【大阪・肥後橋南蛮亭】ほぼ!完全再現レシピ⑤
私がカレーの沼に足を踏み入れたのは14年ほど前。
当時、職場近くの喫茶店にあった「激辛カレー」というなんのひねりもない名前のメニューを、同僚たちとひたすら食べるようになったのがきっかけでした。
いま考えると辛いだけで別にたいして美味しくもなかったのですが、とにかく尋常じゃない辛さに耐えることが快感になっていたのかもしれません。
それから程なくして、一人でらくしゅみのキーマ、スホベイや森元のビーフなど、本当に美味い激辛を求めて彷徨ううちに、当然の成り行きで肥後橋南蛮亭のチキンカレーに出会いました。

おそらく、私のような標準的辛さ耐性の舌と胃腸が受け入れられるほんとのギリギリを攻めながら、ガツンと押し寄せる鳥の旨味と目が覚めるようなスパイスの芳香(むしろ咆哮)で感動と滝汗を与える、大阪が誇るエクセレントなカレーの一つです。ていうか焼鳥屋が戯れで出していいレベルをはるかに超えてます。うますぎる。
ここでは、そんな肥後橋南蛮亭の「大辛口チキンカレー」を、ほぼ完全に再現しようという試みを載せています。
もちろん、肥後橋南蛮亭で使われている材料や調理手順を完全に解き明かしたものではありません。慎重な考察と試行錯誤に基づいているつもりですが、お店では使ってない材料を使ってるかもしれないし、やってない工程をやってるかもしれないし、その逆もあり得ます。あくまで「出来上がるまでのプロセスを含めた完全一致」ではなく、目を瞑って食べたらどちらが本物かわからない「出来上がったカレーと自分の記憶にあるお店のカレーとの主観的な一致」を目指してます。悪しからず。
「大辛口チキンカレー」に関する公式情報
さて、肥後橋南蛮亭の大辛口チキンカレーについては、お店の入口に立てかけられたメニューに書いてある、
鶏の旨味を凝縮
香り高いスパイスと数種のチリで大辛口に仕上げました
辛口が苦手な方は御遠慮下さい
ココナッツミルク、キャベツピクルス付
だけが公式情報です。

他のカレー専門店などと違い、公式サイトでこのカレーが生まれた背景や歴史、こだわりなどが語られているわけではありません。
なので、この4つの情報だけを頼りに、カレー・ココナッツミルク(とされている白い謎ソース)・キャベツピクルスの三つの謎を解き明かしていきます。手ごわい。
カレー再現の取っ掛かりは?
まずはカレー自体の再現。
昔からずっと思ってたのですが、オイリーで水分がほとんどなく、挽き肉と少しの塊肉がメインで、複雑なスパイスの香りと刺激的な辛さが直接襲いかかってくるこの感じ、大阪のレジェンド店のひとつ「バンブルビー」のカレーにめっちゃ似てませんか?味、香り、辛さの方向性もかなり近い気がします。

バンブルビーも14年足繁く通う大好きなカレー屋さんの一つですが、実はこのバンブルビー、「関西のスパイスカレーのつくりかた」というレシピ本に載ってるんですよね。お店の正式メニューではなく、この本のために考案されたオリジナルカレーのレシピですけど、方向性はほぼ同じだと思われます。
早速見てみると、、、

手順がめちゃくちゃ重厚で格調高いです。まさに唯一無二。レジェンド。
スパイスをローストしたり、スパイスを湿らせてペーストにしたり、オイルの中にパウダースパイスを混ぜ込んだり、玉ねぎを大量のオイルで揚げたり、フルーツミックス(おそらくチャツネ的な役割)を使ったりと、一つ一つはインドカレーのレガシーなレシピで見かけるものですが、それらを全部いっぺんにやっちゃうのはエグいです。他では見たことありません。
おそらく肥後橋南蛮亭でも、ここまでフルコースな手順はさすがに踏んでいないと思われます。
なので、スパイスの種類や配合、オイルの分量などを参考にしつつ、手順自体は比較的オーソドックスなスタイルで試していくことにします。
鶏の旨味はどうやって?
大辛口チキンカレーの最大の特長は、メニューにも書かれてる通り「鶏の旨味を凝縮」しているところですね。
私は10年以上にわたり、年間50回以上、鳥専門の精肉店で地鳥を仕入れて自宅で炭火焼鳥をしたり、夏でも月3回はお家で水炊きをする鳥食マニアなんですが、「鶏の旨味」と聞いて最初に思いつくのは、やはり骨髄や身から染み出す「ガラスープ」ですよね。

