■社宅の家賃は何%負担(社宅使用料)なら妥当ですか?
― 「何%ならOK」という誤解と判断ポイント ―
※本記事は借上社宅Q&Aシリーズの一部です。
🧭 初めての方・知りたいテーマから記事を探したい方はこちら
▶【借上社宅制度研究の羅針盤|総合案内】
制度の基本から実務Q&A、税務・社会保険、制度改正、士業・専門家向け
まで目的別にご案内しています。
探していた答えだけでなく、
まだ知らなかったテーマや新しい視点が見つかるかもしれません。
【ご留意事項】
本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。
実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。
また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。
Q1. 社宅の家賃は何%負担すればよいですか?
借上社宅の実務では、
・家賃の20%を負担すればよい
・30%であれば問題ない
・市場家賃の10%から20%程度でもよい
といった
説明を見かけることがあります。
しかし、税務上、
「市場家賃の何%を負担すればよい」という一律の基準が定められている
わけではありません。
重要なのは、
単純な負担割合ではなく、原則として、従業員から徴収する社宅使用料が
税務上の「賃貸料相当額」とどのような関係にあるかを確認することです。
🛠 制度設計を学びたい方
したがって、基本的な考え方は、
「何%なら安全か」ではなく「賃貸料相当額との関係はどうなっているか」
という点にあります。
さらに、会社として継続的に運用するためには、
・誰を制度の対象とするのか
・どこまで会社が負担するのか
・高額物件をどのように取り扱うのか
・社宅使用料をどのようなルールで決めるのか
といった
制度設計も重要です。
割合は判断基準そのものではなく、
税務上の基準や制度設計を踏まえた結果として決まるものと考えることが
大切です。

[参考] 賃貸料相当額の基本的な仕組みについては、
こちらで詳しく解説しています。
▶【第2回: 借上社宅の従業員負担家賃の決め方】
― 賃貸料相当額と税務上の考え方を整理 ―
① なぜ「20%」「30%」という数字が使われるのですか?
実務では、社宅使用料を決める際に、
・市場家賃の20%
・市場家賃の30%
・家賃の一定割合
といった
ルールを採用している会社があります。
このような割合は、社宅使用料を分かりやすく計算し、
給与控除や制度運用を統一しやすいというメリットがあります。
しかし、これらは一般に、
会社が制度運用上設けている基準や実務上の目安であり、
「20%であれば必ず給与課税されない」という税法上の基準ではありません。
また、市場家賃の10%から20%程度の負担でも運用されている事例が
紹介されることがあります。
これは、税務上の賃貸料相当額が、物件の市場家賃そのものではなく、
固定資産税の課税標準額などを用いた一定の方法により計算される
ためです。
その結果、物件によっては、
市場家賃に対する負担割合が低くても、
従業員負担額が賃貸料相当額との関係で必要な水準を満たすケース
が生じることがあります。
ただし、これは個々の物件の計算結果によるものであり、
市場家賃の10%や20%という割合自体が税務上認められているわけでは
ありません。
割合だけを見て判断しないことが重要です。
② 市場家賃と賃貸料相当額は何が違うのですか?
市場家賃と税務上の賃貸料相当額は、金額の決まり方が異なります。
市場家賃は、一般に、
・物件の立地
・築年数
・設備やグレード
・駅からの距離
・周辺地域の人気
・地域の需給関係
などの
影響を受けて決まります。
一方、賃貸料相当額は、一定の税務上の計算方法により算定されます。
そのため、
実際に会社が貸主へ支払う家賃と、税務上の賃貸料相当額は、
同じ金額になるとは限りません。
例えば、都市部の人気エリアでは、需要の高さや立地条件により、
市場家賃が高額になることがあります。
一方で、賃貸料相当額は市場の需給だけで直接決まるわけではないため、
実際の家賃との間に差が生じることがあります。
反対に、物件の評価額、広さ、構造などの条件によっては、想定していた
ほど差が生じない場合もあります。
したがって、
「市場家賃の20%だから大丈夫」
「高額物件でも同じ割合にしているから問題ない」
とは一概にいえません。
市場家賃と賃貸料相当額は、そもそも金額の決まり方が異なるためです。
[参考] 社会保険では、税務と異なる評価が行われるケースがあります。
▶ 【第11回 借上社宅は社会保険料に影響するのか?】
― 現物給与の仕組みと給与との違いを解説 ―
③ 同じ負担割合でも結果が変わることはありますか?
