起き上がり動作の分析|新人PTが見るべき4フェーズと評価・介入の考え方
「起き上がり動作を見ても、どこを評価すればいいのか分からない」
「起き上がれない原因を、腹筋や上肢の筋力低下だけで考えてしまう」
新人PTの頃、このように悩む人は少なくありません。
起き上がり動作は、仰向けの姿勢から身体を回し、上肢で身体を支え、下肢をベッドの外へ運びながら端座位になる動作です。
そのため、起き上がれない原因を「腹筋が弱い」「腕の力が弱い」と、一つの身体機能だけで説明することはできません。
見るべきなのは、
* どの身体部位から動き始めるのか
* どの姿勢までは自力で移れるのか
* どのフェーズで動作が止まるのか
* 何を使って代償しているのか
* 環境を変えると動作が変わるのか
という点です。
この記事では、起き上がり動作を4つのフェーズに分け、新人PTが確認したい観察ポイント、評価の考え方、介入へのつなげ方を整理します。
この記事で分かること
* 起き上がり動作を4つのフェーズに分ける方法
* 各フェーズで新人PTが見るべきポイント
* 起き上がれない原因を考える方法
* 観察した動きを評価へつなげる方法
* 起き上がり動作の介入を組み立てる順番
起き上がり動作の分析に苦手意識がある人は、最初から身体全体を細かく見ようとする必要はありません。
まずは、動作を分けて見ることから始めてみてください。

今回の記事では、起き上がり動作を次の4つの移行フェーズに分けます。
フェーズ1
仰臥位から側臥位
フェーズ2
側臥位から片肘支持
フェーズ3
片肘支持から片手支持
フェーズ4
片手支持から端座位
開始姿勢と終了姿勢を含めると、
仰臥位
→側臥位
→片肘支持
→片手支持
→端座位
という5つの姿勢を通過します。
ここで注意したいのは、この4フェーズが、起き上がり動作における唯一の標準分類ではないということです。
起き上がり方は、
* 年齢
* 疾患
* 疼痛
* 筋力
* 関節可動域
* 麻痺や感覚障害
* ベッドの高さ
* マットレスの硬さ
* ベッド柵の位置
* 動作速度
などによって変化します。
健常者を対象とした研究でも、起き上がる速度が遅くなると、体幹回旋や支持側肩関節の運動が変化することが報告されています[1]。
つまり、教科書で見た起き上がり方と違うからといって、すぐに異常動作と判断することはできません。
今回の4フェーズは、新人PTが起き上がり動作を観察しやすくするための、臨床的な整理方法として使用します。
最初に確認したいのは、
どのフェーズで動作が止まっているか
です。
動作が止まる位置を見つけることで、評価する範囲を絞りやすくなります。
フェーズ1|仰臥位から側臥位

起き上がり動作の最初のフェーズは、仰臥位から側臥位への移行です。
ここでは、単に「横向きになれたか」だけを見るのではありません。
最初に見るのは、どの身体部位から動き始めたかです。
観察するポイント
* 顔や視線が起き上がる方向へ向くか
* 頭部が動き出しを作っているか
* 反対側上肢を起き上がる方向へ伸ばせるか
* 胸郭が回旋しているか
* 骨盤が胸郭の動きについてくるか
* 股関節や膝関節を利用できているか
* ベッド端までの距離を調整できているか
* 疼痛や恐怖によって動きが止まっていないか
頭部・胸郭・骨盤の動きを見る
寝返りでは、頭部、胸郭、骨盤がまったく同時に動くとは限りません。
頭部や上肢が動作のきっかけとなり、胸郭、骨盤へと回旋が広がることがあります。
一方で、臨床では次のような動きもみられます。
* 顔が正面を向いたまま動かない
* 上肢だけを勢いよく振る
* 胸郭は回るが骨盤が仰臥位に残る
* 両下肢を持ち上げて反動を使う
* ベッド柵を強く引っ張る
大切なのは、その動きを見てすぐに「体幹回旋が悪い」と決めることではありません。
まずは、
本人がどの身体部位を、動作のきっかけとして使っているか
を確認します。
上肢を動かす意味
起き上がる側とは反対の上肢を、起き上がる方向へ運ぶことで、胸郭や体幹の回旋が生じやすくなる場合があります。
