見出し画像

新人介護士さんは、見本を見ただけではできるようにならない|「見て覚える」を学びに変える伝え方【連載3/4】




こんにちは!
元ITエンジニアで現役介護福祉士のやなぎです🌱

現在、「新人さんの経験を、学びに変えるために」というテーマで、4回に分けて記事を書いています。

第1回では、介助を経験した回数だけでなく、その一回から何を持ち帰れたのかを大切にしたいということを書きました。

第2回では、新人さんが「周りに迷惑をかけたくない」と焦る背景と、落ち着いて学ぶための時間や環境を整えることも、指導の一部ではないかと考えました。

ただ、安心して見学や練習ができる環境があっても、先輩職員の見本を一度見ただけで、すぐに同じようにできるとは限りません。

先輩からすれば、

「さっき見せたのに」
「前にも説明したのに」

と思うことがあるかもしれません。

新人さん自身も、

「ちゃんと見ていたはずなのに、なぜできないのだろう」

と、自信をなくしてしまうことがあります。

今回は、見本を見てもすぐにできるようにならない理由と、見た経験を次の介助へつなげる伝え方について考えてみたいと思います。

もちろん、介助技術や覚える速さには個人差があります。
ここで書くのは、僕が現場で新人さんと関わる中で感じたことをもとにした、僕なりの考えです。


先輩と新人さんは、同じ場面を見ても、同じものを見ているとは限らない

たとえば、先輩職員が移乗介助の見本を見せる場面を考えてみます。

経験のある職員は、利用者さんの足の位置、体が前へ動いたタイミング、手すりを握る力、表情の変化、車いすまでの距離などを見ながら介助しています。

  • 足の位置がいつもと違えば、立ちやすい位置へ整える。

  • 表情が少し硬くなれば、一度動きを止めて声をかける。

  • 力が入りにくそうであれば、支える場所や介助量を変える。

こうした確認や判断を、一つひとつ強く意識しなくても自然に行っていることがあります。

一方で、新人さんには、どこが大切な情報なのかがまだ分かりません。

先輩の立ち位置を見ればよいのか、手の動きを見ればよいのか、利用者さんの足元を見ればよいのか。
声かけの内容やタイミングまで覚えようとすれば、見るものはさらに増えていきます。

同じ場面を見ていても、経験のある職員と新人さんでは、そこから選び取れる情報が違います。

新人さんが見ていなかったのではなく、何を中心に見ればよいのかが、まだ分からなかったのかもしれません。


見た情報が、そのまま全部残るわけではない

人が一度に頭の中へ保ちながら考えられる情報には限りがあります。

作業記憶に保てる中心的な情報量については、3〜5個ほどの意味のあるまとまりが一つの目安として示されています。
ただし、実際に扱える量は、内容の複雑さや本人の経験によっても変わります。

介助の見本には、短い時間の中に多くの情報が含まれています。

先輩の立ち位置、手の位置、利用者さんの姿勢や足の位置、表情、声をかける言葉、そのタイミング、福祉用具との距離、安全確認。

しかも、実際の介助は流れ続けます。
先ほど見た動作を頭の中に残したまま、次の動作を見て、それぞれを結びつけなければなりません。

動きながら次々と過ぎていく情報は、量や複雑さが増えるほど、内容を頭の中で整理し、つなげることを難しくする場合があります。

教育場面を扱った研究でも、一度見たら戻れない情報を理解する際の負担が指摘されています。
介護技術を直接調べた研究ではありませんが、新人さんが動きの多い見本を学ぶ難しさを考える参考になります。

  • 全部を見ようとしているうちに、動作は先へ進んでいく。

  • 先ほど見た内容が曖昧なまま、また新しい情報が入ってくる。

その結果、一つひとつの説明や指導が、たくさんの情報の中で薄まってしまうことがあります。

新人さんが覚えていけないのは、話を聞いていなかったからとも、見本をよく見ていなかったからとも限りません。

むしろ、一生懸命に全部を見ようとした結果、たくさんの情報に飲まれてしまっていることもあるのだと思います。

見聞きした内容は、振り返ったり、実際に使ったりしなければ、時間が経つ中で曖昧になっていきます。

だからこそ、一度見せて終わりにせず、短く振り返り、次の介助でもう一度使う機会をつくることが大切なのだと思います。


経験者の介助には、見本だけでは見えない判断がある

先輩職員の介助が滑らかに見えるのは、動作を覚えているからだけではありません。

利用者さんの状態を見ながら、その場で小さな判断を重ねています。

いつもより足に力が入りにくそうだから、すぐに立ってもらわずに足の位置を整える。手すりとの距離が少し遠いから、立ち上がる前に座る位置を変える。表情が硬くなったから、声をかけてから次の動作へ進む。

