時に賭ける少女|ショートショート #片想い文芸部
「真優、あのね、好きな人ができたの」
放課後に校門で待ち合わせをしていた、小学校からの親友・奈穂に会うなりそう切り出された。
「そうなんだ、で、率直に聞くけど誰なの?」
ーー同級生か?それとも部活の先輩か?
ワタシは相手は誰なんだろうかとワクワクして奈穂の返答を待った。
「義経さま」
「えっ?誰?」
「だから義経さまだよ。義経さまって言ったらあの義経さまでしょ」
「どの義経よ」
「ちょっと呼び捨てにしないで!義経さまとお呼び!」
奈穂が苛立ち始めたのでこれはマズいと思い、奈穂に合わせようとした。
「ゴメン。それで義経さまってどちらのお方?」
「源義経さまよ。それ一択でしょ」
「はい?」
ーー源義経ってあの?
奈穂は日頃から「こんな世界ではイイ男に巡り逢えない」とぼやいていたので、まさか歴史上の人物に恋するとは思っていなかった。
ついに現実逃避をし始めたのだろうか。
「あのお方の活躍ぶりを知っていくうちに、奈穂のハートに火をつけたんだよ。ああ、愛おしい義経さま~アナタに逢いたい」
何て声をかけたらいいのか分からず、口を開けたまま石のように固まるワタシ。
一方、奈穂の瞳は十万ボルトなんぞ楽勝に超えたような輝きを放ち、山の向こうにぼんやりと現れた満月を、今にも瞳から発しそうなビームで突き破るかのようにじっと見つめていた。
奈穂の母親からワタシに電話が入ったのは、秋の気配を感じさせるヒンヤリとした土曜日の夜だった。
「真優ちゃん、奈穂がどこに行ったか知らない?」
「え、奈穂に何かあったんですか?」
「あの子、今朝「義経さまに逢いに行く」とか言い出して行き先を聞いたら、「とりあえず平泉」とだけ告げて出て行っちゃって。それから電話しても繋がらなくて…」
電話越しでも分かるくらいの涙声で話す奈穂の母親。
ーー平泉って、たしか源義経が最期を遂げた…
日本史の授業でちょっとだけ源義経の最期が出てきたことを思い出したワタシは、奈穂の母親には連絡がつくよう頑張りますと伝えて電話を切ると、奈穂と仲良しの友人たちに手当たり次第電話やLINEをしていった。
するといろいろと分かってきた。
以前から奈穂がSNS上で「義経さまに逢いに行く」というポストを投稿していたようで、今日の昼頃のポストでは、
「平泉にとうちゃーく!」
「もうすぐ義経さまとのご対面!」
「ついについに来た~!」
など、テンションが高いポストが連続で入っていたのだが、
「キャー!この先に義経さまが!心臓バクバクバックンだよ!」
このポストが投稿されたのを最後に、ぱったりと途絶えてしまったらしい。
ワタシはSNSはやらないのでこのような事実を初めて知ったが、聞いた限りでは明らかに怪しくて、きっと誰かに騙されて事件に巻き込まれた可能性があるのではないだろうか。
ワタシはお母さんに事情を説明して平泉に向かうように説得した。
お母さんも事態を察したらしく、夜明け前に愛車のランエボIIIの助手席にワタシを乗せて、東北道を爆走した。
余談だけど、ワタシのお母さんは、ひと昔前に流行った走り屋のマンガに触発され、借金してまでこのランエボIIIを購入し、ワタシたちが住んでいる北関東エリアの峠を爆走していたそうだ。
今はそんな素振りも見せず終始ニコニコしているが、今回のような事件性の臭いがすると、昔の走り屋の血が騒ぐのだろうか。いや、走り屋関係ないじゃんか。
運転中のお母さんの顔だけは見ないようにした。
「お母さん、安全運転でお願いね!」
無事に岩手県にある平泉町に到着したが、奈穂がお堂の写真を投稿したという情報を最後に、それ以降は何もない。
ーー飛んできたものの、情報量が少ないな
無鉄砲に突き進む性格は、きっとこの親の遺伝だろうと横目でお母さんを見ると、それに気づいたお母さんは妙に落ち着いた表情で、
「せっかくだから中尊寺に観光していきましょ。金色堂観たいし」
と、呑気に観光気分に浸ろうとしていた。
「はあ…」というため息とともに、お母さんの言うとおりにしようと思った。
時計を見ると、夜明け前に出発したおかげで、まだ八時過ぎだった。
中尊寺金色堂を始め、周辺の観光をするついでに奈穂の情報を聞いてまわったのだが、誰一人奈穂の情報を持ち合わせていなかった。
ーー奈穂、どこに行っちゃったの?
進展がない状況に絶望感を漂わせているワタシとは裏腹に、お母さんは初めて訪れた場所に興味津々。
ーーこの親、どういう神経しているんだよ!
