見出し画像

歩行介助量を1〜5で伝える——FACが急性期病棟の共通言語になる理由

【このマガジンの位置づけ】本記事はStep 3:歩行評価の実践編に位置づけられます。TUG・10m歩行テストで数値化する前の「歩行自立度」を段階的に記録するFACの使い方を解説します。

マガジン:根拠ある機能評価と臨床判断

---

結論から言います。

FACは0〜5の6段階で歩行の介助量を定量化するスケールです。

「介助歩行」「見守り歩行」という曖昧な記録を「FAC 2」「FAC 3」に変えるだけで、次の担当者・看護師・医師への情報伝達が正確になります。術後急性期のように毎日状態が変わる現場では、この精度の差が患者の安全に直結します。

整形外科の急性期病棟では、引き継ぎ時に「歩行可能」と記録されていても、「何人で介助したのか」「手を引いただけか、体重を支えたのか」が不明なまま翌日のリハビリ計画が立てられることがあります。TUGや10m歩行テストは測定条件が整ってから使うが、術後1〜2日目の患者には適用できないことも多い。FACはそこを埋めるツールです。

FACとは何か

FACはFunctional Ambulation Categoriesの略で、歩行に必要な介助量を0〜5の6段階で評価するスケールです。Holdenら(1984, Phys Ther)が神経学的障害を持つ患者の歩行評価ツールとして開発しました。

スケールの構成は以下のとおりです。

FAC 0:歩行不能。補助具や介助があっても歩行動作が成立しない状態。

FAC 1:2人以上の介助が必要。1人の介助者では体重支持ができず、2人以上が必要な状態。骨折直後・術直後の最重症段階にあたる。

FAC 2:1人の介助が必要。体重支持や身体的介助(手が必要)を1人で行える状態。「要介助歩行」。

FAC 3:監視が必要。身体的介助は不要ですが、転倒リスクのために監視または口頭指示が必要な状態。「要監視歩行」。補助具の使用は問わない。

FAC 4:平地での独歩が可能。階段・傾斜・不整地は補助が必要な状態。

FAC 5:あらゆる環境での独歩が可能。屋外・階段・不整地を補助なしで歩行できます。

なぜFACが急性期整形外科に必要か

「介助歩行」の記録では情報が不十分

同じ「介助歩行」でも、術後3日目のFAC 2(1人介助)と術後10日目のFAC 3(監視)では、翌日の病棟看護師が行う移動介助の方法がまったく異なります。FACを使わずに「介助で歩行可」とだけ記録すると、病棟での転倒リスクが高まる。

急性期病棟では、PTがリハビリ中に評価した情報を看護師・医師・作業療法士と共有する場面が多い。FACの数値は誰でも即座に理解できる共通言語として機能します。

術後回復経過を数値で追える

TUGやBBSは「歩行が成立してから」使うツールです。術後1〜3日目には立位保持も不安定な患者が多く、TUGを安全に測定できる状態に至るまで数日かかることがあります。

FACは身体的介助が必要な段階(FAC 1〜2)から評価できます。術後の回復経過を「術後3日目:FAC 2 → 術後7日目:FAC 3 → 術後14日目:FAC 4」のように追跡することで、回復速度を多職種チームで共有できます。

退院可否の目安として使える

急性期病院からの退院判断では、歩行自立度が重要な要素となります。一般的に、在宅退院を検討できる目安はFAC 3以上(監視歩行が可能)とされることが多い。独居や介護力の低い環境では、FAC 4(平地独歩)以上が求められる場合もあります。

この目安を入院初日から設定し、「退院時にFAC 3を達成するために何が必要か」を逆算してリハビリ計画を立てることができます。

FACの測定方法

測定に必要なもの

特別な器具は不要です。歩行評価用の廊下(10〜20m程度)があれば測定できます。補助具(歩行器・四点杖・T字杖など)の使用は制限しない——補助具を使いながら監視不要であればFAC 4と評価します。

評価の手順

第一段階は病棟での歩行状況の確認です。看護師からの情報も含めて、日常的な移動時の介助量を把握します。

第二段階は実際の歩行評価です。できれば廊下を実際に歩いてもらい、介助量・監視の必要性・補助具の使用状況を確認します。

第三段階は環境要因の確認です。FAC 4の患者が「病棟廊下は独歩可能だが階段は未確認」という状態であれば、退院先の住環境(階段の有無など)と照合して退院判断を行う。

判定のポイント

FAC 3(監視)とFAC 4(平地独歩)の境界が臨床で最も判断に迷う段階です。

「監視なしで安全に歩けるか」が判断基準となります。PTがそばを離れても歩行を継続できる、もし転倒リスクが生じても自分で対処できる水準であればFAC 4です。「不安なのでPTがそばにいてほしい」という訴えがある段階では、FAC 3にとどめる。

TUG・BBS・10m歩行テストとの役割分担

FACと他の歩行評価ツールの使い分けは以下のとおりです。

TUGは「歩行の速さと安定性」を秒単位で定量化します。FACがある程度確立してから(FAC 3〜4)使用します。術後1〜2週目以降が適用のタイミングになることが多い。

BBSは「静的・動的バランス能力」を56点満点で評価します。立位が安定してから(FAC 2〜3の移行期以降)使用します。14項目の詳細な評価は、どのバランス要素に問題があるかを特定するのに有用です。

10m歩行テストは「歩行速度(m/s)」を測定します。FAC 4以上(平地独歩可能)で使用します。退院時の在宅安全性や社会参加の可能性を評価します。

臨床ミニケース:FAC 3で退院可能か

THA術後9日目、72歳男性。同居の妻あり(65歳・健康)。自宅は2階建て(寝室は2階)。

評価時点でFAC 3:四点杖を使用し監視歩行が可能。廊下20mを転倒なく歩行できるが、PTが離れると小さな段差での対処が不安定です。TUGは21秒。

主治医から「明後日退院の方向で」と打診がありました。

FACだけで判断すれば「監視歩行可能=在宅退院可」とも見えるが、この患者には2階への階段昇降という課題があります。FAC 3はあくまで「平地での監視歩行が可能」であり、「階段を独力で昇降できる」とは意味が違う。

介入の方向性として、残り2日で階段昇降練習(FAC 3→4のステップとして)を優先します。妻への介助指導も並行します。階段が安全に昇降できなければ、退院後は1階での生活変更を提案するか、入院延長を主治医に相談します。

「FAC 3で退院可能か」という問いに対して、「退院先の環境とFACの段階を照合する」という臨床判断のプロセスがここに示されています。

FACを使う際の注意点

FACは歩行の介助量を評価するが、転倒リスクや歩行の質(歩幅・歩隔・歩容)は評価しません。FAC 4(平地独歩可能)でも歩容が乱れていればMMT・バランス評価での追加評価が必要です。

認知機能の影響も加味する必要があります。MMSE 23点以下の認知機能低下がある場合、FAC 4でも歩行中の注意散漫・道に迷うなどのリスクがあります。その場合は「監視が必要」と判断してFAC 3と評価することもあります。

疼痛による制限がある場合は、「疼痛コントロール後の潜在的な歩行能力」と「現時点の実際の歩行能力」を区別して記録することが重要です。特にTKA術後の急性期では、疼痛管理の改善でFACが急速に改善することがあります。

まとめ:FACで歩行情報を「数値」で引き継ぐ

「歩行可能」という記録が持つ情報量は少ない。FAC 0〜5の段階評価に変えることで、翌日の担当者・看護師・医師が同じ状態像を共有できます。

術後急性期では、TUGやBBSが使えない状態からFACで評価をスタートし、回復に合わせて他ツールを追加していく段階的な評価戦略が有効です。FAC 3(監視歩行)を在宅退院の下限目標として設定し、退院先の環境条件と照合して判断を行う——それがFACを「評価のための評価」でなく「退院計画のための評価」として使う姿勢です。

参考文献

Holden MK, Gill KM, Magliozzi MR, Nathan J, Piehl-Baker L. Clinical gait assessment in the neurologically impaired. Reliability and meaningfulness. Phys Ther. 1984;64(1):35-40.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6691052/ (アブストラクトのみ)

Mehrholz J, Wagner K, Rutte K, Meissner D, Pohl M. Predictive validity and responsiveness of the functional ambulation category in hemiparetic patients after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(10):1314-1319.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17908573/ (アブストラクトのみ)

Podsiadlo D, Richardson S. The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1991946/ (アブストラクトのみ)

Studenski S, Perera S, Patel K, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50-58.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21205968/ (アブストラクトのみ)


このマガジンの関連記事

【保存版】Berg Balance Scale(BBS)の信頼性をまとめて解説

TUGで転倒リスク判定:数値と介入の完全まとめ

バーセルインデックス(BI)で病棟ADLを数値で追う——バランス評価との連動で退院を語る

いいなと思ったら応援しよう!