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あなたはインド・レストランでシヴァにおもいをはせる。瞑想し、解脱し、首に蛇を巻き、三叉を持ち、創造を尊び、第三の目で悪を見抜き、怒ると手がつけられないほど狂暴ですべてを灰にしてしまう神様に。

ガネーシャの彫像に捧げられた香のかおりが漂ってくる。
(ガネーシャは学問、悪霊退散、商売繁盛の神様で、
果物が大好きな神様なんだ。)
あなたはそれを嗅ぎながら、
シヴァ神へのお祈りの音楽を聴いている。
(ガネーシャのおとうさんはシヴァである。)
om namo shivaya,namo shivaya,
hare hare holl namo shivaya,
東京の東側の街の駅傍のパンジャビ・レストランで。
土曜日のお昼まえ、あなたはブラインドから差し込む光を浴びている。
キッチンからはかぐわしいスパイスの香りが漂ってくる。
あなたはブッフェの仕上がりを待っている。
いつもならばのどかで幸福な時間なのだけれど、
しかし、不吉なニュースが昏い影をおとす。




事の発端は、去る4月22日パキスタンのテロ組織が、
ジャンムー・カシミール州パハルガムをテロ攻撃し、
ヒンドゥー教徒の男性のみを選んで26人の、
大半が民間人が殺害されたことに始まる。
なお、これはあくまでもパキスタンのテロ組織による攻撃で、
けっしてパキスタン政府の命令でなされたわけではないのだけれど。
(2025年パハルガム・テロ事件)




これを受けて、5月7日早朝5時、
今度はインド政府が、パキスタンおよび、
パキスタンと領有権を争うカシミール地方の
パキスタン支配地域など計9カ所をミサイル攻撃した。
パキスタン側の発表によると、
31人が死亡、57人が負傷した。

さらにこれを受けてパキスタン軍は、
インドのパンジャブ州および
インド支配下のカシミール地域にある空軍基地や軍事施設を
ドローンで攻撃した。
なお、インド側はこのドローンによる攻撃を撃退した、
と伝えた。

パキスタンは領空を5月11日正午まですべての航空機の飛行を禁止した。
インドも15日まで北部および西部の32空港を閉鎖し、
25の航空路区間の運航を停止するとしている。



たいへん悲惨なことでありながらも、こうしたことは、
これまでずっと数年に1回(?)繰り返されてきたことだ。
もともとインドとパキスタンは同じ国だったというのに。
国境周辺の両国はほぼ同じ文化的出自を持ち、
ほぼ同じような料理を食べているというのに。
もう80年近く、宗教の違いと領有権争いによって、
定期的に(忘れた頃に)互いへの攻撃を
繰り返すようになった。
なお、イスラム教は平和を尊び、
信徒に面倒見の良い神様アラーを絶対とする宗教でありながらも、
しかしときに(1パーセントと言われもする)信徒が見せる攻撃性の謎は、
たいへんにややこしい。
そもそも事はカシミールの領有権をめぐって起きているのだ。
なるほど、かつて預言者ムハンマドは言った、
聖なる戦いにおいては千人の天使が助けに来てくれる。
兵士が良く戦えば楽園へ行く。
しかし、そうでなければ地獄へ行く。
また、パキスタン、とくに首都ラホールは
美しいムスリム建築が宝石のように輝く国で、
パキスタンの表の経済は農業と観光ながら、
しかし裏の経済は軍需産業とドラッグなのだ。



もしも今回この対立が激化すれば、
イスラエル 対 パレスチナのような泥沼化も
ありえないわけではない。
また、インドのモディ首相(b.1950-) が、貧しい紅茶売りの子で、
RSA(Rashtriya Swayamsevak Sangh=民族義勇団)の闘士育ち、
かれがヒンドゥー至上主義者であり、
反イスラムへの傾きがあることも懸念材料になっています。


なお、前首相のマンモハン・シン首相時代には、
ガンディーを讃える映画が作られもしたものだけれど、
しかし、2014年以降現政権を率いるモディ首相は
ガンディーを(ヒンドゥーとムスリムの共存を願い、
ひとつのインドを希求したあのガンディを)腰抜けとして暗殺した、
右翼の活動団体RSAの闘士だった出自を持っているのだ。
インドにはたくさんのガンディー記念公園があるというのに、
しかし、現在のインドではガンディーは旗色が悪い。
ヒンドゥー至上主義にはこんな文脈もあるのだ。



いずれにせよ、これ以上両国の紛争が激化しないことを
ただただ願うばかりだ。【後註】10日、両国間に停戦合意がなされた。
ただし、両国がこの合意をほんとうに守るかどうかは、
もうしばらく事態を見守る必要がありそうです。
【後註の後註】案の定、5月18日インドはパキスタンを空爆した。カシミール地方など9カ所。パキスタンは報復を示唆した。



もうずいぶんむかしのことだけれど、
あなたは十月の、インドでいちばん華やかで幸福なディワリの季節、
ヒンドゥー教徒たちが家族や恋人たちに
キラキラの包装紙に包んだ贈り物をプレゼントし合う、
光と希望の祭りの季節に、
デリーの映画館に入った。




映画館の入場口には、まるで空港のような、
身体チェック・ゲートと荷物チェックがあり、
自分の荷物に番号札をつけられ、
映画館の横手の荷物置き場に預けさせられたものだ。
後で知ったことには、これはテロ対策であり、
しかもディワリの季節には、
テロが起こりやすいのだそうな。
あなたは肝を冷やしたものだ、
そんなこと知らなかったよ。



パキスタン側のテロによって、
オベロイ・ホテルが標的にされたこともある。
2008年のムンバイ同時多発テロでは、
朝の通勤列車が盛大に爆破された。



厄介なことに、インド内にもムスリムは2割近くもいて、
ふだんは仲良く暮らしているのだ。





しかし、さすがにテロが起こると、
ヒンドゥーとムスリムのあいだに緊張が走る。
そこでたとえばこのムンバイ同時多発テロの後には、
なんと5本だか6本だか映画が作られた。
『ホテル・ムンバイ』が有名だけれど、
ぼくが観たのは別の作品で、
ヒンドゥーもイスラムも、
エコロジストもIT関係者も露天商も、
みんなこの悲惨な事件を乗り越えて、
一緒にひとつのインドを取り戻そうじゃないか、
そんな道徳的な映画だった。


シヴァはいかにもカオスの国、
インドらしい神様だ。
島国の日本人には想像もつかない、
信じがたい多面性がある。


シヴァの彫像に捧げられた香が漂ってくる。
あなたはそれを嗅ぎながら、
神様へのお祈りの音楽を聴いている。
om namo shivaya,namo shivaya,
hare hare holl namo shivaya,




あなたは給仕の声を聞く、
ブッフェの料理の配膳が整ったようだ。
あまたはブッフェ・テーブルへ向かう。
黒ひよこ豆(ガルバンゾー)とニンジンとタマネギのサラダ。
野菜団子の揚げ物(ヴェジ・ロリポップ)、
じゃがいもコロッケ(アル・ボンダ)、
グリンピースとカテージチーズのカレー(マター・パニール)、
パンジャビ・チキン・カレー、
ダム・ヴェジ・ビリヤニ(野菜釜飯)、
バルフィ(あれこれナッツ入りのミルキーな小砂糖菓子)


あなたはおもう、
さすがにこの時期、カシミリ・チキンは出しづらいのだ。
あなたはブッフェ・テーブルで香しい料理を、
ステンレスの盆に盛ってゆく、
パハルガムのことをおもいながら。






余談ながら、飯山あかりさんは一流のイスラム研究者なのだから、(日本保守党への烈火の如き憤怒はもうわかりましたから)この件の解説をして欲しい。





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