『本屋、はじめました』を読んで考えたこと(上)- 新刊書店+カフェ+ギャラリーの理想系
(古本屋ではなく、新刊書店にした理由について)
何より「今を生きている人に対して本を売りたい」という思いがあるからでした。「こういう考え方もあるよ」「これは知っておいたほうがよい」などという思いを、本を通して店に来る人に届けたいのです。
<中略>
新刊本を売る店といっても、いわゆる<昔ながらの街の本屋>をやるつもりはありませんでした。町の本屋がそれまでと同じことをしているだけだとつぶれてしまうということは、次々とその数を減らしている現実をみてもわかると思います。
こんにちは。「本屋を始めたい夫婦」の夫です。
本屋を始めたい!と言い出してから、本屋開業や書店業界に関する本を何冊か読んでいるので、今日はその紹介。
本屋Titleを経営されている辻山良雄さんが本屋を始めるに至ったきっかけ、本屋を始めるまでの準備、そして本屋を始めてからのアレコレを書いた「本屋、はじめました」です。
といっても書評やレビューというより、僕自身が学びになったこと、自分がいつか本屋をやる時に「これは覚えておこう!」「ここはしっかり考えておこう!」と思ったところの備忘録。
リブロでの経験
辻山良雄さんは大学卒業後、書店チェーンのリブロで18年ほど書店員として働き、大型書店で店長、さらにはリブロ池袋本店のマネージャーも務めた大ベテレン。
この時点で書店員経験のない僕たち夫婦とは違いますが、本屋の役割については通じるものがありました。
あるとき出版業界に関して書かれている業界本をふと手にとって読むと、「出版流通の現場から」というタイトルで、書店で働いている人がその体験談を語っていました。その人が「書店の店頭では、その時代を自由に編集し、提案することができる」と語っている仕事の内容がとても面白そうで、惹かれました。
以前の記事で本屋の役割について考えた時、僕の中でしっくり来たのが本屋の「メディア的機能」
本というのは、その時代を生きる専門家の人生を賭した研究の集大成だったり、何か強烈に伝えたいアイデア、メッセージを持った人が、ものすごいリソースを投入して生み出すもの。
そんな知識や思いの結晶が毎日のように新しく生まれている。本屋は知識や思いの結晶を選別し、切り取り、並べ替え、店に来た人に提示する。まさに「その時代を自由に編集し、提案」している。
今、ビジネスパーソンが多い地域の大型書店にいくと、「AI仕事術」みたいな本が大量にディスプレイされている。AIなんて日々変化するものだから、本よりネットで学んで実践したほうが良い気もするけど、ああしたコーナーが作られているのは、まさに今の時代を象徴している。
本そのものは変化せず残り続けるけど、書店のコーナーは日々変わる。「AI仕事術」のコーナーを写真に撮っておいて10年後に見たら、それはもう歴史的資料に見えると思う。本屋のラインナップ、ピックアップコーナーを振り返ることは、テレビ番組や新聞、そして「本そのもの」とはまた違った形で、当時の世相、時代を象徴していると思う。
辻山良雄さんはリブロに入社して、書店員として全国のリブロで働き、とうとう池袋本店、1000坪のかなりの大型書店でマネージャーも務められますが、2015年7月、池袋本店は40年の歴史を幕を下ろすことに。
そこから「本屋Title」の物語が始まります。
全国チェーンの大型書店から独立
辻山良雄さんは「独立して自分の本屋を持ちたい!」という強い意志が元々あったというより、ぼんやり思っている中で、課外活動を通じた人との出会いや周囲の変化によって、「流れついた」感覚なのだそう。
リブロでの仕事に不満があったわけではないけれど、池袋本店が閉店するという変化があった。仕事以外で書店イベントやコミュニティで課外活動する中で徐々に人脈ができてきた。
そして、母の死によりまとまったお金が入ってきた。
母親が死んでいくのを見届け、次は自分の番だと初めて身体で実感したのと、自分に残されている時間は無限ではないということもその時、強く意識しました。
手元にはそんなに多くはありませんが、母親が遺してくれたまとまったお金、マンションの頭金くらいにはなりそうなお金もありました。突然増えた自分の通帳の残高を見ながら、これは自分に宛てられたお金ではないなと思いました。自分はこの歳ではもう本を売る仕事しかできないかもしれないけれど、そのお金を使って他の人に喜んでもらうには、来る人がその人自身に戻れるような落ちついた場所、さまざまな人が行き交い新しい知識や考え方を持って帰ることのできるような本屋を、小さくてもよいのでこの世の中に一つつくるしかないのではないかとも、同時にぼんやり思っていました。