同じ20%や30%という負担割合を設定していても、物件によって
賃貸料相当額との関係は異なります。
例えば、家賃10万円の物件と家賃30万円の物件に、
同じ20%の負担割合を設定した場合、
・家賃10万円の物件
→ 社宅使用料2万円
・家賃30万円の物件
→ 社宅使用料6万円
となります。
一見すると、どちらも同じルールで公平に見えます。
しかし、
税務上確認するのは、単純な家賃割合ではなく、
各物件について算定される賃貸料相当額との関係です。
そのため、
・一方の物件では必要な水準を満たしている
・もう一方の物件では不足している
という
結果になる可能性があります。
特に、次のような物件では確認が必要になることがあります。
・高額物件
・床面積の大きい物件
・築浅物件
・設備やグレードが高い物件
・地域によって市場家賃との差が大きい物件
ただし、
高額物件であることだけを理由として、直ちに借上社宅として取り扱えないわけではありません。
会社が賃料上限や対象物件の基準を設けるなど、制度全体として整理しているケースもあります。
重要なのは、同じ割合を適用しているかではなく、
物件ごとに必要な確認が行われているかという点です。
④ 給与課税との関係はどのように考えますか?
借上社宅では、
会社が借りた住宅を従業員へ貸与し、従業員から一定の社宅使用料を
徴収することがあります。
税務上は、一般に、
従業員から徴収する社宅使用料と賃貸料相当額との関係により、
給与として課税される金額の有無が整理されます。
従業員から徴収している金額が一定の水準に満たない場合には、
その差額等が給与として取り扱われる可能性があります。
一方で、必要な水準の社宅使用料を徴収している場合には、
住宅の貸与による経済的利益について、給与課税の対象外として整理されることがあります。
ここで注意したいのは、
実際の市場家賃を基準に給与課税の有無を判定するわけではない
という点です。
例えば、
・会社が支払う家賃が20万円
・従業員負担が4万円
・市場家賃に対する負担割合が20%
であっても、
20%という数字だけでは取扱いを判断できません。
反対に、負担割合が低く見えても、
賃貸料相当額との関係では必要な水準を満たしている場合があります。
負担割合だけを見て、
「課税される」「課税されない」と判断しないことが重要です。
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
なお、具体的な税務上の取扱いや計算については、
物件の状況や利用者の区分等によって異なる場合があります。
個別の判断が必要となる場合には、税理士や管轄税務署等へ確認することが大切です。
⑤ 制度として合理的な社宅使用料とは何ですか?
税務上の基準を確認することに加えて、会社として社宅使用料の決め方を
説明できる状態にしておくことも重要です。
例えば、実務では次のような項目が検討されます。
・社宅制度を設ける目的
・制度の対象者
・地域ごとの家賃上限
・単身者と家族帯同者の取扱い
・役職や等級による取扱い
・会社負担額の上限
・高額物件や例外物件の取扱い
・社宅使用料の計算方法
・入居、異動、退職時の取扱い
必ずしも、すべての会社が同じ基準を設けなければならないということではありません。
しかし、
同じ条件の従業員に対して、原則として同じルールが適用されること
や、
特定の従業員だけが合理的な理由なく著しく有利になる運用を避けること
は、制度を安定して運用するうえで大切な視点です。
また、社宅制度の目的によっても、適切な設計は異なります。
例えば、
・転勤者の住居確保
・採用競争力の向上
・従業員の生活支援
・単身赴任者への支援
・人材配置を円滑にするための制度
など、
会社によって制度を導入する目的は異なります。
そのため、単に「家賃の20%」と定めるのではなく、
制度目的・対象者・家賃上限・社宅使用料を一体として整理すること
が重要です。
[参考] 実際の制度設計では、「誰に・どこまで・どの条件で適用するか」まで
含めた整理が重要になります。
▶ 【第10回: 借上社宅の家賃設定、その決め方で本当に大丈夫ですか?】
⑥ 社会保険では同じ考え方になりますか?
借上社宅では、税務上の取扱いだけでなく、
社会保険上の現物給与評価も確認する必要があります。
税務と社会保険では、住宅の利益を評価する方法が異なります。
そのため、
・税務上は給与課税の対象外として整理される
・社会保険上は住宅の現物給与として評価される
というケースもあります。
社会保険上の住宅現物給与は、
原則として、都道府県ごとに定められた住宅の現物給与価額や住宅の広さ
などをもとに評価されます。
そのうえで、従業員が負担している社宅使用料との関係から、
社会保険上の現物給与額が整理されます。
このため、税務上の賃貸料相当額との関係を満たしていたとしても、
社会保険上の評価がゼロになるとは限りません。
社会保険上の現物給与額が報酬に加算されることで、標準報酬月額や
社会保険料に影響する場合があります。
したがって、
借上社宅の社宅使用料は、税務だけでなく、社会保険上の現物給与評価も
含めて確認することが重要です。
特に、2026年10月から住宅の現物給与評価方法が見直されるため、
既存の社宅使用料や制度設計について、影響の有無を確認する必要が生じる会社も考えられます。
[参考]税務と社会保険で住宅の評価方法が異なる理由については、
こちらで詳しく解説しています。
▶【第12回: 税務はOKなのに社会保険でNG?】
― 借上社宅で見落とされる“判断基準のズレ” ―
⑦ 実務ではどのような順番で決めればよいですか?
社宅使用料を設計する際には、先に「家賃の何%」と決めるのではなく、
次のような順番で整理することが考えられます。
▼制度の目的を整理する
まず、会社が借上社宅制度を設ける目的を明確にします。
・転勤支援
・採用力の向上
・生活支援
・人材定着
・単身赴任者への支援
など、
制度目的によって対象者や会社負担の考え方が変わります。
▼対象者と物件条件を決める
次に、
・制度の対象者
・対象地域
・家族構成
・家賃上限
・床面積の上限
・高額物件の取扱い
などを
整理します。
▼賃貸料相当額との関係を確認する
各物件について、税務上の賃貸料相当額との関係を確認します。
割合ではなく、実際に徴収する社宅使用料が必要な水準を満たしているかを確認することが重要です。
▼社会保険上の影響を確認する
住宅現物給与価格と従業員負担額との関係を確認し、社会保険上の
現物給与額がどの程度となるかを整理します。
▼規程と実際の運用を一致させる
決定したルールは、社宅規程や運用マニュアルなどへ反映します。

また、給与控除額や物件条件が規程と異ならないよう、継続的に確認する
ことも必要です。
割合は、このような確認を行った結果として設定されるものであり、
最初から安全性を保証する数字ではありません。
🏢 会社目線で知りたい方
⑧ 実務でよくあるミス
借上社宅の家賃負担では、
次のような誤解や運用上のミスが見られることがあります。
・家賃の20%であれば必ず問題ないと思っている
・市場家賃だけを基準に判断している
・賃貸料相当額を確認していない
・すべての物件に同じ割合を適用している
・高額物件や大型物件の取扱いが決まっていない
・社宅規程と実際の運用が異なっている
・税務上の確認だけで社会保険を確認していない
・制度導入後に見直しを行っていない
同じ割合を採用していること自体が、直ちに問題となるわけではありません。
しかし、その割合を適用した結果、
賃貸料相当額との関係で必要な水準を満たしていない場合には、
給与課税の論点が生じる可能性があります。
また、税務上の取扱いに問題がない場合でも、
社会保険上の現物給与額が発生することで、
当初想定した制度効果と異なる結果になる場合があります。
そのため、社宅使用料を決める際には、
税務・制度設計・社会保険の3つを分けて確認すること
が重要です。
⑨ よくある誤解
「社宅使用料は家賃の20%にしておけば安全」と考えられることが
あります。
しかし、実際には、
・物件ごとの賃貸料相当額
・床面積や評価額
・従業員の区分
・会社の制度設計
・社会保険上の現物給与評価
などに
よって取扱いや影響が異なります。
したがって、
同じ20%でも、ある物件では必要な水準を満たし、
別の物件では満たさない可能性があります。
また、
「市場家賃の10%程度でも運用されている会社がある」
という情報も、
その割合だけを切り取って自社へ当てはめることは適切ではありません。
重要なのは、
他社の割合を参考にすることではなく、
自社の制度と各物件について必要な確認を行うことです。
■ まとめ
社宅の家賃負担について、
「何%なら安全」という一律の基準はありません。
実務上、20%や30%といった割合を採用する会社はありますが、
それは会社の制度上のルールや計算方法であり、その割合自体が税務上の
安全性を保証するものではありません。
重要なのは、
・税務上の賃貸料相当額との関係
・制度目的や対象者を含めた制度設計
・社会保険上の現物給与評価
・社宅規程と実際の運用の整合性
を確認することです。
割合は判断基準ではなく、
制度設計や各種基準を確認した結果として決まるもの
と考えることが大切です。
また、すべての物件に同じ割合を適用していたとしても、
物件ごとの条件により結果が異なる場合があります。
そのため、社宅使用料を設計・見直しする際には、
「家賃の何%か」だけではなく、「なぜその金額なのかを説明できるか」
という視点を持つことが、安定した制度運用につながります。
📅 制度改正
[参考]社宅制度では、家賃負担割合だけでなく、
礼金・更新料・仲介手数料などの一時費用を誰が負担するのか
も重要な論点になります。
▶ 【第16回:更新料・礼金は会社負担で問題ないのか?】
【会社負担の考え方を整理】
📚関連記事・あわせて読みたい
社宅の家賃設計は、社宅使用料だけでなく、税務・社会保険・物件条件を
含めて考えることが重要です。
・教科書|借上社宅の給与控除で見落とされる労務リスク
→ 社宅使用料を給与から控除する際の賃金控除協定や運用上の注意点を解説しています。
・教科書|更新料・礼金は会社負担で問題ないのか?
→ 毎月の社宅使用料だけでなく、契約時・更新時の一時費用の考え方を整理しています。
・ Q&A|借上社宅で給与課税されるのはどんなケースですか?
→ 課税される可能性があるケースを整理
📚 次に読むならこちら
あなたの目的に合わせて、次の記事をご覧ください。
🌱 初めて借上社宅制度を知る方
▶ はじめての方へ(スタートガイド)
制度全体を3分で理解できます。
🗺️ 借上社宅制度の全体像を一度に見渡したい方
▶ 借上社宅制度の教科書|初めての方のための全話ダイジェスト
仕組み・家賃・税務・社会保険・社宅規程など、
教科書シリーズ全体のポイントを短くまとめています。
📍 目的の記事を探したい方はこちら
▶【完全版】借上社宅制度ナビ / 全記事・テーマ一覧
借上社宅制度の全体像やテーマ一覧をまとめた「総合案内ページ」です。
📘 借上社宅制度を1冊で体系的に理解したい方はこちら
▶ 借上社宅制度の教科書(初級編)
制度の基本構造から本質を、初めての方向けに一冊へ体系化しています。
❓ 実務上の疑問を解決したい方
▶ 借上社宅Q&Aシリーズまとめ|実務で迷う論点一覧
実務でよくある疑問をテーマ別に整理しています。
⚠️ 最新制度改正を確認したい方
▶ 2026年10月改正シリーズ
社会保険の現物給与評価改正について整理しています。
📂 関連マガジン
テーマごとにまとめて読みたい方はこちら。
🌱 はじめての借上社宅制度(入門)
🛠️ 実務担当者向けマガジン
⚖️ 借上社宅×税務・社会保険
🧾 借上社宅×インボイスQ&A集
🧭会社員の人生設計 / 給与・福利厚生・住まい・お金
🏠住まい、第三の選択肢を考える(持ち家・賃貸・借上社宅)
■ 本シリーズについて
借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
複数の論点が関係する制度です。
そのため、同じように見えるケースでも、
前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。
本記事は一般的な考え方を整理したものですが、
実務上の取り扱いは、会社ごとの制度設計や運用状況によって
異なる場合があります。
現在は情報発信を中心としていますが、
今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
広げていければと考えています。
なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
コメント等でお寄せいただけますと、
今後の発信の参考にさせていただきます。
著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家
借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
情報整理・発信を行っています。
毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。
本noteでは、借上社宅制度に関する一般的な仕組みや運用上の考え方を
情報整理を目的としてまとめています。
借上社宅制度にはメリットがある一方で、
運用方法や会社ごとの事情によって、税務・労務上の取り扱いが異なる場合があります。
中小企業の制度理解や運用整理に役立つ視点で発信しています。
