーンをずっと走っているような感覚だ。
頭上には、常に俺の位置を認識しているかのように無数の赤とんぼたちが群がっていた。これではどこに隠れてもムダだ。
――そういえばさっき老人から貰った竹筒って中身はなんだ。これはこの世界を生き残るためのどうのこうの言っていたが
ふと思い出して、俺はズボンのベルトに括り付けていた竹筒を外し、蓋を引っ張った。
暗くて中が見えないが、振るとチャポンチャポンと何らかの液体が入っているのが分かる。
とにかくこの場の危機を抜け出したくて、そのまま一気に飲み干した。
ーーこれってあれか?
すると、真後ろで身の毛がよだつ気配を感じ、それからそっと俺の首に青白く細い腕を巻きつけながら、耳元で優しくも残酷な声で囁かれた。
「……つ、か、ま、え、た」
「はい、お疲れ様でした~」
係の女の子に支えられて出口にたどり着くなり、その場でへなへなと座り込んだ。
「大丈夫ですか~?」
「あ、ああ。それにしても友人から聞いた話と全然違ったんだけど」
「そうなんですか~?」
「友人からは「日本最大のメイドカフェやっているから行ってみろよ」と言われて来たんだが」
「もしかして、「メイド」と「冥土」を間違えちゃいましたか~?え、それとも冥土って読めない系?え、読めないの~?おバカ系~?」
ハッキリと物を言うその女の子の格好はどう見てもメイドだった。
「君はメイドの格好をしているではないか」
「そんなこと言われても~ワタシ~ただのバイトじゃないですか~。それにオーナーにそうしろと言われただけだし~。ワタシのこと可愛いからってジロジロ見るのやめてくれます~?」
――言い方が癪に障る。どうやったらこんな娘に育つのか、親の顔が見てみたい
「それにしても東京ドームを丸ごと借りてカフェやる必要あったの?施設利用料だってバカにならないでしょ」
「聞いた話では、オーナーが絶望の世界観を忠実に描いた新感覚のカフェをやりたかったらしいです~。そうなると普通の建物じゃできないでしょ~。だから東京ドーム丸ごと借り切っちゃえって話らしいですよ~」
「ただのお化け屋敷だろ!しかも青汁一杯だけ飲まされて「カフェです」とか名乗られてもねえ」
「そうカリカリせず、これでも飲んで気持ちを落ち着かせください~」
先ほどの緊張感で喉がカラカラで、女の子から差し出された竹筒を強引に奪うと何も考えずに一気飲みした。
「マズーイ‼もう一杯‼…じゃねーよ‼」
「ウフフ~」
「それから一人ずつしか中に入れないって非効率でしょ。採算取れないだろう」
「採算取れなくていいんじゃないですかね~。オーナー、もうじき命尽きるわけだし~」
「へっ?」
「オーナーの最期の夢が叶ったんだから冥土の土産にはピッタリってことで~」
女の子の軽いノリとは裏腹な内容に衝撃を受け、俺はしばらく目の前にそびえ立っている東京ドームを呆然と見上げていた。
そこには当然赤とんぼたちの姿はなかった。

(1,661文字)
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説専門マガジンに参加中です✨️
■メンバーシップ「虹色創作部」に入部しています🍀
この作品は、虹くりっぷさん企画参加作品です。
今回のお題は、【赤とんぼ】でした。
この作品の中身はショートショートです🙄
タイトルに付けるとオチありがバレるので掌編小説にしました(笑)
ついでに宣伝です📣
現在、以下の企画をやっていますので、是非是非ご応募ください🎵
明日から10月ですから、そろそろ本気でやっていきますよ〜🔥
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
これまでの【虹色創作部】参加作品はコチラ▽
