TUGテストとは?やり方と結果の見方|転倒リスクを秒数だけで判断しない
椅子から立ち上がり、3m先まで歩く。
方向を変えて椅子まで戻り、再び座る。
この一連の動作にかかった時間を測るのが、TUGテストです。
短時間で実施でき、特別な機器もほとんど必要ないため、医療・介護の現場で広く使われています。
一方で、
「13.5秒以上だから転倒しやすい」
「基準値より速かったから大丈夫」
と、秒数だけで結果を判断していないでしょうか。
TUGで本当に見たいのは、何秒だったかだけではありません。
どこで時間がかかったのか。
どんな動き方をしていたのか。
その動きが、生活のどこに影響しているのか。
この記事では、TUGの基本的なやり方と基準値の考え方、秒数だけでは分からない動作の見方について整理します。
1.TUGは「何秒だったか」だけを見る評価ではない
TUGは、転倒する人を秒数だけで判定する検査ではありません。
立ち上がり、歩行、方向転換、着座を含む、複合的な移動能力を見る評価です。
TUGは、虚弱高齢者の基本的な移動能力を定量的に評価する方法として開発されました。
現在も、移動能力やバランス、転倒リスクを確認する機能評価として活用されています。
ただし、地域で暮らす高齢者の転倒リスクを考える際に、TUGを単独で使用することは推奨されていません。TUG単独による将来の転倒予測には限界があるためです。
例えば、どちらもTUGが10秒だったとしても、
立ち上がりに時間がかかる人
歩き出しの一歩目が出にくい人
方向転換で小刻みになる人
椅子の前で急いで座る人
では、考えられる原因も必要な支援も異なります。
秒数は評価の入口であり、ゴールではありません。
数字の先にある動きを見ることで、TUGから得られる情報は大きく変わります。
2.TUGテストとは?
TUGは、Timed Up and Go Testの略です。
一般的には、次の一連の動作にかかった時間を測定します。
椅子から立ち上がる
3m先まで歩く
方向転換する
椅子まで戻る
身体の向きを変える
再び椅子へ座る
一見すると、単純に立って歩くだけの評価に見えます。
しかし、実際には、
立ち上がる能力
立位を安定させる能力
歩き出す能力
直線を歩く能力
動きながら姿勢を保つ力
進行方向を変える能力
椅子との位置関係を捉える能力
安全に座る能力
など、複数の要素が含まれています。
そのためTUGは、単なる歩行速度の検査でも、転倒するかどうかを決める検査でもありません。
日常生活に近い一連の移動動作を、まとめて見る評価と考えると分かりやすいでしょう。
3.TUGの基本的なやり方
準備するもの
TUGの実施には、次のものを準備します。
背もたれと肘掛けのある安定した椅子
3mの歩行スペース
折り返し地点の目印
ストップウォッチ
必要に応じて、普段使用している杖や歩行器
施設内で経過を確認する場合は、できるだけ同じ椅子を使用します。
実施方法
一般的な手順は次のとおりです。
椅子に深く座る
開始の合図で立ち上がる
3m先まで歩く
目印の位置で方向転換する
椅子まで戻る
身体の向きを変える
椅子へ座る
座った時点で計測を終了する

CDCのSTEADIでは、普段の靴を履き、必要な場合は普段使用している歩行補助具を使い、通常の速さで歩く方法が示されています。
検者は、安全確保のため対象者の近くで見守ります。
実施時の注意
TUGは簡単な評価に見えますが、立ち上がりや方向転換を含むため、転倒の危険があります。
椅子が動かないことを確認する
歩行スペースの障害物を取り除く
転倒に備えて近くで見守る
無理に速く歩かせない
普段使用している歩行補助具を急に外さない
痛みや体調不良がある場合は中止する
転倒の可能性がある方は、一人で測定せず、医療・介護の専門職に相談してください。
測定条件をそろえる
TUGの時間は、測定条件によって変わります。
例えば、
椅子の高さや肘掛け
靴
杖や歩行器の使用
床の状態
歩く速さの指示
疲労や体調
などです。
CDCでは「通常の速さ」、国内の運動器不安定症に関する測定では「危険のない範囲で、できるだけ速く」と、目的によって歩く速さの指示も異なります。
異なる方法で測定した数値を、そのまま比較することはできません。
前回との変化を見る場合は、椅子、靴、歩行補助具、歩く速さの指示などを、できるだけ同じ条件にそろえます。
4.TUGの基準値|11秒・12秒・13.5秒をどう考える?
