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書店業界のゲームチェンジャーたち

私が知る限り、書店の数が日本のように数十年にわたり減少し続けているような国は海外にはないし、書籍の売り上げも減っていません。それどころか、むしろ増えているところもあります。欧米の先進国でそういった状況ですから、グローバルサウスといわれるアジアなど人口が増えているエリアでは、もっと本の売り上げが増えていると思います。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.240

こんにちは。本屋を始めたい夫婦の夫です。

今日は前回の続き。「書店再興」を読んで学んだことをシェア。

現在の書店業界は、一昔前の夢のようなシステムによって圧迫されている。「委託販売制度」と「再販売価格維持制度」によってそれぞれのプレイヤーは守られてきた。いや、こうした制度が本屋は在庫リスクを負わず選書能力を失い、出版社はキャッシュフローのために売れない本を量産する状態を作っているわけだから、甘やかされてきたと言った方がいいかもしれない。

前回の記事では書店業界の現在地をまとめましたが、今回はそんな業界に風穴を開けようとするゲームチェンジャーたちを紹介します。書店、本屋側でゲームチェンジに取り組む人もいれば、官民一体となって取り組む事例、全くの異業種からの参入もあれば、大手・老舗が動き出した例もある。

先に結論を言っておくと、書店業界、めちゃくちゃ面白い。ずっと同じシステム、ビジネスモデルで、市場の変化に対応できず苦しんでいるかと思いきや(大半はそうなんだろうけど)、新しい取り組み、変化がたくさんある。

もちろん業界全体が変わるには時間がかかる。今のシステムは書店や出版社にとって都合がいい側面もあるので、変化を好まない人もいるだろうし、変化によって淘汰される人も出てくる。全国1万社ある書店、数千社ある出版社の中には、変化に対応できないところも多い。
でも、書店の数が20年で半減してしまった状況をそのまま放置していたら、全員が真綿で首を絞められるように苦しくなっていく。だから立ち上がった人たちがいる。

僕が本屋をやるとなると、全く異業種からの若手の参入だ。やるなら、業界の変化を前に進める存在になりたい。
なので、この記事では僕が本屋をやるなら参考にしたい新しいコンセプト、本屋に取り入れたい新しいシステムを作っているゲームチェンジャーたちを中心に紹介していきます。

透明書店:IT業界から参入!でも通期黒字化は難しい

最初のゲームチェンジャーは東京蔵前で2023年から営業している「透明書店」
透明書店は冊数3000冊ほどと、いわゆる独立系書店に近い規模感ながら、何より特殊なのはクラウド会計ソフトを提供するITスタートアップfreeeが母体となっている点。freeeは従業員2000人近く、東証グロース上場企業で、昨年度売上300億を超える大企業。なぜ急成長中のITスタートアップが、小さな本屋を経営するのかというと、

大企業化する中で、メンバーが創業時のチャレンジングな体験をする機会が減るようになりました。そこで、自分たちの原点であるスモールビジネスに立ち返ろうという話になった。それが透明書店の発端です。
<中略>
freeeのビジネスはITの無形産業で、店舗や在庫を持ちません。だったら、そこからいちばん遠い存在である小売業、店舗運営業を手がけることで、普段の業務では気付けないことが学べるんじゃないか、と考えました。
<中略>
大型書店でも苦戦していたりというニュースがある一方で、独立系書店、セレクト書店といわれる、個人の価値観を打ち出した書店は、むしろ増えている。そこに着目したからです。従来の書店というくくりでは、ちょっと表現しきれない状況は、僕たちfreeeが掲げている「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションに通じていると考えました。
<中略>
書店という業界は、物販や不動産的なテナントリーシング、イベント業と、いろいろな業種、事業との親和性が高く、カルチャーのハブになるところも魅力に思えました。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.94

つまり、透明書店は書店だけで成り立たせようというものではなく、freeeのチャレンジ、実験の場として営業している。そのため、先進的な取り組みが多い。シェア本棚(棚貸し)やシステムを用いた無人営業、イベントやギャラリーにもトライ。
たしかに、書店はスモールビジネスの要素が集約されている。本を売るだけでなく、雑貨も売れるし、カフェやギャラリーなどほかの小売業との連携もしやすい。イベント運営やコンテンツ販売、選書サービスなど、小売以外の形態も組み合わせることができる。

透明書店はスモールビジネスの支援、ひいてはfreeeのブランディングに役立てることを目的としているので、スモールビジネスを立ち上げようとする人に参考になる情報をどんどんオープンにしてくれている。
本書でも紹介されているけど、noteでもっと詳しく出ているのでそっちを見ていると、勉強になる話がたくさんあった。

まずは創業時のお金周り。この記事では初期費用の明細が紹介されている。

「設備費」とまとめるのではなく、空調にいくらかかったのか、内装にいくらかかったのか、など細かく出ている。
透明書店の場合、初期費用は1500万円。不動産取得に約230万円、内装工事や什器などの設備費に約550万円、書籍の仕入れやグッズの制作に約390万円(内書籍が約3000冊で370万円ほど)。会社設立の事務手続き等に27万円、ロゴや販促ツール、備品の用意に66万円。残りの240万円ほどを運転資金にしてスタート。

こうした数字は非常にありがたい。東京にいく機会があれば透明書店を覗いてみよう。内装550万円でどんなお店ができるのか、実感してみたい。ただ今やるとなると資材費も上がっているから同じものを作るにももっとするんだろうけど…

さらに、営業開始してからの損益計算書も事細かに見せてくれている。
営業初月(営業日はわずか8日間のみ)は、開店記念の盛り上がりもあり、売上は約140万円(目標は100万円)。粗利が約44万円なので、粗利率は30%ほど。書籍の粗利は2割ほどだけど、イベントやグッズ関連の売上もあったため粗利率がよくなっている。

一方、最終的な利益は150万円近い赤字。その理由は販管費が大きかったから。ありがたいことに、「販管費」とまとめるのではなく、その中身まで明かしてくれている。
初月の販管費が190万円ほどかかっているけど、これは給料等約25万円と、消耗品等が約94万円、それから、支払い手数料が6.5万円ほど。

給料は一旦置いといて、消耗品が90万円以上というのは驚き。これは初期費用に入っていないだけで、いざ営業してみると必要になったものが色々発生したためとのこと(毎月これだけの消耗品が発生するわけではない)。
これはありがたい情報。準備万端!と思って店を立ち上げても、いざお客さんを迎えてみて初めてわかる必要なものがたくさんある。最初の数か月、予期せぬキャッシュアウトが発生することを見越して、余裕を見ておかないと危ない。

それから、支払い手数料が6.5万円というのも驚き。キャッシュレス決済のシステム手数料だけど、地味に大きい。売上140万円に対して、4.6%ほど。どういうシステムを入れるかによって変わるけど、粗利20%程度の本で決済されるたびに4%削られるとなるということは、粗利でみると20%減るということ。
この辺も、店舗運営経験のない僕が見落としがちなところなので、知れてよかった。

こちらの記事ではオープンして1年経って、1年分の売上と利益、平均客単価などの購買データ、書籍・グッズの売上、そして1年経って気づいた15の気づきが紹介されている。
「透明書店は家賃28万円のテナントを借りているけど、規模と立地をもう少し考えればよかった」とか、「FAXが意外と役立っている」「グッズの値段は高くても5000円くらい」などなど。

こちらは2年目の損益計算書。ざっくりした数字は、年間売上1700万円ほどで、粗利が900万円ほど。書店としてはかなり利益率が高いけど、グッズやイベントの他、古本販売やシェア本棚(棚貸し)などのビジネスモデルを取り入れた影響のよう。

粗利の構成比で見ると、書籍以外がぐっと大きくなります。粗利ベースでいうと書籍の部分はだいたい二割から三割程度で、イベントや雑貨販売、棚貸し(シェア型)やギャラリーのレンタル代などが七割、八割くらいになります。
<中略>
だいたいのところですが、利益率は新刊が二十三%、古本が七十五%、オリジナル雑貨が六十%、仕入れ雑貨が四十%、ドリンク販売が七十%ぐらいです。また、棚貸しとギャラリーのスペースレンタルとイベントは、仕入れがないので利益率でいうと百%になります。無人営業の利益率は出していないのですが、その時間帯での売り上げは全体の三割ぐらいになっています。
利益率とは別に、スペースレンタルについては、ここが埋まる、埋まらないとでは、経営に大きな違いが出てきます。たとえばギャラリーは展示を見に来たお客さまが、ついでに本や関連グッズを買ってくださったり、ドリンクを頼んでくださったりします。その「ついで」の積み重ねが意外と大きいです。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.104

しかし販管費が1200万円近くかかっているため、300万円ほどの純損失。この販管費の内訳が知りたい。家賃が月28万円で年間340万円弱。残りは人件費だろうか?人件費なら、自分たちのお店ではそこまでシビアに見る必要はないかもしれないが、開業1ヶ月目で初期費用に入っていなかった備品が90万円以上も発生したように、想定外の出費が数百万円もあるなら、注意しないといけない。

と、、、

透明書店がnoteでもいろんな情報を公開しているので、長くなりすぎてしまった。
「書店再興」では10のゲームチェンジャーが紹介されているので、このペースじゃ全然終わらない。全部取り上げるつもりはないけれど、自分たちの参考になる、自分たちが店舗を作った際に使いたいサービスなんかは。しっかりこの場に残しておきたい。

ということで、テンポアップ。

本屋B&B:新刊書店が成り立つことを証明した独立系書店の走り

次のゲームチェンジャーは東京下北沢の「本屋B&B」
本屋B&Bの名前は知っていたけど、イメージとしては独立系書店の走り的存在。独立系書店をやりたい人なら必ず読んでいると言ってもいい「これからの本屋読本」を執筆した人(この本もいずれ紹介したい)。

本屋B&Bのオーナーの内沼晋太郎さんは、ただの本屋オーナージャーではない。大学卒業後、ブックフェア関連の企業に就職するも数ヶ月で退職し、本屋でアルバイトをしながらネット書店を設立。その後、イベント企画などブックコーディネーターとして活動しながら、2012年には博報堂と協業で本屋B&Bを創業。博報堂と協業とはいえ、博報堂の資本は入っていない。
他にも出版情報サイトの編集長や、読書用品ブランドのプロデュース、日記専門店など色々なお店の設立や運営に携わり、さらに現在は古本販売大手バリューブックスの取締役まで務めている。
書店経営者としてだけでなく、編集や雑貨、本屋以外の店舗ビジネス、古本販売まで、「本」のあらゆるフェーズに関わっている。

新刊書店は成り立ちます。もちろん、いろんな留保付きではありますが、成り立つ世界でないといけない。その証明として僕は本屋B&Bを経営しています。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.113

本に関わる様々な業界を見ている内沼さんにとって、今の書店業界は「大きな業界」と「小さな業界」が2つあって、その一部が重なっている状態とのこと。
大きな業界は大規模な出版社、大手取次、全国チェーンの大型書店など。小さな業界には独立系書店、ZINEやリトルプレスなどの小規模な出版からなる新しいエコシステムがある。この小さな業界が着実に存在感を増している状態。

僕がやりたい書店は「小さな業界」に属することになるだろうけど、「大きな業界」にも少し足を踏み入れたいと思っている。シェア本棚やZINEも扱っていきたいけど、そっちに特化すると「まちの本屋」として必要なメディア機能が果たせなくなる。

この記事でも少し書いたけど、やっぱり僕は本屋に「その時代を編集し、提案するメディア」としての役割を見出している。もちろんシェア本棚やZINEといった動きも今の時代を象徴するものだから取り入れていきたいけど、著名な学者や言論人、作家がアウトプットする「知の結晶」を流通させるインフラとしての役割も果たしたい。

本とイベントの二本柱です。本屋は成り立つと、僕はいっていますが、本の売り上げだけではやはり厳しいです。
僕たちは26年に開業十四年を迎えますが、その中で自分が「やれたな」と思うことの一つが「書店でのトークイベント」というものを、世の中に根付かせたことじゃないかと思っています。新刊の本について、著者や編集者、関係者が語る書店イベントは、今ではだいぶ当たり前の光景になっていますが、僕らが始めた時は、当たり前ではありませんでした。
<中略>(イベントの価格について)
税抜きで二千五百円です。毎回、多くのイベントは、ワンドリンク付きで、著者と対談相手の組み合わせと、内容、タイトルを重視し、イベントとしての編集をきちんと行なっています。それによって、イベントへの信頼度、認知度も定着してきました。
書店が新刊書を一冊売った場合、粗利は定価の二十%強。イベントの場合は、たとえば参加費二千五百円で三十人が集まると、一日で七万五千円。加えて、イベントで関連書籍の売り上げも見込めるので、イベントは本の利益率の低さをカバーできる部門になります。
イベントに関しては、リアルだけでなく、オンラインでの配信を確立したことも経営にプラスになっています。ちなみにオンラインの参加費は税抜きで千五百円です。また、イベントの内容はアーカイブとして一定期間、販売もしています。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.117

