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「社会の約50%の人が経験することを、100%の人に知ってほしい」ーー世界唯一の「月経博物館」を設立したヴィヴィ・リンへのインタビュー①

この原稿は、ブックマン社から出版予定の『台湾社会を改革した女性たち(仮題)』の草稿を、noteで無料先行公開するものです。不定期で原稿を追加していきますので、ご興味をお持ちいただけましたら、マガジンをフォローいただくと、更新通知が届きます。

月経を「女性だけの話」にしない
(インタビュー実施:2025年9月18日)

月経博物館の創設者は1998年生まれの台湾人、ヴィヴィ・リン。
NPO「小紅帽 WITH RED」の創設者でもある。

オランダのユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)で国際バカロレア資格を取得して卒業後、英・スコットランドの大学で感染症医学を学び、現在はイギリスのオックスフォード大学で公共政策を学ぶ奨学金プログラムに選出されたため、普段は台湾にいない。(筆者補足:2025年に卒業)

過去にNPOを経営するために大学を休学し、台湾に戻ったこともあったが、卒業のために2022年末にスコットランドに戻り、そこからリモートワークに以降している。私自身、初めて彼女に会ったのは2024年1月の総統選挙のタイミングだった。

台湾は期日前投票もオンライン投票も認められておらず、総統選挙は必ず戸籍登録地で投票を行わなければならないため、彼女のような留学生など、海外在住者たちが選挙で一票を投じるために一斉に台湾に戻ってくる。台湾の空港に到着してからもさらに新幹線に乗り換え、故郷へと帰らなければならない。日時を大幅に制限された民族大移動が必要なのに、投票率は常に7割を超えているというのだから、台湾の民主主義に向けた熱量には見習うべきところが多い。

投票のために帰国したヴィヴィさんへのインタビューでは、設立までの経緯や、設立後の反響、そして今取り組んでいることを伺った。

ーー近藤(以下略):ヴィヴィさんが月経の平等をテーマに活動するようになったのは、どんな背景があったのですか?

 私が月経というテーマに着目し、社会に向けて呼びかけ始めたのは、自分が初潮を迎えた頃のことでした。家族や学校の先生、クラスメイトなど、私の周囲の人々が月経をとても嫌っていることに気が付いたのです。
 人間の半数ほどの人々の身体に起こる生理現象なのに、なぜ皆そんなに月経を嫌がるんだろう?と不思議に思った私は答えを探し始めましたが、当時の台湾には私の疑問に答える資料はとても少なかったのです。

 学業の合間に海外の資料を探したり、周囲に呼びかけたりして知識を集め始めてみると、これまで全く知らないことばかりでした。「月経への偏見」など、月経関連の社会問題の多くが未だ解決されていないことも初めて知りました。オランダで難民問題に取り組んだり、アフリカの病院でボランティア活動をした時には、「月経の貧困」が実はとても身近な問題だということを知りました。

 月経の社会問題に取り組んで10年ほどが経った時、私は難関にぶつかっていました。問題は山積しているのに、私には解決することができません。こんなことでは世界を変えることなど到底できないのではないかと、無力感を抱きました。

 そんな時、たまたまスコットランドへ留学することになりました。当時のスコットランドは、長年の努力の末、月経用品に関する法案が議会を通過したところでした(筆者補足:2020年11月、スコットランドでは世界初となる月経用品の無償提供が全会一致で可決された)。民衆と国会議員らが皆で運動を起こし、社会を改革しているのを目の当たりにした私は、「台湾にもできるかもしれない!」と思ったのです。善は急げです。スコットランドの学生寮で、シャワーを浴び、濡れた髪をタオルで巻いた状態でパソコンの前に座り、「よし、今すぐ『小紅帽 WITH RED』を設立しよう」と決めたのです。終着駅ははっきりしているけれど、そこまでの道をどう歩むのか、スタッフはどうするかなど、何も後のことを考えていませんでした。

 台湾で「小紅帽 WITH RED」を設立し、月経に関する活動を始めてから、“これまでの台湾では月経についてほとんど一般的に語られることがなかった”という事実に気付きました。別に皆が私たちの考えに反対しているとか、そういうことではなく、ただあまり知られていないだけなのです。そこで対策を考え、博物館を作ることを思い付きました。実在する建物であれば、目の前を通り過ぎる時に、少なくとも視界に入れてもらえますよね? ただ、「不動産を持っていない若者が、大都市の台北で博物館を作ろうだなんて!」と、たくさんの人に笑われました。

 でも、何を言われても気にせず、ずっと言葉に出し続けていればいつかチャンスがあるかもしれない。そうして目標を語り続けて三、四年が経った頃、台北市の大同区に、世界で唯一の月経博物館を開くことができたのです。

ーー月経博物館は伝統市場の中にありますが、場所はどのようにして選んだのですか?