TUGについて調べると、
「11秒」
「12秒」
「13.5秒」
など、複数の数値が出てきます。
どれが正しいのでしょうか。
最初に結論を言うと、
すべての高齢者に当てはまる、一つの絶対的な基準値はありません。
11秒
国内では、運動器不安定症の機能評価基準の一つとして、3m TUGの11秒以上が示されています。
ただし、TUGだけで運動器不安定症を判断するものではありません。
対象となる運動器疾患や日常生活自立度など、ほかの条件と組み合わせて用いられる数値です。
12秒
CDCのSTEADIでは、地域で暮らす高齢者の転倒リスクを確認する目安の一つとして、TUGの12秒以上が示されています。
ただし、CDCの転倒予防の仕組みでも、TUGだけで判断するわけではありません。
13.5秒
13.5秒は、地域在住高齢者の転倒経験者と非転倒経験者を比較した研究から広く知られるようになった数値です。
しかし、その後の系統的レビューとメタ解析では、13.5秒を基準にした場合の感度は0.31、特異度は0.74でした。
感度が0.31ということは、実際に転倒する人を十分に見つけられない可能性があるということです。
つまり、13.5秒以上の人に注意するきっかけにはなっても、
13.5秒未満だから転倒しないとは言えません。

数字が違う理由
基準値が一つに決まらないのは、
対象者の年齢や身体機能が違う
疾患の有無が違う
転倒歴の定義が違う
歩く速さの指示が違う
評価の目的が違う
ためです。
したがって、
11秒未満だから問題ない
13.5秒以上だから転倒する
と単純に判断することはできません。
基準値は、結果を考えるための目安の一つです。
ケアプランや生活支援を考える場合も、秒数だけでなく、転倒歴や普段の生活状況を合わせて確認します。
5.TUGが速ければ転倒しないのか?
TUGが基準値より速ければ、安全なのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
例えば、次の2人を考えてみます。
Aさん
TUGは10秒でした。
時間だけを見ると、速く移動できています。
しかし、
この半年で2回転倒している
方向転換で大きくふらつく
夜間のトイレで急いで歩く
椅子へ勢いよく座る
という様子がありました。
Bさん
TUGは15秒でした。
Aさんより時間はかかっています。
しかし、
転倒歴はない
杖を安全に使用している
一つひとつの動作が安定している
自宅内の移動方法が決まっている
という状態でした。
TUGの時間だけを見ると、Bさんの方が危険に見えるかもしれません。
しかし、実際の転倒リスクは秒数だけでは説明できません。
転倒には、
身体機能
歩き方
過去の転倒歴
転倒への不安
薬の影響
めまい
視力
認知機能
靴
住環境
行動の仕方
など、複数の要因が関係します。
CDCの転倒リスク評価でも、TUGなどの身体機能評価に加え、薬剤、起立性低血圧、視力、足部・履物、住環境などを確認します。
TUGは、転倒リスク評価の完成形ではありません。
詳しく見る必要がある動作や生活場面を見つける入口として活用することが大切です。
また、ゆっくり歩く、一度止まってから曲がる、小刻みに方向を変えるといった動作が、その人にとって安全を保つ方法になっている場合もあります。
速い動作が必ず良く、慎重な動作が必ず悪いわけではありません。
動作だけで問題と決めつけず、なぜその方法を選んでいるのかを確認します。
6.TUGを5つの場面に分けて見る
ここからは、医療・介護職がTUGの秒数を動作から考えるときのポイントを紹介します。
すべてを一度に見る必要はありません。
まずは、最も時間がかかった場面や、最も不安定だった場面を一つ選んで見ると整理しやすくなります。

① 立ち上がり
立った直後にふらついていないか
肘掛けや太ももを強く押していないか
反動を繰り返していないか
足の位置に左右差がないか
身体を前方へ移動できているか
立ち上がりに時間がかかっていても、原因が下肢筋力だけとは限りません。
足の位置、身体を前へ移す方法、立った後のバランスなども関係します。
② 歩き出し・直線歩行
一歩目がすぐに出るか
歩幅が小さくなっていないか
すり足になっていないか
左右で足の運びが違わないか
杖や歩行器を適切に使えているか
CDCの評価用紙でも、慎重な歩行、短い歩幅、腕振りの減少、すり足、バランスの崩れなどを、時間と合わせて観察するよう示しています。
③ 方向転換
足の運びは安定しているか
小刻みな足運びになっていないか
足が交差していないか
身体を一塊にして曲がっていないか
方向転換中にふらついていないか
方向転換では、足の運びだけでなく、視線、頭部や体幹の向き、次の方向へ身体を移す準備も必要です。
そのため、筋力だけでは説明できない不安定さが現れることがあります。
ただし、小刻みな足運びや一度止まる動作が、安全のために選ばれている場合もあります。
歩数の多さだけで良し悪しを判断せず、安定性や生活場面での困りごとを合わせて確認します。
④ 戻りの歩行
行きと帰りで動きが変わっていないか
疲労で歩幅が狭くなっていないか
椅子が見えると急いでいないか
歩行補助具の位置が崩れていないか
短い距離でも、行きと帰りで動作が変わることがあります。