心の中で悪態ついたワタシは顔にはっきりと出てしまったが、お母さんがそれを知ってか知らずかニコニコ笑顔で、
「真優、このまま龍泉洞に行こうよ!決定!」
さらに観光気分を味わおうとする女。
ーーどのみちここにいても情報が集まらないだろう。万が一のことがあれば、警察に捜索願を出すしかない
お母さんの肝の据わり方に不信感があるものの、もうどうにでもなれって気持ちでランエボに乗り込んだ。
お母さんの提案を素直に受け入れたワタシが愚かだった。
いつまでも続く山道に昔の血が騒ぎ出したらしく、素人とは思えないドライビングテクニックに胃袋が揺れに揺れて、途中のコンビニで買って食べたおにぎりを粗相しそうになるのを堪え続けた。
平泉から約二時間。
無事に龍泉洞に到着した。
「道中は案外楽だったわね」
涼やかな顔をしているお母さんとは対照的に、ワタシの顔はゾンビよりも青白くて二足で立つのがやっとだった。
何とか気を取り直して、龍泉洞に入ると、どこもかしこも「青」世界。
その幻想的な情景に、ワタシはしばらく見とれていた。
そのまま奥へ入っていくと、真横の泉が妙に泡が立っていることに気づいた瞬間、
ザバーン!!
という大きな音とともに、何かが飛び出してきて、目の前に倒れた。
それは紛れもなく、奈穂だった。
「ゲホゲホゲホゲホ」
「な、奈穂!!」
「あ、真優!こんなところで何してんの?」
ワタシのこれまでの心配なんて知らないのは仕方ないが、奈穂の呑気な態度に安心感を通り越して不信感が募った。
「どこ行っていたの!こんな所から出てきて!みんな心配したんだからね!」
「ああ、ごめん」
奈穂は申し訳なさそうに謝ってきたのだが、ワタシがすぐに疑問に思ったことを口に出した。
「てか、なんでこんなところから出てきたの?」
「ああ、ちょっと経緯を言うとね」
奈穂の話が長すぎたので、かいつまんで言うとこんな話だ。
昨夜、夢の中で「源義経」と名乗る者が現れ、「君の力を借りたいから平泉にある義経堂に来てほしい」と告げられ、その夢でガバっと起き上がった奈穂は、完全に舞い上がってしまい、ほいほい平泉までやってきて、指示された通りに義経堂の壁にあった隠し戸を引くと、目の前にはそこかしこに火の手が上がり、本物であろう源義経が戦っているところだったので、奈穂は手に持っていたスマホを敵方に向けながら、
「これでお前らの命、吸い取ったるぞ!」
と脅しまくり、敵方が怯んだ隙に義経とともに逃走。
逃げに逃げてこの龍泉洞に来たときに、源義経から「ここに飛び込んだらお主の時代へ戻れる。我は何とか生き延びる。だからお主も生き延びよ」と言うなり、奈穂は背中を思い切り押されて泉の中に沈んでそこで意識が飛んだのだそうだ。
源義経は「衣川の戦い」と言われたその戦いで命を落とすはずだったが。
「もしかして歴史変えちゃったわけ?」
「かもね。奈穂のおかげで死なずに済んでいるかもしれない。「時」が何とかしてくれるかも。キャー!」
「キャー!じゃないでしょ!」
すると、青の世界に浸りきっていたお母さんがこちらに近づくなり、
「奈穂ちゃんは、時に賭けたわけだね」
「「時に賭ける少女」…キャー!映画みたい!」
「奈穂ちゃん上手い!座布団十枚!」
――この二人の方が親子みたい
出口へ歩き出したとき、冷めた目で後ろから二人のルンルンした雰囲気を恨めしそうに見ていたが、龍泉洞から出てきたときにはもう夕暮れ時になっていた。
すると、お母さんが長袖をまくり上げている姿を見て、嫌な予感がしてきた。
「さあて、ここに来るまでにウォーミングアップは完了しているから、帰りは本気出してカワイイランエボぶっ放すよー!血がたぎるーーー!」
「やっちゃえ!真優ママ!」
「ちょっと!そんなことされたら命がいくつあっても足りないってー!!」

(3,345文字)
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この記事は、ナルさん企画【片想い文芸部】参加記事です。
今回のお題は、【岩手】でした。
書き終えたら思いのほか長くなってしまったので削る作業に手間取るうちに、以下の企画記事を思いつき、先に書き上げて投稿してしまったので、この物語の投稿が今日になりました。結局、3,000文字オーバーの(自分の中での)長編になりました😅
岩手県には何度か訪れていますが、今回は10年以上前に高校時代の親友との岩手旅行の思い出から着想を得ました。
この時は、平泉の中尊寺に行った後、龍泉洞に向かったのですが、車で3時間ほどかかり、着いたときには二人とも疲弊しきっていました💦
若かったので何とかなりましたが、今なら無理ですね🥲
どちらもおススメスポットですので、岩手県を訪れた際には是非立ち寄ってみてください🎵
ついでに宣伝ですが、この度以下の記事のとおり企画モノを開始しました🙂
昨年はAIイラスト祭を細々とやっており、今回で二度目の企画主催です。
ご興味のある方は是非ご応募ください。お待ちしております😌
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
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