歩行を見る力を育てる4部作|第2作歩行分析が苦手な新人セラピストへまず見るべき歩行観察の基本
「歩行分析が苦手」
「患者さんが歩いているところを見ても、どこを見ればいいかわからない」
「なんとなく違和感はあるけど、うまく言語化できない」
新人セラピストの頃、歩行観察で悩む人は多いと思います。
歩行は、立ち上がりや寝返りと比べても動きが速く、見るべき場所も多い動作です。
体幹、骨盤、股関節、膝関節、足関節、足部。
さらに、歩行速度、歩幅、左右差、ふらつき、代償動作まで見ようとすると、頭の中が一気に混乱します。
でも、歩行分析が難しく感じる一番の理由は、
見る力がないからではなく、見る順番が決まっていないから
です。
歩行観察は、才能だけで決まるものではありません。
見る順番を決めて、
全体から部分へ。
見えた現象から仮説へ。
仮説から評価・介入へ。
この流れを持つことで、新人セラピストでも歩行はかなり整理しやすくなります。
この記事では、歩行分析が苦手な新人セラピストに向けて、
まず見るべき歩行観察の基本を整理していきます。

歩行分析が難しく感じる理由
歩行分析が苦手な新人セラピストは、決して少なくありません。
よくある悩みは、こんな感じです。
全身を一気に見ようとして混乱する
どこから観察すればいいかわからない
異常歩行の名前だけ覚えてしまう
代償動作は見えるけど、原因が考えられない
歩行周期と実際の動きがつながらない
評価や介入にどうつなげるかわからない
これはかなり自然なことです。
歩行は、短い時間の中で多くの関節が同時に動きます。
しかも、右足と左足が交互に役割を変えながら動きます。
接地する足もあれば、体重を支える足もあります。
蹴り出す足もあれば、前に振り出す足もあります。
これを最初から全部見ようとすると、混乱するのは当然です。
だから、新人セラピストがまず身につけるべきなのは、
細かい知識を詰め込むことよりも、
歩行観察の流れを決めることです。
歩行観察は「全体から部分へ」が基本
新人セラピストが歩行を見るときに、最初から股関節や膝関節だけを見ようとすると、全体像を見失いやすくなります。
歩行観察の基本は、
全体から部分へ
です。
まずは細かい関節角度よりも、全体としてどう歩いているかを見ます。

歩行観察の流れは、次のように考えると整理しやすいです。
全体像を見る
歩行周期で分ける
部位ごとに見る
左右差・代償動作を見る
仮説につなげる
まずは全体像です。
たとえば、
歩行速度は速いか遅いか
歩幅は狭いか広いか
左右差はあるか
リズムは一定か
ふらつきはあるか
すり足になっていないか
補助具をどう使っているか
疲れると歩き方が変わるか
この段階では、細かく正解を出そうとしなくて大丈夫です。
まずは、
全体として何が気になるか
を拾うことが目的です。
たとえば、
「右立脚期で体幹が右に傾く」
「左足の振り出しでつま先が引っかかりそう」
「歩幅が狭い」
「方向転換でふらつく」
「麻痺側の立脚期が短い」
このように、気になる現象をまず言語化します。
歩行分析は、いきなり原因を決めつけるものではありません。
まずは、
見えた現象を整理すること
から始まります。
新人がまず見るべき5項目
歩行観察では、見ようと思えばいくらでも細かく見られます。
でも、新人セラピストのうちは、最初から全部を見ようとしなくて大丈夫です。
まずは、次の5項目を見られるようにしましょう。

1.歩行速度
歩行速度は、その人の歩行能力を大まかに把握するうえで重要です。
歩くスピードが遅い場合、単に「ゆっくり歩いている」だけではありません。
背景には、
筋力低下
バランス不安
痛み
恐怖心
持久力低下
注意力低下
歩幅の低下
などが関係していることがあります。
ただし、歩行速度だけで原因を決めつけるのは危険です。
歩行速度は、あくまで入口です。
「なぜ遅いのか?」
「歩幅が狭いのか?」
「立脚期が不安定なのか?」
「足が出にくいのか?」
このように、次の観察につなげていきます。
2.歩幅
歩幅は、一歩の大きさです。
新人セラピストが歩行観察をするとき、歩幅はかなり見やすいポイントです。
歩幅が狭い場合、
