イップス克服に向けて062:向上心と自己肯定感――イップスを生まない「やわらかな力」
ミスを恐れる人は、たいてい真面目で、向上心が高い。
イップスは、頑張りが怒りに寄り、力みすぎたときに顔を出す。
求められるのは、自分を責めず、相手を敵にしない、やわらかな力。
▶力が入っていることに気づくところから
前回の「イップス友の会」では、ミスは問題ではなく課題とすること、挑戦を応援すること、そして「健康なチーム」がいかに人を楽にするかを話しました。
改めてさらっておくと、変顔できないのは思いっきり「自分」に意識が向いているからであり、それはテニスでいうとあたかもボールではなく、打ち方やフォームなどを気にするベクトルと同じ。
今回はそこから一歩進めて、その土台となる向上心の質と自己肯定感について考えてみます。
▶自己否定から生まれる向上心
「自己肯定感が低い人は、向上心がある。だから伸びる」
そんな言い方をされることがあります。
確かに、自己肯定感が低いと「このままの自分ではダメだ」という思いが生まれ、努力は始まります。
ただしその努力は、ありのままの自分の能力を感じられないところから出てくるもの。
そのため、
・他人を下げて相対的に自分を上げようとしたり
・ミスを極端に嫌い、自分を厳しく責めたり
・ダブルスではパートナーがミスしてくれたら安心したり
しがちになります。
このタイプの向上心を動かしているエネルギーは、楽しさではなく、怒りや欠乏感。
▶自分を責めない向上心も、ちゃんとある
一方で、自己肯定感が高いところから生まれる向上心があります。
それは、相手と競いながら、一緒に高まろうとする努力。
このとき、相手は敵ではありません。
同じ志を共有する仲間、真のライバルです(関連記事「夫婦もライバルも、同じ方向を見ることが大事」)。
切磋琢磨、叱咤激励。
そこには緊張感はあっても、さげすみや蹴落としはありません。
原動力は、怒りではなく楽しさです。
▶教える人と、教わる人は、固定されていない
この違いは、スポーツに限らず、仕事や勉強など、さまざまな競争のシーンで見ることができます。
たとえば受験。
自己肯定感が高い競争では、参考書を貸し合ったり、分からないところを教え合ったり支え合います。
結果としては、どちらかが受かり、どちらかが落ちる(かもしれない)。
それでも、つながりを手放さない。
そこに「できる人とできない人」の区別はありません。
教わる側は当然、学べますし、教える側も、学びます。
勝負になると、人はつい「自分だけ」になりがちですが、それは本気というより、怖れです。
ゾーンは、奪い合いの世界ではありません。
ゾーンは、与える側にいるときに訪れます。
▶「やわらかなボール」を打つ勇気
そしてテニスでは、1920年のウインブルドン選手権。
当時は現在と大会方式が異なり、前年度優勝者への挑戦権をかけてタイトルを争うチャレンジラウンド方式が採用されていました。
その決勝に勝ち上がったのが、日本テニス界の先駆者、清水善造。
決勝の相手は、当時世界最強と謳われたアメリカの、ビル・チルデン。
試合は清水にとって厳しい展開に。
すでに2セットを落とし、あとがない第3セット。
長いラリーの末、チルデンが足を滑らせて転倒。
その瞬間、清水が放ったのは、決定打ではなく、大きな弧を描く「やわらかなボール」でした。
転んだ相手に、立ち上がる猶予を与える1球。
結果として、清水はこの試合に敗れます。
しかし、観客からのスタンディング・オベーションは、止まなかったといいます。
このエピソードは、上前淳一郎著『やわらかなボール』としても描かれています。
▶小平奈緒とイ・サンファ
別の例で冬季オリンピックが行われている今、思い出されるのは、2018年平昌五輪のスピードスケート女子500メートルです。
金メダルを獲った小平奈緒は、敗れたイ・サンファに滑り寄り、肩を寄せたのでしたね。
母国開催の重圧を背負い、泣き崩れるイ・サンファ。
ともにリンクを周回する小平。
国境も、勝敗も超えた瞬間と称えられました。
蹴落とすのではなく、高め合う。
これが、自己肯定感に裏打ちされた向上心と言えます。
https://www.instagram.com/reel/DJdv8BazXsZ/
▶まずは自分一人で始めよう
ミスを咎めない。
挑戦を応援する。
誰かの成功を喜べる。
そんな「健康なチーム」では、テニスでも職場でも受験でも、向上心は怒りではなく、楽しさから生まれます。
だから、がんじがらめにならない。
だから、イップスになりにくい。
「うちはそんなチームじゃないから、無理!」
でしたらまずは、自分一人で始めるのです。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero