TUG13.5秒は危険ライン?基準値の由来と転倒リスクの見方
TUGについて調べると、
13.5秒以上は転倒リスクが高い
という説明をよく見かけます。
現場でも、
「13.5秒を超えたから危険」
「13.5秒未満だから大丈夫」
と、数字だけで結果を捉えてしまうことがあります。
ただ、13.5秒を超えたからといって、すぐに転倒するわけではありません。
反対に、13.5秒未満でも、生活の中で転倒する人はいます。
私もTUGを見るときは、まず秒数を確認します。
でも、本当に知りたいのは、その先です。
どこで時間がかかったのか。
どんな動き方をしていたのか。
その動きが、普段の生活でどう表れているのか。
この記事では、TUGの「13.5秒」という数字がどこから出てきたのか、どこまで転倒リスクの判断に使えるのかを整理します。
13.5秒は危険を決める数字ではなく、もう少し詳しく確認するきっかけです。
1.TUGの13.5秒はどこから出てきた?
TUGの13.5秒という数字は、2000年にShumway-Cookらが発表した研究から広く知られるようになりました[1]。
研究に参加した高齢者は30人です。
過去6か月に転倒していない人:15人
過去6か月に2回以上転倒した人:15人
この2つのグループでTUGの結果を比較し、両者を分ける目安として13.5秒が示されました。
ここで知っておきたいのは、この研究が「TUGを測ったあとに、誰が転倒したか」を追いかけたものではないことです。
すでに複数回転倒していた人と、転倒していなかった人を集めて比較しています。
また、対象者は30人と少なく、転倒していないグループの平均年齢は78歳、複数回転倒していたグループは86.2歳でした。
2つのグループは、年齢などの条件も同じではありません。
そのため、13.5秒という結果を、地域で暮らすすべての高齢者へそのまま当てはめることはできません。
この研究で示された13.5秒は、その後、多くの記事や研究で転倒リスクの目安として引用されるようになりました。
ただし、
13.5秒を超えた人は、これから転倒する
と証明した研究ではありません。

2.TUGが13.5秒未満なら安心できる?
では、13.5秒を基準にすると、転倒する人をどのくらい見つけられるのでしょうか。
2014年には、複数の研究を集めて検討した系統的レビューとメタ解析が発表されました[2]。
25件の研究が確認され、そのうち10件を使って、13.5秒という基準の精度がまとめられています。
実際に転倒した人を、どのくらい見つけられたか
実際に転倒した人を、検査でどのくらい見つけられたかを示す数字を感度と呼びます。
13.5秒を基準にした統合結果は、感度0.31でした。
これを転倒した人100人に置き換えて考えると、TUGが13.5秒以上だったのは約31人というイメージです。
つまり、実際に転倒した人の中には、13.5秒未満だった人も多く含まれていました。
そのため、
13.5秒未満だから転倒しない
とは言えません。
13.5秒以上なら転倒すると分かるのか
転倒しなかった人を、どのくらい正しく分類できたかを示す数字を特異度と呼びます。
13.5秒を基準にした特異度は0.74でした。
13.5秒以上という結果は、
「もう少し詳しく見た方がいい」
と考えるきっかけにはなります。
ただし、それだけで「この人は転倒する」と決めることはできません。
2014年のレビューでも、TUGを単独で使って、地域で暮らす高齢者の将来の転倒リスクを判断することには限界があるとされています[2]。
2026年の研究でも、単独での予測には限界があった
2026年には、カナダの地域在住高齢者514人を対象にした前向き研究が発表されました[3]。
TUG、歩行速度、片脚立位、5回立ち上がりなどを行い、その後12か月間の転倒を追跡しています。
その結果、TUGを含む一般的なバランス・移動能力テストが、将来転倒する人を見分ける力は全体として限定的でした。
また、これらの検査をWorld Falls Guidelinesのリスク分類アルゴリズムに追加しても、将来の転倒に対する分類の明確な改善は示されませんでした。
ここで誤解してほしくないのは、
TUGは役に立たない
という話ではないことです。
TUGだけで、転倒する・しないを決めるのは難しい。
でも、立ち上がり、歩行、方向転換、着座のどこに不安があるかを探すには役立ちます。
転倒を当てるためだけに使うのではなく、次に見るべき動作や支援を考える評価として活用する方が、実際の現場には合っています。