股関節伸展が出ていない
足関節の蹴り出しが弱い
支持脚への荷重が不安定
バランスへの不安がある
体幹が前に進めていない
転倒への恐怖心がある
などが考えられます。
また、左右で歩幅が違う場合は、片側への荷重不安や疼痛、筋力低下、麻痺、感覚障害なども考える必要があります。
歩幅は、単なる「一歩の大きさ」ではありません。
その人がどれだけ安心して身体を前に進められているかを見る手がかりになります。
3.左右差
歩行は左右交互の運動です。
そのため、左右差は歩行観察でかなり重要です。
見るポイントは、
右と左で歩幅が違うか
片側の立脚時間が短くないか
片側だけ引きずっていないか
片側に体幹が傾いていないか
片側だけ足が上がりにくくないか
片側だけ膝が不安定ではないか
です。
左右差がある場合、原因はひとつとは限りません。
たとえば、麻痺側立脚期が短い場合でも、
麻痺側下肢の支持性低下
感覚障害
膝折れへの恐怖
股関節外転筋の機能低下
足部の不安定性
疼痛
非麻痺側への過剰依存
など、いろいろな背景が考えられます。
新人のうちは、いきなり原因を一つに絞らなくて大丈夫です。
まずは、
どの場面で、どちら側に、どんな左右差があるのか
を観察することが大切です。
4.ふらつき
ふらつきは、転倒リスクを考えるうえで重要な観察ポイントです。
歩行中のふらつきには、
立脚期の支持性低下
体幹・骨盤制御の低下
バランス能力の低下
感覚入力の低下
注意力の低下
歩行速度や歩幅の調整不良
などが関係していることがあります。
ふらつきを見るときは、
「ただ不安定」
で終わらせないことが大切です。
具体的には、
立ち上がった直後にふらつくのか
歩き始めにふらつくのか
片脚支持期でふらつくのか
方向転換でふらつくのか
疲れてくるとふらつくのか
を分けて考えます。
同じ「ふらつき」でも、出る場面によって考えるべき原因は変わります。
5.代償動作
歩行観察で新人セラピストが悩みやすいのが、代償動作です。
代償動作とは、身体のどこかの機能低下や動きにくさを補うために、別の動きでカバーしている状態です。
よく見られる代償動作には、
体幹側屈
骨盤挙上
分回し歩行
膝過伸展
すり足
つま先引っかかり
骨盤後退
などがあります。
ただし、代償動作を見たときに大切なのは、名前を覚えることではありません。
大事なのは、
何を補うためにその動きが出ているのか
を考えることです。
たとえば、分回し歩行が見られた場合、
膝が曲がりにくいのか
足関節背屈が出にくいのか
つま先が引っかかるのを避けているのか
股関節屈曲が不十分なのか
麻痺側下肢を振り出しにくいのか
といった視点が必要になります。
代償動作は、単なる悪い動きではありません。
その人が今の身体機能で歩くために選んでいる、ひとつの戦略でもあります。
だからこそ、
この代償は何を補っているのか?
という視点で観察することが大切です。
歩行周期ごとの観察ポイント
歩行観察をさらに整理するためには、歩行周期で分けて見ると便利です。
歩行周期とは、片方の足が接地してから、同じ足が再び接地するまでの流れです。
ただ、新人セラピストの場合、最初から細かい分類を完璧に覚えようとすると難しくなります。
まずは、臨床で見やすいように、次の5つの場面で分けて考えると整理しやすいです。

1.接地する場面
足が地面につく場面です。
ここでは、
踵から接地できているか
つま先が引っかかっていないか
足部の向きはどうか
接地直後に膝が崩れないか
体幹が大きく傾かないか
を見ます。
接地が不安定だと、その後の荷重も不安定になりやすいです。
2.体重を乗せる場面
接地した足に体重を乗せていく場面です。
ここでは、
しっかり荷重できているか
膝折れがないか
膝過伸展がないか
体幹が逃げていないか
骨盤が安定しているか
を見ます。
この場面で不安定になる人は、支持脚への信頼が低い可能性があります。
痛み、筋力低下、感覚障害、恐怖心なども関係します。
3.片脚で支える場面
片足で身体を支えている場面です。
ここは歩行観察でかなり重要です。
見るポイントは、
骨盤が落ちていないか
体幹が側屈していないか
支持脚が安定しているか