 月経は生理現象で、とても日常のことですから、月経をテーマにした博物館を開くなら、市場に野菜を買いに行くような感覚で、普段着でアクセスできる場所にしたいと思っていました。わざわざ遠くまで行き、高いチケットを買わなくても、「たまたま前を通りかかったから、ちょっと見ていくか」ぐらいの気持ちで訪れてもらえたらと思ったんです。仲良しの友人たちと一緒に来て、参観後にその辺で小吃(シャオツー)を食べるみたいな。暮らしの一部にしてもらいたいという気持ちです。もちろん、家賃が安いというのも決め手のひとつでした。

ーー月経博物館を開くのに大変だったことは?

 場所を探すところからもう苦労ばかりでしたね。自分たちの中で、月経博物館は一階で終わるようなものではなくて。何階建てかの建物、一棟丸ごと博物館にしたいという想いがあったのですが、台北市内では家賃が高くなってしまいます。私たちのNPOは資金に余裕がありませんから、良い物件とのご縁があるまで探し続けました。ある時、今の月経博物館の物件を見つけて、ぴったりだと思ったので、その日のうちに契約しました。

 ただ、この建物は築60年のレンガ造りの民家で、長年放ったらかしにされていて、痛みも激しかったんです。初めて中に入った時に壁を押したら、その壁が崩れてしまったのを今でも覚えています。改装工事をするにも経費がないので、全部自分たちでやろうということになりました。ご縁のあった先生にはるばる台東から来てもらい、教えを受けながら床や壁を修理し、配線も新しくやり直しました。難しい作業は専門家に頼らざるを得ませんでしたが、スタッフ皆の想いが詰まった空間です。

 ここは昔ながらの下町なので、連日工事をしていると、近所のおじいさんおばあさんが興味を持って中を覗いてくれたりするんです。私たちが「ここに月経をテーマにした博物館を開くんですよ」と伝えると、「月経をテーマにした?!」と驚かれました。ある時などは、外で数人のおばあさんたちが中の様子を窺っていて、そのうちの一人が中に入ってきて私たちの説明を聞き、「悪い人でもなく、しっかりした取り組みをしているようだ」と確認した後に、他のおばあさんたちを連れて入ってきてくれたという出来事もありました。

ーー皆さんの反応はどうですか?

 赤ちゃん連れからお年寄り、海外からのゲストまで、本当にさまざまな反応がありました。もうすぐ初経を迎える娘さんを連れた家族連れが多いのが印象的ですね。月経について話し合うきっかけを探して月経博物館を訪れているようで、これは非常によく見られる光景です。興味深いことに、子どもの教育のために月経博物館を訪れたものの、「自分はこれまで月経教育を受けてこなかった」と気付き、夢中になって学び始める保護者の方も多いです。

 その他にも、90歳のおじいさんがローカル列車に乗ってわざわざ遠くから来てくれて、「ネットニュースで見たよ! 素晴らしい。もっと早く、40年前にやるべきだったんだ。これからも頑張るんだよ」と伝えてくれたことがありました。

ーーそうして出来上がったのが世界で唯一の月経博物館だったのですね。これまで、海外にはなかったのでしょうか。

 以前、米国の歴史愛好家ハリー・フィンリーさんが作ったことがあったのですが、うまくいかなかったようです。彼は自宅の地下を改造して月経博物館を作ったのですが、反対する家族から絶縁されてしまったと聞いています。(筆者補足:1942年生まれのハリー・フィンリー氏は1994年に「The Museum of Menstruation (MUM)」を設立。1998年まで運営した後、デジタルアーカイブに形を変えて運営中。2022年末に、コレクションをスミソニアン国立アメリカ歴史博物館に寄贈。出典:Smithsonian Online Virtual Archives (SOVA)、2026年6月29日に閲覧)

 今では、世界中からこの月経博物館を訪れようと台湾に来てくれる旅行者も非常に多くなりました。私はよく月経についての世界会議で月経博物館について話すと、「なぜ台湾でそのようなことができたのか?」と、とても驚かれます。そしていつも、世界各地にこうした月経博物館が設立され、月経平等運動がますます発展するように連帯しようという話になります。日本からも、そうした声をいくつもいただいています。


後日公開「ヴィヴィ・リンへのインタビュー②」に続く。
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