今回の再現チャレンジでは、弱火でじんわり染み出させた、飲んで美味しい澄み切ったスープを使ってみたり、強火でガンガン炊いた博多風水炊きの白濁した濃厚なやつを使ってみたりしたのですが、コクやとろみのバランスに悩みつついろいろ試した結果、大辛口チキンカレーの再現にあたっては、結局ユウキ食品のガラスープを使うのが一番近かったです。さすがプロ御用達、普通に優秀です。

もう一つ、「鶏の旨味」といえば「鶏油(チーユ)」があります。
鶏油は鶏皮をひたすら弱火でカリッカリに焼くだけで簡単に抽出できるし、冷凍保存しても普通に削り取れるので、時間のあるときにまとめて作っておいて瓶に入れて冷凍庫に放り込み、必要なときにガリガリと使えるので楽ちんです。炒飯、ラーメン、野菜炒めなんかにも相性抜群です。
こいつをたっぷりと使い、オイリーさと鶏の旨味をしっかりと再現していきます。

スパイスの香りを高めるには?
次に、公式情報にある「香り高いスパイス」について考えていきます。
お店のキッチンの棚に置いてるスパイスを眺めると、ホールはいくつか識別できますね。ワイルドカルダモン、カスリメティ、ブラックペッパーなどはたぶん間違いなさそうです。あとパウダーはターメリック以外は自信なくて、ローストナッツを砕いたやつ?フェヌグリーク?フェンネル?あとは砂糖と小麦粉?奥にも瓶があるけど中身は見えません。でもまあ、バンブルビーのレシピで使われてるやつも多々あるので、方向性は合ってそうです。

まずバンブルビーに倣って、ホールスパイスはローストしてみました。
ただし、バンブルビーではコーヒーの焙煎のように真っ黒になるまで炒っているようで、店に入るとたまに目が痛くなって思わずむせ返るほどですが、今回はあくまで香りをブーストすることが目的なので、もう少し抑えたところで止めておきます。
それから、ホールスパイスはミルしておきます。大辛口チキンカレーではホールスパイスの形状はほとんど残っていないんですよね。ローストしたホールスパイスを細かくすると香りが一気に立ち上がりますし、バンブルビーでもこの手法が採られています。その際、大きいスパイス、火の通りが遅いスパイスを先にローストして砕いておき、小さくて火が通りやすいものをその後に加えています。
スパイスはオイルと一緒に加熱されて初めて香りが強くなりますが、ここに鶏油を使うことで、鳥の風味がより一層強調されます。ただ、最初のチャレンジの際、オイルに粉末状にしたスパイスを一気に全部入れたところ、粉が脂を全部吸ってしまったので慌てて追いオイルしたのですが、出来上がったカレーの油分が多すぎて米の底の方まで染み出して真っ黄色になったため、手順をいろいろ組み替えて試してみました。
最終的には、はじめにマスタードシードをテンパリングし、パチパチ弾けだしてから鳥肉を軽く炒め、その上からロースト&ミルしたスパイスを振りかけて絡めて、鶏の旨味とスパイスの香りをしっかりと融合させる手順に行き着き、狙い通りの「香り高いスパイス」が再現できました。
「数種のチリ」ってどれ使ってる?
続いてのヒント、「数種のチリで大辛口に仕上げました」です。
私は基本的にスパイスは「神戸スパイス」で仕入れているのですが、そこで置いている辛味を生み出すスパイスをいくつか買って試行錯誤してみたところ、最終的には、「チリ」「グリーンチリ」「赤唐辛子(ホール)」の組み合わせがちょうどよいかな、という結論に至りました。

そしてここで思い出したことがあります。
ネットで血眼になってこの大辛口チキンカレーにまつわる有力な情報がないかを探し回っていたら、大昔に南蛮亭のご主人の義父が二階で経営されていた「バーボンイン」というお店の「メキシカンシチューライス」の味がしっかりと継承されている、という書き込みを見かけました。

メキシカン、、、?
んー、言われてみればなんとなくそんな風味もなくはないかも、、、と思い、早速メキシカンでは必須のあのスパイスを少しだけ加えて試してみたところ、しっかりとお店の味に近づきましたので、これも採用してみました。チリって名前もついてますしね。「数種のチリ」に含めちゃいます。
これらの配合と分量は、お店でカレーだけを10秒ほど舌に乗せてから食べるのを繰り返し、痺れと辛さを体に覚え込ませながら再現しました。後ほど詳しく載せていますのでご参考ください。
以上の通り、幾度もの試行錯誤を経て、カレー部分についてはほぼ完全に肥後橋南蛮亭の大辛口チキンカレーになったかな、と思います。
これホントに「ココナッツミルク」?
続いて、お店の入口のメニューでは「ココナッツミルク」と書かれている、あの「白い謎ソース」を再現していきます。
世の激辛原理主義者の方々の中にはこのソースを省いた「白抜き」こそ正義、という風潮がありますが、辛さ耐性の低い私には大事なソースです。
味の深みを生み出す役割も果たしていると思います。

で、こいつは純粋なココナッツミルクではありません。
どろっとしながらさらっとしてる、謎のソースです。
オイリーな鶏ひき肉のカレーも、キャベツのピクルスも、他のカレー店で見たことはあります。でも、この白い謎ソースだけは、肥後橋南蛮亭でしか見たことがありません。何なんこれ。
最初はグラタンなどで使われる「ベシャメルソース」かな?と仮説を立て、溶かしたバターで小麦粉を捏ねて、ココナッツミルクで引き伸ばして作ってみたんですが、どうも違う。それぞれの分量や加熱時間を調整しながらひたすら試しましたが、全然うまくいかない。
悩みながらお店でこの白い謎ソースだけを何度も掬い取って味見しているうちに、「あ、これポタージュスープじゃね?」と気付きました。
バター・小麦粉・ココナッツミルクだけで作ったソースは、ココナッツの味わいが直接的に舌に刺さり、ねっとりし過ぎで、単体では別に美味しくもない代物ですが、肥後橋南蛮亭の謎ソースはこれだけでも旨味があって美味しい、まるで洋食店のポタージュスープのようでしたので、ポタージュのレシピを調べまくって材料と手順を再考してみたところ、ほぼ同じものが出来上がりました。後ほど詳しくご紹介します。

ほぼ生野菜の「キャベツピクルス」
お店でこのピクルスだけを単体で食べてみると、びっくりするくらい「あっさり」です。ピクルスをピクルスたらしめる酸味も塩味も甘味もうっすらとしか感じません。ほぼ生野菜です。

インデアンカレーで出てくる、あの単体で無限に食べられるピクルスとは方向性が違います。わずかに人参の千切りも加えられています(日によって違うようです)。
上述の「メキシカンシチューライス」の書き込みをされていた方は「ザワークラウト」と表現されていましたが(バーボンインではザワークラウトが出てたのかもしれませんが)、そんなにしなしなでもないし味わいもないです。おそらく完全に箸休めとしての役割を担わせているのでしょう。
なので一般的なピクルスの砂糖・塩・酢の分量を思いっきり減らし、漬込時間も短縮しながらいい塩梅を見つけていきました。
これも、かなりの再現度になったかな、と思っています。
再現レシピは見た目も大事
お皿も、カレーの再現には欠かせない要素ですよね。
過去に私がnoteに投稿させていただいた「インデアンカレー」「自由軒」「上野デリー(のライス皿)」は自作しましたが、「上野デリー」のカレーポット、「カシミール」の皿はお店で実際に使われてるのと同じものを見つけ出して買いました。
今回も、お店で使われている大辛口チキンカレー並盛用のステンレス皿を見つけました。

ホントはカレーを乗せてるあの黒い正方形のお盆もほしいのですが、まずはここまでで良しとしましょう。
いよいよ、ほぼ!完全再現
で、出来上がったのがこちら。

鳥の旨味と甘味と香ばしさ、スパイスの薫香が鼻の奥で爆発するのを感じながら、食べ始めて10秒くらいで、「あ、これやばそう」と感じる舌からのSOS。半分ほど食べた時点で溢れ出る汗。ココナッツミルクソースとキャベツピクルスに助けられながら完食した後の爽快感と満足感。
ほぼ完全に再現できているのではないかと自負しております。
ここから先は、材料・分量・手順等を細かく記しています。私が使ってる調理器具も紹介しています。
試作しては店に食べに行くのを繰り返し、カレー部分はもちろん、ココナッツミルクもキャベツピクルスも一切妥協せず、目を瞑って食べたらどちらが本物かわからないレベルに仕上げるべく、研究を重ねた成果です。
興味のある方は、こちらのダイジェスト版動画を確認ください。この先に、調理工程を詳しく説明した動画の完全版を掲載しています。
※ちなみに、大阪「インデアンカレー」、北浜「カシミール」、難波「自由軒」、東京・上野「デリー」の再現レシピも投稿しています。もしご興味があれば,、こちらからどうぞ。
注)以下の再現レシピで使用している「炒め玉ねぎ」は、香取薫先生の「本格カレーとビリヤニ 最速レシピ」に掲載されているものをそのまま使っています。著作物を転載することは出来ないので、「炒め玉ねぎ」の作り方だけは、上記の書籍を参考にしてください。それ以外の情報はすべて惜しまず掲載しています。
★肥後橋南蛮亭「大辛口チキンカレー」ほぼ!完全再現レシピ
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