ただし、肩関節痛や麻痺がある患者に対して、決まった上肢の使い方を強制するのは適切ではありません。
観察するときは、
* 上肢を起き上がる方向へ運べるか
* 上肢の動きが胸郭の回旋につながっているか
* 上肢を動かすことで疼痛が生じないか
を確認します。
骨盤が仰臥位に残る場合
上半身は起き上がる方向へ回っているのに、骨盤と下肢が仰臥位に残ることがあります。
この場合に考えられるのは、
* 胸郭と骨盤を分けて動かすことが難しい
* 股関節や腰部に疼痛がある
* 股関節・膝関節の運動を利用できていない
* 下肢を寝返りに使えていない
* 動作の方法を理解できていない
* ベッドが柔らかく身体が沈んでいる
などです。
体幹回旋の可動域だけを評価するのではなく、股関節や下肢、疼痛、環境条件まで確認する必要があります。
フェーズ2|側臥位から片肘支持

側臥位から片肘支持への移行は、起き上がり動作の中でも、つまずきやすいフェーズです。
このフェーズでは、頭部と上部体幹をベッドから持ち上げ、支持側前腕の上へ身体を移動させる必要があります。
新人PTが注意したいのは、
「肘で押せない=上肢筋力低下」
と、すぐに判断しないことです。
観察するポイント
* 頭部をベッドから持ち上げられるか
* 頭部だけが先に持ち上がっていないか
* 支持側の肘が身体から離れすぎていないか
* 前腕へ体重を乗せられているか
* 支持側肩甲帯で身体を支えられるか
* 体幹を前腕の上へ移動できているか
* 下肢をベッドの外へ運べるか
* 下肢を下ろす動きと体幹挙上が連動しているか
* 息を止めていないか
* 肩や腰に疼痛がないか
肘の位置を見る
片肘支持へ移れない場合、まず確認したいのが肘の位置です。
肘が身体から遠すぎると、体幹を前腕上へ移動させる距離が長くなります。
反対に、肘が身体の下へ入りすぎていても、身体を支えるための支持面を作りにくくなります。
筋力を評価する前に、
* 肘を肩の近くへ置く
* 前腕の向きを変える
* 体幹を少し前方へ移す
* ベッド上での身体の位置を変える
といった条件変更を行い、動作が変化するか確認します。
条件を変えるだけで起き上がれる場合、主な問題は筋力低下ではなく、支持面の作り方や身体の位置にある可能性があります。
前腕に体重が乗っているか
肘を曲げた姿勢を作れていても、前腕に体重が乗っていなければ片肘支持とはいえません。
頭部と体幹がベッド側に残ったまま、肘だけで身体を押そうとしても、体幹を持ち上げることは難しくなります。
見るべきなのは、肘の曲げ伸ばしだけではなく、
身体重心が支持側前腕の上へ移動しているか
です。
肩甲帯で身体を支えられるか
片肘支持では、支持側肩甲帯が身体を支える役割を担います。
このとき、
* 肩が耳へ近づく
* 肩甲帯が過度に挙上する
* 胸郭が支持側へ潰れる
* 肩関節に疼痛が出る
* 肘がベッド上で滑る
といった状態がみられることがあります。
ただし、「肩甲帯の安定性低下」と判断する前に、肘の位置、前腕の向き、ベッドの硬さ、疼痛の有無を確認してください。
下肢を下ろすタイミング
下肢をベッド外へ運ぶことは、単に足を下ろす動作ではありません。
下肢の重さや移動を利用することで、上半身を起こす動きを助けられる場合があります。
臨床では、
* 上半身だけを先に起こそうとする
* 下肢がベッド上に残る
* 下肢を勢いよく落とす
* 下肢の重みに引かれてバランスを崩す
といった動きがみられます。
「上半身と下半身のどちらが先か」だけでなく、両者のタイミングが本人にとって機能的かを確認します。
フェーズ3|片肘支持から片手支持

片肘支持まで移れた後は、前腕支持から手掌支持へ支持面を変え、肘を伸ばしながら体幹をさらに起こします。
ここでは、単純な肘伸展筋力だけでなく、支持面を変えながら身体の位置を調整する能力が必要です。
観察するポイント
* 前腕から手掌へ荷重を移せるか
* 手をつく位置は適切か
* 肘を伸ばしながら体幹を起こせるか
* 肩が過度にすくんでいないか
* 体幹が後方へ倒れていないか
