TUGで転倒リスク判定:数値と介入の完全まとめ
【このマガジンの位置づけ】本記事はStep 2:主要バランス評価スケールに位置づけられます。TUGは急性期でも使える転倒リスクスクリーニングの標準ツールです。このマガジンのStep 5「臨床判断フローチャート」と合わせて活用してください。
マガジン:根拠ある機能評価と臨床判断
「TUGが13.5秒以上なら転倒ハイリスク」
そう覚えているだけでは、実は不十分です。
この記事では7本の論文をもとに、
カットオフ値・MDC・転倒リスク高い場合の介入を一気にまとめます。
この記事でわかること
TUGカットオフ値の疾患別まとめ(感度・特異度つき)
MDCの疾患別数値と使い方
転倒リスクが高い患者への具体的な介入
TUGを使う上での臨床留意点5つ
まず覚えておくべき3つの数字

「ハイリスクを見つける」には使えるが
疾患別カットオフ値一覧

ポイント
感度が低い=見逃しが多い → TUG単独で「安全」と判断するのは危険
特異度0.74=ハイリスクと出たときの信頼性は比較的高い
カットオフ値は文献によって10〜33秒と幅があるため対象集団を確認
疾患別MDC一覧

15%ルールの計算例
ベースラインTUG = 15秒 → 12.75秒以下になれば本物の改善
ベースラインTUG = 20秒 → 17秒以下になれば本物の改善
MDCを使うときの大原則
疾患ごとに値が大きく異なる → 別の疾患のMDCを流用しない
MDCを下回る変化は「誤差の範囲」と解釈する
MDC < MCIDが理想(誤差より小さい変化は臨床的に意味をなさない)
TUGで転倒リスクが高いと判定されたら
介入①:外乱刺激トレーニング(PBT)
Brüll et al.(Gerontology, 2023)のRCTより。
転倒リスクありの高齢者71名(平均74.9歳)を対象に2種類のPBTを比較。
PBTの2種類

プログラムの概要
週3回 × 6週間(計18セッション)
遵守率:PBTtreadmill 91%、PBTstability 87%
重篤な有害事象:なし
主な効果(PBTstability)
転倒リスク指標(Brief-BEST)有意改善(p=0.009、η²=0.131)
安定限界(Limits of Stability)有意改善(p=0.020、η²=0.110)
主な効果(PBTtreadmill)
反応性バランス(Stepping Threshold Test)有意改善(p<0.001、η²=0.395)
💡 設備がない場合はバランスパッドを使ったPBTstabilityが現実的
通常のバランス訓練(転倒-24%減)より高い効果(-48%減)が
報告されている
介入②:多因子的アプローチ
Beck Jepsen et al.(BMC Geriatrics, 2022)のアンブレラレビュー(31件)より。
TUG単独での転倒予測は「不一致な結果」が多い
歩行速度には中程度のエビデンスあり(カットオフ目安:0.8 m/s)
単一の評価指標だけで転倒リスクを高い確実性で予測できるものはない
推奨される組み合わせ
TUG + 歩行速度 + Berg Balance Scale(BBS)
認知機能・環境因子・服薬状況も合わせた包括的評価
臨床での留意点5つ
① TUG単独で転倒を判断しない
感度0.31=ハイリスクの7割を見逃す
ルールインには使えるが、ルールアウトには不向き
BBS・歩行速度・Dual Task評価と組み合わせる
② MDCは疾患・集団別に参照する
膝OA:約1.1秒
慢性脳卒中:3.2秒
高齢神経疾患:ベースライン比15%
異なる疾患のMDCを流用しない
③ パーキンソン病はOn/Off状態を必ず記録する
On状態(薬が効いている)とOff状態で結果が大きく変わる
評価のたびに状態を記録・統一しないと比較できない
④ 評価者・プロトコルを統一する
評価者内MDC(1.10秒)と評価者間MDC(1.14秒)で値が異なる
複数評価者が関わる場合は評価者間MDC(1.14秒)を使う
⑤ TUGの反応性(治療効果の検出力)には限界がある
脳卒中でのTUG反応性:SRM = 0.53(中程度)
同対象でのDGI(Dynamic Gait Index):SRM = 0.89(大)
治療効果の検出を重視するならDGI・BBSの追加を検討
TUGの標準的な実施手順
正確なカットオフ値・MDCを活用するには、測定プロトコルの標準化が前提です。論文の数値を参照する際は、その論文と同じ条件で測定されていることが重要です。
標準手順(Podsiadlo & Richardson, 1991 に基づく)
①椅子:背もたれ・肘掛けつき、座面高約46cm
②開始姿勢:背もたれに寄りかかった着座姿勢から開始
③補助具:普段使用している歩行補助具(杖・歩行器など)はそのまま使用可
④動作の流れ:「スタート」の合図で立ち上がり → 3m先の目印まで歩く → 折り返して戻る → 着座完了
⑤計測:「スタート」の合図から着座完了までの秒数をストップウォッチで計測
⑥試行回数:練習1回 + 本番1〜2回が標準的
記録時に必ず残すべき情報:補助具の有無と種類・評価者名(評価者間信頼性の管理のため)・パーキンソン病患者はOn/Off状態・靴の着用状態
これらの条件を統一・記録しておくことで、評価結果の再現性が高まり、他研究の数値との比較が可能になります。
参照論文まとめ

⚠️ 本記事は研究論文の内容紹介を目的としています。各数値(MDC・カットオフ値等)は対象集団・測定条件により異なります。臨床での評価指標の選択は、各論文の原著および担当患者の状態に基づいてご判断ください。
💡 MDC・MCIDの概念をより深く理解したい方へ
この記事で扱ったMDC・MCIDの数値がどのように算出され、なぜ「変化した」だけでは不十分なのかを基礎から解説した記事を公開しています。SEM・MDC・MCIDの違いと使い分けを整理したい方はこちらもご覧ください。
→ MDC・MCIDとは何か——「変化した」と「良くなった」は別の話
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