春はどよめき
喚き、どよめき春がやってきた。
その実、俺はこの季節があまり好きでは無い。
正直に言えば「嫌い」だ。
だからといって、どの季節が好きかと問われれば、特段好きな季節はない。
「お前、本当ひねくれてるよな。」
乾が抹茶ソフトをひと舐めして鼻で笑う。
「うるせえよ……」
俺は足元の桜の花びらをローファーですりつぶしながら返した。
「あ、ひとくち食う?」
「いらない。」
ため息が止まらない。
いや、もう息を溜めることすら面倒臭い。
このまま空気を吐き切って、肺なんて潰れちまえばいいのに。
息を詰まらせるほどの、意地の悪い痛みが欲しかった。
錆び付いたブランコの鎖を握りしめ、皮膚感覚を確かめる。
ひんやりとした部分なんてもうないんじゃないか。
それほどまでに長い時間、俺はこの金属連鎖を握り続けていたらしい。
広げた手のひらに鬱血性の拍動を感じる。
点状の内出血はうねり繋がり、さながら縛り跡のように見えた。
擦り傷の下の痣の如く、赤黒い蒼褪めを疼かせている。
俺は頭の中で、肺胞のひとつひとつを緩衝材のプチプチを潰すみたいにしてやった。
こんなことをしたところで、胸骨の裏を灼かれるような不快感は消えやしないのに。
泣きたいような、叫びたいような、もう感情のどれもが不正解になって、薄ら笑いだけがとめどなく浮かんでは消えることなく空を曇らせていく。
「つうかさ、お前、今こんなところにいていいわけ?」
乾も乾で薄ら笑いを浮かべている。
「いいわけねえだろ」と返そうかとも思った。
しかし、いいわけねえのならさっさと行けよ、と俺がこいつなら盛大に咆哮するに決まっている。
だから、
「よくなかったらこんなとこいねえよ。」
とだけ返しておいた。
ポケットの中のスマートフォンはひっきりなしに震えている。
俺は気づかないふりを貫いている。
「出ろよ。」
「嫌だよ。」
生ぬるい、時間を腐らすような風が規則から解放された襟足をぶん殴っていく。
だいぶ離れた校舎の窓から、チューニングの狂ったユーフォニアムが不気味な音階で叫ぶのが聴こえる。
わざと呼吸を諦めた俺の肺は、心臓を馬鹿に叩いて不規則なリズムを刻んだ。
甲高い声が束になって近づいてくる。
俺は足元で潰れていた鞄を拾い上げ顔を埋めた。
砂埃が肺を汚し、俺は咽せる。
「何してんだよ。」
真横から差し出されたその声は、皮膚に冷たく鼻に苦いかった。
わずかな隙間から乾を覗き見る。
わざとらしく額付近に手を翳し、生垣の先をのぞいている。
その口角は青年的な歪みとは違う──もっと幼い、少年的な揶揄いに満ちた引き攣り方をしていた。
「頭すら隠せてねえじゃん。」
「なんとでも言え……」
嵐はかしましく去っていく。
それでも俺はまだ顔以外を季節の中に曝したままローファーの下を並んでいる。
この桜の下にはかつての恋人たちが眠っている。
でも彼女たちも皆、今日で卒業した。
校舎へと向かう影は、ひとつ、またひとつと消えてく。
完全に闇へと落ちるにはまだ早い、三月の初め。
阿佐ヶ谷の空の下。
乾のくちずさむあの歌は、音も日付もずれている。
なのに俺は、その歌をいつまでも、いつまで聴いていたいような気になっていた。
十八歳と一ヶ月。
俺は今日、高校を卒業した。
(習作)
二月あたりに書いていたものを少し手直しした。
↑
これは当時、更新するべきものが皆無になり慌てて20分ほどで書き上げた習作。
↑
これも習作。
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【殴り殴られ詩人酒場】
この回はワシが気に入ってるから読んでください。
↑
寒い時期に書いた暑い日の話。
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ゆきお様・解説
いつかきっと、平成の青春小説を書くんだ。
多分青春をしてこなかったからね。
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よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し