* 骨盤が端座位方向へ回っているか
* 手関節や肩関節に疼痛がないか
* 片手支持位で一度姿勢を保てるか
支持面の変化を理解する
片肘支持では、前腕全体が支持面になります。
片手支持へ移ると、支持面は主に手掌へ変化します。
つまり、このフェーズでは、
* 前腕から手掌へ荷重位置を移す
* 支持面が小さくなる中で姿勢を保つ
* 肘を伸ばす
* 体幹を手の上へ運ぶ
* 骨盤を座位方向へ回す
必要があります。
片肘支持ができても片手支持へ移れない場合は、肘伸展筋力だけでなく、手の位置と身体重心の位置関係を確認します。
手をつく位置は適切か
手を身体から遠い位置につくと、支持基底面は広がります。
一見すると安定しそうですが、体幹を支持手の上まで移動させる距離が長くなり、肘を伸ばしにくくなる場合があります。
反対に、手が身体へ近すぎると、十分な支持面を作れないことがあります。
支持側肩関節の開始角度を変えた研究でも、支持側上肢の位置によって身体重心の移動距離や床反力に違いが生じることが示されています[2]。
最適な手の位置は患者によって異なります。
手の位置を少し変えながら、
* 肘を伸ばしやすくなるか
* 肩の疼痛が減るか
* 体幹を起こしやすくなるか
* 骨盤を回しやすくなるか
を確認します。
環境を使って難易度を調整する
片肘支持から片手支持への移行が難しい場合、できない条件で何度も反復する必要はありません。
重度片麻痺患者を対象とした症例報告では、ベッドの背上げ機能を利用し、体幹傾斜角度を段階的に下げながら部分練習が行われました。
その結果、片肘支持から片手支持への動作が10日間で可能になったと報告されています[3]。
一症例の報告であるため、すべての患者に同じ効果があるとはいえません。
しかし、
成功できる条件から始め、少しずつ難易度を上げる
という介入の考え方は参考になります。
フェーズ4|片手支持から端座位

片手支持まで移れたら、骨盤と下肢の位置を調整し、端座位になります。
ここで注意したいのは、端座位になれた時点で起き上がり動作の評価を終えないことです。
実際の生活では、起き上がった後に、
* ベッド上で座る
* 靴を履く
* 立ち上がる
* 車椅子へ移乗する
* トイレへ移動する
といった動作が続きます。
起き上がれたとしても、両手でベッドを支え続けている場合、次の動作へ移ることは難しくなります。
観察するポイント
* 骨盤を座位方向へ回せるか
* 両下肢をベッド外へ運べるか
* 両足が床へ接地しているか
* ベッドが高すぎないか
* 支持手を離せるか
* 端座位で後方へ倒れないか
* 左右どちらかへ大きく傾いていないか
* 起き上がった直後にふらつかないか
* めまいや気分不良がないか
* 次の立ち上がりや移乗へ移れるか
「起き上がれる」と「座っていられる」は分ける
起き上がり自体は自立していても、端座位で両上肢支持が必要な場合があります。
この場合、起き上がり動作よりも、
* 座位バランス
* 骨盤の位置
* 足底接地
* 体幹の姿勢制御
* 起き上がった直後の循環応答
に問題がある可能性があります。
支持手を離せない患者に対して、単に「手を離してください」と指示するだけでは不十分です。
まずは、足底接地やベッドの高さを整えます。
足底接地を確認する
ベッドが高く、足が床から浮いている状態では、下肢から十分な支持が得られません。
そのため、
* 上肢でベッドを押し続ける
* 骨盤が後傾する
* 体幹が後方へ倒れる
* 座位が不安定になる
ことがあります。
体幹機能を評価する前に、
* ベッドの高さを下げる
* 足台を使用する
* 骨盤の位置を調整する
* ベッド端まで移動する
といった環境調整を行い、座位が変化するか確認します。
起き上がった直後の症状を見る
端座位になった直後は、
* めまい
* 気分不良
* 血圧低下
* 疼痛
* 呼吸苦
* 強い疲労
が生じることがあります。
「起き上がれた」という動作の成功だけに注目すると、患者の症状を見落とします。
特に長時間臥床していた患者では、端座位になった後の状態を確認してから、立ち上がりや移乗へ進む必要があります。
