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印刷用書体の開発とデジタルフォントの未来 #30|字送りと字間(文字詰め)

前回まで、行送りと行間文字組み見本帳などのお話を通して、文字組版について考えてきました。ここからは字送り字間について見ていきます。

ベタ組みと詰め組み

字送りの基本は「ベタ」です。
つまりボディサイズ(ボディフェイス)を文字サイズと同じピッチで組むということで、いわゆる「ベタ組み」のことです。
イメージ的には、正方形を隙間なく並べて1行を形成することになります(図1)。

図1 ベタ組みの例(作例はAdobe InDesignのフレームグリッドを使用)
正方形のボディサイズが隙間なく並ぶイメージ(著者作成)

おそらくベタ組みは活字組版の踏襲だと思いますが、とても安定した文字配列となるため本文組に適しています。
また和文書体の設計も、通常はベタ組みを想定しています。

しかし日本語の組版には、多種多様な文字が存在します。
特に漢字と仮名は、それぞれの標準字面が大きく異なるため、仮名の部分で字間が空いて見えがちになります。
この調整のために「文字詰め」という処理が行われます。

文字詰めには3つの手法があります。
カーニング」「トラッキング」「セット幅送り」です(図2)。

図2 文字詰めの例(著者作成)

カーニングは、一部の文字の間を調整すること。
トラッキングは、テキストブロックあるいは行全体で、一律に字間を調整することです。

セット幅送りは、アプリケーションによって「プロポーション」とか「メトリクス(プロポーショナルメトリクス)」「オプティカル」と呼ばれています。
書体によっては欧文と同じように、ひとつの文字ごとにセット幅データというのを組み込んであります。その情報を基に詰めていくというものです。

図3は縦組みの場合です。本文組みではベタ組みが基本とされていますが、レターサイズが小さな書体は、全体的にやや詰める方が可読性が向上する場合もあります。

図3 縦組みでのツメ組例(明朝体と行書体の比較/著者作成)

例えば図3では、真ん中と一番左に字面の小さめな書体(行書体)を使っています。この書体はベタ組みだと字間がやや広く見えたため、詰めてみるとどうなるかを比較した見本です。

文字詰めはデザイナーの判断で適用します。
誌面に緊張感を与えたり、字間が空いて見える書体への対応だったり、あるいは指定エリア内に無理やり文字を押し込むためであったりと、その理由は様々です。

写植の時代には「キツ詰め」とか「ゆる詰め」というのが交互に流行したこともます。
私はそのような流行よりも、用途による詰め組みの効果を論理的に知ることが重要だと思っています。

ベタ組みと詰め組みの効果

図4は、ベタ組みと詰め組みで、それぞれ大小2つのパターンを示したものです。大きな文字はタイトルを、小さな文字は本文を想定しています。

図4–1 ベタ組みと詰め組みによる見え方の違いと効果(横組み/著者作成)
図4–2 ベタ組みと詰め組みによる見え方の違いと効果(縦組み/著者作成)

タイトルを想定したものは、字間を詰めている方が好ましく見えると思います。
タイトルには強くアイキャッチすることを求められますが、ベタ組みでは字間が空いて間抜けて見えるため、緊張感が乏しくなります。
これでは本文への期待や魅力が失われ、本文へ誘導する見出しの役割を果たさなくなってしまいます。

つまり本文を読もうとするモチベーション、人間工学的には「ユーザーのやる気の醸成」と呼ばれるものが湧いてきません。
詰めることによって、タイトルらしい効果が表れてくるわけです。

その反対に本文組は、ベタ組みの方が心地良く読書できると思います。
本文組の字間を詰めると息苦しさを感じやすくなり、長文の読書には耐えられないはずです。

◉詰め組とベタ組みの事例

図5は詰め組みを極めた事例です。
写植時代は文字を印画紙に印字して、それを手作業で版下台紙に貼り込んでいました。

図5–1 写植による詰め組みの事例
カッターで文字を切り抜き、食い込ませるように貼り込んで字間を詰めている
(デザイン・版下作成:廣瀬郁/©有限会社ヒロ工房)
写真提供:天野誠
図5–2 印刷後の仕上がり例
『日本の歴史③ 古代王権の展開』(1991年 集英社刊)カバーより(撮影:bird location)

当時の優れたデザイナーは、写植機の文字詰め機能では飽き足らず、自分でカッターを振るって詰め組みの限界に挑んだものです。
このように文字を詰めることによって、極度に緊張感のある効果的なタイトルを作っていました。

デジタルフォントの現在でも、Adobe Illustratorなどを使って同じことはできますが、「こういうことができるんだあるいは必要だという欲求と、詰め組みのための繊細な神経が必要だと思います。

次の図6は本文組の一例です。
本文はベタ組みが基本であると述べましたが、この作品の字間は少々空き気味で作られています。

図6 本文組の例。文字間隔を開き気味に、かなりゆったり組まれている

内容は情緒的な文章で、字間を空けることによって読む速度がコントロールされます。また版面内に空気感が漂い、おっとりとホンワカしたとても良い気分になります。
まるで文字組が文字に語らせて、歌わせているかのように私は思えます。



【次回予告】

次回はさまざまな書体の使用例を通して、「良いフォント」についての考えをまとめてみます。


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