本の売上だけで成り立たせるのは難しい。それは独立系書店の走りである本屋B&Bでも変わらない。だから本以外の売上が重要になる。イベントの価格設定やオンライン販売の情報はありがたい。僕はオンラインでマーケティングをずっとやってきたので、この部分は親和性がありそうだし、伸ばしていけると思う。
ただ、大阪という立地では東京ほどイベントをやるのが簡単ではない。出版社も著者もほとんどが東京圏にいる。今のうちから関西圏にいる出版社や著者をリサーチしておこう。ギャラリーもやる予定なので、関西圏で活躍するアーティストにもしっかりアンテナを張っておきたい。

僕は今、「書店消滅」を大声で語るのは建設的ではないと考えているんです。書店が危機だ、という言説には流行りがあります。ゼロ年代、10年代、そして20年代と、だいたい10年おきにネガティブタイトルが目立った本が出て、危機を語るブームが起こるんですよね。けれども、前提となっている業界の状況はほぼ同じで、それでも書店はなくなっていません。
従来のまちの書店は減っていますが、一方で新しい業態が登場しています。消滅というより、業界地図が変わっている、ということです。需要が減れば必要な数は減りますが、ゼロになるわけではない。問題はこれまで通りの環境を維持できないことで、いかに変化に対応できるか、ということだけです。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.122

おっしゃる通り。確かに本屋さんは減ってきている。でも梅田の蔦屋書店や紀伊國屋書店などの大型書店は、特に週末だとレジ待ちが発生するほど混雑している。若い人も多い。間違いなく、本屋は人に必要とされている。
問題は「本」や「本屋」ではなく、ビジネスモデルと業界構造にある。返本問題を解決すれば、書店の利益を増やすことができるだろう。書店側が仕入れの能力を持ち、売れる本をしっかり選ぶことができれば、出版社も売れない本を量産するのではなく、売れる本一つ一つにしっかり力を入れていくことができ、利益を増やすことができるだろう。すると本一冊に占める出版社の取り分を減らすことができ、その分を取次や書店に回すことができる。

前回の記事で触れたように、出版社は手元のキャッシュのために、とにかく新刊を出しまくる。多くの本屋が自分で本を選ばず、送られてくる本をそのまま並べるから、店舗の品揃えのかなりの割合を売れない本が占め、返本される(配送料が二重にかかる)。その結果、業界全体の利益率を圧迫してしまう。

もちろん、そうした変化によってこれまで本を出せていた人の多くが出せなくなるかもしれない。ただ、いまやZINEやリトルプレスで、本を出したければ誰でも出せる時代。そうしたものは出版社の手が入らず、自由で独自なものがどんどん生まれていくから、新しい魅力を放っている。

大手出版社は、「知のインフラ」として、5年、10年と残り続けるものをしっかり作り込んで、コストをかけてプロモーションし、著者にしっかり還元する。
それによって省かれてしまうけど、それでも出したいと強く著者が願うようなものは、ZINEやリトルプレスで出し、小部数だからこそできる独自の価値、魅力を届けていく。

そういう棲み分けみたいなものが必要に思う。と、こんなことを本屋を始めてもいない、何も出版してもいない身で言っても仕方ない。

本屋B&Bのオーナーの内沼晋太郎さんは積極的に海外の事情も調べに言っているようだけど、その中で面白かったのが韓国の事例。韓国では作家と一緒にワークショップをやるような書店イベントに対して助成金を申請できたそう(今はない)。
開業支援の助成金は日本でも色々あるけど、イベントに対しての助成金というのは聞いたことがなかったので驚き。日本でも知らないだけでいろんな助成金があるので調べてみよう。

行動の前提として、紙の本が消滅するということは、僕自身はまるで感じていないことがあります。ある時、友人と話していて、「もしディスプレイが先で、後に紙という端末が出てきたら、すごい発明だとされたんじゃないか」といわれて、その発想の転換にハッとしたことがあります。
<中略>
ウェブ上にあるものはいつ中身が変わるか分からないし、ディスプレイは少し触れたり、時間がたったりすると、すぐに変わるじゃないですか。実際、僕たちはそれが不安だから、スクリーンショットを取ったり、紙に印刷したりしていますよね。つまり「固定されている」ということにしかない価値がある、ということなのです。
この三十年でインターネットは、当たり前のものとして完全に世の中に普及しました。この先十年くらいで、ほとんどの知的労働はAIが担うようになることでしょう。
でも、世界はこれだけ変化しているのに、僕はなぜか紙の本が消える気配を感じないのです。というか、むしろ再注目されている。その謎と魅力に迫りながら、これからも多様な本が循環し続ける世界が続くことを願い、そのような仲間を増やして、自分たちにできるチャレンジを続けていきたいと思っています。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.128

素晴らしい言語化。
僕はぼんやり、AI時代になると紙の本の重要性は増すのではないか?と感じている。単なる「知識」はAIがいくらでも提供してくれる。それによって、いろんなハウツーを手軽に手に入れられるウェブメディアや動画、講座なんかは廃れていくと思う。でも一方で、一冊と数時間向き合う「読書」という体験の価値は高まると思う。AIが10万文字を一瞬でアウトプットできるようになったとしても、人は読まないと思う。「紙の本」から得られる体験は、単発単発のハウツーの価値がなくなるAI時代に、むしろ高まるんじゃないかと考えていた。

「固定される」ことに価値があるというのは新しい視点。

ふと思うのが、数百年後の未来人が現代を分析した時、何もわからないんじゃないかということ。
昔のことを分析する時、いろんな文献資料が残っているけど、現代の情報は大半がサーバー上にある。Youtubeで素晴らしい言論活動をしている人の記録は、Youtubeがサービス終了した時、消えてなくなるかもしれない。ブログで素晴らしいアウトプットを続けている人の記録は、サーバー契約の終了とともに消えてなくなるかもしれない。サーバーにデータを置いておくのもタダじゃないから、今僕たちが見て、読んでいるものの大半は、数百年後に消えてくなくなる
結局、未来人が今を分析する時、参考にするのは紙の本になると思う。昔の偉人の手紙とかが残っているように、紙の本は絶版になっても、どこかに一冊くらいは残っているはず。そして印刷されてから遠い未来まで、一切の改変が加えられていない一次資料になる。そういう意味でもオンラインデータは改変されるので、残っていたとしても一次データとして役立たないかもしれない。

紙の本、大事だな。

僕たちが本屋をやりたい!と思って、考えて、行動している記録も、印刷して残しておいた方がいいかもしれない。僕が死ぬ時「あの時、どんな思いで本屋を始めたんだっけ…」と振り返りたい時に、noteがあるとも限らない。

本屋の退職金制度

「書店再興」では続けて梟書茶房、かもめブックスのインタビューへ。梟書茶房は本とコーヒーをテーマにドトールコーヒーが開いた業態で、かもめブックスの店主がプロデュースしている。梟書茶房の特徴は2つ。本屋にとりあえずカフェを併設した事例は増えてきているけど、ここでは「読書に集中する時間」を重視するため、「本とコーヒー」というより「コーヒーと本」がコンセプトであることと、カバーを隠して販売する「ふくろう文庫」という売り方。

梟書茶房のコンセプトや経営方針も面白いんだけど、僕が残しておきたいと思ったのはこの部分。

まちの書店は開業にまとまった資金が必要だけど、同時に在庫によって退職金が担保されている。だから、やめようと思ったら、やめやすい業態なんです。
本という商品は委託販売制度があるので、たとえば二千万円の在庫があれば、店を仕舞う時にそれらを全部、取次に返品すればいい。すると二千万円が返ってきて、それが退職金代わりになります。

引用:書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために p.142

返本制度は本屋にとって退職金でもあるのか。これは結構大きなメリット。普通は店を畳む時に色々なコストが発生するし、もちろん在庫を処分するにもコストがかかる。だから普通の小売店が閉店する時は、在庫処分セールとして赤字でもいいから在庫を減らそうとする。でも本屋は最後まで棚いっぱいに本を仕入れておいて、返本すればかなりの現金を受け取ることができる。
返本制度は本屋を守る上で、めちゃくちゃいい制度であることは確か。でもそれによって本屋側はやめようと思えば気軽にやめてしまえるし、後継者がいない時、無理に探そうとせずそのまま閉じるケースが多い。本屋が減ってきたことにはこうした要因もある。

