映画版・原田監督のアレンジ力に唸らされる【小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」】
どうも、まろん亭奏字と申します。
昔、どこかの出版社が「読んでから観るか、観てから読むか」というキャッチコピーで映画化された小説の広告を出していましたが、私は「観てから読む派」ですね。
深町秋生さんが書かれた、このハードボイルド小説は、昨年お亡くなりになった原田眞人監督によって2022年に映画化されました。
原作も読んでみたいと思っていたのですが、映画があまりにも好きすぎて今まで読んでいませんでした。
でも、やっぱり気になるということで「観てから読んだ」というわけです。
読み終えて、ただ一言「すごい」と思いました。
深町秋生先生の臨場感溢れる描写力と、スピード感たっぷりなストーリーテリングも十分「すごい」んですが、それよりも自分が感心したのは、この小説を原作に映画を撮った原田眞人監督の脚色力です。
確かに映画版とは違うところもたくさんあるんですが、それはそれで楽しめました。
東鞘会の内部事情も、酒向さんの早口解説に比べたら断然親切でわかりやすい。
映画版だと、冒頭、廃墟で兼高と室岡が襲撃する相手があまりよくわからないですが、そのあたりもしっかり描かれています。というか、アレ、沖縄だったんですね。
原田監督の「俺アレンジ力」
原田監督といえば、私の中では「俺アレンジの人」という認識で、一番好きな「クライマーズ・ハイ」も、先に映画を観たので、後から横山秀夫先生の原作を読んでビックリでした。「金融腐食列島【呪縛】」もそうでしたね。
だから、「ヘルドッグス」を観た時、「ああ、象牙の話とか、絶対、原田アレンジだよな」とか「空港で室岡が『黒澤と小津、どっちが好き?』みたいなやり取り、原作では絶対ないに違いない」とか思いながら観てましたからね。
それで、原作読んでみたら、やっぱり象牙も黒澤もなくて、それどころか出月が潜入捜査官になる経緯も違う。北村一輝さんが演じていた土岐も杖をついている髭面のお爺さんだったり、酒向さんが演じていた阿内のルックスも違う。
もちろん、十朱はハイキックでボトルを割らないし(ハイキックはします。そういう「拾い方」も上手い)、女性秘書のキンタマ、ギンタマも出てこない。兼高は「タッカーボーイ」なんて言われないし、土岐も「トム」とは呼ばれません。熊沢はイタリアンマフィアになっちまわないし、カラオケでのオペラの熱唱もなし(矢沢栄吉になってました)。葬式でみんなで合唱もしません。
原作も大事にする原田監督
ただ、これも「クライマーズ・ハイ」と同じで、ヘンなところ、原作に忠実だったりします。
今回でいうと、「お歯黒」なんて絶対、映画オリジナルだろうと思っていたら、原作にもしっかり出てきたり、ト書きになっている部分も登場人物のセリフとしてしっかり取り入れてたりします(精進落としとか)。
省略のお手本のような映画版
一番驚いたのはエンディングですね。
これも「クライマーズ」と同じなんですけど、映画のストーリーは原作の三分の二くらいのところまでしか描かれていないんです。
まるで、アタマから脚本を書いていったら「二時間くらいになったんで、このへんでやめとくか」みたいな終わり方になっている。
けど、映画としてはそれで正解だったと思います。
小説の後半部分も面白いんですけど、映画としてやるのはちょっとかったるくて、いい切り方してるんですよね。
設定もムダなところはどんどんトバしていってしまう。
小説だと阿内さん、結構、「濃い」キャラなんですよ。でも、映画にするならあのくらいさっぱりしていたほうがいい。
カットした分、上手に「盛る」
逆に盛るところはガッツリ盛ってます。
いちおう、小説でも土岐の愛人は出てくるんですが、全然目立たない。松岡美優さん演じる恵美裏はほぼ映画オリジナルキャラです。
大前田理事長もサメ革のマスクつけてないですし。
兼高が聖書の一節を口ずさむのもオリジナル。ヴェーダというカルト教団も名前と設定くらいしか出てきません。犯罪加害者家族の会なんてのも出てこない。というか、室岡の幼なじみもいません。
兼高がスーパーでの強盗事件に遭遇するのも警官になる前なんですよね。もちろん、犯人たちに復讐するなんてエピソードもありません。警察官が女子高生デートに誘ったりとか、なんかムリあるなあとは思ってたんですよね。
原田監督、切り方もうまいけど、盛り方も上手いんですよね。(時々、やりすぎて鼻につくこともありますが)
原作ファンのことは気にしない
まあ、原作ファンからしたら、結構、イヤかもしれないですね。余計なエピソードなんて足さなくていいから、最後までちゃんとやれよ、と思うかもしれない。
ただ、そのまんまやってもしょうがないと思うんですよ。それなら、小説でいいじゃんと思っちゃう。映画でやるからには映画なりに面白くしようという原田監督のセンスは私は好きです。
原田監督のアレンジは、どうせ全部再現できないんだから、2時間でしっかり楽しませてあげましょうというサービス精神が感じられます。
もちろん、それがハマる時とハマらない時があって、「関ヶ原」や「燃えよ剣」は自分にはあまり刺さりませんでした。原作が好きすぎるというのもあるかもしれません。
キャスティングも上手かった
映画を先に観ちゃうと、どうしてもそのキャストの顔で再現されてしまいますよね。「不夜城」の劉健一は私の中ではもう完全に金城さんですから。
逆に原作先に読んじゃうと、映画版のキャストがなかなか受け入れがたいものがあるかもしれません。自分の中では「下妻物語」はそうでしたね。
なんか映画版の話ばかりしてしまいましたが、冒頭でも書いたとおり、小説として面白かったです。
映画では土岐はなんかあっけない散り様でしたけど、ここは小説版の方が好きでしたね。室岡との対決もそう。ラストもなんとかなくで終わってしまう映画版より、ずっと良かったです。
だから、もし原作を先に読んでいたら、映画版は受け入れられなかったかもとは思います。「燃えよ剣」がそうだったんで。何度観ても、やっぱりあの映画版は受け入れがたい。
でも、原作ファンなんか知らん。映画版は映画見た人だけが好きになってくれればいいんだ、と割り切ったものを作らせたら、やっぱり原田眞人は天才だと思います。
だから、「龍が如く」はこの人に撮って欲しかったんですよね。原田監督が撮っていたら、やっぱり原作ファンからは「ないわー」と言われても、しっかり原田版「龍が如く」として面白いものができるんじゃないかと。
ぶっとんでいる文庫版解説
最後に、この本、文庫版で読んだんですが、「解説」がぶっとんでいた。90%、作品以外のことを書きまくって、さらに出版社が違う別の作品をベタ褒めするという異例の解説。
小説以上にロックで笑ってしまいました。
というわけで、今回は映画「ヘルドッグス」の原作小説についてお話しました。
それでは、また。
「ヘルドッグス 地獄の犬たち」
著者: 深町秋生
出版社: KADOKAWA
発行日: 2017年9月1日

