イップス克服に向けて061:「ちゃんとしよう」とするほど、イップスになる
カメラの前で変顔をする大谷翔平。
ふざけられる人は、なぜ強いのか。
イップスは技術の問題ではなく、「自由」を失った状態です。
▶イップスの人はふざけ(られ)ない
1月3日NHK放送「撮る!ドジャースの強さ―専属カメラマンが記録 野茂英雄から大谷翔平―」。
これは、ドジャースの球団専属カメラマンを41年務める ジョン・スーフーの物語。
カメラの前で「変顔」する大谷翔平が紹介されていました。
私は以前、「変顔できる人はイップスにならない」と書きました。
その話はいずれ再掲するとして、先に結論を言うと、イップスの人は、ふざけるのが苦手です。
ふざけない。
自分を律しているつもりでも、それは向上心ではありません。
その心は、一言で言うと拒否する「怒り」。
「こんなんじゃだめだ」という怒りのエネルギーが原動力になっている。
だから、それは上質な集中力にはなりにくいのです。
▶「変」を隠すほど、魅力は消える
イップスになるような人は、ありのままの自分の言動を、どこか「変だ」と感じています。
だから、ありのままの自分を出せません。
すると、言うこと、やることが、いつもどこか取り繕った言動になり、それが日常生活を送るデフォルトになっています。
本当はその「変」こそが、個性であり、その人の魅力だというのに。
▶変顔がイケメンだったら、もっと変
自分が変だと感じるから、行動さえ、制限されるのです。
変顔できないのも、そのひとつ。
変顔は、名前こそ「変」ですが、その本質は変ではありませんよ。
むしろ、変顔したあとの顔が整ったイケメン・イケジョだったら、それこそ「変」なのです。
「変わる」と書いて変。
Changeであり、Strangeではありません。
イップスの人は、変わりたい(治りたい)と願いながら、変化そのものを怖れています。
▶好みを主張して何が悪いのさ
自分は本当は和食が食べたいのに、みんなが洋食と言ったら、「洋食」と言う。
ここで和食を主張する自分がどこかおかしい(Strange)と感じてしまう。
それ以前に、和食とも言い出せずに「みんなに合わせる」などと言う。
いえ、それ以前に何も言わない、というより、言えないのが、行動が制限されるという意味です。
▶ミスするのは「普通」
テニスはミスするスポーツなのに、ミスした自分を、変だ(下手だ)という感じ方になる。
ミスする自分を「変わっている」と評価する。
それは、ものすごいストレスでしょう?
するとミスするのが怖くなって、打てなくなるのです。
ここでも、行動が制限されています。
そうしてがんじがらめになった成れの果てが、イップスです。
▶食べてはダメと思うと、食べたくなる
どうすればいいか?
試しに、成功ではなく、ミスを前提に挑戦するのです。
ミスしちゃいけない、イップスが出るのは嫌だと思っているから、「食べてはダメだと思うと余計に食べたくなる」心理と同じで、ミスをするし、イップスが出るのです。
ミスしない範囲内に留まっているうちは、挑戦していません。
必ず成功する挑戦は、挑戦とは言わないのです。
▶「健康なチーム」はミスを許容する
ミスを前提に挑戦する。
そのためには、メンバー全員がミスを許容する「健康なチーム」であることも必要です。
ミスしていいというよりも、ミスを誰からも咎められない環境。
「誰からも」の中には、ほかの誰でもない「自分」も含まれます。
そのコンセンサスを得ておかないことには、どうしても、ミスを悪とみなす波動が場を支配します(関連記事「アルカラスも実践! 『脳波理論』で科学的に証明可能」)。
ミスを「問題」とするのではなく「課題」として見るのです。
▶ミスするからミスしなくなる
「ミスするな」と怒る指導は、プレーヤーを萎縮させて、ミス体質を育みます。
しかしミスするからミスしなくなるのが、小脳運動機構による「あみだくじ理論」です。
自転車は、転ぶから、転ばなくなります。
ミスが前提でいると、ミスに耐性がつきます。
そうして転ぶのが怖くなくなると、スイスイ乗りこなせるようになるのです。
ミスを許さない前提条件を覆す取り組みによって、吹っ切れる可能性があります。
安藤美姫は引退試合のときですら、ミスしないスケートではなく、難しいジャンプに挑んだといいます。
最後の最後まで、挑戦し続けたのです。
▶生産性の高い職場
逆に言えば、ミスを咎めたり、大声で罵ったりするような職場は、一見すると「ちゃんと」しているように映るし、確かに短期的には生産性が高まるかもしれません。
しかし、長期的にはむしろ低下します。
なぜならそれは、怒りのエネルギーにより嫌々働かせる職場だからです。
一方で、のびのび取り組める職場は、一見「ふざけている」ようにも見えますが、士気が上がり、結束も強まり、長期的には生産性は高まるものです。
そこでは失敗を恐れずに――チャレンジすることが許されます。
イップスとは、技術の問題ではありません。
ミスを許されなかった環境が、体に残した記憶といえます。
▶「迷惑かけたくない」思いが迷惑をかける
周りのみんなが許してくれたとしても、ミスすること自体は、確かに自分のなかでは不快かもしれません。
だからこそ、「ときにはアンコンフォートゾーンのすすめ」(関連記事「ラリー・ステファンキの教え」)。
成功しなきゃと思うから、プレッシャーで苦しくなります。
周りに迷惑かけたくないと思うから、気が散り、焦り、結果として、余計に迷惑をかけてしまう。
自己肯定感が低いと、自分がしていることに、逐一「これでいいかな」「おかしくないかな」「変に思われないかな」という感じ方になるから、それでは当然、集中できないのです。
▶自由になっていい
もちろん、ふざけられるかどうかは、性格にもよります。
ですから「ふざけろ」とは言いません。
ただ、ありのままの自分をさらけ出しても、周りの人はそれほど「変」とは、思わないものです。
むしろ、ありのままを出してくれて「安心」するでしょう。
それが個性であり、魅力だからです。
周りのみんなもやっぱり「変」。
それが人間です。
変に思われると決めつけているのが、自意識です。
カメラの前で、変顔をしておどける(ことのできる)大谷翔平。
それが、自由。
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero