TUGとSPPBの違い|どちらを使う?評価目的から考える使い分け
高齢者の身体機能を確認するとき、よく使われるのがTUGとSPPBです。
どちらも立ち上がりや歩行、バランスに関わる評価なので、
「転倒リスクを見るなら、どちらがいい?」
「TUGを測ったら、SPPBはしなくてもいい?」
「結局、何が違うの?」
と迷うことがあります。
先に違いを整理すると、
TUGは、立つ・歩く・曲がる・戻る・座るという一連の移動を見ます。
SPPBは、バランス・歩行・立ち上がりを3つの課題に分けて見ます。
ただし、
「TUGは動作を見る評価」
「SPPBは筋力を見る評価」
と、完全に分けられるわけではありません。
TUGの結果にも、筋力やバランス、歩行速度、痛み、不安などが影響します。
SPPBにも、立つ・歩くという実際の動作が含まれています。
違うのは、身体機能や動作の切り取り方です。
どちらが優れているかではなく、
本人は何に困っているのか。
その困りごとを考えるために、何を知りたいのか。
ここから評価を選びます。
1.TUGは「一連の移動」を見る評価
TUGは、Timed Up and Go Testの略です。
一般的には、椅子に座った状態から始めます。
椅子から立ち上がる
3m先まで歩く
方向転換する
椅子まで戻る
再び座る
この一連の動作にかかった時間を測定します。
TUGは1991年、虚弱高齢者の基本的な移動能力を定量的に評価する方法として報告されました。原著では、老年デイホスピタルへ紹介された高齢者60人を対象に検討されています[1]。
時間と一緒に、動作の様子を見る
標準的なTUGで得られる主な数値は、開始から着座までの合計時間です。
ただ、私がTUGを見るときは、秒数だけで終わらせません。
例えば、
立った直後にふらついていないか
歩き出しで足が止まっていないか
方向転換で足が小刻みになっていないか
杖や歩行器を安全に操作できているか
椅子へ勢いよく座っていないか
といった動作も確認します。
同じ12秒でも、動き方は同じとは限りません。
立ち上がりに時間がかかった人と、方向転換で慎重になった人では、次に見る内容が変わります。
TUGでは、
一連の移動の中で、どの場面に動きにくさや不安定さが見られたのか
を考えます。
TUGの秒数だけでは、原因までは分からない
TUGに時間がかかったからといって、
「筋力が弱い」
「転倒しやすい」
と、すぐに決めることはできません。
時間がかかった背景には、
筋力やバランス
関節の動きや痛み
転倒への不安
杖や歩行器の操作
安全を確認しながら動いたこと
など、複数の可能性があります。
TUGの結果は原因そのものではなく、次に詳しく見る場所を考える材料です。
TUGの測定方法や基準値、動作の見方は、こちらの記事で詳しく整理しています。
▶ TUGテストとは?やり方と結果の見方|転倒リスクを秒数だけで判断しない
2.SPPBは「3つの課題に分けて見る」評価
SPPBは、Short Physical Performance Batteryの略です。
次の3つの課題から、下肢を中心とした身体機能を確認します。
① 立位バランス
足の位置を変えながら、立った姿勢を保てるかを確認します。
閉脚立位
セミタンデム立位
タンデム立位
② 歩行速度
決められた距離を普段の速さで歩き、かかった時間を測定します。
③ 5回椅子立ち上がり
腕を胸の前で組み、椅子から5回続けて立ち上がるまでの時間を測定します。
3つの課題をそれぞれ0〜4点で評価し、合計0〜12点で表すのが基本です。
SPPBは高齢者の下肢機能を客観的に評価する方法として開発され、原著では71歳以上の5,000人を超える高齢者を対象に検討されました[2]。
どの課題で点数が低かったかを見る
SPPBでは、合計点だけでなく、
バランス項目
歩行速度
椅子立ち上がり
の結果を分けて確認できます。
例えば、同じ8点でも、
バランス項目の点数が低い人
歩行速度の点数が低い人
椅子立ち上がりに時間がかかった人
では、次に確認する内容が違います。
SPPBでも、原因までは決められない
椅子立ち上がりの点数が低かったとしても、筋力だけが原因とは限りません。
足の位置、身体を前へ移す動き、痛み、関節の動き、バランス、椅子の高さなども影響します。
歩行速度が遅かった場合も同じです。
歩幅、痛み、持久力、慎重さなど、さまざまな背景が考えられます。
SPPBも答えを出す検査ではなく、次に何を確認するかを考える材料です。
SPPBの実施方法や点数の付け方は、こちらの記事でまとめています。

3.TUGとSPPBは何が違う?
TUGとSPPBの違いを整理すると、次のようになります。
比較する視点TUGSPPB評価の形一連の移動3つの課題主な内容立つ・歩く・曲がる・戻る・座るバランス・歩行・立ち上がり主な結果合計時間各項目の点数と合計点見やすいこと動作のつながり、方向転換、着座どの課題で点数が低かったか注意点時間だけでは原因が分からない点数だけでは原因が分からない
ここで注意したいのが、
TUGは動作を見る評価
SPPBは身体機能を見る評価
と、完全に分けてしまうことです。
TUGの結果にも、筋力やバランス、歩行速度が影響します。
SPPBにも、歩く・立ち上がるという動作が含まれています。
どちらも似た身体機能の影響を受けますが、
連続した移動として見るのがTUG
3つの課題に分けて整理するのがSPPB
という違いがあります。

4.何を知りたいかで使い分ける
評価を選ぶときは、検査名より先に、
何を知りたいのか
結果を何に使いたいのか
を考えます。
移動の流れや方向転換を見たいならTUG
例えば、
立ち上がった直後にふらつく
歩き出しで足が止まる
方向転換で不安定になる
椅子へうまく近づけない
座るときに勢いがつく
杖や歩行器を含めた移動を見たい
という場合です。
TUGでは、立つ、歩く、曲がる、戻る、座るという動作が続きます。
そのため、個別の動作だけでは見えにくい、動作と動作のつながりを確認しやすくなります。
3つの課題を分けて見たいならSPPB
例えば、
立った姿勢を保てるか
普段の歩行速度はどうか
立ち上がりを繰り返せるか
どの項目で点数が低かったか
身体機能を項目別に整理したい
という場合です。
SPPBでは、バランス、歩行、立ち上がりを分けて評価できます。
情報が足りない場合は、両方を組み合わせる
TUGかSPPBのどちらか一つに、必ず決める必要はありません。
例えば、
SPPBでは立位バランス項目を実施できた。
しかし、TUGでは方向転換時にふらついていた。
という場合があります。
一定の姿勢を保つ課題では見えにくかった不安定さが、方向を変えながら動くTUGで見えてきます。
反対に、
TUGは大きく止まらずに終えた。
しかし、SPPBでは歩行速度と椅子立ち上がりの結果が気になった。
という場合もあります。
一連の移動は行えていても、歩行や立ち上がりを分けて見ることで、追加で確認したい部分が見つかることがあります。
一つの評価ですべてを知ろうとせず、
足りない情報を、別の評価で補う
という考え方が大切です。
5.転倒リスクを見るなら、どちらがいい?
転倒予防を考えるとき、
「TUGとSPPBのどちらが、転倒する人を見つけやすいのか」
が気になるかもしれません。
先に結論を言うと、
どちらか一つの結果だけで、将来の転倒を判断することはできません。
地域で自立して暮らす75歳以上の高齢者を1年間追跡した研究では、TUGとSPPBのどちらも、その後に転倒した人を十分には見分けられませんでした。
ただし、これは一つの対象集団での結果であり、すべての高齢者へそのまま当てはめることはできません[3]。
これは、TUGやSPPBが役に立たないという意味ではありません。
TUGでは移動の様子を確認でき、SPPBではバランス、歩行、立ち上がりの状態を整理できます。
ただ、転倒には身体機能以外にも、
過去の転倒
薬の影響
立ち上がったときの血圧低下
視力や聴力
認知機能
足や靴
自宅の環境
夜間の移動
転倒への不安
普段の活動
などが関係します。
国際的な転倒予防の指針であるWorld Falls Guidelinesでも、転倒リスクが高い高齢者には、転倒歴や歩行・バランスだけでなく、身体面、認知面、心理面、生活環境などを含めた多面的な評価が推奨されています[4]。
TUGが速いから安心。
SPPBが満点だから転ばない。
反対に、結果が悪いから必ず転倒する。
どれも言い切ることはできません。
検査結果は、転倒につながる要因を考える材料の一つとして使います。
TUGの13.5秒という目安については、こちらの記事で詳しく整理しています。
▶ TUG13.5秒は危険ライン?基準値の由来と転倒リスクの見方

6.同じ人でも、評価によって見えるものが違う
ここで、架空の事例を考えてみます。
Aさん・78歳
Aさんは、最近外出するときに不安を感じるようになりました。
室内では歩けていますが、
人が多い場所
方向転換
椅子へ座る場面
で「少し怖い」と話しています。
Aさんの希望は、
安心して外出したい
友人と買い物へ行きたい
ということです。
TUGで見えたこと
TUGの合計時間は14.2秒でした。
ただし、時間だけでなく動作を見ると、
方向転換でふらついた
椅子へ座るときに勢いがついた
という様子がありました。
TUGからは、方向転換や着座の場面を詳しく見た方がよいと考えられます。
SPPBで見えたこと
SPPBでは、
立位バランス3姿勢を実施
歩行速度:0.6m/秒
5回椅子立ち上がり:15.8秒
という結果でした。
この数値だけで原因を決めるのではなく、歩行速度と椅子立ち上がりの結果を、次に詳しく確認します。
次に確認すること
身体機能
筋力
関節の動き
痛みの有無
動作の使い方
重心を前へ移す動き
足の運び方
身体の向きを変える方法
環境・生活場面
人混みでの様子
外出や買い物の場面
自宅や移動経路
転倒への不安
不安の強さ
避けている動作や場所
活動範囲が狭くなっていないか
ここで、
「立ち上がりに時間がかかったから筋力トレーニング」
「方向転換でふらついたからバランス練習」
と、すぐに決めるわけではありません。
検査結果、動作、生活場面、本人の目標を合わせて、必要な支援を考えます。
TUGとSPPBを組み合わせることで、
どの動作で不安定になるのか
どの課題に難しさが見られるのか
次に何を確認するのか
を整理しやすくなります。

7.専門職向け補足|点数と秒数だけで記録しない
TUGとSPPBは、どちらも数字で結果を残せます。
ただ、数字だけを記録すると、あとから見返したときに、
「なぜ、この結果だったのか」
が分からなくなります。
TUGで残したいこと
合計時間
椅子の高さや形
杖や歩行器の使用
歩行速度の指示
時間がかかった場面
方向転換の歩数
ふらつき
着座の様子
本人が感じた不安
SPPBで残したいこと
各項目の点数
合計点
歩行距離
歩行の実測時間
5回立ち上がりの実測時間
実施できなかった理由
痛みや疲労
補助具の使用
動作の様子
前回の結果と比較するときは、椅子や歩行距離、補助具、速度の指示など、測定条件をできるだけそろえます。
SPPBは、信頼性と妥当性が支持されている評価です。
一方、身体機能が非常に高い人や低い人では得点が上限・下限付近へ集まることがあり、小さな変化を捉えにくい場合があります。
2024年の系統的レビューでも、SPPBは有効な評価である一方、変化への感度には限界があると報告されています[5]。
そのため、経過を見るときは、合計点だけでなく、歩行や立ち上がりの実測時間、動作の様子も残しておくことが大切です。
評価結果は、
何点だったか
何秒だったか
だけで終わらせず、
その結果になったとき、どのように動いていたか
まで記録します。
8.まとめ|評価を選ぶ前に、知りたいことを決める
今回の内容をまとめます。
TUGは、立ち上がりから着座までの一連の移動を見る
SPPBは、バランス・歩行・立ち上がりを3つの課題に分けて見る
TUGにも筋力やバランス、歩行速度が影響する
SPPBにも実際の動作が含まれている
どちらも、数字だけで原因までは分からない
移動の流れや方向転換を見たいときはTUGが使いやすい
3つの課題を分けて整理したいときはSPPBが使いやすい
情報が足りない場合は、両方を組み合わせる
転倒リスクは、一つの検査だけで決めない
評価結果を、生活上の困りごとや支援へつなげる
TUGとSPPBのどちらを使うか。
その答えは、検査の名前から決めるものではありません。
まず、
「本人は何に困っているのか」
「どの動作を詳しく見たいのか」
「その結果を何に使いたいのか」
を考えます。
評価を行うことが目的ではありません。
その人がどこで困り、次に何を確認し、どのような支援へつなげるのか。
そこまで考えるために、TUGとSPPBを使います。
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