次に読む記事
起き上がった後の立ち上がりを評価したい人は、
**「立ち上がり動作分析の基本|若手セラピストがまず見るべき5つのポイント」**へ進んでください。
起き上がりから立ち上がりまでを続けて見ることで、基本動作のつながりが整理しやすくなります。
観察した動きを評価へつなげる

起き上がり動作をフェーズに分けて観察できても、それだけでは動作分析は完了しません。
次に必要なのは、
観察した現象から仮説を立て、評価によって確かめる
ことです。
ここでは、臨床でみられやすい3つの例を紹介します。
例1|胸郭は回るが、骨盤が仰臥位に残る
観察した現象
* 顔と胸郭は起き上がる方向へ回る
* 骨盤と下肢は仰臥位に残る
* 上肢でベッド柵を強く引いている
考えられる仮説
* 骨盤回旋が不足している
* 股関節や腰部に疼痛がある
* 下肢を寝返りに利用できていない
* 胸郭と骨盤を分けて動かせない
* 動作の手順を理解できていない
* ベッド上の開始位置が悪い
確認する評価
* 頸部・体幹回旋可動域
* 股関節屈曲・内外旋可動域
* 腰部・股関節の疼痛
* 膝を立てた条件での寝返り
* 下肢を軽く介助した条件
* 口頭指示と模倣による違い
* 開始位置を変えたときの動作
下肢を軽く介助することで骨盤が回る場合、体幹回旋可動域だけが問題ではない可能性があります。
また、ベッド端までの位置を変えるだけで改善する場合は、身体機能より環境条件の影響が大きいと考えられます。
例2|側臥位にはなれるが、片肘支持へ移れない
観察した現象
* 側臥位までは自立している
* 頭部だけを強く持ち上げる
* 肘が身体から離れている
* 前腕に体重が乗らない
* 肩をすくめている
考えられる仮説
* 肘の位置が不適切
* 肩関節痛がある
* 肩甲帯で身体を支えられない
* 体幹を前腕上へ移動できない
* 下肢を下ろすタイミングが遅い
* 身体を持ち上げることへの恐怖がある
確認する評価
* 側臥位での前腕支持保持
* 肘の位置を調整した条件
* 肩関節・肩甲帯周囲の疼痛
* 頸部・体幹側屈
* 下肢を先にベッド外へ下ろす条件
* ベッドを背上げした条件
* 体幹重心移動への軽介助
肘の位置を変えるだけで起き上がれる場合、主な問題は筋力ではなく、支持面の作り方だった可能性があります。
例3|端座位にはなれるが、支持手を離せない
観察した現象
* 起き上がり自体は可能
* 端座位で両手をベッドについている
* 手を離すと後方へ倒れる
* 足底が床へ十分についていない
考えられる仮説
* 足底接地が不十分
* ベッドが高すぎる
* 骨盤後傾が強い
* 座位バランスが低下している
* 起き上がり直後にめまいがある
* 起き上がり動作で疲労している
確認する評価
* ベッド高を下げた条件
* 足台を使用した条件
* 上肢支持あり・なしでの座位保持
* 骨盤前後傾運動
* 左右への重心移動
* 血圧・脈拍・自覚症状
* 数分間休憩した後の座位保持
足台を置くことで支持手を離せる場合、体幹筋力だけを問題にする必要はありません。
環境を整えることで、本人が本来持っている能力を発揮できたと考えられます。
起き上がり動作の介入を考える5つの順番
起き上がれない患者を見ると、すぐに筋力トレーニングや反復練習を行いたくなります。
しかし、起き上がり動作では、環境条件を少し変えるだけで動きが大きく変化することがあります。
介入は、次の順番で考えると整理しやすくなります。
Step1|安全性と症状を確認する
最初に確認するのは動作の形ではありません。
* 疼痛
* めまい
* 気分不良
* 呼吸苦
* 血圧変動
* 手術後の禁忌
* 肩関節への過剰な負荷
* ベッドから転落する危険性
を確認します。
安全性が確保されていない状態で、起き上がり動作を繰り返すべきではありません。
Step2|環境を調整する
次に、患者が能力を発揮しやすい環境を作ります。
* ベッドの高さ
* ベッド端までの距離
* 枕の高さ
* マットレスの硬さ
* ベッド柵の位置