足部が崩れていないか
反対側の足をスムーズに振り出せているか
です。
片脚支持が不安定な場合、体幹側屈や骨盤挙上、歩幅低下などの代償が出やすくなります。
4.蹴り出す場面
身体を前に進める場面です。
ここでは、
股関節伸展が出ているか
足関節背屈が出ているか
足趾で支持できているか
蹴り出しにつながっているか
歩幅が保てているか
を見ます。
蹴り出しが弱い場合、歩幅が狭くなったり、歩行速度が低下したりします。
5.足を振り出す場面
足を前に運ぶ場面です。
ここでは、
つま先が引っかからないか
膝が曲がっているか
股関節が曲がっているか
骨盤挙上や分回しがないか
足部が床から十分に離れているか
を見ます。
遊脚期で足が引っかかる場合は、膝屈曲や足関節背屈、股関節屈曲、骨盤の動きなどを確認する必要があります。
部位別に見る歩行観察ポイント
歩行周期で全体の流れを整理したら、次は部位ごとに見ていきます。
新人セラピストがまず見るべき部位は、
体幹・骨盤
股関節
膝関節
足関節・足部
です。

体幹・骨盤
体幹と骨盤は、歩行中のバランスや重心移動に大きく関わります。
見るポイントは、
体幹が左右に傾いていないか
骨盤が下がっていないか
骨盤が後ろに引けていないか
過剰な回旋がないか
重心移動がスムーズか
です。
体幹や骨盤が不安定だと、下肢の動きにも影響します。
たとえば、片脚支持で骨盤が落ちる場合、股関節外転筋の機能低下や荷重不安が関係していることがあります。
股関節
股関節は、身体を支えることにも、足を前に出すことにも関わります。
見るポイントは、
立脚期に股関節伸展が出ているか
片脚支持で股関節が安定しているか
体幹側屈で代償していないか
遊脚期に股関節屈曲が出ているか
股関節の動きが左右で違わないか
です。
股関節の動きが不十分だと、歩幅が狭くなったり、骨盤や体幹で代償したりすることがあります。
膝関節
膝関節は、立脚期の支持性と遊脚期のクリアランスに関わります。
見るポイントは、
接地後に膝折れがないか
立脚期に膝過伸展がないか
遊脚期に膝が曲がっているか
つま先が引っかかっていないか
左右で膝の動きが違わないか
です。
膝折れや膝過伸展は、歩行の安定性に大きく影響します。
また、遊脚期に膝が曲がりにくいと、足を振り出すときにつま先が引っかかりやすくなります。
足関節・足部
足関節と足部は、接地、荷重、蹴り出し、つま先のクリアランスに関わります。
見るポイントは、
踵接地できているか
足部が内側や外側に崩れていないか
足関節背屈が出ているか
蹴り出しができているか
つま先が引っかかっていないか
です。
足部は地面と直接接する部位なので、少しの不安定さでも歩行全体に影響します。
すり足やつまずきがある場合は、足関節・足部の観察が重要になります。
歩行観察を評価・介入につなげる流れ
歩行観察で大切なのは、ただ「変な歩き方を見つけること」ではありません。
観察した内容を、評価や介入につなげることが大切です。
ここが、新人セラピストにとって一番大事なところです。

流れはシンプルです。
観察
↓
仮説
↓
追加評価
↓
介入
この順番で考えます。
1.観察|見えた現象を書く
まずは、見えたことをそのまま書きます。
たとえば、
右立脚期に体幹が右へ傾く
左遊脚期につま先が引っかかりそう
麻痺側立脚期が短い
歩幅が狭い
方向転換でふらつく
この段階では、原因を決めつけなくて大丈夫です。
まずは、見えた現象を正確に言語化します。
2.仮説|考えられる原因を複数出す
次に、その現象がなぜ起きているのかを考えます。
たとえば、つま先が引っかかる場合、
足関節背屈が不足している
膝屈曲が不足している
股関節屈曲が不足している
骨盤挙上で代償している
遊脚期のタイミングが遅い
疲労で足が上がりにくい
など、複数の可能性があります。
新人のうちは、原因を一つに決めるよりも、
可能性を複数出すこと
が大切です。
3.追加評価|仮説を確認する
観察だけで原因を決めつけるのは危険です。
歩行で見えた現象に対して、追加評価で確認します。
たとえば、
関節可動域
筋力
感覚
バランス
片脚立位
荷重能力
疼痛
疲労