3.なぜTUGの基準値は一つではないのか
TUGについて調べると、13.5秒以外にも、11秒や12秒という数字が出てきます。
数字がいくつもあると、
「結局、どれが正しいの?」
と思うかもしれません。
ただ、どれか一つだけが正解というわけではありません。
使われる数字が違う主な理由は、次の3つです。
対象者の年齢や身体機能が違う
歩く速さや椅子など、測定条件が違う
移動能力を見るのか、転倒歴との関係を見るのか、評価目的が違う
誰に、どのような方法で、何のために測った数字なのか。
そこまで確認しないと、基準値だけを比べても正しく解釈できません。
TUGの測定方法や、11秒・12秒・13.5秒の違い、立ち上がり・歩行・方向転換・着座の見方は、こちらの記事で詳しくまとめています。
4.13.5秒以上・未満をどう考える?
13.5秒以上だった場合
13.5秒を超えたからといって、すぐに「危険」と決める必要はありません。
慎重に確認しながら動くことで、時間がかかっている人もいます。
杖や歩行器を安全に使えているか。
最近、転倒したことがあるか。
普段の生活で困っている場面はないか。
数字の背景を確認します。
13.5秒未満だった場合
反対に、13.5秒未満だから安心とも言えません。
次のような様子がある場合は、数字が速くても詳しい確認が必要です。
最近、転倒したことがある
方向転換でふらつく
椅子へ勢いよく座る
夜間のトイレで転びそうになる
急ぐと足がもつれる
暗い場所で不安定になる
転倒への不安が強い
薬が変わってからふらつきが出た場合も、医師や薬剤師への相談が必要です。
薬は自己判断で中止したり、量を変えたりしないでください。
基準値を超えたかどうかより、その後に何を確認するかが重要です。
5.秒数の次に見る3つのポイント
TUGの結果を見たあとに、私が確認したいのは次の3つです。
① どこで時間がかかったか
TUGを一つの時間として見るのではなく、動作を分けて見ます。
立ち上がり
歩行
方向転換
着座
同じ14秒でも、立ち上がりに時間がかかった人と、方向転換に時間がかかった人では、次に確認する内容が違います。
立ち上がりに時間がかかるなら、
足の位置
身体を前へ移す動き
下肢筋力
立った直後のバランス
を確認します。
方向転換に時間がかかるなら、
足の運び
視線や頭の向き
体幹の回旋
曲がるときのふらつき
転倒への不安
などを見ます。
「TUGが遅いから筋力が弱い」と、一つの原因だけで決めないことが大切です。
② 動作は安定していたか
時間と一緒に、次のような動作も確認します。
立った直後にふらついていないか
ふらつきはなかったか
すり足になっていないか
歩幅や左右差はどうか
方向転換で足が小刻みになっていないか
椅子へ勢いよく座っていないか
ただし、小刻みな方向転換や慎重な歩き方を、すぐに悪い動作と判断する必要はありません。
その人が転ばないために、あえてゆっくり動いている場合もあります。
動きの形だけを見るのではなく、
なぜ、その動き方を選んでいるのか
を考えます。
③ 転倒歴や生活背景はどうか
TUGは、明るく平らな場所を短い距離だけ歩く評価です。
実際の生活では、
狭い場所
段差
暗さ
荷物
人混み
会話しながらの移動
急ぎ
疲労
などが加わります。
さらに、
最近、転倒したことがあるか
夜間の移動に不安はないか
一人での外出に不安はないか
生活の中で困っていることはないか
も確認します。
検査室では10秒でも、生活の中では不安定なことがあります。
例えば、TUGの方向転換でふらついた人が、自宅の狭いトイレではさらに困っているかもしれません。
椅子へ勢いよく座る人が、普段使っている低い椅子では、倒れ込むように座っていることもあります。
評価で見えた動きを、生活のどこで困っているかにつなげる。
そこまで見ることで、TUGの結果を実際の支援につなげやすくなります。

6.同じ数字でも、必要な確認は違う
ここで、2人の例を考えてみます。
Aさん:TUG14秒
Aさんは、TUGに14秒かかりました。
杖を使用している
動作は慎重だが安定している
方向転換でも大きくふらつかない
最近の転倒歴はない
自宅の環境も整っている
Bさん:TUG11秒
Bさんは11秒でした。
数字だけを見れば、Aさんより速く動けています。
しかし、
半年以内に2回転倒している
方向転換でふらつく
椅子へ勢いよく座る
夜間に急いでトイレへ行く
という様子がありました。
数字だけなら、14秒のAさんの方に目が向くかもしれません。
でも、11秒のBさんにも、転倒歴や生活場面を含めた詳しい確認が必要です。
ここで伝えたいのは、AさんとBさんのどちらが危険かを決めることではありません。
TUGの秒数だけでは、その人がどこで転びやすいのかまでは分からないということです。
専門職向け補足|秒数以外に記録しておきたいこと
TUGを記録するときは、合計時間だけでなく、測定条件や動作の特徴も残しておくと、次の評価や支援につながりやすくなります。
例えば、
合計時間
使用した椅子
靴
杖や歩行器
歩く速さの指示
時間がかかった場面
ふらつきや動作の特徴
転倒歴
生活で困っている場面
などです。
記録するなら、
TUG14.2秒。T字杖使用、通常速度。右方向への方向転換で5歩を要し、軽度のふらつきあり。自宅では夜間のトイレ移動に不安を訴える。
というように残します。
「14.2秒」だけでは分からない情報が入り、次に何を確認するかが見えやすくなります。
7.まとめ|13.5秒は答えではなく入口
今回の内容をまとめます。
13.5秒は、30人を対象にした研究から広く知られるようになった
元研究は、将来の転倒を追跡した研究ではない
13.5秒未満でも転倒する人はいる
13.5秒以上でも、必ず転倒するわけではない
TUGだけで転倒する・しないを決めることは難しい
秒数だけでなく、どこで時間がかかったかを見る
動作の安定性や転倒歴、生活背景も合わせて確認する
TUGの13.5秒は、安全と危険をきれいに分ける線ではありません。
何秒だったかで終わらず、
どこで時間がかかったのか。
どんな動きが見られたのか。
その動きが、生活のどこに影響しているのか。
まで確認することが大切です。
13.5秒は評価の答えではなく、次の評価を始めるための入口です。
転倒やふらつきが気になる方へ
転倒を繰り返している。
以前よりふらつきが強くなった。
夜間の移動や外出に不安を感じるようになった。
そのような変化がある場合は、TUGの秒数に関係なく、専門職へ相談してください。
かかりつけ医
理学療法士などのリハビリ専門職
担当のケアマネジャー
地域包括支援センター
どこへ相談すればいいか分からない場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターも相談先の一つです。
13.5秒以上の人だけが、支援の対象になるわけではありません。
転倒歴や本人の不安、家族が感じた変化も、相談するきっかけになります。
