「日本は、世界で初めて月経休暇を設立した国ですよ!」ーー世界唯一の「月経博物館」を設立したヴィヴィ・リンへのインタビュー③
この原稿は、ブックマン社から出版予定の『台湾社会を改革した女性たち(仮題)』の草稿を、noteで無料先行公開するものです。不定期で原稿を追加していきますので、ご興味をお持ちいただけましたら、マガジンをフォローいただくと、更新通知が届きます。
世界唯一の「月経博物館」を設立した
ヴィヴィ・リンへのインタビュー③
(インタビュー実施:2025年9月18日)
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・「ヴィヴィ・リンへのインタビュー①」
・「ヴィヴィ・リンへのインタビュー②」
ーー政府に掛け合い続けた成果も現れ始めています。
そうですね。他の民間団体や議員と連携しながら、地方から中央政府まで、今のところおよそ35の政策を改革することができています。
教育部(日本の文科省に相当)の決定で、2023年8月から2億5千万元(およそ12億5千万円)ほどの年間予算が投下され、台湾の小中高、大学など各学校に無料で月経用品が設置され始めました。全ての学校で月経用品の無償提供が行われたのは、アジアで初めてのことです。何年もかけてこの呼びかけをし続けてきたので、大きなマイルストーンをようやく達成できました。民間企業でも、たとえば台北メトロの20の駅で、無料で月経用品の設置が始まっています。(筆者補足:2026年6月現在、台北市内の全駅に設置)
また、台北市内の小学校高学年から中学生の女子児童を対象に、コンビニで月経用品と引き換えることのできるチケットが毎月発行されています。
ーーそうした活動の中で、この月経平等というテーマに関心を持たれないようなこともあったりするのでしょうか。
関心がある人よりも、関心がない人の方が多いと思いますよ!
皆、今まで月経について深く考えたことがないだけなのです。私たちはそうした人々と出会うために、さまざまなイベントを開催しています。私たちの講演やイベントをたまたま通りかかって、5分10分聞いているうちに、「うん、ちょっと関心を持ってみてもいいかもしれない」という感じになってくれる人が多いんです。こうして草の根的に、月経の平等というテーマに関心を持つ人口を増やせたらと思っています。
私たちの訴えが届くようになったきっかけの一つが、自分たちが社会に訴えかけるテーマを定義する言葉を作り出したことです。定義する言葉と、なぜそれが大事なのかを言葉にしました。言語化して改めて感じたのは、これまで月経の平等が重視されてこなかったのは、ただそのことが言語化されていなかったというだけだということです。
これは、世界に存在する身体やジェンダーにまつわる議論が、根っこは人権の問題であることに通じます。長年にわたるジェンダー関連の議論の多くが働く権利から始まり、投票権、社会参加などへと発展しているのと同じように、月経の平等もジェンダーの問題だけではなく、人権の問題なのです。何かしらの権利が少しずつ回復するにつれ、私たちは自分たちの社会にまだ議論されていない、回復されるべき権利が数多くあることに気付くことでしょう。
ーー先日、台湾の道教のお寺でのイベントに参加させてもらいました。
月経に関する禁忌は世界中に存在しますが、台湾で最も多く耳にするのが、「月経中の女性は、寺廟へのお参りやお墓参りといった信仰活動に参加してはならない」というものでした。月経の平等についての活動をしていると、非常に多くの人々から「なぜ、月経中にお参りをしてはならないのか」「お参りをしても大丈夫なのか?」という質問を受けます。実際、私たちも答えを知りませんし、知りたいと思っていました。そこで、台湾各地の寺廟を訪れ、管理者やスタッフさんたちに直接質問することを始めたのです。
その結果、理由は実にさまざまで、しかもその回答のうちいくつかは互いに矛盾していることが分かりました。例えば、「月経中の女性はパワーが増し、神様を驚かせてしまうので、寺廟に入ってはならない」という回答がありました。一方で、「月経中の女性は身体が弱り、何か良くない霊が体内に入ってしまう」という説もあります。「月経とは穢れたもので、神様が怒ってしまう」と話す人もいました。
これは、月経に対する偏見を覆すことができるチャンスです。私たちは、寺廟と一緒に新たな解釈をすることができないかと考え、寺廟を訪ね、私たちと一緒に「月経中の女性も参拝して問題ない」と宣言してもらえないかと提案して回りました。しかし、大部分の寺廟からは断られてしまいました。
そんな時に味方になってくれたのが、台北で200年以上の歴史を持つ「台北霞海城隍廟」でした。
責任者の陳文文さんは、「月経中ももちろん参拝して良いのですよ。そうした迷信は、人が人を制限しているだけのものです」と言ってくれました。
そればかりか2022年5月28日の「国際月経衛生デー」に、「台北霞海城隍廟」は私たち「小紅帽」と共同で、”月経への偏見、汚名を洗い流す”というイベントを開催してくれたのです。人気タレントも参加してくれ、皆で一緒に廟の地面を水で洗い流した様子が、台湾のニュースになりました。
「台北霞海城隍廟」の影響力は大きく、それ以来、高雄の「關帝廟」、台中の媽祖廟「西安朝天宮」など、次々に台湾各地の他の廟からも賛同を得られるようになりました。
ーー月経博物館を訪れる日本人も非常に多いですね。
そうですね。毎日、毎週、日本からの来館者がいます。多くの方々から「日本にもこのような博物館ができてほしい」、「このような活動をする人が増えてほしい」というお声をいただいています。それは日本ではなかなか難しいことなのでしょうか?
