読書好きんちゃん|ショートショート #虹色創作部
近所の本屋でのこと。
毎日通っているお気に入りの店内でブラブラしていると、一人の少女が何かを口ずさみながら、まるで森の中をキノコ狩りしながら愉快にステップしているかのように歩いていた。
カゴには大量の絵本がぎっしり詰め込まれていた。
背丈から小学校低学年だろうか。
赤い頭巾を被り、頭巾の隙間から金髪が伸びていて、服装はゴスロリ。ここではかなり目立つ身なりをしていた。
見て見ぬふりをしているのか、誰もその子に視線を送らない。
俺も見て見ぬ振りをしようとしたが、不覚にもその赤ずきんと目が合ってしまった。
これが俺のディスティニーを決定づけた。
ササササーッ
俺にすり寄ってくるなり、第一声を発した。
「そこのお兄さん、今日はどんな本をお探しですかな?」
ーー思っていたのと違う!
まるで歓楽街の客引きのような粘り気のある目つきと口調。
どう考えてもこれまでの人生苦労してきました的な大人でなければそんな雰囲気なんて醸し出せない。
メルヘンチックの風貌とのギャップに戸惑っていると、赤ずきんはクスクスと笑い出し、
「驚きました?」
あどけない少女の声に変えてニコリと笑顔になった。
「ちょっと!大人をからかうもんじゃないよ。それにしても演技が上手いんだね!役者さんか何かやっているのかな?」
妙な子だなと思いつつ、徐々に相手のペースにはまり込んでいく。
「いえ、ワタシの身体は本で出来ているのです。これまで飲んだ本の登場人物になれるのです」
「へえー、じゃあその赤ずきんちゃんの格好は本の影響かな」
「グリム童話ってハンスって名前の登場人物が多いのですが何故でしょうか?」
「だから、赤ずきんちゃんの影響受けているでしょ」
「ああ、絵本が一番好きなジャンルです、はい」
会話が嚙み合わないが、子ども相手にムキになっても仕方がない。
それにしても今の会話で引っかかる点があった。
「そういえば、さっき「本を飲んだ」って聞こえたけど?」
「ほい、ワタシ、本を飲んでいるんでしゅ」
「絶対嘘でしょ」
「それならご覧になられましゅか」
急に赤ちゃん言葉になったり、酷くペースを乱される。
赤ずきんがカゴいっぱいに詰め込んだ大量の絵本を持ってレジで精算を済ませると、背負っていたリュックサックに入れ、俺とともに店を出た。
本屋の前で立ち話をするとこの子の服装が目立つので、本屋の横の薄暗い路地裏に移った。
「ワタシ、読書が好き過ぎて本が飲めないかと思い始め、読み終えた本を引き千切って片っ端からミキサーに入れて「ブックジュース」で飲むと、あら不思議!その本の内容がそのままワタシの血肉となりましたとさ。めでたしめでたし」
ーー何がめでたしだよ、ありえない。ただの紙だし、どう考えても味のしない不味いジュースだろ
俺が訝しげな顔をしていると、赤ずきんはそれを察してか、リュックサックの中から小さなボトルを取り出した。
「何なら試しに飲んでみませんか?今回は特別なブックジュースを飲ませてあげます。大富豪になれるアイテムが必ず手に入る本を素にしたジュースなのです」
「大富豪に!?」
「はいです!その本の名はご存じの「ジャックと豆の木」です!」
ーーたしかにあの話は「金の卵を産む鶏」や「魔法のハープ」が出てくるが…
こうやって日中ブラブラしているのは、一か月前に会社をクビになってしまったからで、そろそろ貯蓄も尽そうで焦りだしていたせいか、赤ずきんの話を真に受けようとしていた。
「噓だったらただでは済まないからな」
「はいです!」
受け取ったボトルのキャップを開けると何だかほんわかと甘い匂いがしてきた。俺はそれを一口飲んでみた。
数秒経ったところで、急に全身が痺れ始め、俺は呻きながらその場に倒れこんだ。
「本を飲んで血肉になるなんて、そんなことなかろうに。イッヒッヒッヒ」
赤ずきんの「しわがれた声」が耳元に聞こえてきた。
俺は意識が朦朧とする中、赤ずきんの顔を見上げた。
そこに立っていたのは、赤ずきんでも何でもない。
ただ赤いフードを被った、ただの老婆だった。
「メルヘンチックな子に姿を変えるとほいほい釣れるわい。特にお前さんのような人生迷い込んでいる風な中年の男はのう。さて、お腹を空かせている子どもたちが待っておる。今夜はご馳走じゃ」
俺の瞳から光が消えかかっているとき、最期に聞こえた言葉はこうだった。
「読書好きではなくてのう、「毒書」好きなのじゃよ。イッヒッヒッヒ」


(1,786文字)
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説専門マガジンに参加中です✨️
■メンバーシップ「虹色創作部」に入部しています🍀
この作品は、虹くりっぷさん企画参加作品です。
今回のお題は、【読書】でした。
この作品はこの前の土曜日に書いたものです。
その日は家族が妻の親友宅へお泊まりで不在だったので、自宅で作品を複数創作していましたが、途中から疲れてきたので高濃度のアルコールを摂取したら、思いのほか書けました😂
この作品はそんな酒酔い状態の作品です😅
本編は今朝になって読み直しましたが、誤字脱字だけ直し、他はそのまま投稿しましたとさ。イヒッ🙄
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
前回の【虹色創作部】参加作品はコチラ▽