* 手をつく位置
* 背上げ角度
* 足底接地
* 起き上がる方向
を変更し、動作がどう変わるか確認します。
環境を変えて動作が改善した場合、その変化自体が評価結果になります。
Step3|できない部分を分けて練習する
一連の起き上がりが難しい場合は、動作を部分的に分けます。
* 仰臥位から側臥位
* 側臥位での前腕支持
* 側臥位から片肘支持
* 片肘支持での姿勢保持
* 片肘支持から片手支持
* 片手支持から端座位
* 端座位で支持手を離す
患者が失敗を繰り返す難易度ではなく、少しの介助や環境調整によって成功できる難易度から始めます。
Step4|必要な身体機能へ介入する
動作条件を変えて仮説を確認した後、必要な身体機能へ介入します。
例としては、
* 頸部・体幹回旋の練習
* 胸郭と骨盤を分ける運動
* 側臥位での前腕支持
* 肩甲帯周囲の支持練習
* 肘伸展を伴う上肢支持
* 股関節・膝関節の可動域練習
* 下肢をベッド外へ運ぶ練習
* 端座位での重心移動
* 足底接地を利用した座位保持
などがあります。
ただし、身体機能練習だけで終了してはいけません。
高齢者を対象とした研究では、ベッドや椅子から起き上がるための部分課題を用いた課題特異的トレーニングによって、実際の起き上がり能力に改善がみられています[4]。
身体機能への介入と、実際の起き上がり動作をつなげることが重要です。
Step5|一連の起き上がり動作へ戻す
部分練習ができるようになったら、必ず一連の起き上がりへ戻します。
* 実際に使用するベッド
* 普段起き上がる方向
* 普段使用するベッド柵
* 夜間を想定した環境
* 起き上がった後の立ち上がり
* 車椅子やトイレへの移乗
まで確認します。
治療場面だけでできても、実際の生活環境で再現できなければ、生活動作として獲得したとはいえません。
新人PTが避けたい3つの考え方
1.起き上がれない原因を一つに決める
「腹筋が弱い」
「上腕三頭筋が弱い」
「体幹バランスが悪い」
一つの機能障害だけで説明すると、評価する範囲が狭くなります。
起き上がり動作には、上肢、下肢、体幹、姿勢制御、疼痛、認知面、環境条件など、複数の要因が関係します。
高齢者のベッド上動作を調査した研究でも、仰臥位から座位への起き上がりには、体幹機能だけでなく、上肢や下肢の運動が関係することが示されています[5]。
最初は複数の仮説を持ち、条件を変えながら原因を絞ります。
2.代償動作をすぐに禁止する
ベッド柵を引く。
上肢を振る。
下肢の反動を使う。
このような動きを見て、すぐに「代償なのでやめましょう」と指導するのは慎重にしたいところです。
患者にとっては、その動きが自立するための有効な方法になっている場合があります。
確認したいのは、代償動作の有無ではなく、
* 疼痛につながっていないか
* 転落の危険がないか
* 過剰な努力が必要ではないか
* 毎日の生活で再現できるか
* 次の動作へ移れるか
という点です。
3.できない動作を同じ条件で繰り返す
起き上がれない患者に対して、同じ条件で何度も「もう一度やってみましょう」と繰り返しても、失敗経験が増えるだけになることがあります。
必要なのは、
* 背上げ角度を変える
* 肘や手の位置を変える
* 下肢を先に下ろす
* ベッド端へ近づく
* 一部分だけ介助する
* 動作をフェーズに分ける
といった難易度調整です。
成功できる条件を見つけ、そこから少しずつ介助量を減らします。
新人PT向け|起き上がり動作チェックリスト

最後に、臨床で起き上がり動作を見るときのチェック項目をまとめます。
動作前
□ 疼痛やめまいはないか
□ ベッド環境は適切か
□ 起き上がる方向は適切か
□ ベッド端までの距離は適切か
仰臥位から側臥位
□ どの身体部位から動き始めるか
□ 顔や視線が起き上がる方向へ向くか
□ 上肢を利用できるか
□ 胸郭と骨盤が回旋するか
□ 下肢を寝返りに利用できるか
側臥位から片肘支持
□ 頭部を持ち上げられるか
□ 肘の位置は適切か
□ 前腕へ体重が乗るか
□ 肩甲帯で身体を支えられるか
