見出し画像

S&P500が最高値を更新——決算データが示す市場の現在地

2026年第1四半期の決算シーズンが佳境を迎えている。S&P500構成企業500社のうち300社超が結果を報告した段階で、市場は年初来高値圏を維持。S&P500は年初来+7%、NASDAQは+10%前後で推移している。

一方で、「市場は割高すぎる」「景気後退が近い」という声も根強い。シラーPERは40倍超、ウィルシャー5000対GDP比は228%と、歴史的平均を大きく上回る水準だ。

しかし、実際の決算データは何を示しているのか。元ヘッジファンドマネージャーのスティーブ・アイズマン氏(映画『マネー・ショート』のモデルとなった人物)による週次解説をもとに、現在の市場を読み解く。


1. 全11セクターが予想超え——景気後退論を退けるデータ


1-1. 売上高成長率:アナリスト予想を全セクターが上回る

2026年1月1日時点で、アナリストはS&P500全体の1Q売上高成長率を+7.5%と予測していた。それが4月1日時点で+9%に上方修正され、実際の結果は+10.5%に達した。

情報技術(Infotech)セクターに至っては、1月時点の予想+20%に対し、実績は+28.7%。アイズマン氏はこのデータについて次のように述べている。

「11セクター全て、繰り返す、全11セクターが、1月1日時点のアナリスト予想を上回る売上成長を記録した。イランとの戦争という文脈の中でも、売上成長に対する悲観論は結果的に根拠のないものだった」

1-2. 利益成長率:8セクターが予想を超過

利益面でも同様の傾向が見られた。11セクター中8セクターが1月時点の予想を上回る利益成長を達成。予想を下回ったのは生活必需品・エネルギー・ヘルスケアの3セクターのみで、これらは戦争・関税・ヘルスケア構造問題という特殊要因によるものと整理される。

1-3. 営業利益率:史上最高の20%を記録

S&P500の今後12ヶ月の予想営業利益率は20%に到達し、史上最高を更新した。2023年時点では16%だったことを考えると、3年間で4ポイントの上昇となる。

利益率が売上と同時に拡大しているという点は重要だ。売上だけが増えていれば「在庫の押し込み販売ではないか」という疑念も生じるが、利益率も同時に改善していることで、そうした批判は成立しにくい。

2. K字型経済という構造——なぜ「庶民の苦しさ」と「市場の強さ」が共存するのか


アイズマン氏が繰り返し用いるフレームが「K字型経済」だ。

GDPや市場を牽引するのはテック・産業(電力関連)・金融の上位層。一方、中低所得層の消費者は依然として厳しい状況に置かれている。しかし、この「下側のK」が縮小しても、S&P500への影響は限定的だ。

なぜか。情報技術セクターはS&P500の35%を占め、アマゾン・グーグル・メタなどテック関連企業を加えると約50%に達するからだ。指数の半分がテックで構成されている以上、テックが好調であれば指数は上がる。これは「感情論」ではなく「算数」の問題だとアイズマン氏は指摘する。

3. 主要企業の決算レビュー


3-1. パランティア(PLTR)——好決算でも株価は下落

EPSは前年比+154%、売上高は+85%の16.3億ドルと力強い数字を並べたにもかかわらず、株価は火曜日に7%下落した。年初来では−22%と低迷が続く。

背景にあるのは「AIによるソフトウェア代替」への懸念だ。AIが普及するほど、既存ソフトウェアの価値が毀損するという市場のナラティブが根強く、好決算を打ち消している。それでもPERは100倍超という高水準にある点は注視が必要だ。

3-2. AMD——半導体は力強い成長を維持

1Q売上高は前年比+38%の103億ドル、EPSは前年比+43%の1.37ドルと市場予想を上回った。2Qガイダンスも112億ドルと予想の105億ドルを大幅に超え、時間外取引で+15%の上昇を記録。AIデータセンター向け半導体需要の旺盛さを改めて示した。

3-3. ペイパル(PYPL)とFiserv——決済セクターの苦境

ペイパルは売上高+7%、EPSは一応の予想超えながら、2Qガイダンスでは利益が前年比−9%と示され、市場予想(−4%)を大幅に下回った。株価は8%下落し、年初来では−20%超。

Fiservも1QのEPSが前年比−16%、有機売上成長率は−4%(予想は−2%)と低調。昨年10月に経営陣が刷新されたものの、回復の兆しは見えていない。

アイズマン氏はこう総括する。「決済セクターで安全に投資するなら、VisaかMastercardしかない。そのネットワークフランチャイズは事実上難攻不落だ」

3-4. ディズニー(DIS)——「10年前と同じ株価」の現実

EPSは前年比+8%、売上高は+6.5%と数字自体は堅調だ。テーマパーク部門は戦争報道にもかかわらず売上+6.7%、エンタメ部門はストリーミング成長が線形テレビの減少を補い+9.7%を記録した。

しかし、アイズマン氏が最も重要な指摘として強調したのは、「ディズニーの株価は10年前と同じ水準にある」という事実だ。好決算を出し続けながらも、株主リターンの観点では停滞が続いている点は、長期投資家にとって重要な視点となる。

3-5. 明暗が分かれた消費関連

マクドナルドは同店売上+3.8%と堅調な決算を発表し、厳しい消費環境を乗り越えていることを示した。一方、シェイクシャックは前年比で利益が消失しほぼゼロとなり、株価は30%急落。ホワイルプールは住宅市場の停滞を理由に通期ガイダンスを6ドルから3〜3.5ドルに大幅下方修正し、12%下落した。

4. 「シラーPER40倍超は危険信号か」——割高論への反論


読者からの質問として取り上げられたのが、シラーPER(現在40.4倍)やウィルシャー5000対GDP比(228%)が歴史的平均(それぞれ17.8倍・85%)を大幅に上回っているという懸念だ。

アイズマン氏の見解はシンプルだ。

市場が割高に見えるのは事実だが、その理由はテックが市場に占める割合が構造的に高まったからだ。2016年にS&P500の20%だった情報技術セクターは、2020年に25%、現在は35%に達している。成長株はもともと高いバリュエーションで取引されるため、テックの比率が上がれば、どのバリュエーション指標を使っても市場全体の数値は必然的に上がる。

懸念すべき真のリスクは「割高感」そのものではなく、テックの業績が失速するシナリオ、あるいは景気後退の到来だ。現時点でそのどちらの兆候もデータには表れていない。

まとめ——データが示す現在地


2026年第1四半期の決算シーズンが示すのは、「景気後退は少なくとも今は来ていない」という事実だ。

全11セクターの売上高が予想超え、営業利益率は史上最高の20%、情報技術セクターの売上成長率は+28.7%——これらの数字は、悲観論を支持しない。

一方で、K字型の構造は継続しており、ソフトウェア株への逆風、消費者の二極化、住宅市場の停滞は現実として存在する。テックが市場の半分を占める以上、テックの動向を追い続けることが、この市場を読む上での最重要テーマであり続ける。

オススメ記事


Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り



いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー