俺のエースになってみる?
ホストクラブには行ったことないけど、
ホストになってみたかったので
ホストのコスプレをして歌舞伎町うろついたことがあるんですね。
今日はその話をしようと思うのですがよろしいですか?
あ、だめですか。
…わかりました。
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4時間26分で済むことを55日間、女のふりをしてやってみた60代男性に憧れ過ぎ女子高生が男子高校生に化けた話。
だめって言われたけど、“してみむとてするなり”な本日は「時をかけるネカマ」続編です。
─怪しいネオンが輝く新宿歌舞伎町。
人々の欲望渦巻く魅惑の世界。
夜こそまばゆいこの街に、また1人、新たな住人が現れた。
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芥川蒼(18)
今日からホスト、始めます。
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1.高校の制服がコスプレになってしまった奴
↑
「外」の「外」という謎概念で生徒を意識不明の重体に陥れようとしてくる学年主任がいる高校の話。
レミオロメンの「3月9日」で卒業生を送り出す文化がすっかり根付いた頃、
私は校舎のカラーリングがきゃりーぱみゅぱみゅさんのPVみたいな世界観をしている学校から追放された。
卒業という名の追放である。
当然ながら、
つけまはつけさせてはもらえず
まぶたの裏にいる“あなた”でパワーアップするパターンだった。
とりあえず私はまぶたの裏にかかりつけの眼科の院長を住まわせることにした。
実際には右目にだけ入れたコンタクトレンズがズレまくっているだけだった。
1枚の紙と、3本の薔薇、紅白のすあまとともに
ボタンが消滅したブレザーで地元に降り立った。
そこから2,3日くすぶっていた。
「アオイくん、高校卒業おめでとう」
ブログにコメントが届く。
アオイというのは私がトキカマこと紀貫之に憧れて男子高校生のふりをして書いていたブログのハンドルネームだ。
高校3年間演じ続けたアオイの存在すらほとんど忘れかける程、
なんなら自分本体の所在すらわからなくなるほど心が浮遊していた。
それでもアオイは誰かの心の中で制服を脱ぎ捨て、
すでに次のステージに向かって歩き出しているようだ。
ベッドに寝そべり携帯をいじる。
「アオイくん、高校卒業おめでとう」
このコメント越しに
3本の薔薇とボタンが消滅したブレザーが視界に飛び込んできた。
私は飛び起きた。
「そうだホスト、やろう。」

そうだ、京都に行っている場合ではない。
歌舞伎町、行こう。
JR東海ではなくJR東日本、新宿駅だ。
善は急げだ。
私は自宅の階段をかけ下り、
台所の紅白すあまの紅の方を引っ掴んで食べた。
白雪姫だったら死んでいるところだった。
↑
基本的に紅い方は毒入りだから気をつけてほしい話。
彼が私の知らないところで勝手に制服を脱ぎ捨てていたとしても、
新しい衣装を着せるのは私だ。
高1の夏、担任のT田先生が叫んだ
「今日はァ、ネカマの話をしまーす!」
の言葉で生まれた情熱を再びこの胸に。
あの日、隣にいた一平ちゃんは今はいない。
だからメールを送った。
男がすなるホストといふものを、女もしてみむとてするなり。
“してみむとてしたい”ことができた時、
私は最強。
2.芥川蒼(18)爆誕
“してみむとてしたい”こと。
それは、ホストになりきって歌舞伎町を歩くこと。
一平ちゃん「土佐日記の次はホスト?」
私「うん、ホストの格好で歌舞伎町歩きたい。」
一平ちゃん「え、ついに実写版?アオイくん実写化すんの?」
…アニメか何かなのか。
実写版アオイくんプロジェクト始動
◽︎アフター:ホストの仕事終わりにお店の外で会い
ご飯に行ったり、遊んだりすること。
◽︎︎色恋営業:ホストが姫に対して
恋愛感情を連想させる言動を交えながら
接客を行う営業スタイル。
◽︎エース:あるホストを最も応援している姫のこと。
来店頻度や指名継続など、精力的にホスト
をサポートする存在。
◽︎お茶:その日の指名客の予定がないこと。
◽︎担当:指名するホストのこと。
◽︎同担:同じ担当のこと
→同担拒否による殺し合いが起きることもある。
◽︎姫:ホストクラブにおける女性客のこと。
◽︎ラスソン:営業終了前に流れる曲。
通常その日に活躍したホストが歌を拾っ
する。
白紙のまま時をかけた単語帳が日の目を見た。
すかさず一平ちゃんに単語帳の写真を送る。
一平ちゃん「志望校落ちたんじゃなかったっけ?」
私「おう。でもな、ホスト大学なら主席だわ!」
これがつい最近まで志望校落ちからの自暴自棄とかいうありがちなことをしていた奴だとは誰も信じないだろう。
一平ちゃん「今日時間ある?」
私「お茶だからね。」
一平ちゃん「お茶?!」
私「指名入ってないってこと。」
一平ちゃん「じゃあ指名入れるから!」
私「同伴ね!」
お茶だったのに急に指名入ってしかも同伴。
アオイくんの初指名は一平ちゃん、
サイゼリヤ同伴。
一平ちゃん「源氏名とか決まったの?」
私「もちろん。」
鞄を漁る私。

私「club羅生門の芥川蒼です。
よろしく。」
一平ちゃん「名刺もう作ってんの?!仕事早っ!世界史の宿題なんて言われてもやらなかったのに。」
私「プロフィールも考えた。」
源氏名:芥川蒼
所属:club 羅生門
年齢:18歳
好きな食べ物:担々麺
→食べ過ぎて胃炎、今ドクターストップ
苦手な食べ物:エリンギ
特技:和歌を詠むこと
〈キャッチコピー〉
剥ぎ取られ制服は、無限の未来の始まり。
僕に服を着せるのは、キミ。
一平ちゃん「キャッチコピーがだいぶ気持ち悪いけど大丈夫?!」
私「新人はインパクトが大事なんだよ!」
バニラアイスに唐辛子をふりかけながらミーティングは進んでいく。
一平ちゃん「スーツどうすんの?俺の貸す?」
私「…一平ちゃんよォ…そりゃあありがてェ申し出なんだがな、よォく見てみろォ?とんでもねェ“オーバーサイズ”になんだろう…?」
一平ちゃん「父親のスーツ着てふざけてる子どもみたいなね。」
私「現実を!突きつけるな!事実は一番人を傷つけるんだぞ!」
溶けかかった唐辛子マシマシマシマシバニラアイスをかきこんで店を出た。
こうして
芥川蒼の出勤スタイルは
黒いジャケット・黒スキニー・青のVネックシャツ
+アクセサリー
に決定した。
紀貫之の
4時間26分で済むことを55日間かけてやってみた話と比べればだいぶコンパクトにまとまった。
トキカマが大湊で足止めをくらっている頃、私とアオイはホストになった。
要するに、2週間だ。
3.酒の飲めないホスト
小学3年の夏、私は“梅酒の梅窃盗事件”の現行犯で逮捕された。
【我が家にあった梅】
①青梅:青酸カリ
②梅酒の梅:大人用
③梅干し
④梅ジャム:凍っている
⑤石化した梅:干しすぎた
かねてより梅酒瓶の底に眠る梅に憧れていた。
あの、琥珀色の湖の底で静かに眠る彼らに。
この日、ついに私は禁断の果実に手を出した。
起こさぬようにそっと、菜箸で…。
手のひらに乗せたその実はまさに琥珀。
穏やかな輝きをたたえている。
ふわっと私を包み込む香り。
翻弄されながらその実を口に含む。
─衝撃的な苦さだ。
すぐに世界がぐるぐると廻り始めた。
喉が、身体が、熱い。
次に目を開けた時、
私はリビングで座布団を枕にして倒れていた。
天井は白くない。
茶色だ。
すぐ横のテーブルに氷水入りのコップが置かれている。
結露の具合からして、
置かれてからさほど時間は経っていない。
台所からだだちゃ豆の匂いがする。
…母だ。