月経の平等を推進するなかで気付いたのですが、国際的なシンポジウムなどに参加すると、東アジアや東南アジアからの参加団体がいないことが多いのです。この活動を始めてから今でもずっと、国際的な会議などの場でいつも東アジアからの参加者は私だけ、または私の他にもう一人だけ、という状況が続いています。英語が話せるかどうかはあまり関係なく、このテーマに取り組む人がすごく少ないようです。
日本からの数少ない参加者はほとんどが教授などの個人で、長期間取り組んでいる団体はほとんど見かけたことがありません。
そんな状況から、最近私たちは近隣諸国とより連帯して行くことをを決めました。私たちのNPOが他の国に拠点を作るのではなく、近くで同じようなことに取り組む人々と協力し、私たちが役に立てることは一緒にしていこうと思っています。
月経を語ることで仲間ができた
ヴィヴィさんに何度かお会いするうち、雑談の中で思わず「日本ではまだまだそこまで意識が高まっていません」と、弱音を漏らしてしまったことがある。
そんな私に、ヴィヴィさんは明るく言った。
「でも、日本は世界で初めて月経休暇を設立した国ですよ!」
そう言われて調べてみると、確かに1947年、日本は世界で初めて(あるいはかなり初期の段階で)、法律により月経休暇を保証した国になったらしい。
ここで少し、月経について改めて振り返ってみたい。月経とは生物学的な女性の身体で生まれてきたほとんどの人の人生で、30〜40年間、一般的に28〜35日ごとに5〜7日間起こる生理現象で、約30〜80ml、ヤクルト一本分ほどの経血が流れ出る。NPO「小紅帽 WITH RED」の調査によれば、女性たちは一生で最低でも10万元(約50万円)ほどの費用を月経用品に費やすという。
日本は世界でも初期の段階で月経休暇を設立した国であると同時に、「月経小屋」に月経中の女性を隔離する習慣があった国でもある。月経中の女性を不浄なものとして隔離する「月経小屋」は、2017年にネパールで犯罪として取り締まり対象になった、悪しき慣習だ。月経用品の広告で月経血の代わりに“青色の液体”を用いること、コンビニやドラッグストアで月経用品を購入する時に紙袋に入れることなどは、月経への差別・偏見であるとして世界的に見直されている。私自身、月経博物館の日本語パンフレットの翻訳を通じて、こうした知識を得ることができた。
そして改めて、「なぜ、日本では『月経』ではなく『生理』という言葉を使うんだろう」など、新たな疑問を抱くようになった。
共同で翻訳ボランティアをしたメンバーたちとそうした疑問について語り合うようになったところ、日本で包括的性教育講師として活動するNPO「HIKIDASHI」代表の大石真那さんから『生理用品の社会史』(田中ひかる著、角川ソフィア文庫)にその辺りの記述があると教えてもらった。1920年代の生理休暇獲得運動あたりから月経を「生理」という用語で代用するようになり、それは1947年の労働基準法で「生理日」「生理休暇」という言葉が使われたことでさらに普及したこと、その背景には「不浄視や羞恥心によって、『月経』と口にすることが憚られた時代があった」ことが言及されていた。また、「『生理』には別の意味もあるため、正確を期すならば『月経』を用いたほうがよい。しかし『生理』を使ったからといって、『女性の健康な身体的特性を否定する』ことにはならない」と述べられている。
完成した月経博物館の日本語版パンフレットは、施設内で閲覧できるようになった。さまざまな人と協業して進めたおかげで、とても分かりやすいと好評のようだ。日本語パンフレットは購入することもでき、売り上げの全額が『小紅帽 WITH RED』の活動資金にも当てられる。

パンフレットや月経教材の翻訳を通じて、私の月経に対する意識は大きくアップデートされていった。人類の半分は性自認に関わらず、女性の身体で生まれてくる。世の中に存在するさまざまな生理現象の一つである月経を肯定し、語ることは、「いのち」や「人権」、「生き方」の話に深く繋がっている。
女性自身も月経を知らない?
