「あなたは、相手がしてほしいやり方で、相手のことを気遣えていますか?」ーー世界唯一の「月経博物館」を設立したヴィヴィ・リンへのインタビュー②
この原稿は、ブックマン社から出版予定の『台湾社会を改革した女性たち(仮題)』の草稿を、noteで無料先行公開するものです。不定期で原稿を追加していきますので、ご興味をお持ちいただけましたら、マガジンをフォローいただくと、更新通知が届きます。
世界唯一の「月経博物館」を設立した
ヴィヴィ・リンへのインタビュー②
(インタビュー実施:2025年9月18日)
▶︎前回の記事はこちら「ヴィヴィ・リンへのインタビュー①」
ーー現在は台湾の月経博物館が世界で唯一なのですね。施設を紹介していただけますか。
月経博物館は三階建てで、テーマごとに展示エリアが分かれています。一、二階は一般向けに開放され、三階はオフィスとして使っています。
一階は月経教育の空間で、女性の身体や、月経という生理現象を学ぶことができます。子どもたちが子宮の周辺構造を理解することのできる、大きなぬいぐるみもあります。アーティストたちは、月経にまつわる展示を無料で開くこともできます。

二階は、まるで子宮の中にいるようなペインティングが施されています。月経に関するライブラリスペースでは、世界各地の月経関連書籍が展示されているので、これらの本を読んで過ごすこともできます。月経の貧困や、月経への偏見についての展示もあります。不定期でドキュメンタリー映像を流したり、ここで講座やワークショップを開催することもあります。
ーー来場者はどんな方が多いのですか?
親子連れが多いですが、来館者の4割が男性なのも特徴的です。年齢層は本当にさまざまですね。保護者の方が、「子どもが成長した時のこの社会が、より良いものになっていてほしいから」と、お子さんの誕生日プレゼント代を私たちに寄付してくれたこともあります。
ーーヴィヴィさんは、どのようにして社会的なテーマに取り組み始めたのですか?
子どもの頃からです。私の父は民主主義を追い求めるアクティビストで、私が子どもの頃に寝ていたベッドの隣には、大きな本棚がありました。そこには台湾の歴史や、台湾の女性たちに関する本も置いてありました。父はいつも「台湾の自由で民主的な社会はそれはそれはたくさんの先輩たちが、血や涙を流しながら手に入れてくれたもので、彼らのおかげで私たちは今、さまざまな権利を手にすることができている」と教えてくれました。私が何か質問をすると、父はいつも本を開いてその答えを探してくれました。誰かがデモを起こしていると聞くと、父と一緒に中正紀念堂の自由広場からケタガラン大道まで歩き、座りながら、皆が何に抗議しているのかを眺めていました。
そんな子ども時代を過ごすうち、民主的な台湾社会で何か変えたいと思うことがあったら、市民運動を通じてそれを実現することができると知り、アクティビストの道を歩むようになりました。
子どもの頃は、自分がそんな仕事をするとは想像もしていませんでした。ただ、私はどうもアンフェアなことを見ると、それを無かったことにはできない性格のようです。学校の制服から政府の政策まで、「もっとこうした方が良くなる」と思うことがあると、多くの人々の力と意見を集めて、共通認識を形成したくてたまらなくなります。私たちの意見が社会に変化を起こすことができるか、試してみたくなります。
ーー「小紅帽 WITH RED」もそのようにして始まったんですね。
はい。『小紅帽 WITH RED』は、月経の平等を訴えるために設立しました。それ以外も、月経の貧困や月経教育など、月経に関することはすべて私たちの業務範囲です。それぞれ専門のバックグラウンドを持ったスタッフと、教師やソーシャルワーカー、政府や民間代表らと連携し、月経に関する社会改革を行うのが私たちの仕事です。
月経博物館の運営以外にもさまざまな活動をしています。たとえば良く知られているプロジェクト「小紅盒 Red Action」は、月経の貧困に対応したもので、必要な月経用品を手にすることが難しい18歳以下の青少女たちに向けて、毎月さまざまな月経物資をカスタマイズして届けています。一人ひとり生理用品に対するニーズや使用習慣は異なりますから、自分に合ったものを長期的に使うことができるというのは、非常に基本的な人権です。月経博物館が毎日オープンしないのは、ここをその作業場所として使っているからです。スタッフのほか、150人以上のボランティアたちの協力で、これまで2,400人以上の青少女たち、50以上の学校や機構を支援してきました。
私たちだけでなく、台湾各地の社会福祉団体も同じように月経の貧困に取り組んでいます。一人のソーシャルワーカーは最大五人の子どもを担当することができていますから、より多くの社会福祉団体が加わってくれれば、より多くの子どもたちに支援が届けられるようになります。
海外への支援も「小紅盒 Red Action」プロジェクトの一環です。現在は戦乱や天災時、例えば2023年に起こったトルコ・シリア地震、2022年から続いているロシアのウクライナ侵攻に対しても、私たちは月経用品の寄贈を集めて現地に送り届けました。どんなに大変な状況であっても月経は生理現象として起こるのだと、もっと知られるべきです。
そういう意味で、月経教育も非常に重要ですよね。月経博物館以外に、私たちは台湾各地の小中高、大学や地域コミュニティで子どもからお年寄りまで月経教育の活動を続けています。オリジナル教材や教育プランの開発、関連書籍の出版もしています。これまでに100軒を超える学校で私たちの教材や教育プランが採用されています。(筆者補足:2026年6月現在、500カ所以上に増加)
台湾各地の公共空間とコラボレーションし、「月経フレンドリーな空間」を増やすための活動も続けています。カフェや書店、歯医者から、もっと大型のスポーツセンターや文化関連施設、政府や行政関連施設などで、月経用品を無償で提供してくれたり、クッションや温熱グッズを貸して休憩させてくれる場所を集めています。私たちが月経フレンドリーだと認定した場所は、Googleマップにまとめて公開しているので、月経中の人々が必要な時に最寄りの場所でそうしたサービスを利用することができます。こうした月経フレンドリーな空間は、台湾だけでなく、海外にも増えています。
ーー台湾の月経教育は進んでいるのでしょうか?