これは禁断の果実に手を出したことがバレている。
幼いながらに気づいていた。
恐る恐る台所へ行く。
だだちゃ豆よりも手前に、かじられ輝きを失った梅が皿の上でぐったりしている。
「ごめんなさい。」
「私もごめんね、目のつくところに置いちゃってて。」
私は梅酒の梅窃盗罪、
母は猥褻物陳列罪、
どちらも現行犯逮捕。
この時私は知った。
自分にアルコール分解酵素がほとんどないことを。
4.シャンパンタワーならぬぶどうジュースタワー
衣装はそろった。
髪の毛も、手に入れた。

アルコール分解酵素のみ手に入らなかった。
─怪しいネオンが輝く新宿歌舞伎町。
人々の欲望渦巻く魅惑の世界。
「そうだホスト、やろう」
から約2週間後、ついに芥川蒼(18)は歌舞伎町に足を踏み入れた。
ネオンがまぶしい。
私「一平ちゃん…」
一平ちゃん「違う!一ノ瀬紅河」
一ノ瀬紅河「今日は芥川蒼、1ヶ月以上遅れのバースデーイベント!シャンパンタワーが待ってるぞ!」
芥川蒼「よいちょー!」
本物のホストの方々、本物の姫の方々の間をすり抜け歩くこの感覚。
人が多過ぎて目的地、いや、目的地なんてないけれど
どこともなく彷徨い歩く浮ついたような感覚。
18歳1ヶ月、法律的にも身体的にも酒の飲めないホストが爆誕した。
隣には本来いるはずのなかった18歳8ヶ月の法律的に酒の飲めないホストがいる。
──────────────────
俺はずっと気になっていた。
一ノ瀬紅河がやけにでかい鞄を持っていることに。
明らかに場違いだ。
そこは
「クラッチバッグだろ」
って言ってやったけど、あいつは何も言わなかった。
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一ノ瀬紅河「店到着!」
着いた先は…
カラオケ。
しかも一ノ瀬紅河は唐突に一平ちゃんのテンションに戻り、お店の方に身振り手振りなにやら説明している。
部屋に入った瞬間追い出された。
何?
新人ホストへの洗礼?
“店に入った瞬間追い出される”…
いや、単語帳にそんなこと、書いていない。
しばらくして一平ちゃんがようやく呼びに来た。
部屋に入ると…
グラスタワーが完成している。
一ノ瀬紅河「蒼、ハッピーバースデー!!!」
─芥川蒼、ホストデビューにしてバースデーイベント開催の瞬間である。
一ノ瀬紅河がシャンパンぶどうジュースを
注ぐ。
揺れている。
明らかにグラスが揺れている。
もう、どこから突っ込んだらいいのかわからないし
突っ込んだらグラス崩れそうで
笑いとグラスの両方を抑えることに必死だった。
と、同時に内勤がケーキを運んできてくれたのだ。
当然のことのように、
シャンパンタワーならぬ
ぶどうジュースタワーを見て死にそうになっている。
再度、
「ハッピーバースデー!」
と祝われる。
一ノ瀬紅河「本日の売上No.1はァ!芥川蒼
さあ、ラスソンいっちゃってー!」
─ホストデビュー初日にしてバースデーイベントからの売上No.1からのラスソン。
選曲はもちろん、
レミオロメン「3月9日」
流れる季節の真ん中で、
アオイと私は夢を叶えた。
まぶたの裏には相変わらずかかりつけの眼科の院長がいる。
アオイと私の芥川蒼としての生活はこうして始まった。
卒業イベントに至るまで
走れ!
とはいえ私は
一生涯ホストクラブに行くことはないだろう。
…客としては。
もし私がホストクラブに現れたその時は…
どう?
俺のエースになってみる?
…それとも細客?
それとも…え?初回荒らし?
かっこよく決めたかったのに…
よいちょー!!!!
【参考資料】
◽︎JR東海
そうだ京都、行こう
◽︎ホスミル
ホストクラブ用語集
◽︎名刺作成.net
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