先日、日本で台湾のジェンダー平等について講演していた時のことだ。
私が台湾政府の月経補助について触れたところ、質疑応答で年配男性から「その補助は、女性の税金からまかなわれているのですか?」という質問を受けた。
「月経は女性のこと」と社会から切り離すような質問にとても驚いたが、とっさに「現在の台湾では、月経は女性だけのことだとされていません。月経があるから、人はこの世に生まれて来ると言うこともできます。月経と関係のない人間などいないのです」と答えた。講演会に駆けつけてくれた出版社の担当編集者が「ずっと下を向いて聞いていた男性が、近藤さんのあの言葉を聞いた瞬間、顔を上げていましたよ」と教えてくれた。
そう、月経というテーマは長い間タブー視されて来たため、特に肝心の大人たち自身が人前で話すことに慣れていない。ヴィヴィさんが話してくれた通り、だからこそ「知る」という方法がとても有効なのだ。
私自身も例外ではない。私が初めて月経博物館を訪れたのは、42歳の時のことだった。小学四年生で初経を迎えてから30年以上月経と付き合ってきたし、二回の出産を経験していたが、よく考えると、月経について知ろうとしたことも、深く考えたこともなかった。
月経がタブー視されている社会では、女性自身も自分たちの身に起こるこの生理現象について詳しく知る機会がないのかもしれない。そうであるならば、男性はもっと知る機会がないのだろう。そうであったとしても、日々多くの日本人が台湾の月経博物館を訪れている。
この原稿を書いている2026年5月現在、まだ日本で月経博物館が誕生したというニュースは聞こえてこない。そんなことを、ヴィヴィさんと話していた時のことだ。彼女は「日本の皆さんは、とても熱心に月経博物館を作りたいと言ってくださるんですけれど、そんなにきっちりやらなくても大丈夫だと思うんです。自分自身や、自分の周囲の人々と月経について話すだけで十分だとは思いませんか?」と、自身の経験を語ってくれた。
「私がスコットランドの大学の寮で思い立ってNPOを設立したように、もし皆さんが月経博物館を作りたいと思ったなら、自分の部屋の片隅に、月経について書かれた本や月経用品を置いたコーナーを作って『これが私の月経博物館!』と言えばいいんです。それをきっかけに友人と月経について話したり、SNSで紹介したりするだけでいいんですよ」
ヴィヴィさんのこの話を聞いた時、「とても台湾らしい」と感じた。博物館と聞くとつい立派な建物をイメージしてしまうが、「月経について学び、皆で話し合う」という目的を考えれば、自分の部屋に一つのコーナーを作るだけでも事足りる。
小紅厝月經博物館 Period Museum
台北市大同區重慶北路三段335巷40號
開館時間・休館日はオフィシャルFacebookかInstagramで確認を。
https://www.facebook.com/theredhouse.tw/
https://www.instagram.com/period.withred/
月経博物館の屋号「小紅厝」は、NPOの名称「小紅帽(日本語で「赤ずきんちゃん」の意)」と、台湾語(閩南語)で「家」を表す「厝」を組み合わせたもの。「小紅帽の家」という意味。「台湾らしさが際立つ名前を付けたかった」とヴィヴィさん。
後日公開
「“月経中の女性の参拝はタブー”を覆した
「台北霞海城隍廟」責任者・陳文文へのインタビュー」に続く。
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