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印刷用書体の開発とデジタルフォントの未来 #28|肝心なことは文字組版

ここで一つのエピソードをお話します。
次の図1図2の文字組みをよく見てください。同じ文章の文字組み例ですが、少し違います。何が違うのか比べてみてください。

図1 文字組みの例①
図1 文字組みの例①(協力:株式会社 文字道
図2 文字組みの例②
図2 文字組みの例②(協力:株式会社 文字道

実は、例①例②を見比べると一部の仮名がずれて、字間もばらばらになっています。

このサンプルは、昔ある仕事で起きたことをイメージ的に再現したものです。その仕事とは、Adobe Illustratorで作った文字組みデータを出力センターに持ち込み、コンバートという処理で、写研の書体に切り替えることです。

Illustratorで作った文字組みは納得いくものではありませんでしたが、写研書体になれば何とかなるだろうと思ったのが浅はかでした。
コンバートしても文字の位置は変わらないので、まずい文字組みもそのまま出力されてしまったわけです。
当たり前のことですが、仕上がりの印画紙を見て、ひどくがっかりした記憶があります。

【編註】
ここでいう「コンバート」とは、別の書体で仮レイアウトしたデータを業者に渡し、写植書体等に置き換えてもらう処理のこと。デジタルフォントの種類が少なかったDTP黎明期に行われていた。
また「出力センター」は受け取ったデータを印画紙出力する業者を指す。デジタル入稿が一般化する以前は、出力された印画紙を基に版下を作り、色指定等を施した後、写真原稿と共に印刷業者に入稿していた。
図1図2のコンバート処理は株式会社文字道 伊藤義博氏にご協力いただきました)

つまり図1図2のサンプルは、上段の文字組みがコンバート前下段はコンバートにより写研書体に置き換わったものというイメージです。

いかに写研の書体といえども、こんな組み方をされたらどうしようもありません。どんな優秀な書体であっても、組み方が悪ければ台無しになってしまうということです。

今回のテーマ「肝心なことは文字組版」では、書体を活かしも殺しもする文字組版について考えていきます。
まずは技術面での簡単な振り返りと、文字組版が果たす役割について見てみましょう。

ボディサイズとレターサイズ

文字組版では、文字がどのように設計されているかを知る必要があります。

このことは、第2章「印刷用文字はどのように設計されているか」で詳しく述べましたが、ここで思い返していただきたい要点は、文字設計の空間は、「ボディサイズ」(ボディフェイス)と「レターサイズ」(レターフェイス)によるということです(図3)。

図3 ボディサイズとレターサイズ
図3 ボディサイズとレターサイズ

ボディサイズとレターサイズ間にあるマージンによって、大きさ、寄り引きの調整が行われます。
また通常、文字サイズ=ボディサイズになりますが、「実際に目に見える文字のサイズはレターサイズになります。

つまり、ひと口に「文字サイズ」といっても、サイズ値と実際に見える文字の大きさとは異なるということです。

レターサイズの大きさは、書体設計においてあらかじめ定められている「標準字面」を基準にしています。すなわち、書体設計の方針により、「大きく見えるフォント」や「小さく見えるフォント」が出現することになります。

文字組版は、こうした文字設計の特性を十分に把握して取り組まなければなりません。

行送りと字送り(字間と行間)

文字組みの基本は「行送り」と「字送り」です。「行間」「字間」とも呼びますが、「送りとは文字を組むという行為を意味します。
一方の「」(かん)は、文字組みによって視認される状況(空間)を意味しています(図4)。

図4 行送りと字送り(行間と字間/作例は文字の中心を送り基準位置としている)
図4 行送りと字送り(行間と字間/作例は文字の中心を送り基準位置としている)

Adobe InDesignなどの一部を除き、Microsoft Wordなどの文字組版を行うアプリケーションでは、全て「送り指定」であることを思い出してみてください。
つまりイメージ通りの行間や字間を得るには、正しい「送り量」を設定できなくてはなりません。

ここで重要なことは、送りによって視認される行間や字間は、あくまでも見た目であるということです。
同じ送り量であっても、書体によって行間や字間が視覚的に違って見える場合があるということになります。
なぜなら同じ文字サイズであっても、選ぶ書体の標準字面によって大きさが異なって見えるからです(図5)。

図5 書体によって見え方が異なる例どちらも同じ組版設定だが、書体によって標準字面(レターサイズ)が異なるために、文字の大きさ、行間、字間の見え方が異なっている
図5 書体によって見え方が異なる例
書体によって標準字面(レターサイズ)が異なるために、見た目の大きさ、行間、字間が異なっているように感じるが、どちらも同じ組版設定(16Q28Hベタ組み)である

行間の特性

ではここで、行間の特性について見ていきましょう。
次の図6例①は、1行21字/行間ベタで組んだものです。「行間ベタ」ということは、行送りは文字サイズと同じになります。
例②行間二分アキ、つまり行送りは文字サイズの1.5倍です。

例①の行間ベタの文字組みはありえません。行のラインが見えず、可読性がひどく損なわれていて、ありえない文字組みです。ですが、日常の印刷物などでしばしば見受けられる組み方です。
例②はほどよい行間を得て、読みやすくなってると思います。

図6 行間の特性(InDesignで作成)2行以上の文章を組版する時、適切な行間を得なければ大きく可読性を損なうことになる。ただし同じ行間であっても、行長によって間隔の見え方が変化することを考慮しておきたい。
図6 行間の特性(InDesignで作成)
2行以上の文章を組版する時、適切な行間を得なければ大きく可読性を損なうことになる。ただし同じ行間であっても、行長によって間隔の見え方が変化することを考慮しておきたい。

ただ、例③の文字組みはいかがでしょう。例②と同じ行間で、1行の文字数を倍以上にしたものです。行長が長くなったため、読みにくくなり始めていると思います。
このことは、可読性に適した行間は、行長に関係しているということを示しています。

確かに行間と行長は比例関係にあります。つまり行長が長ければ、これに比例して行間も大きくとらなければならないということになりますが、具体的にはどうしたら良いのでしょうか。

先ほども述べたように、行間は見た目です。使用する書体の標準字面をはじめ、文字サイズや行長が変数として複雑にかかわってきます。
要するに、やってみなければ分からないということです。

ただ、これでは版型・版面の計画から始めるべき誌面デザインの設計が正しく行われず、成り行きまかせのデザインになりかねません。

意図した版面の空間に、意図した書体、文字サイズや行長、行間、これに意図した効果的な見出しなどの要素を加えていくことが、優れた誌面デザインを創出するものだと私は思っています。



【次回予告】

次回は、写植が主流だった頃、デザイナーに重宝された「文字組み見本帳」に触れながら、文字組みについて考えていきます。


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