新人さんから見えるのは、その判断をしたあとの動きです。

なぜ少し待ったのか。
なぜ立つ位置を変えたのか。
なぜ普段とは違う支え方をしたのか。

行動の前に見ていたことや、考えていたことまでは、見本だけでは伝わらない場合があります。

見本を見せるだけでは、先輩が何を見て、なぜそう動いたのかまでは伝わりません。

「見て覚える」を学びに変えるには、見る場所と、判断した理由を一緒に渡す必要があります。

介助ができることと、自分が無意識に行っている判断を言葉にして伝えることは、同じ技術ではないのだと思います。


間違えた場所だけを直しても、次の介助で使えるとは限らない

新人さんの介助を見て、

「立つ位置が違います」
「もう少し利用者さんへ近づいてください」
「声をかけるタイミングが遅いです」

と伝えることがあります。

どれも、安全に介助するために必要な指摘かもしれません。

ただ、その場で正しい位置へ直すだけでは、次の介助でも同じように判断できるとは限りません。

どのような状態なら近づく必要があるのか。
利用者さんと自分のどこを見て、立つ位置を決めるのか。
どの動きが始まる前に、声をかければよいのか。

答えだけを教わっても、答えを出すために見る場所が分からなければ、利用者さんや状況が変わったときに使えません。

できなかった場所だけでなく、次に見る場所を伝える。

「ここに立ってください」だけでなく、

「利用者さんの足と自分の足の位置を確認して、支えやすい場所へ立ちましょう」

と、判断するための目印も一緒に伝える。

そのような教え方が、次の介助でも使える学びにつながるのだと思います。


見本を学びへ変える、介助前・介助中・介助後の関わり

見本を見せること自体は、技術を学ぶうえで大切です。

ただ、同じ見本を見せる場合でも、見る場所を示したり、短い言葉で注意を向けたりすることで、受け取れる情報が変わる可能性があります。
運動技能を扱った研究でも、見本だけの観察と比べ、視覚的・言語的な手がかりを加える効果が検討されています。