このインタビューは書店業界の現場のリアルが見えてよかった。

いよいよ記事も1万文字を超えそうなので、ここからはリスト形式でさらにテンポを上げていきます。

日販が乗り出したブックホテル

  • 日販は出版問題を書店だけで解決しようとすることには限界があると考え、取次の立場を乗り越え本を読むための場所としてグループ会社で「文喫」と「箱根本箱」を立ち上げた。

  • 書店ビジネスは厳しいが、縮小しているのではなく、縮絨していると捉える。縮絨とはウールのセーターが縮むように密度が高まること。市場規模が小さくなる中でもベストセラーは出ている。コアなファンを持った独立系書店も増えている。本は決してなくならない。数として減っていくかもしれないが、ギュッと強く縮絨する。

  • 本のあり方は生活必需品ではなく、ワインのような嗜好品になっていく。情報を取得するメディアはより便利なものがたくさん登場しており、単なる情報の入れ物としての本の価値は代替されていく。一方で、本でしか実現できないもの、届けられない体験が本を嗜好品にしていく。AIで日常業務が効率化することで、空いた隙間に嗜好品としての本が入りこむのではないか。

  • 映画を見ることだけを価値と考えた時、Netflix等の登場により映画館の役割はなくなっているが、映画館でしか味わえない体験としてデザインすることで価値を発揮している。本も同じようにただ情報を得るだけなら他の方法に取って代わられるかもしれないが、「読む行為そのもの」「読む環境」にアプローチすれば、新たな事業が見えてくる。

  • 本が持つ価値を「体験」や「空間価値」に転換することで、本を売るのではなく「知的で洗練された生活様式」を売る、まさにワインのような嗜好品として提供する。

以前の記事で本屋のイメージを膨らませていた時、「理想の読書体験」という言葉が出てきた。

僕は本を読むベストなタイミングは、買ったその瞬間だと思っている。自宅でネトフリで映画を見てもいいけれど、せっかくだし映画館に行く。そんなふうに本屋に行くことが、これからの本屋が提供できる価値かもしれない。

経済産業省:国も支援したい

本書では書店業界のプレイヤーだけでなく、自治体なんかの取り組み事例も出てくる。言われてみれば図書館などは自治体が運営しているわけだから、官は書店業界の一角を占めている。とはいえ、自分で本屋をやりたい僕たちにはあまり関係ない話もあったので割愛。官の取り組みで面白かったのは、経済産業省文化創造産業課長 佐伯徳彦さんのインタビュー。

以前の記事で偶然出会ったレポートを作ったのも経済産業省の文化創造産業課

  • 経産省は24年に「書店振興プロジェクトチーム」を発足。業界関係者のヒアリングを通じ、書店特有の課題として29項目を挙げている。課題の中には「粗利率を抑制する流通慣行」「多すぎる出版物の刊行点数」「委託制度による返品率の高さ」「キャッシュレス決済の手数料負担」などがある。

  • 経産省の考えでは、書店は日本の中長期的な競争力の基盤。日本全体が競争力を持つためには多様な発想や考え方に触れることが必要で、書店はその役割を果たすことができる。海外でも書店は商売の一つではなく、文化の発信拠点として国力に関係すると考えられている。また、日本の重要産業であるアニメや漫画などのエンタメも書店という基盤が重要になっている。

  • 経産省は返本率の改善を特に重視している。配送される本の30%程度が返本される。出版社は返本されることを考慮した上で売上の中の取り分を決めているため、返本率を10%下げれば、出版社の利益や物流コストの低下だけでなく、書店の取り分を10%引き上げることも可能になる。

  • 返本率を下げるには何が売れているのか、マーケティングデータを集めることが必要。その他、講談社、小学館、集英社、KADOKAWAの大手4社が中心となりRFID(データ取得用の小さなチップ)をつけ、これまでブラックボックスだった出版物の売れ行きデータを計測している。

  • RFIDを導入することで売れ行きを把握し、より精度の高い発注につながるだけでなく、万引きの防止にも役立つ。実証実験では年間1400冊万引きされていたものが、66冊にまで減少した。そのためにはRFID対応のゲート(レジを通っていない商品が通過するとブザーが鳴る)の導入が必要となり、システム導入の補助金整備などを進めている。

  • クレジットカードの決済手数料についても中小書店の手数料を下げる環境を整備しており、一部では1%後半から2%台のプランが出てきている。

  • 25年に「書店活性化プラン」を公表し、書店の活性化を国として支援していく。「小規模事業者持続化補助金」や「IT導入補助金」など、書店が活用できる補助金も多い。

これまでの記事で書いてきた課題が網羅されている。外から見て課題に思ったことは、やはり中でも重要な課題になっている様子。新たに出会った情報としては「書店活性化プラン」と「書店経営者向け支援施策活用ガイド

特に後者は本屋が使える具体的な補助金などが詳しくまとめられているので、一度読み込んで記事に残しておきたい。

流通改革に乗り出した老舗

  • 2023年、紀伊國屋書店がCCC(蔦屋書店などの運営元)と取次大手の日販と組んで、ブックセラーズ&カンパニーズを設立。従来の取次主導の配本ではなく、書店と出版社が互いの条件にコミットした上で冊数を決定して仕入れる直仕入れスキームを実現。返品率低減と利益率向上を目指している。

  • 海外では書店が出版社から直接仕入れることが当たり前。それによって日本の書店の粗利率が20%程度のところ、海外は40〜50%の粗利率が通常。ブックセラーズ&カンパニーズは粗利率30%を目指している。

  • 日本において本屋はローリスクローリターンで安定した商売とみなされてきたが、流通コストなどが上がる中で安定が衰退に変わってきた。日本の他に、数十年も書店が減り続けているような国はない。書籍の売上が増えている国もある。しっかりリスクをとってリターンを狙う構造が必要。

  • ブックセラーズ&カンパニーズは「直仕入れスキームの導入」「適正仕入れ」「売上の向上」を掲げている。25年11月時点で609店舗が契約している。直仕入れについては、返品可能ではあるものの返品に一定のペナルティ負担が発生する「販売コミット」と、より良い条件での仕入れが可能な「返品ゼロ」の2種類がある。

  • こうした仕組みにより、仕入れた本を売れば売るほど利益率が上がる。一方、仕入れた本を売ることができなければ返本もできないので利益率が下がるという、ハイリスク・ハイリターンな商売へと意識を転換させる。見計らい配本は一切なし。自分たちの意思で仕入れる本を決め、仕入れた本を責任を持って売るという商売の当たり前を書店にも根付かせる。

  • 本を売って儲けることが、本屋ビジネスの本領。デジタル全盛の時代も紙の本がなくなることはなく、海外では独立系書店も盛り上がっている。今の書店ビジネスは商売として成り立っていないので、書店を収益性の高い商売に変えていく必要がある。

本屋を始めたい!と言い出して、書店業界について感じていたなんとなく不気味な感じが言語化された。
書店業界にいる人の多くが、本で利益を出すのは難しい、本以外と掛け合わせてやっていく必要がある、と言っている。
現実問題、それはそうなんだろうけど、本屋が本を売って儲けることを諦めているのは、明らかに不健全。まさしく、商売として成り立っていない。

僕もこの部分にあまり疑問を感じず、本屋はギリギリ営業赤字にならない程度で、カフェ&ギャラリーで利益を出そうと考えていた。
でもそれだと、本屋が本を売って儲からない、商売として成り立たないことを認めてしまうことになる。

現実と理想のぶつかりはあるけど、本を売って儲けることもしっかり考えていかないと。

DXで作り・運び・戻しすぎの業界を変える

これまで何度も話題に上がるように、書店業界の課題は、本屋の数が減り、古本などもあるから本を読む人は減ってはいないとはいえ新刊に使われるお金も減っている中、出版社が売れるかわからない本を大量に作り、売れるかわからないまま全国の書店に大量に運び、本屋も返品できるから力を入れて売ることもなく大量に戻されていくことにある。
ここに切り込んで改革しようとしているのが、PubteX

  • PubteXは総合商社の丸紅と出版大手の講談社、小学館、集英社によって2022年に設立した会社で、データ活用で返本率を下げ、利益率を高めるための事業を行っている。

  • 「AI発行・配本最適化ソリューション」では、出版サプライチェーンのデータを一元化し、AIを組み合わせて、類似タイトルの販売実績から新刊の初版部数を適正にしたり、在庫をリアルタイムに把握して適時、重版、配本できるようにしている。「IoTソリューション」ではRFIDタグによって書店側の仕入れ、在庫管理、販売管理などを効率化、盗難防止ゲートや監視カメラとの連携による万引き防止を目指している。

  • システムの導入にはコンパクトな店舗でも初期費用で100万円ほど、システム利用料が月に2〜3万円ほどかかるが、経産省と協力して設備代に補助金を出す予定。導入店舗が増えればさらにコストを抑えることもできる。

  • RFIDを用いることで、誰がどこで何を買っているのかというマーケティングデータが集約される。書店業界の流通構造によるロスは年間2000億円と言われており、データ集約による業界改善のメリットは大きい。これまではデータがないことで、KPI設計、PDCAサイクルなど他の業界では当たり前に行われていることが行われていなかった

  • 日本では書籍の基本データさえ統一された管理ができておらず、文庫やコミックなどの形式の分類はできても、ビジネス文庫なのか歴史・化学系の文庫なのか、児童文庫なのかさえも区別されていない。海外では統一したフォーマットがあり、フォーマットに全ての情報を入れないと販売できないというところまで標準化されている。「必要なものを、必要な時に、必要なだけ作り、分配し、運ぶ」という基本を書店業界でも機能させる

ここまで基本的なマーケティングデータが揃っていないとは思っていなかった。
古い業界だとは思っていたけど、想像以上に日本の出版業界はデータ活用が進んでいない。データ活用という概念が生まれる前の仕組みをいまだに使い続けている。海外ではAmazonの台頭に対し、書店や出版社、既存の流通網も大急ぎでDX化を進めて対抗した。日本でもAmazonの台頭は書店の危機だったはずだけど、対抗できなかった。

僕自身、マーケティング分野で長年働いてきたので、手元に良質なデータがあれば、ちゃんと仕入れてちゃんと売る、というのはできると思う。でも大元のデータがなければどうしようもない。SNSやAmazonの売れ筋ランキングなど、データともいえないものを見て、勘で判断するしかない。

僕たちの店にもRFIDゲートをおこうか。コストはかかるかもしれないけど、夫婦二人で小さくやっていくのに、細々した在庫管理に時間を割くわけにはいかない。お客さんとコミュニケーションをとって、いいものを仕入れることや、より満足度の高いイベント開催や、ギャラリー展示のために時間を使いたい。
初期コストがかかってもRFIDゲートをおくのはあり。万引き対策とか、小さな店だと人の目でやるんだろうけど、できることならやりたくない。ゲートやカメラで未然に防げるならその方がいい。

本屋はこれからが面白い

ということで今回、「書店再興」を読んで学んだことをシェア。一度ざっと読んで付箋を貼り、それを読み返して「これは面白い」「これは残しておこう」というのをつらつら書いたので、かなり長くなってしまったけど、また一つ、本屋への解像度が上がった。

蔦屋書店の方が「書店が大変厳しい局面にあることは事実です。しかし、本は売れます」と断言し、実際、ブックフェスを開催して本が飛ぶように売れる空間を作り上げているのには勇気づけられたし、全国の書店を横断して検索できる「本コレ」のように、自分が本屋をやる時に絶対使いたいサービスに出会うこともできた。

総じて、書店業界、想像以上に面白い。

業界全体に興味を持っていたわけじゃなく、ただ自分のエリア内に、理想の読書体験ができる場所があればいいなと思って、「本屋やりたい」と考えるようになった。でも当然、そんなモチベで作った本屋も、書店業界という大きなエコシステムの一部を担うことになる。
その責任は認識しておきたい。カフェ&ギャラリーやイベントで利益が出るように設計しようと考えていたし、それは現実的に間違いではないと思う。でも本屋店主が「本を売って儲けること」を諦めたら、業界再編は進まない。真綿で首を絞められるように業界全体が苦しくなっていくのを、加速させてしまう側になるかもしれない。

それは嫌だ。

幸いなことに、業界再編を推し進めようとするゲームチェンジャーがたくさんいる。彼らの動向をしっかり見て、利用できるところは利用しよう。業界再編の一部を担えるのであれば、積極的に担いにいこう。

それができれば、本屋はもっと面白くなる。

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