椅子へ戻る安心感から速度が上がる人もいれば、疲労によって足の運びが悪くなる人もいます。
⑤ 着座
椅子の位置を確認できているか
十分に椅子へ近づいているか
身体の向きを変えてから座れているか
手で肘掛けや座面を探していないか
勢いよく座っていないか
着座では、椅子との位置関係を確認し、身体の向きを変え、下肢で身体を支えながら座る必要があります。
時間が速くても、椅子へ倒れ込むように座っていれば、安全な動作とは言えません。
まず見るなら、この3つ
すべての項目を見るのが難しい場合は、まず次の3つに注目します。
立った直後にふらつかないか
方向転換で不安定にならないか
椅子へ勢いよく座っていないか
この3場面は、日常生活の転倒にもつながりやすい動作です。
7.同じ秒数でも、次に見る評価は異なる
TUGで時間がかかっていたとしても、すべての人に同じ運動を行えばよいわけではありません。
どの場面で、どのような動きが見られたかによって、次に確認する内容が変わります。
立ち上がりに時間がかかる場合
例えば、
肘掛けを強く押す
身体を何度も前後に振る
前傾が少ない
立った後に一度止まる
という動作が見られたとします。
次に確認したいのは、
足の位置
前方への重心移動
下肢筋力
股関節や足関節の動き
立位バランス
などです。
「立ち上がりが遅いから筋トレ」ではなく、なぜ立ち上がりに時間がかかったのかを確認します。
方向転換に時間がかかる場合
例えば、
一度止まってから曲がる
小刻みな足運びになる
身体を一塊にして方向を変える
曲がるときに大きくふらつく
という動作が見られたとします。
次に確認したいのは、
動きながら姿勢を保つ力
頭部や体幹の回旋
左右の足の運び
視線の向け方
次の方向へ身体を移す準備
転倒への不安
などです。
一度止まること自体が問題なのではありません。
本人が安全のために止まっているのか、止まらなければ方向を変えられないのかを確認します。
着座に時間がかかる場合
例えば、
椅子を何度も振り返る
手で座面を探す
椅子から離れた位置で座ろうとする
最後に勢いよく座る
という動作が見られたとします。
次に確認したいのは、
椅子との位置関係
後方へ身体を移す能力
下肢で身体を支えながら座る能力
視覚や空間の捉え方
椅子の高さや肘掛け
自宅で普段使用している椅子
などです。
合計時間が同じでも、時間がかかった場面や動き方が違えば、必要な評価や支援も変わります。
8.TUGの結果を生活につなげる
TUGで行う動作は、日常生活のさまざまな場面に含まれています。
TUGで見る場面関係する生活動作立ち上がり食卓の椅子、トイレ、ベッドから立つ歩き出し電話や呼び鈴に反応して動き始める直線歩行室内移動、廊下、買い物方向転換狭い部屋、人をよける、後ろを振り返る着座食卓、トイレ、車への乗り降り
例えば、TUGの方向転換でふらつきが見られた場合、評価室だけで終わらせず、
自宅の狭い廊下で曲がれるか
トイレの中で向きを変えられるか
人混みで人をよけられるか
後ろから声をかけられたときに振り返れるか
まで確認します。
着座が不安定であれば、
自宅の椅子が低すぎないか
椅子が動きやすくないか
肘掛けが必要ではないか
急いで座る場面がないか
といった環境や生活状況も見ていきます。
評価室で見られた動作が、生活のどこで困りごとになっているか。
そこまで確認することで、TUGの結果を生活支援へつなげられます。
前回との変化も、秒数だけで決めない
TUGは、経過を確認する目的でも使われます。
ただし、少しの秒数差だけで「改善した」「悪化した」と決めないことが大切です。
例えば、
TUGが14秒から12秒になった。
しかし、方向転換のふらつきは残っている。
この場合、合計時間は短縮しています。
しかし、転倒につながる可能性のある動作は残っているかもしれません。
反対に、
TUGの時間はほとんど変わらなかった。
しかし、方向転換が滑らかになり、着座時のふらつきが減った。
この場合は、秒数には大きく表れなくても、動作の質が改善している可能性があります。
経過を見るときも、
同じ測定条件で行う
複数回の変化を見る
秒数と動作の両方を見る
実際の生活が変わったか確認する
ことが大切です。
9.まとめ
TUGについて、今回お伝えした内容をまとめます。
TUGは、立ち上がり・歩行・方向転換・着座を含む移動能力の評価
秒数だけで転倒する・しないを判断するものではない
11秒、12秒、13.5秒は、対象や目的が異なる目安
13.5秒未満でも転倒する可能性はある
慎重な動作を、数字だけで悪い動作と判断しない
立ち上がり、歩行、方向転換、着座を分けて見る
転倒歴、薬、視力、靴、住環境なども確認する
結果を実際の生活場面や経過観察につなげる
TUGは、何秒だったかを競う検査ではありません。
大切なのは、
どこで時間がかかったのか。
どんな動き方をしていたのか。
その動きが生活のどこに影響しているのか。
秒数は、評価のゴールではなく入口です。
数字の先にある動作を見ることで、TUGは評価から支援へ、そしてその人の生活へつながっていきます。
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参考文献・資料
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