大切なのは、ただ「見ていてください」と伝えるのではなく、見本の前後に短い関わりを加えることだと思います。

介助前に、見る場所を一つ決める

見本を見せる前に、

「今日は、立ち上がる前の足の位置を見てください」

「今回は、利用者さんへ声をかけるタイミングを見てください」

と、見る場所を一つに絞ります。

全部を見るように求めるよりも、何を持ち帰ればよいのかが明確になります。

介助中に、判断した理由を短く伝える

見本を行いながら、

「右足が少し後ろにあったので、立ちやすい位置へ直しました」

「表情が硬くなったので、一度止まって声をかけました」

と、動いた理由を短く伝えます。

長く説明し続けると、かえって情報が増えてしまいます。今回見ると決めたポイントに関係する理由だけを渡す方が、受け取りやすくなると思います。

介助後に、何を見たのか確認する

介助が終わったあとに、

「足の位置は、どのようになっていましたか」

「なぜ、途中で一度止まったと思いますか」

「次に同じ場面があったら、何を確認しますか」

と、新人さんが受け取った内容を確かめます。

「分かりましたか」と聞くだけでは、どこまで理解できているのか見えません。

新人さん自身の言葉で話してもらうことで、伝わった部分と、もう一度確認した方がよい部分が見えてきます。


見せる、試す、確認するを小さく繰り返す

見本を一度見せたあと、すぐに介助のすべてを任せる必要はありません。

  • 見本を見る。

  • 新人さんが一部分を試す。

  • できたことと困ったことを一つ確認する。

  • 次の機会に、もう一度同じポイントを使ってみる。

この小さな流れを繰り返す方が、見た内容を自分の動きへ変えやすくなります。

一度目は、利用者さんの足の位置を見る。
二度目は、足の位置を確認してから声をかける。
三度目は、声をかけたあとに利用者さんの動きを待つ。

一度にすべてを求めるのではなく、一つできたら、その上に次の一つを重ねていきます。


一つずつできることが増え、点と点が線になっていく

新人さんが一つのポイントを理解できたからといって、次の介助からすぐに全体を一人で行えるようになるわけではありません。

今日は、利用者さんの足の位置を確認できた。
次は、立ち上がる前に声をかけられた。
その次には、利用者さんの動きを待ってから介助を始められた。

最初のうちは、一つひとつが別々の「点」のように存在しています。

足の位置には気づけても、声かけまでは意識できない。
声かけに集中すると、自分の立つ位置が前回と変わってしまう。

一つできるようになったからといって、ほかのことも同時にできるようになるとは限りません。

ただ、同じ介助を繰り返しながら、一つずつ確認していくことで、別々だった点が少しずつ繋がっていきます。

足の位置を見る。
声をかける。
利用者さんの動きを待つ。
重心の移り方を確認する。
次の動作へ進む。

最初は一つずつ考えていたことが、やがて一つの流れとしてつながり、介助全体を見ながら動けるようになります。

技術が身につくとは、
小さな点を一つずつ増やし、繰り返しながら線にしていくことなのだと思います。

だからこそ、見本を一度見たあとに、すぐ同じようにできなかったとしても、不思議なことではありません。

今覚えている一つの点が、まだ他の点とつながっていないだけかもしれません。

新人さんは、できないのではなく、まだ一つひとつの点を線につなげている途中なのだと思います。


「見ていたのにできない」を、努力不足にしない

新人さんが前回と同じところで立ち止まったとき、

「前にも見せました」
「ちゃんと見ていましたか」

と伝えたくなることがあるかもしれません。

ただ、その前に、見る場所は具体的に伝わっていたか、判断した理由まで説明できていたか、新人さんが何を受け取ったのか確認できていたかを振り返りたいと思います。

もちろん、忙しい介護現場で、一つの介助を何度もゆっくり説明することが難しい日もあります。
指導員一人の工夫だけでは解決できない人員配置や業務量もあります。

それでも、すべてを最初から教え直さなくても、

「次は、ここを一つ見てみましょう」

と伝えることはできます。

新人さんに繰り返す努力を求めるだけでなく、指導する側も、繰り返し使える目印を渡していく。

すぐにできるようになることだけを成長とせず、前回より見られる場所が一つ増えたこと、判断できることが一つ増えたことにも目を向けたいと思います。


見本を、次の介助で使えるものにするために

見本を見せることは、新人教育に欠かせません。

ただ、見本を一度見せただけで、先輩の動きや判断のすべてが伝わるわけではありません。

  • どこを見るのか。

  • なぜ、そのように動いたのか。

  • 次に同じ場面があったら、何を確認するのか。

そこまで言葉にして渡すことで、見た経験が次の介助へつながっていきます。

一度で覚えられなくても、一つの点を繰り返し使い、次の点を重ねていけば、やがて一つの介助としてつながっていきます。

見本を見せるだけでは、先輩が何を見て、なぜそう動いたのかまでは伝わりません。

「見て覚える」を学びに変えるには、見る場所と、判断した理由を一緒に渡す必要があります。

ただ、見る場所や判断の理由が分かっても、基礎を覚えている途中で、さらに多くの判断が必要な応用まで同時に任されれば、新人さんの負担は再び大きくなります。

次回は、
基礎を覚えている途中で応用まで任せる難しさと、新人さんの習得状況に合わせて経験の範囲を調整することについて考えてみたいと思います。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました🍀


あわせて読みたい関連記事

今回の記事では、先輩の介助を見ただけでは、その人が何を見て、なぜそう動いたのかまでは伝わらないことについて書きました。

これまでのnoteでも、「見て覚える」ことの難しさや、新人さんからは見えにくい判断の基準、教える側が自然に行っている判断について書いています。

「見て覚えて」が苦手だった僕が、見る場所を伝える大切さに気づいた話

新人の頃の僕は、先輩の介助を見ていても、どこに注目すればよいのか分からないことがありました。

「なぜ今この声をかけたのか」「なぜこの位置に立ったのか」「この場面では何を見ているのか」と、動きの理由まで伝えてもらうことで、ただ眺めていた介助が少しずつ理解へ変わっていった体験について書いています。今回の記事と最も直接的につながる一本です。


新人介護士の頃、僕は「できない自分」より「何を見ればいいか分からない現場」に戸惑っていた

新人さんが立ち止まりやすいのは、介助の手順が分からない場面だけではありません。

何を見ればよいのか、どこまで自分で判断し、どこから先輩へ相談すればよいのか。その境目が見えないことで、漠然とした不安が大きくなることがあります。今回の記事で扱った「見る場所や判断の基準を渡す」という内容を、新人さん側の気持ちから補ってくれる記事です。


新しい環境にふれて思う、春の介護現場と新人教育のこと

介護に慣れている職員ほど、利用者さんの変化を見ながら、その場に合わせて支え方や声かけを自然に変えていることがあります。

ただ、自分の中で当たり前になった判断ほど、新人さんへ説明するときには言葉にしにくいものです。新人教育を通して、教える側も「自分はどこを見て、なぜそう判断していたのか」を見直していくことについて書いています。


新人教育の進み具合を、見える形にしたい方へ

新人教育では、毎日たくさんのことを経験していても、

  • 何ができるようになったのか

  • どこに不安が残っているのか

  • 次に何を確認すればよいのか

が、本人にも指導する職員にも見えにくくなることがあります。
ブログでは、新人教育の進み具合を整理するためのチェックシートや、1日目・1週間・2週間・1か月・3か月・独り立ち前など、段階ごとに使える振り返り用のExcelテンプレートを無料で配布しています。
新人さんを評価するためだけではなく、「今日はここまでできれば大丈夫」と、本人と指導する側が同じ目標を確認するための資料として使えるようにまとめました。
施設の新人教育を整理したい方や、指導内容が職員によって変わってしまうことに悩んでいる方は、こちらも参考にしてみてください。



いいなと思ったら応援しよう!

やなぎ@そよ風ケアリング もしよろしければ応援をお願い致します!いただいたチップはクリエイターとしての活動に使用させていただきます♪