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劣勢の英国詩【カフェ浪漫主義27】

【カフェ浪漫主義】
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我が国における西洋詩の人気は、上田敏や堀口大学らの名訳が次々と出たフランス象徴詩の陰に隠れてか、英国ロマン派の詩はあまり知られておらず良い訳本さえ出ていない。シェイクスピアやワーズワースでさえ良い韻文訳が皆目見当たらないのだ。

しかし古き良き抒情やロマンを求めるなら、18〜19世紀英国詩が世界最高峰なのは間違いない。

原語で読める人ならその韻律が如何に格調高く厳かな響きか、良く知っているだろう。名優による英詩の朗読動画もYoutubeに出ているので、諸賢の良い参考になると思う。

英国ロマン派の詩でお薦めできる数少ない翻訳は日夏耿之介だ。

日夏耿之介『英国神秘詩鈔』 初版

彼の『英国神秘詩鈔』は中世宗教詩から始まりワーズワースまで、浪漫主義的な英国詩選集の元祖とも言えるだろう。

同じアルス社から出版された恩地孝四郎装丁の豪華小型本シリーズ『ブレイク選集』(山宮充訳)『ワイルド詩集』(日夏耿之介訳)も共に、韻律はやや弱いものの文語体の品格は何とか保たれている。

戦後から最近まで「英国ロマン詩選」と言った風の文庫本などが何冊か出ているが、みな口語散文訳で原詩の持つ高貴な韻律は全く考慮されていないので、このアルス社のシリーズが未だに最良の訳本なのだ。

英国ロマン派の訳詩で唯一ミューズ(詩神)の楽園の域に至ったのは、忘れられた新体詩の大詩人、蒲原有明によるD・G・ロセッティの『天津郎女』で間違いないだろう。

蒲原有明『汎天苑第五號』 初版

天津郎女 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

神の召されし郎女いらつめ天津御園あまつみその
境ひたる黄金こがねの垣に寄り添へり。
眼色まみのにほひは夕暮になごみわたれる
渡津海わたつみの淵よりもなほ深まさり、
その手に取りてまさぐるはつの百合花ゆりばな
甕星みかぼしの七つぞ髪にかがやける。

〜略〜

蒲原有明

続く全文は【古詩歌浪漫解】の記事↓に掲載している。

有明による英語詩の翻訳はこのロセッティほか数えるほどしかないが、日本語詩の韻律としてこれ以上ない品位と完成度の高さだ。

この名作は堀口大学らがやっていた同人雑誌『パンテオン(汎天苑)』に発表されたのだが、その後、有明自身によるどの単行本にも収録されず、没後に日夏耿之介の編集で出された『定本蒲原有明全詩集』に載っているが、今ではそれも入手困難だ。

脇のポットとマグは第二次世界大戦後の英国の繁栄を象徴する、古代ローマのコロッセウムをモチーフにしたウェッジウッドの名作"PENNINE"(ペナイン)だ。

この古い珈琲器に加え、ヴォーン・ウィリアムズの「『富める人とラザロ』の5つのヴァリアント」を聴きながら英国ロマン詩に浸る小一時間は、世界の詩について広く深く想いを馳せるには至高の環境だろう。

英国ロマン派らしい美しい弦楽曲だ。印象的な主旋律はイギリス民謡から採ったもので、ヴォーン・ウィリアムズはこの民謡について「生まれてからずっと知っていたのに知らなかったような、新しくも馴染み深いもの」と記している。「富める人とラザロ」というのは福音書に登場する喩え話だ。宗教的インスピレーションとフォークソングの融合により、厳かながらも親しみやすいという不思議な魅力がある。

ブライデン・トムソンが指揮するロンドン管弦楽団の演奏は濃密で広がりも豊かだ。ヴァリアンツ、つまり変奏曲は、主題の繰り返しに飽きを感じやすいものだが、この演奏はむしろ瞑想的な陶酔さえ感じさせる。新しい録音ではないが音質も素晴らしく、この曲の一番の名演だろう。

ロンドンには管弦楽団(LPO)と交響楽団(LSO)があり、近年LSOの方はアントニオ・パッパーノの指揮でヴォーン・ウィリアムズの交響曲や「タリス幻想曲」の素晴らしい演奏をリリースしているので、この「ラザルス」のドルビー・アトモス版にも期待したい。

アイルランドにもこの曲の主題と同じ旋律の民謡「ダウン州の星」があり、その歌詞は「アイルランドの緑の野辺ですれ違ったエルフのような乙女に収穫祭で再会することを夢見る」という内容でケルト的な世界観がよく表れている。

民謡採集をライフワークとするヴォーン・ウィリアムズが音楽活動を通じて目指していたのは、古き田園風景を天上の楽園へと昇華させることだった。なにしろ彼はウェッジウッドの家系出身で、彼が育ったリース・ヒル・プレイスの周辺には本当に美しい自然風景が広がっていたのだ。

そんな豊かな自然と英国の伝統的生活を感じさせる名曲を聴きながら、ウェッジウッドのマグで珈琲を飲み、ロマン派最高の訳詩を味わうとしよう。

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