テック雇用16ヶ月連続減少——AIが奪う仕事、AIが生む仕事、その分岐点はどこか
2026年春、米テック業界では対照的な光景が広がっている。企業の決算は総じて堅調で、AIへの投資意欲は衰えを見せない。一方で、大手企業による人員削減のニュースが相次ぎ、求職者、特に若い世代が厳しい雇用環境に直面している。
本記事では、Bloombergのインタビューや報道をもとに、①AIと雇用の構造変化、②Lyftに見るプラットフォームビジネスの現在地、③Intel復活劇のリアル、④核エネルギー復興とAI電力需要、⑤米中テック摩擦の行方、という5つのテーマを整理する。
1. AIと雇用:Gen Zが直面する「37年ぶりの就職難」
1-1. テック雇用16ヶ月連続減少の背景
2026年4月単月だけで、米テック業界では約33,000人の雇用が失われた。IT雇用は情報技術セクター全体で16ヶ月連続の減少となっている。同じ時期にCloudflareは、全従業員の約20%削減を発表し、Coinbase、Airbnbも相次いで人員削減を公表した。
これらの企業に共通するのは、削減の理由としてAIによる業務効率化を挙げている点だ。特にエントリーレベルの業務において、AIエージェントが人間の作業を代替し始めている。
1-2. 若者を直撃する構造変化
New Work Foundationを設立したClara Shih氏は、「現在の米国の若者は37年ぶりに最悪の就職市場で卒業を迎えている」と語った。直近データでは、大卒者の42%が、アンダーエンプロイメント(過少雇用)の状態、つまりパートタイムやギグワーク、学位を必要としない仕事に就いている。
問題の根本は、教育現場にもある。Shih氏によれば、多くの大学やK-12教育機関ではAIの使用に対して慎重、あるいは否定的な立場をとっており、「AIをどう活用するか」を学ばないまま卒業する若者が多いという。
1-3. 求められるAIスキルの具体像
Shih氏が取り組むのは、職種別に「AIネイティブになるために何が必要か」を具体化することだ。マーケティング、ソフトウェアエンジニアリング、法務、金融など職種ごとに、採用担当者へのヒアリングや、就職に成功したGen Z世代のインタビューをもとにした実践的なガイドを提供しているという。
「どのAIコースを取るべきか」という情報洪水の中で、「自分の目指す職種に特化した学び」を提供することが差別化ポイントになっている。
2. Lyft決算:「記録的四半期」の実像と成長戦略
2-1. 数字で見る好調な業績
Lyftは、2026年第1四半期に、予約高で約50億ドルに迫る水準を記録し、フリーキャッシュフローは10億ドルを超えた。アクティブライダー数も60四半期連続で増加という記録を更新した。
CEO David Risher氏は、「今はライドシェアビジネスにとって絶好の時代だ」と述べ、事業の拡大に自信を示した。
2-2. 国際展開とM&A戦略
同社は今四半期、収益の一部を国際展開に振り向けている。具体的には海外でのM&Aを実施しており、Risher氏は「黒字体制が整った今、海外への投資が戦略の柱の一つ」と語った。
一方で、市場の一部からは、消費者向けインセンティブのコストや、競合との供給増加ペースの差異に関する懸念も示されている。
2-3. 「リワードマキシング」という新潮流
注目すべきは、顧客ロイヤルティの変化だ。Risher氏は、インタビューで「リワードマキシング」というキーワードを挙げた。ポイントの獲得と消費を複数サービス間で最適化する行動で、Gen Zを中心に広がっているという。
Lyftは、HiltonやDoorDashとのポイント連携を拡充しており、プレミアムサービスへの需要も若年層から生まれ始めている。
2-4. AIの活用:コスト削減より「速度向上」
Lyftでは、社内のソフトウェアエンジニアの約86%がAIツールを日常的に使用しているという。Risher氏は、AIの価値について「コスト削減よりも、開発速度と構想の実現力を高めること」と位置づけており、頭数の削減より事業価値の創出を優先する姿勢を示している。
3. Intel:楽観論と内部課題の狭間で
3-1. 株価は高値圏、しかし課題は残る
Intelの株価は最近、記録的な高値に達している。新CEOがDonald Trump大統領やElon Musk氏との関係構築に成功し、Appleとの潜在的な顧客契約の可能性も浮上している。Wall Streetの期待感は高い。
3-2. 「外向き」すぎるリーダーシップへの懸念
しかし、Bloombergが現・旧従業員への取材で得た見方は、やや異なる。新CEOは、社内で働く時間よりも顧客との時間を多く取る傾向があり、現場の詳細には深く入らないスタイルとされる。「戦略の方向性を確認し、気に入った人材を支援するベンチャー投資家的なアプローチ」と表現する声もある。
3-3. ファウンドリービジネスの現実
Intelのファウンドリー(受託製造)事業が顧客から選ばれるには、歩留まり率の改善が不可欠だ。現状の歩留まり率は約60%とされ、TSMCの約80%と比較すると差がある。顧客が大規模な製造委託を決断するには、この数字を着実に改善することが求められる。楽観論を実績に変えるための内部作業が、今後の焦点となる。
4. 核エネルギー復活:AIが火をつけた「原子力ルネサンス」
4-1. Three Mile Island再稼働の意味
米国史上最悪の核事故の舞台として知られるThree Mile Island(スリーマイル島)が、2027年中頃の再稼働を目指している。その目的の一つが、AIデータセンターへの電力供給だ。
2020年以降、核エネルギー分野への投資額は、累計で約300億ドルに達しているとBloombergは伝えている。かつては気候変動対策という文脈で語られることが多かった核エネルギーへの関心が、今やAIの電力需要という実利的な動機で加速している。
4-2. 既存施設の限界と技術革新
現在稼働している米国内の核発電所の多くは、1960〜70年代に設計・建設されたものだ。技術的には時代遅れの部分も多く、放射性廃棄物の処理問題は依然として解決していない。
一方、小型モジュール炉(SMR)など新世代の原子炉設計も開発が進んでいる。コンテナ搭載型で遠隔地に輸送できるタイプも検討されており、2030年代中頃には実用化が見えてくる可能性があると専門家は見ている。ただし、現時点では既存の大型炉が当面の電力需要を支える主力であることに変わりはない。
5. 米中テック摩擦:「ブラックリスト」を巡る攻防
5-1. Pentagonリストの混乱
2026年2月、米国防総省(Pentagon)が公表した中国企業リストが、公開直後に突如撤回されるという異例の事態が起きた。その背景には、ホワイトハウスとPentagonの意見の相違があったとBloombergは報じている。特定の中国製メモリチップメーカー2社の扱いをめぐり、両者の判断が食い違い、リストは現在も再公表されていない。
5-2. AI・半導体を巡る複雑な利害
米中間では現在、いくつかの論点が交錯している。
まず、チップ輸出の問題だ。米国側はNVIDIAやAMDの製品(H200相当品など)の対中販売許可を検討しているが、中国側の輸入許可もなかなか進まず、事実上の膠着状態が続いている。
次に、モデルの蒸留問題だ。米国のAI企業は、自社モデルの出力を使って中国の競合が低コストで同等のモデルを構築しているとして強く反発しており、議会や行政でも対応策の検討が進んでいる。
さらに、レアアースを巡る交渉も続いており、米中首脳会談の議題の一つになり得るとBloombergは指摘している。