辻山良雄さんはリブロの社員で全国転勤もされていたので、当然池袋本店がなくなった後、別の店舗で働くという選択肢もありました。が、池袋本店がなくなるのを区切りに退職。
「本屋Title」の準備期間に入ります。
本屋を始める準備期間
準備期間は有休消化をしながら、不動産サイトを見たり、本屋でカフェをやるイメージがあったので料理に慣れたりしていたそう。
本屋での経験はあるもののカフェの経験がないからカフェでアルバイトをしようかとも考えていたそうですが、不動産が決まった時、すぐ動き出せるよう店のコンセプトを固めたり、名前を決めたりすることに時間を割いていたそう。
なかでも後になって効いてきたのが企画書の作成。
リブロで新店舗を作ったり改装したりする時に企画書を書いた経験があるので、自分がやる店についても新刊書店で、カフェやギャラリーがある場合、どういう商品を並べ、どのくらいの売上があればやっていけるのかを考えていたそう。
その企画書が物件の契約を得る時、取次や銀行の講座を開く時に役立ったことはもちろん、周りの人に見せることで様々な意見、アイデアをもらい、実際に動き出すまでにさらに練り上げ、やりたい本屋の輪郭が定まってきたとのこと。
僕もこのnoteを始めた理由の一つは、こうして外にアウトプットすれば、周囲からフィードバックを得ることができるし、いざ銀行に行って「開業資金貸してください!」取次に連絡して「取次口座開設させてください!」と言った時、話がスムーズになるだろうと思ったから。
もちろんこのnoteだけじゃなく、ちゃんとした事業計画書、プレゼン資料にまとめる必要はあるけど、なんにせよ「やりたい」と外に向かって言うのは大事。
実際、言い出してみると、不思議と勝手に機会が生まれ、動き始めた。
どの町で本屋をやるか?
店舗を持つビジネスの場合、1に立地、2に立地、3に立地なのは間違いない。僕たちの場合、自分たちが住むこの町に本屋があればな、と思ったことがきっかけなので、ここについては迷う余地がない。
自宅から近ければ近いほどいい。一軒家を持っているので、店と近ければ事務所や倉庫を自宅にすることで、店舗の営業スペースを広げることもできる。基本的には自宅から徒歩圏内で本屋を始めたいと考えている。
自己都合だけじゃなくて、本屋をやるにあたって場所も良いと思っている。電車による交通の便がいいので遠方からも来やすい。次々マンションが建って人口、人の移動も増えている。ファミリー層とそこそこの収入のある若者がバランスよく住んでいる町だと思う。こういう町に本屋がないのは、正直もったいない。
辻山良雄さんの場合、池袋店で働いていたので東京に住んでいるけど、東京に特別な縁があるわけでもないし、これまでの経験で名古屋や福岡でも働いていたので「どこに店を出しても良い」というのが、贅沢であり悩ましいところ。
自分の店を持つなら自分が住んでいる場所に近いほうがいい、というのは僕たちの考えと同じだけど、逆に言えば自分が住みたい場所を探してそこで店をやるという選択肢がある状態。
なのでロケハンとして住んでみたいと思っていた鎌倉や松本なんかを見ていたそう。
仕事で福岡や広島などに住んでいたときは、休みの日には本はほとんど読まず、車で近くの温泉に出かけたり、美味しい地のものを食べて、それは満足な生活でした。あまりに周りの環境が良すぎると、人はそれに満足して、本などの文化的なことを渇望しなくなるのです。
本屋は情報感度が命です。今、何が流行っているのか、展覧会、イベント、SNSでの誰かの発言…という渦中に常にいないと、良い仕入れはできないように思います。
この感覚はすごく大事にしておきたい。本屋を作って、自分たちが好きなものを並べて、そこで止まってしまったら意味がない。「その時代を編集し、提案するメディア」としての役割を果たせなくなる。
辻山良雄さんはいくつか町を回った上で「東京で頑張ってみよう」と思ったそうです。
東京という町は情報感度を高めるのにうってつけだし、文化的なものを渇望し続ける空気感があるように思う。
僕がいる大阪も、東京とは違うけれど、何かしら渇望がある町だと思う。何も考えず生きていけるほど居心地の良い場所ではない。
僕の地元はめちゃくちゃ田舎なので、何も考えずに生きていくことができる。彼らを見ていると、めちゃくちゃ楽しそうで、満足している。そして本は読まない。成長しよう、変化しようという渇望がなく、10年前と同じ今が、10年後も続くと信じて生きているように見える。良い悪いではない。それはそれで幸せな人生だと思う。
まあ要するに、僕自身がそうであるように、この場所に住んでいる人は、本屋という場所を必要としている(顕在的ではなくても、潜在的には)、そんな気がする。だからこの町で本屋をやりたいと思うようになった。
辻山良雄さんは東京でやる!と決めたらすぐ中央線沿いしかない!と考え、物件も決まる前から引越してしまい、周囲の駅の周囲を歩いたりしていたそう。すごい行動力。
確かに、個人店にふさわしい場所は実際に歩かないとわからないと思う。チェーン店なら駅の乗降人数のようなデータで賑わいを確認すれば良いかもしれないけど、個人店の場合、単に人が多いことがメリットとは限らない。人の入れ替わりが激しくガヤガヤした大通りや主要駅よりは、少し外れて落ち着いた、ゆったりできる場所のほうが良い。
僕も最近、店舗に向いている物件ないかと思って不動産サイトを見てますが、最初は駅近、大通り沿いで見てました。
でも最近は駅徒歩15分、裏路地、個人の住宅と住宅の間にある不動産なんかも見るようになりました。
同じ本屋でも、駅前のマクドナルドの隣に独立系書店は必要ないと思う。そういう場所にはチェーン店のほうがふさわしい。少し外れにある隠れ家的な場所の方がイメージに合う。
店名「本屋Title」の決め方
店の名前は店の内容を盛るうつわのようなものだと思います。良いうつわのように、邪魔はしないが、短くて覚えやすい、そんな言葉はないかと、いくつも紙に書きだしました。
「本に関する言葉で」ということだけはあらかじめ決めていたので、
<中略>
「タイトル」という名前は、いくつか本にまつわる言葉を書き出したとき、妻がふと口にした言葉です。「本のタイトル」と言うとものごとのはじまりという感じもしますし、表紙のような印象が店名にふさわしいようにも思えました。
<中略>
名前は言葉を思いついたら、口にしてみる、書きだしてみることで、はっきりと定着します。言葉の持つ雰囲気というものがあるので、音と見た目で自分に合うかどうかがわかります。「タイトル」の場合、口にしたときには抜けていく軽い感じがいい。書いてみると、アルファベット表記で大文字の「TITLE」は重たい。「Title」のほうが、後ろが軽く、縦の棒が短く並んでいるのがかわいい。ロゴをつくるのにはよいだろうと思いました。そのまま仮置きしていたTitleという名前がいつの間にか話しているうちになじんできたので、そのまま店名になりました。
僕たちも本屋の名前はぼんやり決めていて「toto books」や「toto book store」にしたいなと考えています。理由は以前別の記事で書きましたが「toto(トト)」という音の響、「to」という単語が持つ意味(方向や目的、結果を示す言葉)が2つ並ぶことで、何かと何かが出会える場所、どこかとどこかを繋ぐ場所にふさわしいんじゃないかと思っています。
ちなみに「toto art」という名前でYoutubeで絵画紹介もしてたりします。
ただ「toto(トゥートゥー)」と読まれたりしないかな、、、という不安もあるので、まだ仮置き状態。
カフェとギャラリーを併設した新刊書店
辻山良雄は「本屋Title」を構想する段階から新刊書店で、カフェとギャラリーを併設することを考えていたそう。
ここは完全に僕たちのイメージと合致する。以前の記事でも書いたように、今構想している(というか、コストも現実性も考えず夢想している)本屋の姿は、1階が新刊書店で雑貨やZINEも置きながら、2階をカフェ&ギャラリーにしたい。
僕がそう考えた理由は、やっぱり新刊書店が好きだから。古本も買うけれど、新刊を買うと言うことは出版社や著者を応援する意味合いが強い。
ものによるけど、本は何か特定の分野を何十年も研究してきた人がその集大成としてまとめあげたり、社会に強く訴えたいことがあり、相当なリソースを割いて「本」という形式に練り上げている。
ただ何かを伝えるだけなら、こうしてブログを書いてもいいし、Youtubeやポッドキャストで発信してもいい。その方が楽だと思う(年に100本動画を出すYoutuberはいるけど、年に100冊出す著者はそういない)。
でも「本」という形式で、十数万文字というかなりまとまった文章を構成し、一度出版したら気軽に内容を書き換えることができない「完成系」として世に出すことには別次元の価値があると思う。当然、その分、めちゃくちゃ大変。
そのリソースを割いて書いた著者や出版社に少しでもリターンがあって欲しい。だから新刊を買う。そして新刊が売れることで、著者や出版社にリターンが生まれ、次の本が生まれていく。
本屋として、新たな出版物(知識や思いの結晶)が生まれるエコシステムを回す存在でありたい。なので本屋をやるなら新刊書店を考えていた。
カフェはもはや本屋に必須の業態だと思う。
本を読むのに最適なタイミングはいつか?
答えは「本を買った時」
毎週のように本屋に行き、何冊も買って帰るけど、正直、買ったその日に読み始めた本はだいたい読むけど、その日に読み始めなかった本の多くは積読して結局読まないことが多い。
本は買ってその場で読むのがベスト。次いで家に帰ってすぐ。日を跨ぐとだいたい読まない。
と考えると、本屋にはカフェが併設されていてしかるべきだと思うし、自分が本屋をやるなら、本を買ってその場で美味しいコーヒーとスイーツをお供に読めるようにしたい。
で、希望としては本屋とスペースを分けるために1階を本屋、2階をカフェにしたい。感覚的なものだけど、「本を買う空間」と「本を読む空間」は、近く隣接しているけど別、が理想。
「ゆったり本を読める場所」が大事なので、それなりの広さも必要になるなら、やっぱり1階・2階で分けるのが良さそう。
経営的な側面もある。本は2000円の本を売って粗利が400円とか。
でもカフェでコーヒーとスイーツに800円使ってくれたら、本と合わせて粗利960円(減価率30%想定)に跳ね上がる。
売上2000円 - 粗利400円 粗利率20%
売上2800円 - 粗利960円 粗利率34%
これは経営上、めちゃくちゃ大きな差。
ギャラリーも、自分がアート好きというのはもちろん大前提だけど、粗利を大きく変えることができる、集客イベントが企画できるという経営的な側面が大きい。
15万円の絵が1枚売れて、粗利30%もらえたとして5万円。2000円の本を125冊買ってもらうに匹敵する粗利が、絵1枚で出る可能性がある。
僕はアート関連の本が好きで大量に持っていて、もちろん店でもアート関連を充実させたいと思ってる。ギャラリーの併設は選書とも相性が良さそう。
「本屋を始めたい」とぼんやりしたことを言ってるけど、僕はマーケティング畑の人間なので、本屋をやるならちゃんと儲けたい。金持ちになりたいとかじゃなくて、作った「居場所」がちゃんと持続可能で、願わくば数十年後に引退した後も、その地域や文化にとって必要な場所として持続して欲しい。
そのためには現実的なことをちゃんと考えないといけない。
カフェは六割から七割が利益となり、その点では本屋と比較にならないので、店の経営を支えるものになると思います。
ただ、利益が出るからといって、本屋の隣に安易にカフェをつけるという話をよく聞きますが、それには反対です。カフェにしろ、本屋に雑貨を置くことにしろ、まずは「どういう店を作りたいのか」という店主の考えがあるべきです。今ではお客さまのほうがさまざまな店を体験しています。しっかりとしたコンセプトもなく数字ありきで始まったものは、その細部に「行き届いていない感じ」が漂うので、お客さまに見抜かれてしまうのです。まずは、なぜここでカフェをやりたいのか、それは本当に店に必要なのかということを考えることが重要です。
<中略>
ギャラリースペースも店には必要なものだと思っていました。
<中略>
ここでしか見ることのできないものを展示することで、わざわざ遠くから足を運んでくださる方が増えますし、展示を一定の期間で変えていくことにより、次々とお客さまを呼ぶことができます。
外から人を呼ぶということでいえば、トークイベント、ワークショップなどの単発のイベントも欠かせません。リブロにいたころも、本にはお金を出さないけれども、イベントにはお金を出すという人は多いと感じていました。これは情報だけでなく、登壇者から受けとる熱量、そこにあの人がいて話しているというライブ感にお金を払っているのだと思います。
まったくの同意。「本屋」として何がしたいか、何を提供したいのかが第一にある。僕も仕事で様々な商品企画や販促活動に関わるけど、コンセプトに合わない、とりあえずくっつけたアイデアみたいなものはだいたいうまくいかない。メインのコンセプトがハマって全体としてうまくいったとしても、とりあえずくっつけたアイデアたちは自然と消えていく。
と、ここまで色々書いてきましたが、まだ本書の前半3分の1くらい。
そしてこの記事の文字数はすでに8000文字近くになっている。
noteという媒体に慣れていないので、Googleに聞いてみたところ、noteの文字数は1,000〜2,000文字程度が最適。専門的なテーマを深掘りした場合も3,000〜4,000文字程度までが読みやすい範囲らしい。

大幅に文字数オーバーなので、ここで止めておきます。
まだまだ学んだことは沢山あるし、むしろここから先の本屋開業の具体的なステップ、物件を決めたり、どの取次と契約するかを決めたり、POSレジシステムは何を使うかとか、リアルなお金の話とか、そうした部分の方が学びが多いので、また後日、別記事として書きます。
続編↓
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