□ 下肢をベッド外へ運べるか
片肘支持から片手支持
□ 前腕から手掌へ荷重を移せるか
□ 手をつく位置は適切か
□ 肘を伸ばせるか
□ 体幹が後方へ倒れないか
□ 骨盤が座位方向へ回るか
端座位
□ 足底が床へついているか
□ 支持手を離せるか
□ 後方や側方へ倒れないか
□ めまいや気分不良はないか
□ 次の立ち上がりや移乗へ移れるか
すべてを一度に細かく見る必要はありません。
迷ったときは、
どのフェーズで動作が止まっているか
から確認してください。
まとめ|起き上がり動作は「どこで止まるか」から見る
起き上がり動作を分析するときは、「できる・できない」だけで判断しないことが大切です。
また、起き上がれない原因を、腹筋や上肢筋力だけで説明することもできません。
まずは起き上がり動作を、
1.仰臥位から側臥位
2.側臥位から片肘支持
3.片肘支持から片手支持
4.片手支持から端座位
の4つのフェーズに分けます。
そのうえで、
* どこまではできているのか
* どこで動作が止まるのか
* どのような代償を使っているのか
* 条件を変えると動作が変わるのか
* 起き上がった後も姿勢を保てるのか
を確認します。
動作分析は、見た動きに名前をつける作業ではありません。
観察した現象から複数の仮説を立て、評価によって確かめ、患者に合った介入を選ぶための過程です。
最初からすべてを見ようとしなくても大丈夫です。
まずは、
「どのフェーズで止まっているか」
を見つけるところから始めてみてください。
それだけでも、起き上がり動作の評価は整理しやすくなります。
基本動作の分析を続けて学びたい人へ
起き上がり動作は、それだけで完結する動作ではありません。
寝返りから起き上がり、立ち上がり、歩行へと、生活の中で連続しています。
次は、以下の記事もあわせて読んでみてください。
立ち上がりを評価したい人へ
立ち上がり動作分析の基本|若手セラピストがまず見るべき5つのポイント
歩行観察の基本を整理したい人へ
歩行を見る力を育てる4部作|第2作 歩行分析が苦手な新人セラピストへ、まず見るべき歩行観察の基本
評価から介入まで深く学びたい人へ
第4作 歩行分析チェックリスト完全版|評価・仮説・介入までつなげる
基本動作の記事をまとめて読みたい人へ
マガジン「動作分析リハ実践ノート」
立ち上がり、歩行、寝返り、起き上がりなど、基本動作の見方をまとめています。
参考文献
[1]西守隆,浦田達也.健常者における起き上がり動作の速度変化における上肢・体幹関節運動の分析.理学療法科学.2020;35(6):893-898.
[2]支持側の肩関節外転角度の違いによる片肘立ち位を経由した起き上がり動作の分析.保健医療学雑誌.2021;12(2):113-120.
[3]内野利香,加藤宗規.重度片麻痺患者に対する起き上がり動作練習―ベッドの背上げ機能を利用した段階的難易度調整の導入―.行動リハビリテーション.2018;7:18-20.
[4]Alexander NB, Galecki AT, Grenier ML, et al. Task-specific resistance training to improve the ability of activities of daily living-impaired older adults to rise from a bed and from a chair. J Am Geriatr Soc. 2001;49(11):1418-1427.
[5]Alexander NB, Grunawalt JC, Carlos S, Augustine J. Bed mobility task performance in older adults. J Rehabil Res Dev. 2000;37(5):633-638.
※本記事で示した4フェーズは、起き上がり動作における唯一の標準分類ではありません。新人PTが臨床での観察を整理し、観察・仮説・評価・介入をつなげるための実用的な枠組みとして提示しています。
