バーセルインデックス(BI)で病棟ADLを数値で追う——バランス評価との連動で退院を語る
【このマガジンの位置づけ】本記事はStep 4:認知機能・ADL評価との統合に位置づけられます。BIはバランス評価(TUG・BBS)と組み合わせることで退院判断の根拠を多角的に示せます。両者の連動を意識しながら読んでください。
マガジン:根拠ある機能評価と臨床判断
評価室でBBSを測った。TUGも取った。
では、それを看護師にどう伝えるか。医師のカンファレンスで何を言うか。
バーセルインデックス(BI)は、病棟ADLを10項目で定量化するツールです。BIの数値が変われば、退院のタイミングが変わります。介護認定が変わります。家族の準備が変わります。
BIとは何か
バーセルインデックス(Barthel Index、BI)は、1965年にDorothea BarthelとFlorence Mahoneyが開発した日常生活動作(ADL)評価スケールです。脳卒中後のリハビリ評価として生まれたが、現在は整形外科・内科・老年医学など、あらゆる領域で使われています。
測定対象は「実際の病棟での動作」です。能力(できる)ではなく、実行(している)を評価するため、病棟スタッフの観察と連動しやすい。合計点は退院・介護レベルの目安として、医師・看護師・ケアマネジャーが共通言語として使えます。
10項目と配点
BIは全10項目、合計100点満点で構成される。各項目の得点は「自立・部分介助・全介助」の段階に応じて0・5・10・15点が割り振られる。点数が高いほど自立しています。

歩行と移乗は配点が大きいため(各15点)、この2項目の変化が総合点に最も影響します。理学療法士としては、歩行訓練・立ち上がり訓練の優先度を高めることがBI点数の改善につながる。
総合点の解釈:退院・介護レベルの目安
BIの合計点は以下の区分で解釈される。

ただし、これはあくまで目安であり、家族の介護力・住環境・認知機能などを加味して判断する必要があります。
BBSやFIMとBIの関係
BBS(Berg Balance Scale)は「転倒リスク・バランス能力」を測る。一方、BIは「実際の病棟ADL」を測る。両者の関係を理解すると、「なぜBBSは良いのにBIが伸びないか」「BIが改善した背景に何があるか」を説明できます。

FIMとBIの関係では、FIMが移動・認知も含む126点満点であるのに対し、BIは純粋なADL動作を100点で評価します。重複する項目(移乗・歩行・排泄など)は高い相関を示すが、FIMの方が認知機能の影響を受けやすい。
看護師への報告時は「BIが60点から75点に改善しました。特に移乗が自立になったことで、夜間の呼び出しが減ると思います」といった形で、病棟の実務に直結する言葉を添えることで伝わりやすくなります。
MDC値:変化が「本物」かどうかの判断基準
BIの変化が治療効果なのか測定誤差なのかを判断するにはMDC値を知る必要があります。脳卒中患者を対象とした信頼性研究では、10項目版BIのMDCは研究によって異なるが、概ね11〜15点程度と報告されています。5項目短縮版ではMDC約7.8点という報告もある(Hsieh et al., 2018, Disabil Rehabil)。
つまり、MDCを超える変化(概ね11〜15点以上)があれば「測定誤差を超えた真の改善」と判断できます。「BIが60→70点(+10点)」はMDCの閾値付近であり慎重な解釈が必要ですが、「BIが55→75点(+20点)」は多くの研究でMDCを超える信頼できる改善として提示できます。ただし最小臨床重要差(MCID)については研究ごとに異なるため、対象患者集団に応じた参照が必要です。
看護師・医師への報告での使い方
看護師への報告例:「Aさんは入院時BIが45点でしたが、今週の評価で62点になりました。移乗が全介助から監視に変わり、歩行も平行棒内自立まで改善しています。病棟での夜間介助の頻度を見直すタイミングかもしれません」
医師への報告例(カンファレンス):「Bさんの現在BIは68点です。MDC(約13点)を考慮すると、入院時の45点から23点の改善は本物の変化です。85点以上が在宅復帰の目安とすると、あと17点の改善が必要です。退院まであと3〜4週間あれば達成可能と考えます」
退院予測とBI
BIは退院先・介護レベルの予測にも使われる。入院時のBIと退院時のBI(BI効率=退院BI−入院BI)は、在宅復帰の予測因子として多くの研究で報告されています。
BI効率(BI gain)=(退院時BI − 入院時BI)÷ 在院日数。この値が高いほど回復速度が速く、在宅復帰の可能性が高い。ただし、BIだけで退院先を決めることはできません。家族の介護力・住環境のバリアフリー状況・認知機能・転倒リスク(BBS・TUG)を組み合わせた総合判断が必要です。
まとめ
バーセルインデックス(BI)は病棟ADLを10項目・100点満点で定量化し、退院・介護レベルの共通言語として機能します。BBSがバランスと転倒リスクを語るスケールだとすれば、BIは「病棟での生活がどこまでできているか」を語るスケールです。
重要なのは、点数の変化をMDC(約12〜13点)と照らし合わせ、「本物の改善かどうか」を判断したうえで医師・看護師に報告する習慣を持つことです。数値は、使い方次第で退院の扉を開く鍵になります。
参考文献
Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation: the Barthel Index. Md State Med J. 1965;14:61-65. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14258950/ (アブストラクトのみ)
Hsueh IP, Lin JH, Jeng JS, Hsieh CL. Comparison of the psychometric characteristics of the functional independence measure, 5 item Barthel index, and 10 item Barthel index in patients with stroke. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;73(2):188-190. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12122181/ (アブストラクトのみ)
Hsieh YW, Wang CH, Wu SC, et al. Establishing the minimal clinically important difference of the Barthel Index in stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2007;21(3):233-238. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17351082/ (アブストラクトのみ)
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