補助具の使い方
などを確認します。
歩行観察は、あくまで仮説を立てるための入口です。
評価で確認して初めて、介入につなげやすくなります。
4.介入|練習内容につなげる
観察と評価をつなげることで、介入の方向性が見えてきます。
たとえば、
観察
左遊脚期につま先が引っかかる
仮説
左足関節背屈不足、膝屈曲不足、股関節屈曲不足、遊脚期のタイミング不良
追加評価
足関節背屈可動域、前脛骨筋筋力、膝屈曲、股関節屈曲、疲労時の変化
介入候補
足関節背屈練習、下肢の振り出し練習、ステップ練習、歩行中のクリアランス練習
このように、
観察 → 仮説 → 評価 → 介入
の流れで考えることが大切です。
新人セラピストがやりがちな注意点
最後に、歩行分析が苦手な新人セラピストがやりがちな注意点を整理します。
注意点① いきなり細かく見すぎる
最初から足関節の角度や骨盤の細かい動きだけを見ようとすると、全体像が見えなくなります。
まずは全体像を見る。
その後に部位ごとに見る。
この順番が大切です。
注意点② 異常歩行の名前だけで終わる
「分回し歩行です」
「トレンデレンブルグ歩行です」
「すり足です」
これだけで終わってしまうと、評価や介入につながりません。
大切なのは、
なぜその歩行になっているのか
を考えることです。
注意点③ 原因を一つに決めつける
歩行の問題は、ひとつの原因だけで起きているとは限りません。
筋力、可動域、感覚、バランス、疼痛、恐怖心、注意力、環境など、複数の要素が関係します。
新人のうちは、原因を一つに絞るより、複数の仮説を出す練習が大切です。
注意点④ 歩き始めや方向転換を見ない
まっすぐ歩く場面だけを見ると、問題を見逃すことがあります。
歩き始め、方向転換、停止、段差、疲労時など、日常生活に近い場面も観察することが大切です。
まとめ|歩行分析は「見る順番」で整理できる
歩行分析が苦手な新人セラピストにとって大切なのは、最初からすべてを完璧に見ることではありません。
まずは、見る順番を持つことです。
今回のポイントをまとめると、
歩行観察は全体から部分へ見る
まずは歩行速度、歩幅、左右差、ふらつき、代償動作を見る
歩行周期で分けると整理しやすい
体幹・骨盤、股関節、膝関節、足関節・足部を見る
観察した内容は、仮説・追加評価・介入につなげる
異常歩行の名前だけで終わらせない
歩行分析は、経験を積むほど見えるものが増えていきます。
でも、その土台になるのは、
何を、どの順番で見るか
です。
歩行をなんとなく眺めるのではなく、
観察したことを言語化し、仮説を立て、評価につなげる。
この流れを意識するだけで、新人セラピストの歩行観察はかなり変わります。
次回予告
歩行を見る力を育てる4部作|第3作
なぜその歩き方になるのか?
歩行分析に必要な神経生理学
第2作では、歩行を運動学的な視点から観察する基本を整理しました。
ただ、実際の臨床では、関節の動きだけでは説明しきれない歩行もあります。
一歩目が出にくい
すくみ足がある
感覚が低下して荷重が不安定
歩行が自動化されにくい
二重課題で歩き方が崩れる
こういった歩行を理解するには、神経生理学的な視点も必要になります。
次回は、歩行分析に必要な神経生理学を、臨床につながる形で整理していきます。
このシリーズで目指すこと
このシリーズでは、歩行を4つの段階で整理していきます。
第1作
高齢者の歩き方で気をつけたいポイント
転倒予防のために見るべき6つのサイン
第2作
歩行分析が苦手な新人セラピストへ
まず見るべき歩行観察の基本
第3作
なぜその歩き方になるのか?
歩行分析に必要な神経生理学
第4作
歩行分析チェックリスト完全版
評価・仮説・介入までつなげる実践シート
最終的には、歩行をただ眺めるのではなく、
観察から仮説、そして介入までつなげられること
を目指します。
この記事のポイント
歩行分析が苦手な理由は、見る順番が決まっていないことが多い
歩行観察は「全体から部分へ」が基本
新人セラピストは、歩行速度・歩幅・左右差・ふらつき・代償動作から見る
歩行周期で分けると、歩行観察は整理しやすい
観察した内容は、仮説・追加評価・介入につなげることが大切