残念ながらそんなことはないですね。高雄市の公聴会で学生代表が「過去9年間、高校生の9分の1の生徒しか月経教育を受けたことがない」と話してくれたことがあります。政府が作る学習指導要領には全ての子どもたちが月経教育を受けるようにと記載されていますが、それが教育の現場で実践されていない状況です。
教科書には月経についての説明が書かれているけれど、教師自身が月経教育を受けたことがなく、教材があるわけでもないので、どう教えたらいいのか分からないという理由から、授業で特にそれについて触れない教師も多いのだそうです。
学歴重視の保護者が多い台湾で、入試で出題されるわけでもない月経について時間を割く必要性を感じない教師や保護者が多いことも関係しているかもしれません。私たちがそうした学校に出張で月経教育に行くと、教師たちからすごく感謝されるんですよ。
これまでの台湾で最も多かったのが、女子生徒たちが月経についての授業を受けている間、男子生徒たちは別の場所に行かされるような状況でした。日本も過去にはそうだったと聞いています。ただこれは別に台湾や日本だけではなく、私が留学しているスコットランドも同じです。多くの国では「別々に分けて月経教育を実施すれば、女子たちが恥ずかしくない」と考えてこのようにしているのですが、私たちの実験によれば、月経の授業は皆で一緒に受けた方が嘲笑するような生徒が出ないことが分かっています。月経は、ほとんどの生物学的女性が経験する日常の一部分。社会の50%の人が経験することを、100%の人に知ってほしいと願っています。
私たちは月経教育の中で、いつも「月経について学ぶことは、エンパシーを学ぶことだ」と話しています。つまり自分と異なる人とどのように付き合うかを学び、対話の練習をするということですね。私たちが周囲の人に気遣う時、よく言われるのは「あなたは、相手がしてほしいやり方で、相手のことを気遣えていますか?」ということです。月経で調子が悪そうな人には、「何か手伝えることはありますか?」と訪ねてみてください。日々このようなコミュニケーションが生まれることで、一人ひとりが「私はどのようにサポートしてもらいたいのか」を自問自答し始めることができます。
ーー個人的に、おばあさんたちとの世代を超えた対話のプロジェクトが好きです。
「阿媽ê月 The Women」ですね。私たちは活動を続ける中で、台湾の歴史の中で、月経関連の文化や歴史がほとんど語られてこなかったことに気付きました。そして思ったのです。誰もこの重要な歴史を記録していないまま、おばあさんたちが亡くなってしまったら、この世代の歴史は消失してしまうのだと。
そうして私たちは、台湾各地を回っておばあさんたちの月経物語を記録してまとめる活動を始めました。おばあさんやその娘、孫の世代まで、この70年間ほどで台湾の女性たちの暮らしに起きてきたことを探索してみると、分かったことがたくさんあります。月経に対する迷信や偏見の多くは、世代から世代へと受け継がれてきたものでした。その起源が分かれば、そうしたものを覆したり、再解釈することもできるかもしれません。
「月経中の女性は寺廟にお参りしてはならない」などといった、月経にまつわるさまざまな禁忌は、月経の偏見を生み出すものです。ただ、これらはもともと人から伝え聞いて、「何か悪いことが起こったらどうしよう」という不安な気持ちになり、「じゃあお参りするのはやめておこう」という行動を取っているだけの場合がほとんどです。おばあさんたちとの対話を重ね、少しずつ信頼してもらえるようになると、おばあさんたちも「月経について話した後、特に何か悪いことも起こらないし、実はそこまで怖いことではないのかもしれない」と思えるようになっていったようで、さらに別のおばあさんと月経についておしゃべりを始めます。そのようにして少しずつ月経について話す人が増えれば増えるほど、私たちの社会から月経の偏見が少なくなっていくのを感じました。
それに、台湾のおばあさんたちが月経とどのように付き合ってきたのか、彼女たちの話は非常に興味深いです。
まだ月経用品がなかった時代、彼女たちは家にある使わなくなった布団や洋服を切ってショーツにくくり付け、月経用品として使っていました。上下水道のない時代ですから、使用済みの布は、家の近くの川辺で洗っていたそうです。彼女たちは朝早く、周囲に誰も人がいないのを確認して、人目を忍んで洗っていました。使用済みの布を洗うと水が月経血で赤く染まってしまうので、見つからないよう、水流の早い場所を選んでいたそうです。
こうした月経と暮らしの習慣は、同じ台湾でも地域によって異なります。海辺なのか、山間部なのかで月経用品の作り方、使い方も異なるのです。
共通するのは、「月経とはとても恥ずかしいことだ」という社会規範がとても色濃かったということで、なかには娘にさえ月経にどのように対処するのか教えていない人もいました。多くの女性たちが、「母親や周囲の女性が月経用の布を扱うのをたまたま目にした」という理由で、月経用の布の使い方を覚えていました。そうでない場合は、どのように布をショーツにくくり付けるのか、自分で考えていろいろ試してみるしかなかったのです。
後日公開「ヴィヴィ・リンへのインタビュー③」に続く。
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