個人投資家にプライベート市場を開放する——ARKとRobinhoodが語る、未公開株投資の新しい形
AmazonもAppleもGoogleも、IPOのときの評価額は数億〜数十億ドルだった。しかし、今日、注目度の高い企業は何年も非上場のまま成長し、上場するころには評価額が数千億ドルに達していることも珍しくない。その価値創造の大部分を享受してきたのは、機関投資家や認定投資家と呼ばれる一部の富裕層だけだ。
ARK InvestのCEO、キャシー・ウッド氏と、RobinhoodのCFO兼プライベートマーケット事業を率いるシブ・バーマ氏の対談は、この不平等な構造をどう変えようとしているかについての率直な議論だった。
1. なぜ個人投資家はプライベート市場から締め出されてきたのか
1-1. 「認定投資家」制度という壁
米国では、未公開企業への投資は、「認定投資家(Accredited Investor)」にしか原則許可されていない。条件は金融資産100万ドル以上、または年収20〜25万ドル以上だ。
バーマ氏は、この制度に対して明確な問題意識を示す。
「この制度が設けられた当初は、資産規模が投資の洗練度を示す指標と考えられていた。しかし、今日、知識や情報へのアクセスは広く開かれている。この基準は時代遅れだ」
富裕層が未公開企業に早期投資して資産をさらに増やす一方、一般投資家はその機会から排除されている——これがRobinhoodが政策として変えようとしている現状だ。バーマ氏は、資産ではなく知識テストによる参加資格という代替案も提示した。
1-2. 上場企業が半減した現実
ウッド氏は、現在の公開市場には25〜30年前と比べて上場企業数が約半分しかないという事実を指摘する。企業が非上場を選ぶ理由は、開示義務や規制の煩雑さにある。この傾向が続く限り、個人投資家は価値創造の初期段階から構造的に排除され続ける。
「SpaceXの評価額は、今やIPO時に1.5〜2兆ドルとも言われる。しかし、非認定投資家はこの成長にほとんどアクセスできていなかった」
2. SPVの問題——透明性なき「入れ子構造」
2-1. 手数料の重複と不透明性
プライベート市場への需要が高まる中で、SPV(特別目的事業体)を使った投資商品が急増している。しかし、この構造には大きな問題がある。最初の投資家が、SPVに入り、そのSPVの権利を別の投資家に売り、さらに別のSPVに入れるという「多層構造」が生まれ、手数料が重なる。
ウッド氏は、ARKvxで投資先企業に直接出資する「直接キャップテーブル参加」を原則としており(95%以上)、RV1も同様のアプローチをとる。この透明性が、両社の差別化の核だ。
「経営チームが、自社の株式がSPVの中のSPVの中に入っていることに気づいていなかったケースもある。それは誰にとっても問題だ」とウッド氏は述べた。
3. 二つのファンド構造——インターバルファンドとクローズドエンドファンド
3-1. RobinhoodのRV1——クローズドエンドファンドの設計
RV1は、ニューヨーク証券取引所に上場するクローズドエンドファンドだ。ETFや個別株と同様に取引でき、非認定投資家も参加可能で、日次流動性がある。
主な特徴は、次の通りだ。上場することで認定要件が不要になること、日中いつでも売買できる日次流動性があること、資金調達は設立時の一括募集のみで以後は原則として追加受付をしないこと(クローズド)、そして取引価格がNAV(純資産価値)に対して割高または割安になる可能性があることだ。
バーマ氏は、最後の点を課題として認識しており、教育と開示で対応する方針を示した。また、もし大幅なプレミアム(時価がNAVを大きく上回る状態)が生じた場合、追加増資による希薄化でプレミアムを抑制するという解決策も示された。
3-2. ARKのARKvx——インターバルファンドの設計
ARKのベンチャーファンドARKvx(現在約7億5,000万ドル規模)は、インターバルファンド形式だ。こちらは常にNAVで取引されるという特徴を持つが、流動性はクローズドエンドより制限されている。
資金の流入は、毎日受け付けるが、払い出し(解約)は四半期ごとで、しかも、NAVの5%を上限とする。つまり、解約したくても、その時点での申請者が多ければ全額は受け取れない。ウッド氏は、「これはプライベート資産の長期的な性質と整合しており、投資家へのメッセージを明確にする」と説明する。
ファンドの構成は、約80%がプライベート(未公開)資産、約20%がパブリック(公開)資産だ。
3-3. どちらが優れているか
ウッド氏・バーマ氏ともに、どちらの構造も個人投資家にとって有効であり、どちらを選ぶかは各投資家の状況や優先事項によると述べた。まとめると以下のようになる。
クローズドエンドファンドの長所は、日次流動性・取引所上場・認定不要であり、短所は、NAVとの乖離リスクだ。一方、インターバルファンドの長所は、常にNAV基準での取引であることで、短所は流動性の制限(四半期ごと・上限5%)がある。
4. 個人投資家像の再定義——「ダム・マネー」論を覆すデータ
4-1. Robinhoodが示した個人投資家の実像
バーマ氏は、Robinhoodの顧客データから浮かび上がる個人投資家像を紹介した。
「Robinhoodの中央値の顧客は、36歳、既婚、子ども2人と犬を持ち、全米に分散している。彼らは長期保有志向で、テクノロジーオプティミストだ」
特に注目すべきデータは、株価が下落したとき、彼らは「買い増す」傾向があるという点だ。3,000億ドル超の資産・10年間のデータに基づくと、個人投資家は株価下落時に買い、上昇時に少し売るという行動をとっており、実際には市場の「ボラティリティ抑制剤」として機能しているとバーマ氏は言う。
4-2. IPO初日も長期保有する
Robinhoodが関与した約50件のIPOのデータでは、初日に個人投資家は、「ネット買い手」として行動しており、その後も機関投資家より長く保有し続ける傾向があることが示されている。「個人投資家は、フリッパー(短期転売者)だ」という一般的な見方とは異なる実態だ。
5. 企業・ファウンダーとの関係構築——「差別化された価値提供」
5-1. 研究をオープンに提供するARKのアプローチ
ウッド氏によれば、ARKが未公開企業にアクセスするにあたって最初に持参したのはお金ではなく、研究だった。ARKが毎年発表する「Big Ideas」レポートは、多くのスタートアップがピッチデック(投資家向け説明資料)に市場規模の根拠として引用していたという。
「2万5,000〜5万ドルの小さなチェックを切っていた時代でも、ファウンダーたちは歓迎してくれた。彼らは私たちの研究をすでに使っていたからだ」
5-2. Robinhoodが持つ2,700万人の顧客ネットワーク
Robinhoodの場合は、2,700万人の顧客という「配布力」が差別化の核だ。消費者向けの企業にとっては自社製品のユーザーでもある顧客に直接届く手段になり、企業向けの会社にとっても認知度向上や採用面でのブランドハロー効果がある。
まとめ——プライベート市場の民主化は始まったばかり
ARKとRobinhoodの対談が示すのは、個人投資家のプライベート市場へのアクセスが、制度・ファンド構造・テクノロジーの複合的な変化によって着実に進んでいるという現実だ。SPVの不透明さや認定投資家規制という構造的な壁はまだ残っているが、それを迂回する合法的な手段が整いつつある。
投資家にとっての実践的な示唆は、インターバルファンドとクローズドエンドファンドの構造上の違いを理解した上で、自分の流動性ニーズと投資時間軸に合ったアクセス手段を選ぶことだ。どちらの形式も「プライベートアセットを長期保有する」という点では共通しており、その意味で従来の公開株投資とは異なる時間軸での意思決定が求められる。
